77.ペットと飲み会、時々本音
俺の元に、教皇エルレインが来てから、1週間後。
秋も深まってきた、ある日。
深夜。
「うう……さむさむさむ~……」
俺は白猫と黒犬とともに、アインの(元)村へとやってきていた。
もはや、村ってレベル超えてる。
なんか分厚い外壁まであるし、中も食い物屋とか冒険者ギルドとか、いつの間にかできている。
『ノア様~。さみーっす。はやくはやく~』
俺の肩の上に、ロウリィがしがみついている。
「急ぐんなら自分で歩けよ」
『いやっす。地面がちべたいっす。わたしの肉球じゃ、冷たさダイレクトに伝わってくるっすからね』
まあいっか。
ほどなくして……。
『む? 何やら良い匂い……』
くんくん、と黒犬が鼻を鳴らす。
「ついたぞ。目当ての屋台」
俺たちがやってきたのは、おでんの屋台だ。
『おでんっ! この時期さいこーっすよね!』
「ああ。この間、街をぶらついてたらみつけてな。この深夜にしかやってないのよ」
俺たちは屋台に顔を出す。
ぽんっ、と俺の隣に、白髪猫耳の女が出現する。
「おっちゃん! がんも! ほしーっす!」
おでんやのおやじが、黙ってうなずく。
「じー……」
「な、なんすかノア様……そんな熱心に見つめて。照れるっす~♡」
「おまえ………………だれ?」
「ふしゃー!」
がりっ、と女が俺の顔をひっかいてくる。
「その猫っぽい動作は……ロウリィか!」
「自分以外に誰がいるんすか!」
「いやおまえ……最近その人間フォームになってないからさ、誰かと思って」
「ったく、しつれーなひとっすね~。動物と人間を間違えるなんて」
ことん、とロウリィの前にがんもが置かれる。
ふがふが、と鼻息を荒くしながら、ロウリィががんもに食いつく。
「まったくだな」
俺の隣に……黒髪犬耳の美人が座る。
「「じー……」」
「……つっこまんぞ?」
「「だ、だれー!?」」
「……オレ様以外に誰がいるんだよ」
ナベリウスもまた、人間の姿になっていた。
「なーんだナベちゃんか。最近人間の姿めっきりみないから、わかんなかったす~」
「貴様、数十秒前に自分で言ったこと覚えてないのか? ……はぁ」
俺は右にナベリウス、左にロウリィ、ふたりのペットに挟まれながら、おでんを食べる。
「あちあちっ! あちちっ」
ふーふー、とロウリィががんもをさましながら食べる。
ナベリウスは黙って、牛串をむしゃむしゃと食べる。
「ふーふー!」
「猫舌かよ」
「そーっすよ! わるかったすね!」
はむはむ、とがんもをロウリィが食べる。
「ん~~~~~~~♡」
白猫の尻尾が、♡マークを作る。
「うめーっすぅ~♡」
「そこにこの、魔神ロウリィの異世界の知識で作った、日本酒を飲むとぉ~?」
俺はおちょこに、日本酒を注ぐ。
ロウリィは一口すすって……。
「ぷはー! うみゃーい!」
「くく……酒とおでん……悪魔的組み合わせ……!」
俺たちはおでんをバクバクくって、日本酒をごくごく飲む。
「「がはははー! うめー!」」
ロウリィと俺は、もうすっかり酔っ払っていた。
いやぁ! きもちいい!
外が寒いから、あったかおでんとお酒が進むこと!
「ノアッチぃ~♡ わたし、卵たべたいっす~♡」
「おやじぃ! 卵ぉ!」
ことん……とおでんやの親父が、卵を俺たちの前に置く。
「あついっす~。ノアッチ、ふーふーしてぇ~ん♡」
でろでろに酔っ払ったロウリィ、ふにゃふにゃ笑いながら俺を見上げる。
「あーん? ふーふーだとぉ~……しかたねえなぁ……」
俺も気分が良いので、ロウリィのために、ふーふーしてやる。
「ノアッチぃ~♡ あーん♡ あーんしてぇ~♡」
「あーん? あーんだとぉ……? あーん……♡」
「あーん……♡」
ぱくっ。
ロウリィが俺の差し出した卵を、一口で食べる。
「うまいか?」
「うみゃーい♡ でへへ、世界一おいしーっすぅ~♡」
べろんべろんに酔ったロウリィが、しまりのない笑みを浮かべる。
「ノアッチに食べさせてもらったから、うまさ1000%っすぅ~」
「いや1000%って……普通に10倍でいいだろうが……」
やれやれ、とナベリウスがため息をつく。
「ぴえーん、ナベちゃんにダメだしされちゃった~」
えんえん、と泣く振りをするろりえもんのやつがまあ……かわいらしいこと!
