86.和解と、神への新たな挑戦者
世界が俺の手によって、統一されてしまった……!
その日の夜。
カーター領にて。
「どうしてこうなるんだよぉおおん!」
領主の部屋にて、俺は頭を抱えている。
テーブルの上には白猫姿のロウリィがいて、溜息をつく。
『まさか、大ダーク帝国が、世界征服完了するとは思ってなかったすね……。悪の帝国って、普通は滅ぼされるのがセオリーなのに』
「まったくだよぉ……!」
俺……というか、闇の賢者ノアールを首魁として設立された、大ダーク帝国。
リスタの絶妙なお節介もあって、ついに100%の支持率の元、帝国は成立した。
『世界は厨二病患者をトップとして、まとまるのでした……めでたしめでたし』
「めでたくねぇええええええええええええ!」
はぁ……と俺は吐息をついて、深々と椅子に座る。
机の上でロウリィが、人間の姿へと変化。
「まーでもほら、逆に考えるんすよ。これでもめ事は起きないじゃないっすか」
「そうかなぁ……?」
「そうっすよ。だって世界は統一されたんすよ? 妙な対抗勢力が出てこなくなったんすから、やっかいごとは減った……と考えたホーがいいっす」
「そのかわり、1億倍くらい面倒ごとが増えたけどね……!」
世界を征服した組織のトップだぞ!?
どんだけ仕事が増えたと思ってるんだよ!?
ああもう……!
「せっかく恋人とイチャイチャパラダイスできると思ったのになぁ」
「ふ、ふーん……」
ロウリィがそっぽを向いて、頬をかく。
「い、いちゃいちゃ……したいんすか?」
「おう、当たり前だろ」
「ふーん……」
ロウリィは机の上から降りて、俺の膝の上に乗っかる。
ふにっ、と柔らかな太ももの感触が。
「こーしたいってこと?」
「ああ、まあな……つーか、重い。降りろ」
「いやっす」
「あ、そ……」
俺らはしばし無言で、やがて、俺の方から口を開く。
「悪かったな。いろいろ、勘違いしてよ」
「こっちこそ、ごめんなさいっす。こっちの不注意で、いろいろめんどうなことになって」
まあ元はといえばこの女が、勘違いさせるような発言をした。
そのせいで俺は闇落ちして、大ダーク帝国(笑)なんて作る羽目になったのだが……。
「ま、気にすんな」
ぽんぽん、とロウリィの白髪をなでる。
「ナベの貴い犠牲もあって、俺たちはついに恋人になれたんだからよ」
「ナベちゃん……草葉の陰で、きっと喜んでるっす。見守っててね……」
俺たちは天井を見上げる。
大きな、ナベの笑っている姿が、映る……。
『人を殺すなバカップルが』
「「ナベたん!」」
机の下の影から、のそりと体を出す。
「おまえ生きてたのか?」
「てっきりリスタに殺されたのかと思ってたっす!」
『ああ。死ぬ前に、分身体を影のなかに残してなかったら、やばかったがな』
ロウリィは俺の膝から降りて、黒犬のことをぎゅっと抱きしめる。
「ナベちゃん、ありがとっす。いろいろと、根回ししてくれて。おかげで念願叶ったっす」
『ふん。まあオレ様には関係ないが、まあ……良かったんじゃないか』
「うぃっす♡ あざっす!」
ぎゅーっ、とロウリィがナベの首を抱きしめる。
そっぽを向くナベだが、目元がどこか柔らかかった。
「おいおい悪魔は意地悪なんじゃなかったのか? キューピッドにでも転向したら?」
『神の使いっぱしりになるくらいなら、神のぱしりでいるほうがましだよ』
「ちがいないっすね!」
ロウリィがクスクスと笑う。
ナベもまた、フッ……と静かに笑う。
俺もまあ、なんだかんだうれしくて笑ってた。
「ま、これでもう、俺の邪魔するやつもいないだろうし、絶対この先、何も悪いことは起きないだろうなぁ」
「『おいやめろ』」
ロウリィとナベリウスが、止める。
「あん? なんだよ?」
「不穏なこと言わないでほしいっすよ」
『まったくだ、縁起でも無い。まるで隠れていた敵が、出てくるようなフラグにしか聞こえなかったぞ?』
ペットどもが不安そうな顔を向ける。
「はんっ! おかげさまで大ダーク帝国は世界統一が完了してるんだ。敵? おいおい、どこにいるんだこの世に?」
「でも……国がまとまったとはいえ、国のなかにはノア様を快く思ってない人もいるかもっすよ?」
『そうだぞ。例えば貴様の……』
「あーあーもう今日は疲れた! 寝ます!」
俺はペットどもをおいて、部屋を出る。
もういろいろ考えるのは、明日にしよう!
