90.第七王子は洗脳された英霊とバトルする
俺、ノア・カーターのもとに、親父から刺客が送られてきた。
前世と前々世の俺……闇の大賢者ノアールと、光の剣聖ホワイトノア。
こいつらを使って、俺を倒させようとした……が!
なぜか仲良くなって、しかも俺の仲間になろうとしてきがやった!
『まー、ほら、似たもの同士だからしゃーなしっすね』
『同じく馬鹿だからな』
白猫状態のロウリィと、黒犬ナベリウスが、あきれたようにつぶやく。
俺たちがいるのは、カーター領の領主の館。
「くく……! さぁ朋友よ! ともに世界を改革いこうじゃないか!」
『改革とかいて、かえて、って呼んでるっすね』
『筆舌にしがたいレベルでださいな』
うが……うがぁあああああああああああああああああああああ!
「く……くくく……くははっ! くははは! あーーーーーーーはっはっはっはぁああああああああああああああ!」
俺は、高笑いする。
「どうしたノア殿!」
『ついに壊れちゃったすか?』『いつもだろ壊れてるのは』
俺は馬鹿どもを見渡して、にやりと笑う。
『『あ、こいつまだ性懲りも無く馬鹿やるつもりだ』』
「馬鹿め、英霊ども! これで勝った気でいるなんてなぁ!」
ぱちんっ、と俺は指を鳴らす。
「がっ!」「ぐぅう……!」
がっくん、とノアール達が膝をつく。
その足下には魔法陣が展開されている。
『な、何してんすかノア様!』
「英霊の主導権を、魔法で上書きしているのだよ」
『英霊の……主導権だと?』
無知なるペットどもに教えてやる……!
「英霊は、呼び出した主の命令には絶対服従するような縛りがもうけてある」
『無理矢理言うことを聞かせられるってことっすか』
『しかしノアの父親しかそれできないんじゃ……あ、そうか』
そう!
「俺は魔法で主導権を奪った! これで英霊たちは俺の言うことを聞くしかなくなったのだぁ!」
ばっ、と俺は右手を前に突き出す。
「聞け! 英霊ども! 目の前の男……ノア・カーターを殺せぇ!」
そう、これが最終手段!
主導権を奪って、無理矢理英霊たちに殺させようぜ作戦だ!
「くっ……! いやだ……!」
ノアールが頭をおさえながら、言う。
「我は……ノアの盟友だ! 我が友を……くっ! 傷つけることなどできない!」
「そうだ……! ぐぅ……おれと……ノア殿……は、固い絆で結ばれた……戦友! たとえ主の命令には逆らえないとしても……! 彼を……傷つけたくない!」
抵抗する英霊たち。
『す、すげえ……正統派ファンタジーのクライマックスみたいっす!』
『こういうときって普通、悪側が、主人公の味方を洗脳するのが常道じゃないのか? なぜ自ら仲間を洗脳して、自らを殺そうとしてるんだこいつら……』
『馬鹿だから、ほら』
『ああ……うん……そうだな……』
ペットどもがわめいてる一方で、俺は邪悪な笑みを浮かべる。
「馬鹿め! いくら抵抗しようがなぁ……! 主人の命令には絶対なんだよぉ! 抵抗なんて無駄無駄無駄ぁ……!」
俺は魔力を込める。
「「ぐわぁああああああああああ!」」
ノアール達がその場に崩れ落ちる。
「に、げろ……ノア……!」
「おれたち……が、正気な……うちに!」
苦しんでいる英霊たちをよそに、ペットどもが言う。
『凄いっす! 正統派ファンタジーの王道展開じゃないっすか!』
『洗脳しているのが本人である一点を除けばな』
やがて……抵抗むなしく、英霊たちは俺の操り人形になる……!
「くくく……あーはっはっは! これで英霊たちは俺の操り人形よぉ! さぁゆけ! 殺すのだ……ノア・カーターを!」
『ノア様って二人いるの?』
『いや、自分を殺させる命令を、自分で出してるだけ』
『え……こわ……サイコパスじゃん』
『単なるアホだろこれ』
ゆらり……とノアール達が俺の命令に従って、俺を殺そうとする!
「チェストぉおおおおおおおおおおお!」
ホワイトノアが、尋常じゃないスピードで接近。
俺に向かって刃を振るう。
どがぁああああああああああん!
俺は屋敷から弾き飛ばされる。
空中で止まる。
俺の周囲に、無数の重力球が発生。
俺を押しつぶそうとしてくる。
凄まじい重力場によって、周辺の森の木々が、べこべこに押しつぶされていく。
『奈落の森っていつも消し飛ばされてないっすか?』
『もはや馬鹿どもの遊び場になってるな』
『不憫っすね……奈落の森の意思とかあったら、きっとノア様呪い殺してくれるっすよたぶん』
俺はカーター領の空中で、ノアール達と戦いをド派手に繰り広げる!
そう、派手じゃなきゃいけない!
