68.第七王子は死の淵より生還し神となる
前回までのあらすじ。
なんか、神になってた。
『まったく、心配させやがって……バカ王子が……』
ここは神聖皇国内にある、大聖堂。
俺は天道教会という、この世界で最も大きな宗教団体が持つ聖騎士にとらわれ、現在囚人の身であった。
黒犬ナベリウスがなんだか知らんが、俺を心配して、ここまでやってきた次第。
『ナベちゃん、なんだかんだ言って、ノア様のことスコスコのスコなんすね~』
白猫ロウリィが、ニヤニヤ笑いながら、ナベリウスの頬を尻尾でつつく。
『はぁ!? べ、別にオレ様は、こんなゴミのこと好きじゃない!』
『んも~。意地張っちゃって~』
ペットどもがじゃれついてる中、俺は今後の展開を考える。
『ところでノア様、どうするんだこれから? 教会に捕縛され、もうすぐ処刑されるんだろ?』
『もちろん、逃げるっすよね』
「くくく……愚かなペットどもめ」
にやり、と俺が笑う。
『あ、いつものっすね』
『いつものバカやるつもりだろうな』
「しゃーらっぷ! 黙って俺の凄い作戦を聞きなさい!」
ぺたん、と俺の前に、猫と犬が座る。
「この機を利用して、俺は、無能ムーヴするぞ!」
『また性懲りもなく……』
『ノア様、学習って言葉、知ってます? ふぎゃぁあああああ!』
ロウリィを魔法でぐるんぐるんとその場で大車輪の刑に処す。
『無能ムーヴなんてせず、大人しく脱獄すればいいのでは……? ノア様なら余裕だろう?』
『逃げればお望み通り、悪名も高まるっすからね……うぇえ』
ふっ……わかってないなペットどもは。
「脱獄はあくびするほど簡単だ。しかーし! 逃げたあとで聖騎士に追い掛けられても困る訳よ。そこでノア様は一計を案じるわけだ!」
俺はペットどもに作戦を話す。
『『また余計なことを……』』
「んだよぉ! 文句あんの!?」
ペットどもは俺から離れて、ひそひそ話す。
『どーおもうっす?』
『どうせまた大成功からのさすノアだろ』
『だよねー』
ふんっ。ペットどもは俺の作戦の素晴らしさを理解してないようだ。
と、そのときである。
「おい! ノア・カーター!」
牢屋の外には、でっぷりと太った、意地悪そうな顔をしている大司教……【アクダァマ】がいた。
「明日がついに処刑の日だが……くくく! 楽しみだなぁ!」
「ふ……ふふふ! ふはははははっ!」
俺が高笑いすると、アクダァマ、および近衛騎士たちが、動揺する。
「な、なんだ笑いよって」
「ふっ……人間とは実に愚かだなと思ってな」
「なにぃ!」
憤るアクダァマ大司教に、俺が言う。
「控えろ。俺は神だぞ?」
ふっ……これこそが、今回の無能ムーヴだ。
題して、【神のフリした愚か者だけど、結局処刑されて歴史に大罪人として名を残す羽目になった件(泣)~今更嘆いてももう遅い~】作戦だ!
『どこぞの売れないラノベみたいな作戦名っすね』
『まず読まれないだろうな』
ペットどもを重力魔法でぺしゃんこにする。
『『ぐぇえええええええ』』
「か、神だと!? あれは部下どもが勝手に言ってるだけじゃなかったのか!?」
顔を真っ赤にして怒るアクダァマに、俺は芝居掛かった、余裕の態度で言う。
「やれやれ……本質を見極められぬ愚者め。この俺からあふれ出る、神のオーラが見えないのかな?」
ふっ、と俺が笑う。
『何も見えないぞ?』
『きっとバカにしか見えないオーラなんすよ』
ペットどもを以下略『『ぐぇえええ』』
まあちょっと演出しておくか。
俺は普段制御してる、魔力を、ほんのちょっぴり解放する。
ごぉっ! と魔力の嵐が発生する。
「クッ……! なんだこの巨大な魔力量は!?」
「ふははは! だから神だと言っただろうが。貴様、神に対してこんな薄汚い場所に入れておく等、無礼千万だぞ!」
『なんかノリノリだなノア様』
『ほら、前世が闇の大賢者(笑)だから、こーゆーの得意なんすよ』
ペット(以下略)
「ということで、俺は神だ。神を処刑したところで無駄だぞ? 天罰がくだるであろう……くくく!」
まー、こんだけハッタリかましておけばおっけーかな。
「そ、そこまで言うのなら! 明日の処刑、楽しみにしてるぞ!」
にやり、と邪悪にアクダァマが笑う。
「神だというのなら、当然、人間の行う処刑ごときでは死なないよなぁ?」
俺もまた、不敵に笑う。
「当たり前だろ? 俺は……ゴッド・ノアだぜ?」
★
翌日、俺は処刑されることになった。
俺がいるのは、皇国内にある、大きな渓谷だ。
俺は手足を拘束され、深い深い谷の前にいる。
「これより! 大罪人ノア・カーターの処刑を執り行う!」
執行人はアクダァマ。
周囲には聖騎士達も居る。
「ノア様ぁ!」「やめろアクダァマ!」「ノア様は神だぞ!」「神を処刑するなんて、なんて罰当たりな!」