「おやすみ!」
★
ノア・カーターが世界を統一した、一方その頃……。
かつて、ノアがいた王城にて。
「くそ! ノアめ! 調子に乗るな、あの愚息めえ!」
城の地下には、一人の男が怒りの表情を浮かべていた。
彼は……ノアの父。
ゲータ・ニィガ王国の、【元】国王だ。
そう、大ダーク帝国が、ゲータ・ニィガ王国を取り込んだことで、王座を追われてしまったのだ。
出来の悪いはずの、息子が。
父親の地位を、奪ったのである。
「許さん! わしは、絶対にやつを許さんぞぉ!」
国王がいるのは、地下の書庫。
「【あやつ】からもらった、この【聖なる遺物】があれば!」
国王の手には、1本の聖剣……。
それは、ノアがかつて使っていた聖剣。
第三聖剣ファルシオンの姉となる。
第二聖剣【グラディオン】。
そして、片方の手には……。
【福音書】。
それは、闇の賢者ノアールが、かつて書き記した書物。
「【あの男】の言うとおりなら、これら遺物を使って召喚ができるはずだ……」
召喚。
遠くの地より、従魔を呼び出す魔法の一つ。
国王の足下には魔法陣が引かれている。
水銀で作られた魔法陣の上に、聖剣と福音書を置く。
「我が呼び声に答えよ! 偉大なる英雄達よ!」
国王は、教えてもらったとおりの呪文を唱える。
水銀がうごめき、輝き出す。
膨大な魔力が、遺物のなかから吹き出す。
ごぉ……! と光の柱が天をつく。
そして……光が収まると同時に……。
二人の、【英雄】が立っていた。
「おお! 召喚は成功だ! 英雄を、呼び出すことに成功したぞ!」
英雄。それは、強大な力を持って、偉業を成し遂げた男の名前……。
国王は、聖剣と福音書を使って、それらに関連する英雄を、過去から呼び出したのだ。
「く……くくく! 誰だ……この我を呼んだのは?」
まず、そこにいたのは、銀髪の男。
体中に銀のアクセサリーを身につけている。
黒いコートに、指ぬきの革手袋。
「うむ! ここはどこだ!? 誰だ! 誰かがおれを呼んでいるぅうう!」
その隣に居るのは、金髪の青年。
真っ白な服に、真っ白なマント。
その腰には三本の聖なる剣を携えている。
「成功だ! 闇の賢者と、光の剣聖を、呼び出すことに成功したぞぉ!」
……そこにいたのは、闇の賢者ノアール。
そして、光の剣聖と名高い、ホワイトノア。
「ノアール、そしてホワイトノア! 歴史上、最も強いとされた、二人の英雄をわしは呼び出したのだぁ!」
ノアールとホワイトノアは、召喚主である国王を見下ろす。
「ふっ……我を悠久の眠りより覚ますとは……それほどまでに、お困りの様子かな?」
「なにー! 困りごとだと! それは大変だ! おれが対処する! 何に困ってる!? 敵か! 敵だな! うぉおおおお! みなぎってきたぁああああああああああ!」
ノアールとホワイトノアに、国王は言う。
「貴様らには、一人の男を倒してもらいたい」
「ほぅ……」「そいつは誰だっ!?」
国王は懐から1枚の写真を取り出す。
赤いマントに、死んだ目つきの男……。
「ノア・カーター。この世界を統一した、悪の親玉だ。こいつを貴様らの手で、葬り去っていくれ」
……かくして。
世界を巻き込んだ、マッチポンプ戦が終わったと思ったら。
今度は、黒歴史×2との戦いの火蓋が……切って落とされようとしていた。




