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91.父、息子からお礼参りされる



 第七王子ノアは、刺客として送り込まれた英霊達を、見事討伐して見せた。


 話は、数日後。


 ノアの元に、父……元国王が呼び出されていた。


 父は地下牢に閉じ込められている。


「くそ! わしをこんなところに閉じ込めよって!」


 ……ノアが英霊を撃退したあと。


 元国王である父の元に、ノアの部下である聖騎士達がやってきた。


 彼らの主であるノアを傷つけた罪で、捕まり、投獄された次第。


「わしは……あきらめんぞ!」


 捕まったとはいえ、父のノアへの憎悪の炎は消えていない。


「わしはノア! 貴様を認めたわけじゃあない! わしは! 必ず貴様に復讐してやるからなぁ!」


 国の王という立場を奪った息子ノアに、彼は強い恨みを抱いていたのだ。


 と、そこへ……。


「お義父様」

「サラディアス嬢……!」


 ノアの婚約者、サラディアス=フォン=グラハム。


 青い髪の美少女が、牢屋の前に立っていた。

「ノア様がお呼びですわ」

「ノアのやつが……?」


 こくり、とうなずく。


 何の用事かは知らない。だが話があるというのなら聞いてやろう……。


 それに、自分がまだ諦めてないことは、伝えてやる……!


 サラは聖騎士達に命じて、義父である自分の拘束を解く。


 ふたりで向かったのは、カーター領にある、ノアの部屋。


「ノア様、お義父さまをお連れしました」

『入れ』


 サラにうながされ、父は中に入る……。


 その瞬間……ずんっ、と肩に、何か重いものを感じる。


「(な、なんだこの……プレッシャーは!)」


 ノアの部屋には、複数人の部下達が控えていた。


 みな、父に殺意を向けてくる。

 さもありなん。

 彼は主であるノアを、殺すために、刺客を放った相手だからだ。


 ノアは足を組み、椅子に座っている。

 両隣には、白髪の美少女と、黒髪の美女を侍らせていた。


「よく来たな、親父」


 びりびり……とノアから、強い魔力の波動を感じた。


 今まで……無能とさげすんでいたときには、全く感じなかった、強者のオーラ。


「(ほ、本当にこれがあの、無能王子なのか……?)」


 ノア父は息子を追放してから一度も、彼に会ったことがなかった。


 城に居る間、ノアは魔力を制御していた。

 だがカーター領に来てからは、それをやめていた。


 今、感じるこの膨大な魔力量は、本来のノアのもの。


「わ、わしをここに呼んで……何の用事だ! わしを殺すのか!?」


 そうだ! と周りの部下達が声を荒らげる。


「よくも我らが帝王……ノア様に刃向かったな!」

「殺す! 貴様はミンチにして豚の餌にしてやるぅ!」


 みな、ノアを傷つけた相手ということで、半端ない殺意を父に向けてくる。


 だが……ノアは静かに手を上げる。

 途端に彼らは黙る。


「俺はな親父。別に貴様を恨んじゃいないさ」


「なんだと……?」


 息子からの意外な返答に、父は当惑する。


「貴様はよく頑張った。あと一歩で俺を殺すところまでこれた。大健闘じゃあないか」


 ……なぜだか知らないが、ノアは父を、褒めていた。


「(がんばった!? 大健闘!? どういうことだ……!?)」


 てっきり、お礼参りされるかとばかり、父は思っていた。


 だがノアはにやりと笑う。


「実に、惜しかったな」


 はっ! とノア父は、遅まきながら気づく。

 息子は……こう言いたいのだ。


『貴様の浅い企みなど、すべてお見通しだ』


 と……!


 ……無論そんなわけがない。


「英霊を使うのはいい手だったな。だがあの程度じゃ俺は殺せない」


 →『英霊ごときで俺を殺せるとでも思ってるのか、馬鹿者めぇ~』


 と……! 父は解釈する。


 もちろんノアの意図とはかけ離れていた。


 ノアは、立ち上がる。

 こつこつと足音を立てながら近づいてくる。


 がたがた……と体が震える。

 怖い……目の前に居る息子に、完全におびえていた。


 しゃがみこんで、ぽん……とノアが父の肩に手を置く。


「次は、上手く行くと良いな? 期待してるぞ」


→『次は殺す』


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいい!」


 くたぁ……と父の体から力が抜ける。

 恐怖で、まともにノアの顔を直視できない。


 怖い、恐ろしい……。

 相手は遙か怪物。


 悪名高き、悪の帝王……!

 そんな相手に、かなうはずがなかったのだ……!