聖騎士どもは俺を勝手に、神と思っているらしい。
聖騎士達もまた手足を縛られて、見学させられている。
そこには聖騎士以外の上層部の連中も、俺が死ぬのを心待ちにしてる様子だった。
「ノア・カーター。貴様は今よりこの【黄泉の谷】に突き落とす」
「黄泉の谷ねぇ……また物騒な名前だな」
「くく……この下はなぁ、冥界の門が存在する。谷底には冥界より出でし化け物どもがうようよしてるのよぉ」
冥界。たしか、悪人の魂が収容されてるっていう、ヤバいとこだよな。
「しかも黄泉の谷底は全てを食らう、魔力をもだな! つまり谷底では魔法が使えない……くくく、冥界の魔獣どもにその身を食われて死ぬがいい!」
すでに勝ち誇った笑みを浮かべるアクダァマ。
「何か言い残すことはないかぁ、ノア・カーター? 落ちたら最後、二度と戻ってこれない黄泉への旅路を前に?」
「ふっ……神に不可能はない、とだけ言っておこう」
「クッ……! どこまでも不遜なやつ……! おい! さっさとノアを谷底へ落とせ!」
近衛騎士たちが槍を持って、俺の元へ近づいてくる。
「あー、別につつかなくても平気だから。自分でいくから」
「ふぁ……!?」
俺は手足に枷を付けられた状態で、バク宙。
「「「ノア様が落ちたぁああああああああああああああああ!」」」
「ふーーーはっはっは! さらばだノア・カーター!」
俺は凄まじい勢いで、谷底へと落下。
確かに魔力を食われているらしい。
魔法が使えない……。
飛行魔法が使えない状態、しかも運良く助かったとしても、谷底には冥界の魔獣か。
なるほど、こりゃ死ぬわな……。
「よいせっと」
俺は空中でバク宙を決め、体勢を整える。
黄泉の谷の、谷壁を蹴って、斜め下に落ちる。
「よっ、ほっ、よいしょっと」
壁キックを繰り返しながら、勢いを殺し、そして谷底へと無傷で到着する。
「ふぃー……良い運動になったわ。さて……おいペットども」
ずぉ、と俺の影から、ナベリウスとロウリィが出てくる。
ナベリウスは影の悪魔なので、俺の影の中に入り込むことが出来る。
『あいかわらず凄いっすね……』
『手足を拘束された状態で、壁キックで、こんな深い場所まで降りてくるなんて……』
「え、別に普通だろこれくらい。フンッ……!」
俺は手かせ足かせを破壊する。
『この人魔法使えなくっても、ヤバい人だったすわ。忘れてたけど』
『さすが剣聖の前世を持つ男……身体能力も異常だな』
「さーって、これで落下して死んだってことになってるし、一泊くらいして明日の夜あたりに外出るぞ」
俺はぐいっ、と伸びをする。
『いや一泊って……ノア様。ここには冥界の魔獣がいるという話ではないか?』
「あん? あいつらか……」
周囲には、黒い肌を持つ、凶暴そうな動物たちがいた。
『クッ……なんて魔力。オレ様にはわかる。やつらは、悪魔をもしのぐほど、強力な魔獣達……!』
「『ふーん』」
俺も、そしてロウリィもまた、余裕の笑みを浮かべる。
「野営の場所探すかー」
『ノア様、わたし野宿は嫌っすからねー。これでも女子だもんで』
「なにぃ、贅沢だなぁ。まあいいけど」
『お、おい! 魔獣が襲ってくるぞ!』
ぐわ……! と大量の魔獣が俺に飛びかかってくる。
「あ゛?」
『『『きゃぅうううううん!』』』
俺がにらみつけると、魔獣達がその場で……お腹を向けて倒れる。
『い、一体何を!?』
『ノア様から発せられる殺気に当てられ、みんな降伏してるんすよ』
『そ、そんなバカな……』
『ナベちゃんだって仰向けで倒れてるじゃないっすか?』
『なっ!? いつの間に!?』
悪魔も、魔獣どもも、俺がすこーし殺気を込めてにらんだだけで、びびってやがる。
「おいおいこの程度で怯えるなんて、骨のないやつらだなぁ」
『『『きゃいーんきゃーいん!』』』
冥界の魔獣ども見回す。
「ロウリィ、今夜は何肉がいい?」
『うーん、牛肉かなー』
「よーし、指ぱっちん」
ばつんっ! と冥界の魔獣の中にいた、牛の魔獣をズタズタに引き裂く。
『わーい、今夜は焼き肉ぱーちー』
『いやちょっと!? え、冥界の魔獣だぞ!? 今、え、どうやって倒した!?』
「ただの指ぱっちんだが?」
俺はパチンと指を鳴らすだけで、衝撃波を発生できる。
それを魔力で増幅してやれば、今みたいな真空の刃となって、相手を切り刻めるのだ。
『もうおまえ神だろ……』
「あ? 俺はふつうの人間だぞ?」
『そーっすよ、一般人っすよ』
唖然とするナベリウス。そして、冥界の魔獣達は、なんだか知らんが、気を失っていた。
まあそんな感じで、俺は黄泉の谷で一泊したのだった。
★
次の日の夜。
「さすがに1日経てば、教会のやつらも帰ってるやろー」
『しかしこの深い谷から、どうやって帰還するのだ?』
俺は手刀を構え、振り下ろす。
ずぉ……!
