61.第七王子は悲しき運命を改変する
前回までのあらすじ。
最初からやり直すべく、過去へと戻ってきた俺とロウリィ。
リスタを過去のノアでなく、俺が助けたことによって、過去が変わった。
だがそのせいで、俺はリスタと、結婚する羽目になっていた……。
領主の館、俺の部屋にて
「『はぁ……』」
俺と白猫のロウリィは、お互いにため息をつく。
「情報を、整理しよう。まず過去改変についてだが、これはほぼ【1巡目】と同じ歴史を辿っているらしいな」
1巡目、というのは元の歴史(時間軸)のことだ。
ちなみに、俺たちが今居る、リスタを助けたことによって分岐した歴史を【2巡目】と呼んでいる。
『2巡目の悪魔やセバスさん達領民に聞いたんで、間違いないっすね』
「次に1巡目の記憶についてだが、覚えているのは俺とロウリィだけで、ほかの奴らは1巡目の出来事を覚えてない……まあ、ほぼ2巡目と同じ歴史なんだが」
ちら、と俺は隣の壁を見やる。
『決定的に違うのは……あれっすね』
ちら、とロウリィもまた、俺と同じように壁を見る。
俺たちは部屋を出て、隣の部屋……つまり、俺の寝室へと向かう。
がちゃ……と控えめに扉を開き、俺とロウリィは、揃って顔だけで、中を見やる。
「ふんふんふーん♪ ノア様~♡」
中にいるのは、領民のリスタ。
彼女は2巡目の世界において、俺と結婚している扱いになっている。
しかも……。
「リスタ様。お腹の【お子様】の様子は、どうですか?」
リスタの前に、サラが微笑んで座っている。
「ええ、順調に大きくなってますよ。ノア様と私の間に出来た、赤ちゃん♡」
そう……リスタのお腹は、ぽっこりと膨らんでいる。
そして……あろうことか、それは俺とリスタの間に出来た、子供であるらしい。
ずしゃ……!
『の、ノア様! だいじょーぶっすかぁ!』
崩れ落ちる俺の肩を、ロウリィが揺する。
へ、へへ……。
「おわりだぁ~……おわりだぁああ…………」
俺は廊下に、仰向けに倒れる。
子供……子どもができちまった。
しかも、よりにもよって、リスタとの間にである。
「もうおわりだよぉ~……結婚だけならまだしも、子供ができちゃったら……もう……サボれないじゃないかぁ~……」
止めどない涙が俺の頬を伝う。
「結婚は人生の墓場……しかも、子供なんて出来た日にゃ、サボることはもう許されない。毎日、家族のために、真面目に一生懸命働かなくちゃいけない~……やだぁ~……」
俺は両手で顔を覆って、おいおいと泣く。
子供。これはくさびのようなものだ。
これがある限り、俺はもう、一生無能王子じゃ居られない……。
「もうおしまいだぁ~……俺は、俺はもう……うわぁああああん……!」
と、そのときだ。
『ばかー!』
ふにっ……。
ロウリィの猫パンチが、俺の頬にふにっと当たる。
『ノア様のばかちん! 何勝手にあきらめてるんすかぁ!』
ロウリィが白猫状態で、仁王立ちになって、俺に言う。
『なにあっさりあきらめてるんすか! あんた、何度無能ムーヴやっても、こりずに、あきらめずに、トライし続けたじゃないっすか!』
「だってだってぇ~……」
俺は三角座りして、指をツンツンと、体の前でつつく。
「もう俺、結婚して、しかも子供まで居るんだよぉ? もう働くしかないじゃん……」
『ばかっ! もう一度過去に戻って、歴史を修正すればいいじゃないっすか!』
そ、そうか……!
その手が……いや、でも……。
「ロウリィ……そうすると、この2巡目の世界はどうなる。俺の子は……どうなるんだよ」
リスタの腹の中には、今、俺の遺伝子を継いだ子供が居る。
歴史を修正したら、その事実はなくなる。
つまり、世界から俺の子がいなくなる。
『ノア様』
ロウリィは慈母のような微笑みをうかべて、尻尾で俺の頭をなでる。
『よく考えてください。狂信者と馬鹿の子供ですよ? そんな、悲しきモンスター……この世に生まれるだけ、不幸だとは思いませんか?』
「た、たしかにぃ~……」
ロウリィは満足げにうなずいて言う。
『変えちゃいましょ、歴史。気軽に』
ね……とロウリィが優しく微笑む。
そうだ……そうだよ!
