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87.第七王子は悪の帝王となる



 第七王子ノアが引き起こした、壮絶な世界大戦の結果、世界は大ダーク帝国が支配する時代を迎えていた。


『字面だけ見ると完全に悪の帝国が圧政を強いる、どこぞの宇宙戦争映画っすね』


 季節は冬。

 魔神ロウリィは、カーター領主の館にいた。


 ロウリィの目の前にはこたつがある。

 これは彼女が持つ異世界の知識を、ノアに授け、彼が独自に開発したものだ。


 こたつの中にすっぽりと入ってるロウリィ。

 そしてその隣には、黒犬姿の、悪魔ナベリウス。


『まあ実際、民を洗脳して、世界征服を行ったのだから完全に悪役のそれだな』

『まったくっすね』


 ロウリィはこたつでぬくぬくしている。

 ナベリウスも、ぬくぬくしている。


「貴様らぁ! なーにぬくぬくしとるんじゃ!」


 部屋に入ってきたのは、ノア・カーター。

 カーター領の領主だった男だが、今や世界のトップとなってしまった人物である。


「俺が大変な状況にいるってのに、いいご身分だな!」


『ま、うちらペットなんで』

『矢面に立つのは貴様だからな』


 ちっ、とノアが舌打ちをうつ。


 いそいそ、とノアがこたつに入る。


「よく聞けお前ら。いいことを思いついたんだ」


 にやり、とノアが邪悪に笑う。

 だがペットたちは『『ふーん』』と興味ゼロ。


『ナベちゃんみかん食べる?』

『もらう』


 はぐはぐ、とロウリィとナベリウスがみかんを丸ごと食べている。


「聞けよおまえら! このノア・カーターの、新たなる野望を!」


『新たなる野望?』

『なんすか急に?』


 くくく、とノアが笑いながら、みかんを手に取る。


「俺は……悪の帝王になる!」


 ……

 …………

 ……………………。


『ナベちゃんみかんの白い筋とって』

『仕方ないな』


 ナベリウスもロウリィも、人間の姿になる。

 ナベリウスはみかんを手に取って、白い筋を取る。


「ちょっと君ら!? 俺の話聞いてます!?」

「すまん、白い筋取るのに夢中なんで後にしてくれ」


「俺の話はみかん以下かよ!?」


 ナベリウスが丁寧に筋を取ったみかんを、ロウリィがはぐはぐ食べる。


「悪の帝王って、どうしたんすか急に? また心の病を再発させたんすかね?」


「厨二病のこと病気っていうのやめろよ!」


 しかしナベリウスはため息をつく。


「なぜ悪の帝王を目指すのだ?」

「俺は気づいたのだ。ここから俺は、どうするべきかって」


 ただの領主だったノアは、勘違いの連鎖によって、神となり、さらに世界を征服するところまで来た。


「世界を征服したんだから、もうやることはないだろう」


「そーっすよ。無能王子、完。ノア様の次回作にご期待くださいで締めといたほうがいいっす。あんま引き延ばしても惰性で続けてるって、賢い読者の皆様から文句が出るっすよ?」


