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60/122

60.第七王子は過去の悲劇を回避する



 ある日のこと、俺の部屋にて。


「ロウリィ……」

『なんすかノア様』


 俺はロウリィとチェスを打ってる。


 ことん、と俺がポーンを前に進める。


「俺さ、最近思うんだ。俺、どこで間違えたのかなって」


 ことん。


 ロウリィは尻尾でナイトのコマを持ち上げて、前に進める。


『最初からじゃないっすか?』


 ことん。


「最初からって?」


 ことん。


『この領地に着いたことからっすね。はい、チェック』


「うぐ……」


『ほらほら、どうしたんすかー、ノア様。え、動ける場所あります? ないっすよねー』


 にやにや、とロウリィが小馬鹿にしたように、笑ってきやがる。


『これはわたしの勝ちっすね~。約束通り、勝った方が何でも言うこと、聞いてもらうっすからね』


「ぐ、ぎぎ……!」


 チクショウ! ペットの分際で!

 主人に勝とうとしやがって!


「ま、待った!」

『待ったもへちまもないっすよー。さぁて、何してもらおうかなー。くふふ♡ じゃーあー、デートでも、してもらっちゃおうっかなー』


「…………」


『あ、別にね、わたしは罰ゲームとかどーでもいいんすけどねー。ただまあ、勝っちゃった以上、ね? ほら、罰を考えなきゃだし? まあ別にね、特にデートにいきたいわけでもないっすけどぉ、罰ゲームだからほらぁ』


「そぉおおおおおおおおおおおい!」


 俺はチェス盤を掴んで、ひっくり返す。


『あー! ノア様なにするんすかぁ!』


「はい、これで勝負無効です!」


『きたねえ! わたしが勝ったじゃないっすかぁ!』


「がはは! チェックメイトを宣言してないから勝敗はついてないのだ!」


『くっそ! じゃあもう一勝負っす! 最初からやり直しっす!』


 ん?


 んんっ?


 最初から……やり直す……。


「そ、それだぁ!」

『へ、何がっすか?』


 落ちたコマを、俺とロウリィが手分けして集めながら言う。


「つまりさ、やり直すんだよ、最初から」


『いやだから意味不明っすよ。やり直すってなにを?』


「俺がここに来たときから、全てをやり直す!」


『ふぁ……!? どゆこと?』


 ちっ、理解の遅いペットだな。


「つまりだよ。俺がこんなふうになっちまったのは、この領地に来る前に、リスタに実力がバレちまったからだろ?」


『あー……領地就任初日のことっすね。たしか、火山亀っていうSランクモンスターをノア様が倒して、それを領民であるリスタに見られた』


「そう。そこから、領民に俺の力が芋づる式にバレちまった。裏を返せば、その段階で力を見られてなきゃ、俺は王都に居たときと同様、無能王子ってことで居られたはず!」


 そこに気づくとは……もしや、天才?


『ノア様ー。それはちょっと……』


「とにかく! 俺は過去に戻る! そんで、あの惨劇を……回避するのだ!」


 ぱんっ、と俺が柏手を打つ。


 地面に光る時計盤が出現した。


『これ、たしかガルシア皇子暗殺未遂事件の犯人を探すときにつかった』


「そう。時間遡行魔法! 時よ、戻れぇえええええええええい!」


 その瞬間、魔法が発動する。


 時計の針が逆回転していき、時間が戻っていく。


『つまりこれから、ノア様が初めてここへ来た日に戻って、リスタに力を見せなかったっていうふうに、過去を変えるってことっすか?』


「その通り。さすがロウリィ、俺のことよくわかってるね?」


『ええ、わかってるっすよ。この先の展開、どうなるかも、だいたいね』


「なに? おまえまさか、時の神だったのか?」


『はいはい。あ、そろそろつきますね』


    ★


 俺たちがやってきたのは、過去の世界。


 ロウリィと一緒に、カーター領のなかの森の中へとやってきた。


 茂みから、俺はリスタのいる……アインの村の様子を見ていた。


「確か勇者の結界がきれかけてるんだったな」


『そっす。んで、リスタは村人を守るために囮になるんす』


 俺たちが待っていると、リスタが村から飛び出る。


『ノア様、これからどーすんの?』


「過去の俺がリスタを助ける前に……今の俺が助ける」


『は……? 今のノア様が……? どゆこと』


 俺はロウリィの首根っこを、ひょいと掴む。


『へ?』

「合体!」

『ちょっ……!?』


 俺はロウリィを、自分の胸に押しあてる。

 その瞬間、俺の体と、ロウリィの体とが重なり合う……。


 カッ……!