俺は何をあきらめかけていたんだ!
こんなの……俺らしくない!
「変えちゃうか……歴史、気軽に!」
俺は立ちあがり、柏手を打つ。
地面に、時間遡行の魔法陣が展開する。
時間が、巻き戻りはじめる。
「ありがとな、ロウリィ。でもおまえ、今日はどうしたよ。いつも俺のすること、やめといたほうがいいって止めるのに」
するとロウリィは頬を染めながら、そっぽを向いて言う。
『べ、別にぃ? ただ……ノア様がほかに女作って、しかも子供までこさえてるのが耐えきれなくなったわけじゃ、ないんだからね! 勘違いしないでよね!』
「おう、わかった。別におまえが俺のこと好きで、ロウリィ以外の女と結婚し、子供を作ったことに嫉妬したわけじゃないんだな。ありがとう!」
『それはそれでなんかムカつく!』
かくして、俺たちは再び、歴史の分岐点である、過去の世界へと向かったのだった。
★
俺が、歴史を変えようとした地点まで戻ってきた。
そこには、もう1人の俺が茂みに隠れていた。
「よぉ、俺」
「うぉっ! なんだよおまえ……って、俺か?」
もう1人の【俺】が俺を見て驚く。
そう、この時点においては、ノア・カーターは3人居る。
1人は、元々の時間軸の俺。
もう1人は、歴史を変えようと、1巡目の世界からやってきた【俺】。
俺は【俺】に言う。
「手短に言う。歴史は変えるな。とんでもないことになるぞ」
リスタと結婚して、子供をこさえるエンドになることを説明する。
「ぜっっっっっっっっってええやだ!」
【俺】は首をブンブンと振る。
「だろ? 悪いこと言わん、元の世界に帰れ」
「で、でもよぉ……前の世界も俺、あんまり好きじゃない……」
「リスタとおまえ結婚したいのか?」
「かえりまーす!」
【俺】は歴史を変えることなく、ロウリィと一緒に、1巡目の世界へと戻っていった。
よし、これで【俺】が歴史を変えることはなくなり、俺もまた元の世界に……。
「見つけましたよ、ノア様!」
その瞬間、周囲に激しい爆発がおこる。
とっさにバリアを張ってそれを防いだ。
爆風が晴れると……。
上空に居たのは……。
「『げぇ!? リ、リスタぁ……!』」
そう、あろうことか、2巡目の世界のリスタが、そこには居たのだ。
「ば、馬鹿な! おまえは、元の世界線に置き去りにしてきたはず!」
「追い掛けてきたんです、ノア様……」
ゆらり、とその手を横に伸ばす。
『あ、あれは! 聖剣ファルシオン! ノア様が剣聖時代に、使ってた武器っすよ!』
ファルシオンの野郎! リスタに味方するつもりか!
【ええ、もちろんです! ノア様の子供……つまり! わたくしにとっては孫も同然! 殺させるわけにはいかないのであります!】
『くっ……! ファルシオンはノア様のオカンみたいなもんだから、歴史を変えて孫が居なかったことにされるのが、嫌だったんすね!』
なんてこった……。
馬鹿が、最強兵器を連れて、やってきやがった……!
「ノア様……大人しく、帰りましょう。元の世界に……」
ちゃきっ、とリスタが聖剣を構える。
「やなこった! 俺は戦う……正しい歴史を守るために! 過去を変えるなんて間違ってる!」
俺は拳を握りしめ、構えを取る。
『す、すごい……ノア様が王道タイムリープSF作品の主人公みたいなこと言ってるっす……』
俺とリスタが、お互いにジャンプする。
「「うぉおおおおおおおおお!」」
俺の拳と、リスタの聖剣が途中でぶつかり合う。
衝撃波が周囲に広がり、奈落の森の木々をぶっ飛ばす。
『ほぎゃぁあああああああああ!』
余波でロウリィが吹っ飛びかける。
俺とリスタは激しく打ち合う。
がきんっ! ががっ! どがっ!
きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん!
『す、すげえ……リスタがノア様と互角に打ち合ってる……これが聖剣の力……』
「私は負けない! 守るべき命が……このお腹にはいるから!」
「俺だって! 守るべき大切な日々がある! おまえの私利私欲で、過去を変えさせるものかぁああああああ!」
『特大ブーメランだけど……かっけーノア様!』
ガキンッ! がががっ!
ずががががががっ!
