09.第七王子は騎士と魔導師に決闘で勝つ(負けたい)
俺の領地に、なぜか王国の有能な騎士団長と宮廷魔導師長、そして婚約者の大貴族がやってきた。
「うむ! ノア様! またお会いできて光栄だぞ!」
ガタイのいいポニーテールの女騎士、ディーヴァ。
「いやお会いできてっていうか、おまえがこっちに来たんだろうが」
「聞いたぞ! ノア様が魔物の被害で苦しんでいる領民達を助けるために、ここに派遣されてきたと!」
「いや単に無能扱いで追放されただけなんだけど……」
「ノア様のその高潔な精神に感服した! 微力ながらもこのディーヴァ、あなた様のお役に立つためにはせ参じた次第!」
「人の話聞けよぉ〜……」
一方で、小柄で、眼帯をし、魔女の帽子をかぶった女が言う。
「フッ……ひさしいな我が魂の盟友よ。闇の住人ライザ、ここに見参」
バッ……! とかっこつけたポーズを取る。
「よ、よぉライザ。なんでこんなとこ来たんだ? おまえ、田舎嫌いだろ?」
この女は宮廷魔導師やってるけど、元はド田舎の【ミョーコゥ】って街出身の、超が突くほどの田舎者だ。
「そ、それは……ノア様がいなくなったから……」
「え? なんだって?」
「なっ、なんでもないわ! く、くく……冥府領という名前が気に入った。闇っぽくてな。別に我はノアがいるからここに来たわけではない、断じて」
「おうそうか」
ライザが頬を膨らませると、俺の足を蹴りまくる。なんなの……?
『ノーキン女騎士に厨二病魔法使いか。また厄介な人らが増えたっすね、ノア様』
我関せずな感じで白猫ロウリィが、あくび混じりに言う。
「おまえら帰れよ! ここは、おまえらが来るようなとこじゃないんだよ!」
有能な人材なんていらないんだよ!
すでにリスタが【ノア様が有能なかたをたくさんお連れになりましたー! さすが有能なかたはお仲間まで有能!】と領内で言いふらしまくっているんだからっ。
「それはできない相談だ! わたしはあなたの役に立ちたいからな!」
「くく……我はノア、貴様を我の眷属として迎え入れるまでここを動くつもりはない……」
駄目だ帰りそうにない……。
クソッ……!
「こうなったら発想を変えよう。こいつらを使って、無能ムーブしてやる……!」
『何するんすかー?』
「決まってるんだろ……決闘だ!」
★
俺がやってきたのは、カーター領に隣接する、奈落の森の入り口。
俺とディーヴァ、ライザ、そして……ギャラリーたち。
「なんだなんだ?」
「ノア様が騎士団長様と宮廷魔導師長様と決闘なさるつもりらしいぞ」
「決闘って、1対2で殴り合うのか?」
「いや、どうやら違うみたいだぞ」
「まじかっ。気になるぅ〜!」
領民……アインの村の連中が、集まっている。
「それでは、審判はこのわたくし、サラディアス=フォン=グラハムが勤めさせていただきますわ」
青髪の婚約者、サラが俺らの間に立って言う。
「ルールは簡単。奈落の森に入って、制限時間内に魔物を倒し、その死体を持って帰ってくること。勝ち負けは倒してきた魔物の強さと数で決まりますわ。モンスターを狩って来れなかった場合は試合不成立となりますので、あしからず」
俺たちはうなずき合う。
「それでは……試合、開始!」
バッ……! と三者三様に森の中に入っていく。
「うぉおおお! 【斬鉄】!」
ディーヴァが背負った大剣を片手で持ち、ぶんっ! と振るう。
「すげええ! 奈落の森の木々が、なぎ倒されていく!」
ライザは持っていた杖を振り上げる。
「【煉獄業火球】」
「今度は極大魔法を!? なんだこの2人すげえ!」
よしよし、良い感じに目立っているなあいつら。
しめしめ。
「あれ、ノア様は?」
「特に何もせずスタスタ入っていきましたけど……」
派手なパフォーマンスなんて必要ない。
俺が望むのは無能ムーブ。ただそれだけだ。
『んで? 今回はどーゆーふーに、無能って思わせるおつもりっすか?』
ロウリィが頭の上で聞いてくる。
「シンプルさ。やつらより弱そうなモンスターを1匹だけゲットしてくるだけさ」
俺は周囲を見渡しながら、なるべく弱そうなモンスターを捜す。
『弱そうなヤツって……たとえば?』
「そりゃザコモンスターのなかのザコ、スライムちゃんに決まってるでしょう」
あれ以上に弱いモンスターはいないよな。
「しかしなかなかスライムいないな……どうなってるんだ……?」
『スライムなんて草原に掃いて捨てるほどいるはずっすけどね。確かに見かけないっす』
まあ俺が火山亀ぶったおして、のきなみ魔物が奥へ逃げていったからって影響もあるだろうけど……。
と、そのときだ。
「ぴきゅー!」
「お! いるじゃーんスライムちゃーん!」