 真っ白に体が光ると……。


 俺とロウリィが、一体化した。


 黒い俺の髪の毛は、長く。

 普段着は、白いタキシードのように。


 そして頭から、猫の耳と尻尾が生える。


「完成! ノア・カーター魔神合体形態ホワイトメシア・モード


『なんすかこれれぇええええええ!?』


 ロウリィの声が体のうちから聞こえてくる。


「あん、知らないの? 【霊装れいそう】」


『霊装!? って、霊的な存在と、人間とが一体化するっていう、あの究極奥義!?』


「究極奥義かどうかはしらんが、ま、変装だよ変装」


『いやいやいや! あのね、霊装って、人間じゃまず習得不可能な超絶奥義なんすよ!? 神すら殺せる力を得る技を……ただの変装のために使うなんて……!』


「普通の姿で助けたんじゃ、リスタが俺と気づくからな」


 ふわり、と俺の体が地面から浮く。


『霊装……つまり擬似的に神の力を手に入れる技術。今のノア様は、神』


「そ。ノア・カーターが助けたんじゃなくて、神が助けた。そーすりゃ、俺をあんなに、領民どもが祭り上げることはないだろ」


『なる……ほど?』


 猫耳、長い白い髪、猫尻尾の生えた今の俺を、一体誰がノア・カーターだと思うだろうか。


『わ、わたし……ノア様と一体化してる。こ、これって……擬似的な、せ、せっく……きゃー♡』


「いくぞ! ロウリィ!」


 俺は全力で飛び上がると、そのまま凄まじい速さで空を飛ぶ。


 浮遊魔法? いやそんなちゃちなもんあじゃあない。


 今の俺は、文字通り神。


 人間の物理法則から解放されているため、空を駆けるくらい、魔法を使わずとも行える。


「ガメェエエエエエエエエエエエ!」


 巨大なモンスター……火山亀が、リスタに近づいていく。


 リスタの前に……俺が立つ。


「あ、あなたは!?」


「俺は……神だ!」

『ノア様、闇でてるよ闇』


 俺は右手を前に突き出す。


 火山亀が、その場から動けなくなった。


「控えろ魔獣。神の御前である」


『す、すげえ……相手が完全に、神の姿のノア様にびびってるっす……』


「ふっ……神にひれ伏してしまうのは仕様がないな」


 その瞬間、火山亀がまるごと消滅した。



『なにしたんすか!? 魔法でも!?』

「え、ただの笑っただけだぞ」


『笑ったときの吐息……つまり、神の吐息ゴッド・ブレス。それは超高度な神聖魔法……すげええ、それを儀式も何もせず、ただ笑うだけで使うなんて……』


 さて、これで火山亀は消滅したな。


 ちら、と俺は振り返る。


「大丈夫かい、お嬢さん」


 きらんっ、と白い歯。


『か、かっこい……じゃなくて、なんすかそのキショい演技』


「神っぽさを演出しておかないとな」


 ぽっ、とリスタが頬を赤く染める。


「あ、あなたは?」

「俺は神……そう、ゴッドノアだ!」


「ゴッドノア様! 素敵!」

『相変わらずセンスの欠片もない……』


 うっさいわ!


 俺はロウリィと合体した状態のまま、リスタに言う。



「この神が居る限り、この領地は一生安泰だ! 俺をたたえよ!」


「はい! わかりました、ゴッドノア様!」


 よぉうし! これで、リスタは、ノア・カーターではなく、ゴッドノアを信仰するようになるぞぉ!


「さらばだリスタ君!」


「はい!」


 俺はリスタに手を振って、その場から離れる。


 くくく……!

 やったぞ! 大成功だ!


 過去が……変わったぞぉ!


    ★


「お帰りなさい、ダーリン♡」


「『ふぁ……!?』」


 時間魔法を使って、過去から未来へと帰ってきた。


 俺を待っていたのは……頬を赤く染めた、リスタだった。


「お風呂にします? それとも、わ、た、し♡」


「いやいやいやいや!」


 リスタが完全におかしかった!

 前は俺の信者だったのに! 今はなんか……。


『なんでこんな、ベタ惚れなんすか!?』


『なんだ、おまえらどこいってたんだよ』


 部屋の隅にうずくまっていたのは、黒犬の悪魔ナベリウス。


「ナベ! どういうことだ! なんでリスタがこんなメロメロなんだよ俺に!」


『? 初めからノア様とリスタは、そういう感じだったじゃないか』


「なんだと!?」


 ナベリウス曰く……。


 あのとき、ゴッドノアがリスタを助けた。


 だがすぐに、ゴッドノア=ノアと、バレてしまったらしい。


「なんで!?」

「私の目はごまかせませんよ! すぐにわかりました。ゴッドノア様……あれは、変装したノア様だって!」


『え、つまり……リスタを直接、あんなふうにキザっぽい助け方したから、元の歴史以上に、ノア様のこと惚れちゃったって事?』


 そういえば、1度目の時、俺は直接リスタを助けたわけじゃなかった。


 しかし、2度目ははっきりと彼女を、カッコよく助けた。


「あなたぁん♡ 好き好き~♡」

「ぎゃぁああああああああ! ろ、ロウリィ! ナベリウス! へるぷみー!」


 リスタがすんごい力で俺を掴んで、寝室へと連れて行く!


「何を恥ずかしがってるのですか? わたしたち……夫婦じゃないですか……きゃっ♡」


「えええええ!? しかもなんか結婚してることになってるぅうううううう!」


 助けてろりえもん!


『つーん。よかったねー、婚約者に加えて妻までできてー。つーん』


「ぎゃぁあああああああ! どうしてこうなったぁああああああああああ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] うみねこが鳴いてい…アッー チェス盤をひっくり返せばあの惨劇はなかった…ってコト!?!?!
[良い点] ノアッチのドアホーwww 隠れて助けて、サッサと元の時代に戻れば良かったのにw 名前のセンス無いのは私もだから笑えない。 白い長髪にネコ耳、猫シッポのノアッチ…なんか可愛いv(絵は無いけど…
[一言] 全然回避してないwwwwwwwww お腹痛いwwwwwwww
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