「ここがノア・カーターの墓場なのだからなぁ……! やれ、英霊どもぉおおおおお!」
『ノア様っていつも、見えない敵と戦ってるっすよね』
『基本マッチポンプだからな』
俺が英霊と死闘を繰り広げてるってのに、ペットどもはのほほんと鑑賞モードしていやがる!
まあいい。
俺は俺の仕事をする……!
ノアールとホワイトノアは、見事な連携で俺を追い詰める。
まあ、俺は全然さっぱりこれっぽっちも本気じゃあない。
とはいえ相手はそこそこの手練れ。
手を抜いて、ちょうど良い感じのバトルが繰り広げられている。
これなら、満足してくれるだろう。
あんまりあっさりやられたら、また復活するとか思われかねん。
ギリギリで……負ける!
英霊たちの手によって、滅ぼされた悪の帝王!
それが俺だぁ……!
『そんなことしなくても、今のノア様のムーヴ、完全に悪の帝王っすよ』
『自作自演も甚だしいところだがな』
ややあって、ホワイトノアの一太刀が、俺の体を吹っ飛ばす。
奈落の森に、大きなクレーターを作る。
倒れ伏す俺(表面上ぼろぼろ。服だけ。俺本体にはノーダメ)。
見下ろすのは、英霊たち。
「くはは! いいぞ英霊ども! そのままノア・カーターにとどめを刺すのだぁ……!」
俺の命令に従い、英霊たちが近づいてくる。
さぁ……! クライマックスだ!
『いよいよ左遷された無能王子もクライマックスすか。書籍版が始まる前に終わるのってどうなんすかね?』
『おまえは誰に向かって何を言ってるのだロウリィよ……』
英霊たちが、俺の前に立つ。
ノアールは、右手を。
ホワイトノアは、刃を。
「さぁ……幕引きだ! 殺せぇ……!」
と、そのときだった。
「「させません!」」
「ふぁ……!?」
突如、英霊たちの足下に、魔法陣が展開!
光の鎖が、英霊たちをがんじがらめにする!
『これは……【無限牢獄呪】! 最上級の封印魔法じゃないっすか!』
『こんな高度な魔法を、いったいだれが……?』
そこへ……。
「「お待たせしました、ノア様!」」
「げえ……! リスタぁ……! エルレインぅ……!」
そこに現れたのは、カーター領のやべえやつ筆頭、リスタと。
天道教会の元教皇にして、元俺の弟子……エルレインだった。
その背後には天道教会の聖騎士達が集まって、呪文を詠唱している……!
「な、なにしてくれてやがるんですか、貴様らぁ……!」
小柄な女、エルレイン教皇が、にやりと笑う。
「作戦成功ですね、ノア様!」
「作戦!?」
「はいっ! 英霊達を封印するための、作戦です!」
なにそれぇええええ!?
初耳なんだけどぉお!?
「さすがノア様!」
リスタが感心したようにうなずく。
「自らがおとりとなって時間を稼ぐ、その間に、エルレインさんたち聖職者たちが協力して、封印を完成させる! って作戦ですよね!?」
「いつそんな指示しましたぁ!?」
「指示は受けてません……ですが、わかります! ノア様の言いたいこと、このリスタ! 以心伝心ですから!」
「今までおまえと意思疎通できたこと1度でもありましたぁああああああああ!?」
ペットどもが戦慄の表情を浮かべる。
『つまりあれっすか。カーター領民たちは、指示されてないのに、それが勝手に作戦だと勘違いして、勝手に封印の準備をしてたってことすか』
『指示されてないなら作戦もくそもないだろうに……』
『そういうやべーやつらなんすよこいつら……』
無限の封印魔法を使われ、英霊達は身動きが取れなくなる。
魔法陣が輝くと、地中深くへと英霊達が沈んでいく。
「待て! 行くな! 行くなぁああああああああああああ!」
だが……ノアールもホワイトノアも、ふっ……と微笑んだ。
まるで、つきものが落ちたかのような表情だ。
「くく……これでいいのだノアよ」
「ああ……友をこの手にかけずに、すんだのだから……」
ずぶずぶ……と沈んでいく英霊達。
「ノアールぅううううううう! ホワイトノアぁあああああああああああ!」
やがて、完全に英霊たちは、消滅した。
『すげえ。ココだけ見ると、敵に洗脳されていた味方たちが、最後に洗脳が溶けるものの、敵のせいで消えてしまう……超王道展開じゃん』
『やってることが全部真逆でなければ感動的だろうな』
がくん……と俺は膝をつく。
なんてこったい……唯一俺を倒せる存在が……。
よりにもよって、味方によって滅ぼされるなんて……!
「さすがノア様! 見事な作戦でした!」
リスタが笑顔で俺を褒める。
「やはり我らが帝王は素晴らしいお方です……!」
エルレイン、および天道教会の聖職者どもが拍手喝采する。
『エルレインさんはいいんすかね。ノアールは元・師匠なんじゃ』
『こいつにとっての愛する師匠はノアだからいいんじゃないか?』
俺は……頭を抱えて、いつも通り叫ぶ。
「どうしてこうなったぁああああああああああああああああああああああああ!?」




