67.第七王子は神になる
話は、ナベが来る前に戻る。
俺は神聖皇国の聖騎士に捕縛され、連れて行かれた。
『の、のの、ノア様! どうするんすかぁー!』
地下牢にて、ロウリィが慌てて言う。
『わたしたち捕まっちまったじゃないっすかー!』
「ふっ……」
慌てふためく小動物を見て、俺は笑う。
「まあ落ち着けロウリィ」
にんまり笑って、俺は言う。
「これはチャンスではないか!」
『ほえ? チャンス?』
「そう! この状況……俺は神の反逆者ってことでとらわれた。つまり! 俺の名声は今、地に落ちたということ!」
好感度が下がるのは、俺の望むところである。
つまり今、俺は望んだ展開のなかにいるってことだ。
『ええー……でも、殺されたらどうするんすか? 神聖皇国の聖騎士って、異教徒に厳しいんでしょ?』
「あ? 俺が殺されたくらいで、死ぬと思ってるの?」
『あ、たしかにー』
ロウリィがホッと安堵の吐息をつく。
『ノア様が無事ならいっか。わたしはノア様が処刑されてる隙にトンズラこくんで』
「俺も俺が処刑されたら、蘇生してトンズラこくんでもーまんたいよ」
というわけで、俺たちはあまり慌ててなかった。
「しっかし牢屋の中ってやつは、なんもねえな」
石でできた壁床天井。前方には鉄格子。
ザ・牢屋って感じ。
『まぁ囚人を閉じ込めておく場所っすからね』
「ちっ。アメニティの充実してない牢屋だな」
『だから牢屋だって言ってるでしょ……』
ということで、俺は指をパチンと鳴らす。
ソファ、ベッド、本棚、トイレ。
「ま、とりあえずこんなもんかな」
俺はどさっ、とベッドに横になる。
ロウリィが俺のお腹の上にひょいっと乗っかる。
『二人っきりっすね……』
「おう……そうだな」
ロウリィが近づいてきて、俺の顔の隣でちょこんと座る。
『このまま一生この中だったら、どーするんすか?』
「ばっか。お前がいればどこでもいけるさ」
『ば、ばかぁ~……♡ もう、ノアっちってば~♡』
ロウリィが照れてるのか、顔を手であらうように動かす。
「誰も居ない牢屋で二人きり……ってことは、普段できないことも、できるな」
『そ、そっすね……』
ロウリィが熱っぽい目を俺に向ける。
「ロウリィ……」
『ノア様……』
5分後。
「そらそらっ、どうした!」
『ふにゃあ♡ にゃああん♡』
「ふんっ! ふんっ! どうだぁ!」
『あっ♡ あっ♡ やめてっ♡ おかしくなりゅぅうううう♡』
「ふははは! そうだもっとおかしくなってしまえ!」
『ふにゃぁあああん♡ らめ、らめぇえええええええ♡』
「何を破廉恥なことを、してるのだおまえらぁああああああああ!」
そのとき、牢屋の入り口に、一人の女騎士が立っていた。
『あ、ノア様を捕縛した、聖騎士の姉ちゃんっす』
「ば、ばっきゃろう! 何勝手にのぞいてるんだ! マナー違反だぞ!」
聖騎士は俺たちを見て、目を丸くしている。
「お、お前達……なにを?」
「何って、ロウリィの喉元をゴロゴロしてただけだぞ?」
俺の膝の上には、ロウリィがくったりと、体の力を抜いて寝そべっている。
俺は彼女の喉元を、指でちょちょいとこする。
『ふにゃああん♡ ごろごろ……♡ ノア様……ごろごろ……♡』
「ふっ、可愛いヤツめ。ここか? ん? ここもっとゴロゴロしてほしいのか? ほら、欲しいなら言ってみろぉ~」
『ほ、ほしい……♡』
「くはは! いいだろう、ごろってやるよ、このほしがり猫め!」
ごろごろ!