人間の顔くらいの大きさの、見るからに脆弱そうなモンスターが現れた。
「そうそうこれこれ。この弱そうなヤツを待ってたんだよ」
『あれ? ノア様、こいつ、なんか色がおかしくないっすか? 金色のスライムなんて、見たことないっすよ?』
確かに金の輝きを放つスライムは珍しい。
「あん? 俺が賢者やってたころは、ゴロゴロいたぜこの色違いスライム」
『あ、わかった。これ、うん、わかったっすわ、この後の展開』
なんか勝手に納得しているロウリィ。
『でもスライムなんてどうやって倒すんすか? ノア様強すぎるから、スライム(仮)なんて蒸発させちゃうんじゃ?』
「え、なに?」
俺の手には、絶命したスライムが乗っている。
『もう倒したんすか!? え、どうやったんす?』
「そんなの、【即死魔法】に決まってるだろ」
『いや即死魔法って……闇の大魔法じゃないっすか! 高名な魔導師が100人集まって儀式を行って、やっと発動する儀式魔法を、単独でできるやつこの世界にいないっすよ!』
「え、俺のいた時代じゃ習得必須だったけど?」
まぁ魔力を結構食うから、あんま使わないんだけどね。
魔力が減るとダルいしさ。
『はぁ〜〜〜〜〜…………。ま、いいっすよ。良かったっすね、人目がなくて』
「おうよ。じゃ、さくっと帰りますか」
俺は転移魔法で入り口付近までサクッと帰ってくる。
さすがに入り口で待っている領民達の前に転移したら、有能がバレちまうからな。
「しかしおせえなディーヴァとライザのやつ……」
『まあ入り口近くの魔物は、ノア様が火山亀倒したせいで逃げてるし、奥までいかないと魔物いないんじゃねーんすか?』
そりゃそうか。
「ちょっと寝るわ。テキトーに起こして」
『死の森と恐れられた奈落の森で昼寝とか……ほんと、すごすぎるっすわこの人……』
★
『ノア様、そろそろ起きてー。勝負のお時間っすよー』
ロウリィに起こされた俺は、入り口へと戻ってくる。
「ノア様がやっと戻られたぞー!」
領民達が安堵の表情を浮かべる。
「ノア様ぁあああああああああん!」
メイドのリスタが涙を流しながら俺に抱きついてくる。
「心配しました! ディーヴァ様とライザ様が帰ってきたのに、なかなか姿を現さないから……死んでしまったのか……ぐすん」
ガチ泣きのリスタ。
よし、利用しよう。
「悪いなリスタ。魔物との戦いに苦戦してしまってよ。時間が予想外にかかってしまったぜ……」
『なるほど、ここでどんな強い敵と戦ってきたんだ、と持ち上げてからのスライムでしたーってやってあげて落とす作戦っすね』
さすがロウリィ、よくわかってらっしゃる。
これぞ【ノア様、スライムごときになに手こずってるんすか】作戦だっ。
けどあれ、ロウリィ、なんでそんな冷めた目してるんだろうか?
「ではノア様。倒してきた魔物をこちらに」
「おうよサラ。俺が倒してきたのは……こいつだ!」
俺は亜空間に収納していたスライムをとりだして、みんなの前に披露する。
みな、目を丸くしていた。
ふっ……そうだよな、あんだけ苦戦したっていっておいてスライムだもんな。
驚くに違いない……。
しかし……。
「「「す、すげぇえええええええ!」」」
俺の予想に反して、領民達が目を剥いていた。
「さっすがノア様!」「やっぱりノア様はすげえや!」
え、なになに、どゆこと?
「うむ! ノア様、さすがだぞ!」
「くくく……まさか【暴食の王】を捕まえてくるとはね。やるじゃない」
騎士団長と魔導師長が感心したみたいに言う。
え、暴食の王? なんだそれ?
「くく……超強力な魔物の王の1匹よ。こんな小さな体で古竜を軽く1000匹は飲み込む、まさに暴食の王よ」
「ま、マジで……? こんなのが?」
あ、あれ……これもしかして……。
サラがうなずいていう。
「この勝負……ノア様の勝ちですわ!」
「すごいぞノア様!」
ディーヴァが笑顔で俺の背中を叩く。
「わたしは古竜を10匹程度しか倒せなかったぞ!」
「くく……わたしは5匹。さすが我が眷属……」
『いや古竜をなにスナック感覚で倒してるんすかこいつら! SSランクっすよ古竜! こいつらもやべーっすよ!』
ロウリィの声が遠い。
そう、なぜなら……。
「「「うぉおおおお! ノア様さすがですぅうううううう!」」」
領民達、そしてリスタが涙を流しながら大歓声をあげているからだ……。
「ノア様、こんなにもお強いなんて、さすがです! 騎士様も魔導師様もお強いのに、それを遥かに凌駕するなんて! やはりノア様はすごい!」
きらっきらした目を向けるリスタを見て……俺は思う。
……ああもう、またやっちまったよぉおおおお!