 父は聖騎士達につれられて、その場をあとにする。


 部下もその後に続く。


 ノアは一人椅子に座って、溜息をつく。


「ノア様~」


「どうした、ロウリィ?」


 部屋の中に残った側近の片割れ……白髪の美少女、ロウリィが、ノアに尋ねる。


「今のなんだったんすか?」


「ん。お礼」


「はぁ? お礼ぃ~?」


 そう、とノアがうなずく。


「親父が俺にプレゼントくれただろ?」

「刺客をプレゼントっていうのか貴様……」


 はぁ、と黒髪の美女……ナベリウスが溜息をつく。


「だって親父の送ってきた刺客、英霊。アレもうあと一歩で俺を殺すとこまで来たじゃん。惜しかったじゃん? だから次もがんばってねーって応援したの」


「え、なんで?」


「だからー、もう一歩だったんだから、次はもっと強いやつ送り込んで、俺を殺しに来ておくれよーって、そう言う意味の激励」


 ……そう。

 この男、父にお礼参りじゃなくて、本当にお礼をしていただけだった。


「あれだけ励ましたんだ。次はもっとすげーやつ送り込んでくるぞ~。たのしみだなぁ、わくわく!」


 のんきに、次を期待するノア。

 だがナベリウスとロウリィは、わかっていた。


「ノア様……たぶん、次はねーっすよ」

「ああ。たぶんもう襲ってこないな」


 うんうん、とロウリィたちがうなずく。


「はー? どうしてだよ?」

「いやほら、ねえ……」

「あれだけ悪の帝王ムーヴされちゃ、萎縮して、反抗心など生まれないだろう」


 ナベリウスの意見にロウリィも同意のようだ。


 ノアだけが首をかしげる。


「なんでだよ。俺があんなに褒めたのに」


「どう見ても悪の帝王が、作戦失敗した小悪党を脅してるようにしか見えなかったすわ」


「え、マジ?」


 うんうん、とナベリウスたちがうなずく。


「ふ、ふんだ! 親父を馬鹿にすんなよ! あいつは小物界の大物なんだ! あれごときでおびえるようなやつじゃねえんだ!」


 へんっ、とノアが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「まー次どうなるか楽しみっすね」

「ああ! 次はどんな化け物がくるんだろうなぁ! たのしみだなぁ!」


 ノアが、出て行った父親に向かって、笑顔を向ける。


「がんばれ親父! 早く俺を倒してくれ!」


    ★


「もうだめだ! おしまいだぁああああああああああああ!」


 ノアの父は、地下牢で、体を抱えて震えていた。


 ロウリィ達が懸念したように、ノアに脅され、すっかり反抗心を失っていた。


「殺される……! わしは早晩、あやつに殺される! しかもむごい目にあって!」


 ……そう。

 息子のあの言葉を、言葉通りではなく、悪く解釈していた。


 結果、ロウリィ達の言っていたとおり、父は戦意喪失。


 ここは敵地。

 逃げる場所も、頼れる味方も……いない。


「どうしよう……どうすれば……」


 と、そのときだった。


【どうやら作戦は失敗したようだな】


「! 貴様は……!」


 地下牢の中に、突如として現れた……謎の人物。


 頭からすっぽり、白い布をかぶって、その容貌は判然としない。


 だが声はわかる。


 英霊を召喚する際に、手助けしてくれた男だった。


「貴様ぁ! なにが英霊だ! あんな雑魚をつかませよって!」


 父は謎の男につかみかかろうとする。


 だがひらり、と華麗に避けられた。


【英霊ノアールとホワイトノアは、確かに最強の駒だった。負けたのは、単に将である貴様の腕のせいだ】


「わ、わしを馬鹿にするのか!?」


【然り。あの程度でおびえ、戦意を喪失するなんてな。とんだふぬけだ】


「くっ……!」


 何も言い返せない。

 確かにもう、ノアに反抗する気は残されていなかった。


【貴様は用済みだ】


 すっ、と男がノア父の頭に触れる。


「うぐ……ぐわぁああああああああ!」


 右手が輝いたその瞬間、父は苦悶の表情を浮かべる。


【貴様のどす黒い欲と感情をいただく。有効活用させてもらうぞ】


「あぁああああああああああああああ!」


 やがて光が収まると、父はその場に倒れ伏す。


【美味。実に美味だ。やはり、人の負の感情は、実に美味い】


 ずももも……と、男の影から、黒い何かが這い出る。


 それは……悪魔だった。


 かつてノアが瞬殺した、悪魔たちの群れ。


【ゆくぞ、同胞ども】

【【【はっ……!】】】


 悪魔を率いているその男は、振り返り、天井の向こうにいるノアをにらみつける。


【ノア・カーター……! 今はせいぜいのんきに笑っているがよい……! 貴様に……復讐してやる……!】


 悪魔を連れて歩くその男は、強い憎しみを込めて、ノアをにらみつけたあと……。


 音もなく、消え去るのだった。


 ……さて。


「おいおいどうしたよ?」


 騒ぎを聞きつけて、聖騎士とノア、そしてロウリィたちが来る。


 そこで見たものは……。


「おぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」


 ……牢屋のなかで泣きわめく、父の姿だった。


「おんぎゃー! おんぎゃー! あぎゃー!」


 父はまるで赤ん坊のように、地面にひっくり返り、手足をばたつかせてる。


「な、なにこれ……?」


「ほらぁ、ノア様~。こうなったじゃないっすかぁ~」


 ロウリィがジト目でノアを見やる。


「ノアパパさん、ノア様に脅されてこうなったんすよ。恐怖で幼児退行を起こしたんす」


「なにぃいいいいいいいいいいいいい!?」


「おぎゃー! おぎゃー! あー!」


 そんな馬鹿な……! と頭を抱えるノア。


 ノア父は、息子を見やると……。


「ぱっぱ♡」


「はぁ!? パパぁ!?」


 父がノアに近づいてきて、しがみつく。


「ぱぱ~」


 ……幼児退行した父は、息子をパパと思っている様子だった。


「おめっとさん、ノア様。パパじゃん。あ、リスコスいるから、第二子か」


「どうしてこうなったぁあああああああああああああああああああ!?」


 ……叫ぶ一方で、ナベリウスは鋭い視線を、ノア父に向ける。


「……負の感情が抜き取られている。これは……もしかして……」


 悪魔であるナベリウスだけが、次なる敵の存在に、気づいてるのだった。

これにて七章終了です!


書籍版は来年1月17日発売予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪魔も瞬殺((´∀`*))ヶラヶラ
[一言] ノア様、父親をバブミしてオギャらせたんですか。
[気になる点] >ノア父は息子を追放してから一度も、彼に会ったことがなかった 41話の国王陛下の生誕記念パーティで挨拶とか 顔合わせせんかったんか?
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