「おーよしよし、泣くなろりえもん……首の下なでちゃる」
俺は人間状態のロウリィの首の下を、こちょこちょとなでる。
「ふにゃーん……♡ しゃーわせー……♡」
ロウリィが顔を、=ω=にして、俺にされるがままになっている。
ふはは! かわいいやつめぇ!
「ここか? ん? この辺が弱いのか? んんぅ~?」
俺は調子に乗ってこちょこちょ、とロウリィの首の下だけでなく、頭もなでる。
「ふみゃぁ~~~~~~~♡ ごくらくだにゃーーーーーーん……♡」
「おい魔神、自分の職業忘れてるぞ……」
呆れた調子でため息をつき、ナベリウスがちくわぶをかじる。
はふはふ、と熱そうにしながら、ちくわぶを咀嚼。
クールな表情なのに、犬耳がぱたぱたしてる……くく、面白え女だ。
「あーん? ナベちゃん、わたしの職業でえすってぇ~?」
お、ダルがらみ状態のロウリィがナベリウスにからんでいくぞ。
「魔神じゃないれすぅ~」
「ほぅ、じゃあなんだ?」
「それは~……ぬへへへ~♡ ノアッチのぉー……お嫁さん♡ きゃっ♡」
ろ、ろりえもんのやつ……!
俺の嫁だってぇ!
「やれやれ……ノア様。いいのか、魔神がこんなんで?」
「ああーん? 良いのか、だとぉ?」
ナベのバカに、教えてやんねえとなぁ!
「ろりえもんは、俺の嫁!」
「ふにゃーーーーーーーん♡ のあしゃま~~~~~♡」
ロウリィが尻尾を♡にして、耳をパタパタさせながら、笑顔で俺に抱きつく。
うむうむ、かわいいやつよのぉ!
「ノアッチらいしゅきー♡」
「俺もらいしゅきー♡」
ハグを仕返して、でへへと俺たちは笑う。
「はいはい、お熱いことで……。日本酒ついかで」
ことん、とナベリウスの前に日本酒が置かれる。
「ねえねえノアッチ~。見てよナベちゃんやけ酒っすよぉ。わたしにノア様、取られちゃったからぁ~!」
「ふはは! 悪いなナベぇ……! 俺の女はろりえもんただ一人なんだよぉ!」
「ひゅーひゅー、しゅてき~♡」
げははは! と俺たちは上機嫌に笑う!
「はいはい。ノア様はいいのか、サラっていう婚約者がいるが」
「婚約者は別に、妻じゃないんですぅ~。そんなこともわからないですかー?」
「ノアッチほら、ゆるして。ナベちゃんわんこだから、わんこだから仕方ない」
「がっはっは! そうだなぁ! わんこだからなぁ!」
俺とロウリィが肩を組んでナベリウスに絡んでいく。
めいわくとか? 考えないね!
だって楽しいからよぉ!
「ナベちゃんお手ー」
調子乗ったロウリィが、手を差し出す。
「ほらよ」
じゅっ!
「ふぎゃぁあああああああああ!」
ロウリィが地面に倒れて転がる。
「どうしたろりえもーーーーーーーーん!」
俺は慌てて、転がっているロウリィを抱きかかえる。
その手には……。
「これは……熱々のがんもじゃねえか!」
ナベのやろう、ロウリィがうざいからって、がんもをダイレクトに乗っけやがった!