ややあって。
『おかしい……これ、おかしいっすよ……』
俺とリスタとのバトルはまだ続いている。
周囲には木々の1本もなく、砂漠になっている。
『いくら相手が聖剣を装備してるからって、ノア様が苦戦なんてするわけ……ハッ! ま、まさか……』
ちっ……ロウリィのヤツ、余計なことに気づいたようだな。
『ノア様……本気が出せないんすね。リスタのお腹に、子供が居るから……』
「ちっ……!」
歴史を変えるとは言え、ガキを殺すわけには……いかない。
そうなると、普段の戦いができない。
『ノア様……わたしも戦うっす!』
ロウリィは構えを取ると、目からビームを出す。
『まずは相手の弱点をさぐるっす……鑑定! ……って、えええええええ!?』
「どうしたロウリィ!?」
がきんっ! ききん!
きんきんきんきんきんきんきんきんきんきん!
『ノア様たいへんだ! リスタは……妊娠してない!』
……。
………………。
………………へ?
「【妊娠してないぃいいいい!?】」
俺とファルシオンが叫ぶ。
聖剣は動揺してるのか、リスタへの力の供給が途絶える。
「どういうことだよ!」
『ノア様、想像妊娠って知ってっすか?』
「たしか自分が妊娠してるって思い込むことで、つわりなど、本当に妊娠してるような症状を起こすってヤツ。動物とかでよく見るあれだろ」
『ええ、リスタはそれです。自分が妊娠してるって、思い込んでるんす!』
びしっ! とロウリィがリスタの腹を指で指す。
「そ、そんな! で、でも……! 私のお腹は、実際に膨れてるじゃないですか!」
慌てて反論するリスタだったが、ロウリィは首を振る。
『あんたの思い込みは常軌を逸してる。想像妊娠で、お腹までぽっこりさせるほどに』
「……つ、つまり、あれか? 妊娠は……嘘って事か?」
ぱり……ぱりぱり……。
『の、ノア様の体から、恐ろしいほどの魔力が!』
「ふ、ふ、ふざっけんなぁああああああああああああああああああああ!」
怒りによって魔力が解放。
周囲に居たリスタとファルシオンを、次元の向こうへと吹き飛ばす。
あとには、俺とロウリィだけが残った。
「あーーもう! 心配して損した! ちくうしょう! さっさと帰るぞロウリィ!」
『う、うん……あ、でも、奈落の森なおさないと……』
「はいはい指ぱっちん! はいこれで治りました! はい撤収しますよー!」
ロウリィが俺の肩に泊まる。
元の時間軸へと、戻るため魔法を使って未来(1巡目へ)と向かう。
「あーあ! 時間の無駄だった!」
『ほんとっすよ! もう二度と過去改変なんてやらないでねノアッチ!』
「おうよロリッチ! なんだかんだで、元の世界線が一番だったな!」
『まったくっす!』
★
こうして、俺は元の世界へと戻ってきた。
つまり、過去改変の行われてない世界。
「はぁーあ。どっと疲れたな。少し寝ようぜロウリィ」
『そっすね~♡』
ロウリィは俺の肩に乗って、すりすり、と頬ずりする。
「んだよ、やけに上機嫌じゃん」
『べっつにー♡』
やれやれ、無駄な時間旅行だったぜ……。
と、寝室へと戻ってきた、そのときだ。
「おかえりなさい、お父様」
「『ふぁ……!? お、お父様ぁ……!?』」
寝室には、1人の女が立っていた。
くすんだ金髪のそいつは、どこかリスタの面影を感じる。
「ど、どちらさま……?」
「ボクは【リスコス】。2巡目の世界で、お母様……リスタ母さんが産んだ子供さ!」
「『なっ、なんだってぇえええええ!?』」
何を馬鹿なことを!?
『ありえない! だって、想像妊娠だったんすよ!?』
「そうだぞ! しかも、どうやって2巡目の世界から1巡目の世界に着たんだよ!」
リスタの娘……リスコスは、うなずいていう。
「お父様を失った悲しみは、それはそれは大きなものでした。その結果、お母様は悲しみのあまり、今まで以上の思い込みをするようになったのです……それこそ、存在しない子供を、ゼロから生み出すほどに」
「『こえぇえええええええええええ!』」
もうなんだよあいつ!
本物の化け物かよ!
「あいたかったよ……ノアお父様!」
リスコス……俺の娘(仮)は、俺の体に抱きつく。
俺と……そしてロウリィは、青い顔をして叫ぶ。
「『どうしてこうなったぁあああああああああああああああああああ!』」




