63.第七王子はハニートラップを見抜く
ある日、カーター領内にある、俺の部屋にて。
「ママぁ~!」
俺の娘(仮)、リスコスが、母(仮)であるリスタに抱きつく。
「ママっ♡ ママっ♡」
「可愛いですね! ふふ……ノア様と私の娘……♡ たぁっぷり愛してあげますからね~♡」
ふたりがきゃっきゃ、と楽しそうにする一方で。
俺とロウリィは、ため息をつく。
「早く帰って欲しいんだけど……」
『2巡目の世界で、ノア様とリスタってどんな扱いになってるんすかね』
「あん? どういうことだよ」
『だって2巡目の世界にも、ノア様っているはずでしょ?』
そりゃそうか。
2巡目は、世界線が分岐した世界だからな。
「俺を求めてやってきたってことは、なんかあったんだろ、2巡目のノアに」
『何かって、なんすかね?』
「さーね。全部捨てて逃げ出して、行方知らずとか」
『ありえるっすね……しかしむぬぬぬ』
ロウリィが渋い顔をする。
「なんだよ?」
『ノア様……いいんすか? あの子、手元に置いといて』
リスタがリスコスの頭をなでる。
娘は笑顔になると、母の体に抱きついて甘える。
「よかねーよ。でも帰らないんだもん」
『帰らせてくださいよ!』
「いや俺の言うこと聞かないし」
『ノア様なら魔法でどうにかできるでしょ! ぼーんって! 粉々に粉砕してくださいよ!』
「え……こわ……おまえ、そんな過激思想なやつだっけ……」
すると側で控えていた黒犬ナベリウスが、はぁとため息をつく。
『ノア様、察してやれよ。この白猫、リスコスがいるの嫌なんだよ』
「あー? なんで?」
『愛する男にどこの誰ともわからないヤツの子供がモガモガモガ』
ロウリィが尻尾を伸ばして、ナベの口を塞いでいた。
『なななっ、何言ってるんすかぁ! わたしはただぁ! わたしのことを雑巾絞りしたあの女が目障りなだけですぅ! 他意はありませぇん!』
『ぷはっ……素直になれば良いものを』
『だって……はずいし……』
まあペットどもがじゃれついてるのはさておきだ。
「迷惑には変わりないな……ふむ……くく! そうだ! おいリスタ」
「はい! なんでしょう!」
メイド服を着込んだ、金髪の女……狂信者……じゃなくて、リスタが俺の元へやってくる。
「確か、お前前に言ってたな。俺宛に、お見合いの話が結構来てるって」
『『お見合い?』』
ペットどもが首をかしげる。
リスタはうなずいて説明する。
「ノア様は超超超優良領主様ですからね。お近づきになりたいという方は多いのです」
「えぇー! パパにはママがいるじゃーん!」
リスコスが憤慨する。
まあこいつの意見はどうでも良い。
『そっか。アホのノア様にはサラ様がいるけど、まだ婚約なだけで、結婚してなかったすね』
『確かにノア様は功績だけは一流だから、身内に取り込みたい貴族は多いのだろう』
ペットどもを重力魔法でぺしゃんこにする。
『『ぐぇえええええええええ』』
「リスタ。そのお見合い話……全部もってこい」
「「ぜ、全部ぅ!?」」
リスタ、そしてリスコスが驚く。
髪型は違うけど、顔の形はそっくりだから、マジで親子って言うより姉妹だな。
「ああ。全員俺の女にしてやんよ」
「「そ、そんな……!」」
くく……リスタ達がドン引きしてる。
だよなぁ、くくく! それこそが、俺の狙いよぉ!
「つべこべ言わず、女を連れてこい! 今すぐにだ!」
「は、はい……」
リスタは戸惑いながら部屋を出て行く。
「パパ……」
残されたリスコスが、体を怒りで震わせる。
「パパ、さいてーだよ! ママというものがありながら! ほかの女と関係を持つなんて! さいてー!」
拳をにぎりしめると、思い切り殴りつけてくる。
「犬ガード!」
『おいノア様てめえブギャァアアアアアアアアアアアアア!』
ナベリウスの首根っこを掴んで、さっとリスコスとの障壁にした。
結果、俺はノーダメージ。
だがナベリウスは木っ端微塵になった。
『のあぁああああああああああ! 恨んでやるぅうううううううううう!』
「お前これくらいじゃ死なないから安心しろ★」
『呪ってやるぅうううううううう!』
木っ端微塵になったナベが、俺の影の中に戻っていった。
まあしばらくしたら回復するだろう。
一方でリスコスは、窓から飛び降りていった。
「ふっ……くく、成功。見たかロウリィくん。……ろりえもん?」
机の上のロウリィが、頬をリスのように膨らませていた。
「なんだよその顔」
『べっつーにー。んで、今回のこれも、無能ムーヴなんすか?』
「おうよ。名付けて、【酒池肉林だよ、ノア様最低作戦】! 概要を聞きたいか?」
『べっつにー。どーせ、女を集めて、片っ端からやって、それで女遊びするノア様最低って思わせる作戦でしょ?』
「お、おう……そうだけど、どうしたんだよ、不機嫌そうだなおまえ」
『べつに~』
「何キレてんだよ」
白猫は震えると、びょんっ、と飛び上がる。
『猫ぱーんち!』
ふにっ……。
『ノア様、さいてーだよ! わたしというものがありながら! ほかの女と関係を持つなんて! さいてー!』
だだーっ、とロウリィのヤツが部屋を出て行った。
なんだったんだ……?
