07.国王、有能な人材に逃げられまくる
ノアが有能っぷりをさらしている、一方その頃。
王宮では混乱が起きていた。
「なんだとっ? もう一度申してみよ!」
王の謁見の間にて。
国王は跪く宰相に叱りつける。
「せ、先日、騎士団長【ディーヴァ】が辞職されました……」
「ディーヴァがだと!? 王国最強の騎士が、なぜ辞めたのだ!?」
「それは……恐らくは、また、でしょう」
また、そう、またなのだ。
「ノアか……! またやつのせいなのかっ!」
「ええ、先日宮廷魔導師長がおっしゃっていました。【ノア様がいない王宮に意味はない】と……たぶん、ディーヴァも同じかと」
がりがり! と国王は頭をかく。
先日から王宮を辞するものが多出しているのだ。
騎士、メイド、文官……etc.。
大きなところで言えば、宮廷魔導師長の少女。
そして、最強の騎士ディーヴァ。
王家にとって貴重なカードを2枚も失ってしまった。
その理由が、【ノアの不在】。
「どうやら彼女らはノア様と親交が厚かったらしいのです」
「くそっ! そんなこと聞いてないぞ!」
「わたくしも初耳でございます……」
ノアを無能王子とさげすみ、彼に興味を持たなかったツケが回ってきているのだ。
「陛下。かなりの損失です。二枚看板を失い、そこに付随するように騎士や魔導師たちがドンドンと辞めていっております」
「奴らはなにをしているのだ!?」
「さ、さぁ……?」
……国王達は知らない。
王国から流れていった有能な人材が、今、ノアのいる【カーター領】に向かって大勢押し寄せていることを。
それはさておき。
「国王陛下。ノア様の件ですが……連れ戻すなどしなくてよいのですか?」
国王はギロリ、と宰相をにらみつける。
「なんだ? 貴様、ノアを追い出したわしの判断が間違っているとでも言いたいのか!?」
「い、いいえ決して!」
「ならノアを連れ戻せなどという意見は、金輪際するな! いいな! あいつは無能だ、わしが捨てたんだ! わしの判断は常に正しいのだ!」
ここでノアを連れ戻せと命じられておけば……と国王は深く後悔することになる。
なぜなら、時間が経てば経つほど、カーター領民たちはノアの凄さを理解し、彼を手放してくれなくなるからだ。
今は、アインの村および、領主の館で働くものたちしかノアを知らない。
だがいずれ必ず、領民全員が、彼の実力を知ることになるのだ。
と、そのときである。
「陛下、失礼いたしますわ」
謁見の間に、1人の美しい女が入ってきたのだ。
「おお、サラディアス嬢ではないか。公爵は元気か?」
サラディアス=フォン=グラハム。
この王国における、御三家とよばれる大貴族のひとつだ。
サラディアス……サラはグラハム公爵の令嬢。
王家にとってグラハムとの関係性は今後とも末永く続けておきたい相手……。
「国王陛下、実は婚約を破棄させていただきたく、参上いたしました」
……一瞬の静寂があった。
「な、なぁっ!? こ、婚約破棄だとぉおお!?」
あまりに急だったため、驚きを禁じ得ない国王。
一方でサラはそれで全てとばかりに、頭を下げて去って行こうとする。
「ま、待て! サラディアス嬢! なぜだ!」
慌てて彼女を引き留めようとする。
「わたくしは、ノア様の婚約者ですから」
ノア、つい先日追い出したばかりの、無能王子の名前がなぜ出てくるのか!?
「ああ、しかしノアは王家から追放した。次の婚約者はダーヴァということになったではないか!」
「嫌、ですわ」
「なぁっ!? い、嫌だ……と?」
「ええ、あんな凡夫との結婚など、ありえません」
……そう、サラもまた、ノアの高すぎる実力を理解するものの一人だったのだ。
「わたくしはあのお方のためにこの身をささげ、あの方の遺伝子を子々孫々にまで伝えていくためだけに、婚約話を受けたのです」
それを、と吐き捨てるように言う。
「あんな駄馬にわたくしの体を穢されたくありません。それを強要されるくらいなら首を切って死にます」
「そ、そこまでか……し、しかしダーヴァは剣聖のスキルを持っている、有望株なのだぞっ?」
国王としては御三家との繋がりは手放したくないので、必死になってサラを説得する。
「いかに優れたスキルを持っていようと、持ち主が凡夫では意味がありません。豚に真珠、宝の持ち腐れですわ」
と、切り捨てる。そして、サラは頬を赤らめて言う。
「その点、ノア様は違います。スキルに頼らずとも、あれほどまでに素晴らしい力をお持ちになっているかた、わたくし見たことがありませんでしたわ……♡ ああ、ノア様……♡ 早くお会いしたい……♡」
この女もまた、リスタ同様、ノアの信者であった。
と、なるとどうなるか……?
「というわけでわたくしはこの婚約を破棄させていただきます。ノア様のもとへ行きますので、それでは」
言いたいことを一方的に告げて、サラはその場を後にしようとする。
そのときだ。
「ま、待ってくれ! サラ!」
王の間に、ノアの兄ダーヴァが入ってきたのだ。
「婚約破棄なんて嘘だろぉ!? なぁ! 嘘だと言ってくれよぉ!」
……ダーヴァはサラに恋心を抱いていたのだ。
さもありなん。
サファイアのような美しい髪、ぱっちり二重の大きな瞳、そして形の良い大きな乳房。
家柄、外見、能力、そのどれをとってもサラは一級品の女。
ダーヴァはサラが欲しくてたまらなかったのだ。
だから、婚約者であるノアが邪魔で仕方なかったのである。
……しかし。
「嘘ではございません。わたくしはノア様のもの。あなたに身を委ねる気はさらさらありませんわ」
「そ、そんな……! 待ってくれよぉ! 考え直してくれよサラぁ!」
詰め寄ってくるダーヴァの股間を……。
「ぎょべっ!」
サラは、思い切り蹴り上げたのだ。
「だ、ダーヴァ! 大丈夫かぁ!?」
国王が慌てて駆け寄る。
股間を押さえ、大汗を流しながら、ぷるぷると震えるダーヴァ。
「汚らわしい。二度とわたくしに触ろうとしないで。次は潰しますよ」
「ひぃいい!」
ふんっ、と鼻を鳴らしてサラが言う。
「あなたのような劣等王子の種に価値はないでしょうが、まあその玉が大事なら二度とわたくしの前に現れないことですね。それじゃ」
サラは颯爽と去って行く。
あとには呆然とする父と、股間を押さえて立ち上がれないでいる駄馬兄の姿しかなかった。
「「どうして、こうなったんだぁあああああ!」」
……それは奇しくも、ノアが叫んでいるときと、同じタイミングであったのは言うまでもない。