俺の前に、空間の裂け目ができる。
『ここと地上の間との空間を切ってつなげたのか……相変わらずの規格外っぷり……』
「ほら、帰るぞペットどもぉ~」
『『へーい』』
俺はペット2匹と供に、空間の裂け目を通る。
『ノア様、今回は上手く行ったっすね、珍しく』
「くくく、だろうぉ? 神を名乗って死んだ反逆者って、今頃地上ではノア・カーターはバカ扱いされてるぜぇ」
俺は地上へと戻ってきた、のだが……。
「『『なんじゃこりゃ!?』』」
俺とペットどもが、驚愕する。
そこには……。
冥界の魔獣どもと、聖騎士達が戦っていた。
「ひぎいぃ!」「うぎゃああ!」「もうだめだぁあ!」
聖騎士達が剣や盾をつかって、魔獣たちを追いかえそうとしている。
だが、完全に防戦一方だった。
「! み、見ろ! あれを!」
「あれは! まさか!」
「「「ゴッド・ノア様だあああああああああああ!」」」
え、ええ……なにこれ?
聖騎士達が俺を見て、涙を浮かべる。
「ノア様! お帰りになられたのですね! 信じておりました!」
「お、おう……たしかクィナだったな」
ボロボロのヨレヨレ状態の聖騎士、クィナが、俺を見て涙を流す。
「やはりご無事でしたか……! みなのもの! 我らが神は、健在です!」
「「「うぉおおおおおお! 神いぃいいいいいいいいい!」」」
聖騎士達は俺の帰還を喜び、雄叫びを上げる。
魔獣達は俺を見て、その場にひれ伏した。
「見なさい! ノア様が帰ってきた途端、冥界の獣たちがひれ伏しています! これは、相手が神である、何よりの証拠!」
「『『ええー……』』」
俺、ロウリィ、ナベリウスはドン引きする。
一方でクィナと聖騎士達は狂喜乱舞してるし……。
「ど、どうしよう……これ……どうなってるの?」
『まあ、落ちたら最後、誰も帰って来れない谷から生還して、冥界の魔獣達を引き連れてたら……そりゃ神扱いされるだろ』
ナベリウスがため息交じりに言う。
そ、そんな……!
「ノア・カーター……」
ふらふら、とアクダァマ大司教が、俺の元へやってくる。
「お、おお! 大司教! 良かった、唯一の味方が……! なあこいつらに言ってやってくれよ! 俺が何者なのか!」
がしっ!
「我らが神、ゴッド・ノア様をたたえよ!」
「「「たたえよ、ゴッド・ノア様!」」」
「ふぁ……!?」
アクダァマ大司教の目が……
目が……信者になってるよぉ~……
『ノアッチやったね、信者が増えたよ』
『まあこれだけ奇跡的なことしたんだ、神と誤認しても仕方あるまいな』
ペットたちが呆れたように言う。
「そ、そんな! でもでもっ、俺はただの人間なんだもん! 神なんかじゃないもん!」
『子供みたいに駄々こねたって無駄っすよ』
『またノア様……余計なことするから……』
『ねー、最初の捕まった時点で、余計なことせず転移して逃亡すりゃよかったのに……』
俺の前には、天道教会の聖騎士、上層部の連中、全員揃って土下座してる。
「「「我らが神よ! 愚かな我らをお許しください!」」」
「んもぉおおおおおおお! どうしてこうなるんだよぉおおおおおおおおおおおお!?」