まあいい、とにかく、俺はこれから、お見合いして、全部の女を俺のものしてやるぜぇ!
★
「さすがです、ノア様!」
2日後、リスタが笑顔で、俺の元へやってくる。
「な、なんだよ急に……?」
「昨日はお楽しみでしたね!」
「くく……まあな、来た女全員、抱いてやったぜ? だから……え、なんで失望してないの?」
するとリスタが説明する。
「実はノア様……あのお見合い相手、全員【暗殺者】だったのですよ」
「ふぁ!? あ、暗殺者だってぇ!?」
確かに、昨日来た30人くらい、全員目つきが鋭かったようだが……。
まさか、暗殺者だと!?
『なるほど、そういうことか』
ずぉ、と影の中から、ナベリウスが顔を出す。
『ノア様は確かに強い権力を持つ。近づきたい貴族は多いだろう……が、同時にそれを目障りに感じるものも多かったわけだ』
「つ、つまりあれか……? お見合いさせる振りして近づいて、邪魔者である俺を殺す算段だったと?」
『おそらくな。オレ様も見ていたが、まあ相手は手練れだったな。洗練された動きをする暗殺者だったぞ全員』
「ええー!? あれ、俺を殺そうとしていたのー!?」
なーんかやたらと飲み物進めてきたし、マッサージだっていって針だのナイフだのを後ろからズブズブ刺してきたけど……。
「特殊なプレイじゃなかったの!?」
『ナイフ刺されてる時点で気づけよ……。しかしノア様が無敵の体過ぎて、暗殺が一切通じないとは……見事としか言いようがない。アホだが』
クッ……!
なんてこったい!
リスタは笑顔でうなずく。
「暗殺者の皆さま、改心なさってましたよ」
ぱんぱん、とリスタが手をたたく。
ぞろぞろ……と昨日の女達が入ってきた。
「従者として、カーター領主の館ではたらかせることにしました」
「おまっ、何を勝手に!」
「この子達はわたしが、責任を持って育てます!」
「「「はい、メイド長!」」」
なんかリスタが、メイド長にランクアップしてるぅ!?
「ノア様、彼女たちは心を入れ替えたのです。ノア様と体を重ねたことで、いかに自分たちが無力な存在であるか……わからされたと」
「は、はあ……」
単にやりまくっただけなんだが!?
「ノア様は、すごいです! 彼女たちが暗い過去を持つ少女達だといち早く気づき、自らの温かな心と体で、冷え切った彼女たちを溶かしてあげるなんて!」
「『いやいやいやいや、1ミリも思ってませんけど!?』」
俺とナベが、揃って首を振る。
だがリスタはそんなのお構いなし。
「やはりノア様はさすがです! ほら、リスコス……出てきなさい」
「う、うん……」
おずおずと、メイド隊(リスタが率いる元暗殺者のメイドたち)のなかから、娘(仮)が出てくる。
「パパ、ごめんね。パパは……やっぱりすごいひとだよ! 尊敬する!」
「いや呆れかえってくれていいんだけど、普通に帰ってくれて良いんだけど?」
「パパは、すごい!」
「ああもおぉおおおおお! どうしてこうなるんだよぉおおおおおおおお!」
★
と、いつものように俺は災難に巻き込まれたわけだが……。
「あり? ロウリィ。おーい、ろりえもーん?」
メイド隊が出て行ったあと、俺は部屋の中を見回す。
「おいナベ、ロウリィどこいった?」
ずぉ、と黒犬が、俺の影の中から出てくる。
『知らんぞ。朝から姿がない』
「ったく、どこ行きやがった。俺のこの疲れ切った心をいやしてくれるのは、あいつのぷにぷにの肉球だって言うのに……」
『ん? ノア様、引き出しに何かはさまってないか?』
「あん? 引き出しだぁ?」
領主の部屋の、執務机。
一番上の引き出しに、手紙がはさまっていた。
「手紙だ」
『誰からだ?』
俺は便せんを破って、中身を見る。
【旅に出ます。探さないでください。……いいっすか、絶対探さないでくださいね、絶対っすからね ロウリィ】
『あの白猫、家出したみたいだな』
「なっ、なんだってぇえええええええ!」