 実際、世界を征服した以上のこととなると、何もないような気がする。


「しかーし! 世界を統一し、大ダーク帝国を作ったからこそ! 次に俺がするべきことがあるじゃないか! それは……」


「「それは?」」


 くわっ、とノアが目を見開いていう。


「革命、されることだ!」


 ロウリィとナベリウスが、眼を点にする。


「え、革命されるって、なんすか?」

「部下に反乱を起こされるってことか?」


「その通りだよナベ。いつの時代も、圧政を敷いてきた愚かなる王は、革命軍によってうち滅ぼされるだろう?」


「まあ、よく聞く話だな」


 いつの世も、悪政を敷く愚かなるトップは、聡く正義感のある臣下に討たれる運命にある。


「まー、この国に聡い人ゼロっすけどね」

「みんなバカ」


 はぁ、とロウリィとナベリウスがため息をつく。


「ようするに、だ。俺が悪の帝国の、悪の帝王ってことで民にひどいことをして、やつらのなかから、反乱分子を生み出す! そして、そいつに革命を起こさせる!」


 ノアがぐっ、とこぶしを握り締める。


「そうすることで、悪の帝王は討たれ、俺はお役目御免となるのだ!」


「「ふーん」」


 ペットたちからの、反応が薄い。


「なんだよー」

「いや、まあ」「うん、まあ」


 ペットたちは、理解していた。

 それ、今までやってきたことと、同じだと。


 それが成功した試しが、一度もないことを。


「ノア様がやりたいなら、オレ様はとめないぜ」

「ノア様がんばえー」


 まったく、応援してないペットたち。

 だがノアの瞳には、やる気の炎が燃えていた。


「無能ムーヴなんて、もう遅い! これからは……【悪の帝王ムーヴ】だ!」


 無能ムーヴも悪の帝王ムーヴも、本質的には同じということに……。


 ロウリィたちはとっくに気付いているが、何も言わなかった。

 どうせ何を言ったところでノアは馬鹿やるだろうし、そしてそれが巡り巡って、自分の首を絞めることに、気づいているからだ。


「そうと決まればさっそく! 悪の帝王ムーヴしてくるぞ!」


 ノアは窓をばん! と開ける。


「ちょ、寒いんすけど~」

「外は雪が降っている。風邪ひくぞ、ノア様」


 しんしんと降り積もる雪を見ながら、にやりとノアが笑う。


「では第一歩として、悪の帝王っぷりをお見せしてくれる!」


    ★


 ノアがやってきたのは、カーター領の隣に広がる、奈落の森。


 かつては高レベルモンスターのうろつく魔境であった。

 しかしノアという化け物が住み着いた結果、モンスターたちは姿を消した。


 今ではカーター領民たちの、貴重な資源となっているのである。


「しゃしゃしゃ! この森、木材の資源となっていることは知ってる。手始めに燃やし尽くしてやるぜぇ!」


 ノアはノリノリで、右手を天高くかかげる。


「【煉獄業火球(ノヴァ・ストライク)】!」


 巨大な火の玉が出現し、森を焼き尽くす。

 激しい爆音とともに……更地へと変貌した。


「どうだ! 森を焼いてやったぜ! これで何やってるんだあの帝王はってことで、不興を買うことだろう!」


 ノアの言うところの、悪の帝王ムーヴとは。


 なんか物語すごい悪役っぽい動きのことである。


 唐突に森とか焼き払うのは、悪役っぽい! と。


「悪の帝王はこうでなくっちゃなぁ! しゃーしゃしゃ!」


 これで自分は人から憎まれるだろう……。

 そう、彼が望むのは、人から憎まれ、恨まれ、嫌われることだ。


「悪の帝王に、俺はなる!」



    ★


 さて自称悪の帝王によって、焼き尽くされた奈落の森はというと……。


「おいおい、こりゃあ、どうなってるんだぁ?」


 奈落の森で、木こりの仕事をしている男が、目を丸くする。


 そう、そこに広がっていたのは、草1本も生えない荒野……。


 などではなく、緑豊かな森であった。


 つい先日まで、大雪で覆われていた森。

 だが今は、雪などみじんも見当たらない。

 さらに、森の緑は、前よりも濃く、木の実やキノコなどが豊富になっていた。


「こりゃあ、いったい何が起きてるんだ?」


 と、そのときである。


「ノア様のおかげですよ」

「あんたは確か、リスタ様?」


 ノアの忠臣(自称)、金髪美少女メイドのリスタが、木こりの元へ訪れる。


「ノア様が改革を行って下さったのです」

「改革?」


「ええ。ほら、冬の森は、雪が多くて作業しづらかったでしょう? 冬は取れ高も落ちる。そこでノア様は森を焼き払ったのです」


「な、なぜ焼き払うのです?」


「焼き畑、という概念はご存知でしょうか!」


 一度畑を焼くことで、それが畑の栄養となって、より多くの作物が育つこと。


 ノアの炎の魔法は、森の木々を焼き払った。

 しかしそれだけではとどまらない。


 なんと彼の魔力を帯びた炎は、土地を超活性させたのだ。


 燃え尽きた木々が一瞬で、新しいものへと生え変わる……


 結果、荒野から一転して、緑あふれる森へと変貌したのである。


「す、すごい! さすがノア様……!」


 木こりが感心する一方で、首をかしげる。


「しかしなんでそんなことを?」

「ふふ、どうやらノア様の崇高なるお考えを理解してるのは、わたし、リスタだけのようですね」


 と、リスタがしたり顔でいう。


「ノア様は、この世界のお手入れをなさっているので!」


「お手入れ?」


 リスタが笑顔でうなずく。


「ノア様は、世界を手に入れました。ですが、彼の野望はそれにとどまりません……!」


 そもそも野望など抱いていないのだが、リスタの妄想……否、空想はとまらない。


「世界を手に入れはしたけれど、まだまだ世界にはほころびが多い。紛争、貧困……世界は悲しみで満ちています。そこで、ノア様が直々に、この世界を幸せにするために、作り替えているのです!」


 世界をただ手に入れることなど、簡単なこと(※ノア基準)。


 全世界を平和に作り替えて、初めて……世界を征服したこととなる。


「世界統一など序章に過ぎません……! この世界をお手入れし、真の平和な世界を作る! それこそが、ノア様の崇高なるお考えなのです!」


「なるほどぉ! ノア様は、そこまでお考えだったのですね!」


 否、圧倒的、否である。


 なんだったら世界の破壊をたくらむ、悪の帝王になろうとしている。


 だがしかし、彼の行いは……良い結果をもたらし、さらに、この強烈な宣伝係の手によって……。


 ノアの偉業(※リスタ基準)が、広く、正確に(※リスタ基準)、全世界に……広まってしまう。


「こうしてはおられません!」


 リスタはふがふが、と鼻息荒く言う。


「ノア様のお考えを、全世界に広めねばー!」


 ……かくして、ノアの新たなる試みは……出だしから失敗していた。


 後に、彼がこう叫ぶことは……想像に難くない。


「どうしてこうなったぁあああああああああああああああああ!?」


 と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告ですー 多分 忠心 X 忠臣 ○となるのではないかと。
[良い点] ノアさま、大好き! [一言] どんどん改革お願いします! 次はうちの領地へ。 ノアは依頼された領地を焼き払うべく、今日も徹夜で改革を行なっている。
[良い点] ノアッチ、これからは、新世界の建設ですねw 良い理解者(狂信者リスタ)もいるし、バッチリですねw [気になる点] ノアッチダブル(ホワイトノアとダークノアール)は次回ですかね?トリプルドア…
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