くそっ! なんでひでえことを!(泥酔)
「ノアッチ……わたし、もうだめっすぅ……」
弱々しく、ロウリィがつぶやく。
「短い間でしたが、お世話になりました……」
「そ、そんな! おい何弱気になってるんだよロウリィ!」
俺はロウリィを抱き上げて、彼女を見下ろす。
「自分は、もうだめっす。あつあつがんもで大やけどを負ってしまったっす……」
「そ、そんなぁ! あつあつのがんもで大やけどだって! ちくしょう! そんなの俺が魔法で直してやるよ!」
ふっ……とロウリィが弱々しくつぶやく。
「いいんす……わたしの体は、わたしが一番よくわかってるから。もう……手遅れだって……」
「そんな……! おいそんな弱気になるなよ! ロウリィ!」
「わたしが死んだら……毎日お墓の前に、がんもをお供えしてくださいっす……がくん」
そのまま目を閉じるロウリィ。
「ロウリィ! ロウリィぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
俺の慟哭が、夜の街に響き渡る。
ずず……とナベが日本酒を啜って、ひとこと。
「茶番は、気が済んだか?」
俺と、起き上がったロウリィが、揃って言う。
「「わりと満足」」
「近所迷惑だから、大声で騒ぐな」
「「へーい」」
★
飲み終わった俺たちは、屋敷へと歩いて帰ることにした。
寒空の下を歩くことで、酔いを覚まそうって魂胆だったのだが……。
「むにゃ~……もうたべられへんわぁ~……」
「この猫……一人だけ酔い潰れやがって……」
俺の背中には、気持ちよく眠っているロウリィがいる。
人間状態の彼女を、俺はおんぶして、ナベリウスと供に歩く。
黒犬姿のナベリウスは、呆れたようにため息をつく。
『酒弱いくせに、この猫はよくもまああんだけ飲めるな』
「まったくだ」
「ぷひー……ぷひー……」
鼻提灯をつくりながら、締まりのない顔で眠るロウリィ。
「ったく、のんきなやつだよ……」
するとナベリウスは、俺の顔を凝視した後に、こんなことを言う。
『なぁ、ノア様。ロウリィを嫁に取るって話は、まじなのか?』
ナベが答えにくいことを聞いてきやがった。
……まあ、寝てるから良いか、こいつ。
「あー……まあ、心情的には、な。別に俺、こいつのこと、嫌いじゃないし」
『ならさっさとくっつけばいいものを』
「それなー……ちょっと躊躇ってよ」
『ほぅ……どうして?』
これはマジトーンで答えないといけない感じだろうか。
まあ……いいか、寝てるしこいつ。
「ロウリィがさ、魔神だからだよ」
俺たちは夜空の下を歩きながら、会話する。
「言うまでもなく、俺はこのアホ猫より早く死ぬだろ?」
『そうだな。魔神と人間とでは、寿命の長さが違う』
特にロウリィは、この世界がはじまったときから生きてる魔神だ。
俺が死んだ後も、ずっとずっと、この世界に生き続ける。
「ロウリィってさ、結構さみしがり屋なんだよ、こーみえて」
俺が1歳の時、ロウリィと初めてであった。
彼女は城の禁書庫でひとり、引きこもっていた。
あのとき……彼女は悲しそうな顔をしていた。
聞けば、一人で辛いという。孤独が、嫌いなんだよ、こいつ。
「もし俺がストレートに、好きだって伝えたらよ……まあほぼ100%OKするだろ、こいつ」
『自信過剰すぎないか? まあ……Okするだろうが』
「そしたらさ……悲しむだろ、こいつが。将来、俺が死んだときによ」
誰とも関わらず、悠久の時を生きてきた魔神。
彼女と俺が付き合って、そのときは幸せなのかも知れない。
だが幸福な時間はあっという間に終わってしまう。
それこそ、魔神にとって、人間の一生なんて、瞬き1回分くらいの、短い間のこと……。
「それでさ。俺が死んだ後……ロウリィはずっとずっと、さらに悲しい思いを抱いて、生き続けなきゃなんねえじゃん。……それは、可哀想かなって、思ってよ」
『……なるほど。だから、これだけ仲良くても、付き合わないのか』
「そーゆーこった」
あー、まじな感じで答えちまった!
は、はずいよぉ……ふええ……。
『ふっ……ノア様は意外と、お優しいんだな』
「意外ととはなんだ。俺は優しさの塊みたいな男だぞ」
『はいはい』
ナベリウスはちらっ……と俺……じゃなくて、ロウリィを見て言う。
『だがなノア様。たぶん……この女は待ってるぞ。貴様からの、告白を。たとえ悲しい別れが待っていようと、今……求めてるって、貴様のことをな』
「そーかね?」
『ああ。だから、あんまり待たせてやるなよ?』
ナベからの忠告に、俺はため息をついて言う。
「ま、そのうちな」
★
ノアにおんぶされながら、ロウリィは……彼らの話を全部聞いていた。
アルコールの抜けた顔は、しかし、真っ赤に染まっていた。
彼女は小さく、誰にも聞こえないくらい……小さく、つぶやく。
「……ノア様。好き、っす」