「おらぁ! 言ってみろ、わたしはほしがり猫ですって!」
『にゃああん♡ わたしはノア様にゴロゴロされるのが好きな、ほしがり猫ですぅううう♡』
俺たちの様子を、聖騎士は唖然とした表情で見ている。
「んだよ、邪魔するなよ」
「信じられない……どういうことだ?」
「? なに?」
聖騎士は俺……というか、俺の座っているソファを指さす。
「牢屋のなかには、ソファなんて、なかったはずだぞ……?」
確かにこの牢屋には、ボロボロのベッドが1つあるだけだった。
それが今やどうだろう。
俺が創造魔法でソファやベッドなどを出現させ、ホテルのスウィートルームさながらの内装になってる。
「なに? 文句あるの? 中で大人しくしてる囚人に対して?」
すると……どさり、と聖騎士が膝をついた。
そして、頭を深々と下げた。
「あなたが……神でしたか?」
「『ふぁ……!?』」
滝のような涙を流す聖騎士。
「な、何言ってるのおまえ……?」
聖騎士は武装を解除して、俺の前で跪いて言う。
「わたくしはクィナ。神聖皇国の聖騎士がひとり。神よ……わたくしは、あなた様になんて非道を……」
「待て待て! どういうこと!?」
『クィナさん、理由を説明するっす。ノア様が神って……なんすか?』
おおっ! とクィナが震えながら言う。
「恐れながら。そのベッドなどは創造魔法で創られたものでしょう。それは【神の魔法】と呼ばれるもの」
「か、神の魔法だぁ!?」
何をふざけたこと言ってるのだこいつは!?
「創造魔法なんて、前の世界じゃ誰でも普通に使えてたぞ?」
「おおっ! 前の世界……! つまり天界のことですね!」
きらきら、とした目を、クィナは俺に向ける。
『あ、わかった。ノア様、こいつノア様が、天界からきた創造神だと思ってるんすよ』
「はぁ!? なんでだよ!」
『この世界じゃ、物質をゼロから創る創造魔法は、おとぎ話の代物なんすよ』
「まじかよ……こんなの誰だってできるだろ?」
『ノア様の最近忘れがちな設定に、遙か昔の世界から転生してきた賢者って設定あったじゃないっすか。未来の世界じゃ創造魔法なんて高等魔法、使えないんすよ』
設定とか言うな!
過去だから! 事実だから!
聖騎士クィナは両手を組んで、俺を見上げる。
……ああ、その目。
よく知ってるぅ~。
リスタたちが、俺を見る目と、いっしょ~……。
「わたくしたちの祈りが届き、ついに、我らの世界に降り立ってくださったのですね! 神さま!」
「人違いです! なあロウリィ!」
『そーっすよ! こんなクズが神なわけないじゃないっすか!』
俺はロウリィを雑巾絞りの刑に処す。
『ふぎゅぅううううう!』
「と、とにかく俺は異教徒だからほら。ね。気軽に処刑とかしちゃおうぜ?」
と、そのときだった。
「どうしたクィナ」
同僚らしき聖騎士が、俺の前にやってくる。
「おお、あんた、こいつに言ってやってくれ! どうやらこいつ、俺のことを神だって誤解してるらしくてさ」
同僚はちらっ、と俺を見て言う。
「わかった!」
「そうかわかったか」
「神! 仰せの通りに!」
「わかってねぇええええええええ!」
その後、ぞろぞろと……聖騎士達が俺の元へやってきては、神とあがめるようになっていく。
「貴様ら! 何事だこれはぁ!」
そこへ、でっぷりと太った、法衣に身を包んだおっさんがやってきた。
「アクダァマ大司教様!」
『わーストレートど直球なネーミング~……』
アクダァマ大司教は、顔を真っ赤にして、俺と聖騎士たちのもとへ来る。
「異教徒相手になにをしてる!」
「無礼者!」
クィナは剣を抜いて、アクダァマ大司教に向ける。
「ここにおわす方をどなたと心得る! 我らがあがめる神……ノア様だぞ!」
「神だと? ふんっ! 馬鹿馬鹿しい! ただのガキではないか!」
大司教はどうやら、聖騎士どもと違ってまともそうだ。
「いいぞー、大司教!」『もっといってやれ~!』
「おまえらはどの立場で言ってるのだ!?」
ふんっ、と大司教が鼻を鳴らす。
「処刑は1週間後だ。それまで逃がすなよ」
「ふざけるなっ!」
クィナが声を荒らげて言う。
「我らが神を殺すわけにはいくまい!」
「そうだ! 殺してみろ! てめえら上層部皆殺しにしてやるからな!」
聖騎士達が怒りをあらわにしている。
『どうやら上のひとたちは、頭おかしくないみたいっすね』
「はわわ、はわわわっ」
ど、どど、どうしよう……。
ちょっとした監獄スローライフ、するつもりが……。
ちょっと快適な暮らしをしようって、ソファとかベッド出しただけなのに……。
『あーあ。ノア様、あーあ。囚人らしくおとなしーくしてりゃ良かったのに』
アクダァマは去って行き、残ったのは聖騎士達。
「ノア様! ご安心を! 我ら聖騎士はあなた様の味方です! 処刑なんてさせてたまるものですか!」
クィナの目も、そして聖騎士たちの目も、カーター領民のものと一緒だった。
「くっそぉおおおおおおお! どうしてこうなるんだよぉおおおおおおおお!」




