60.第七王子は過去の悲劇を回避する
ある日のこと、俺の部屋にて。
「ロウリィ……」
『なんすかノア様』
俺はロウリィとチェスを打ってる。
ことん、と俺がポーンを前に進める。
「俺さ、最近思うんだ。俺、どこで間違えたのかなって」
ことん。
ロウリィは尻尾でナイトのコマを持ち上げて、前に進める。
『最初からじゃないっすか?』
ことん。
「最初からって?」
ことん。
『この領地に着いたことからっすね。はい、チェック』
「うぐ……」
『ほらほら、どうしたんすかー、ノア様。え、動ける場所あります? ないっすよねー』
にやにや、とロウリィが小馬鹿にしたように、笑ってきやがる。
『これはわたしの勝ちっすね~。約束通り、勝った方が何でも言うこと、聞いてもらうっすからね』
「ぐ、ぎぎ……!」
チクショウ! ペットの分際で!
主人に勝とうとしやがって!
「ま、待った!」
『待ったもへちまもないっすよー。さぁて、何してもらおうかなー。くふふ♡ じゃーあー、デートでも、してもらっちゃおうっかなー』
「…………」
『あ、別にね、わたしは罰ゲームとかどーでもいいんすけどねー。ただまあ、勝っちゃった以上、ね? ほら、罰を考えなきゃだし? まあ別にね、特にデートにいきたいわけでもないっすけどぉ、罰ゲームだからほらぁ』
「そぉおおおおおおおおおおおい!」
俺はチェス盤を掴んで、ひっくり返す。
『あー! ノア様なにするんすかぁ!』
「はい、これで勝負無効です!」
『きたねえ! わたしが勝ったじゃないっすかぁ!』
「がはは! チェックメイトを宣言してないから勝敗はついてないのだ!」
『くっそ! じゃあもう一勝負っす! 最初からやり直しっす!』
ん?
んんっ?
最初から……やり直す……。
「そ、それだぁ!」
『へ、何がっすか?』
落ちたコマを、俺とロウリィが手分けして集めながら言う。
「つまりさ、やり直すんだよ、最初から」
『いやだから意味不明っすよ。やり直すってなにを?』
「俺がここに来たときから、全てをやり直す!」
『ふぁ……!? どゆこと?』
ちっ、理解の遅いペットだな。
「つまりだよ。俺がこんなふうになっちまったのは、この領地に来る前に、リスタに実力がバレちまったからだろ?」
『あー……領地就任初日のことっすね。たしか、火山亀っていうSランクモンスターをノア様が倒して、それを領民であるリスタに見られた』
「そう。そこから、領民に俺の力が芋づる式にバレちまった。裏を返せば、その段階で力を見られてなきゃ、俺は王都に居たときと同様、無能王子ってことで居られたはず!」
そこに気づくとは……もしや、天才?
『ノア様ー。それはちょっと……』
「とにかく! 俺は過去に戻る! そんで、あの惨劇を……回避するのだ!」
ぱんっ、と俺が柏手を打つ。
地面に光る時計盤が出現した。
『これ、たしかガルシア皇子暗殺未遂事件の犯人を探すときにつかった』
「そう。時間遡行魔法! 時よ、戻れぇえええええええええい!」
その瞬間、魔法が発動する。
時計の針が逆回転していき、時間が戻っていく。
『つまりこれから、ノア様が初めてここへ来た日に戻って、リスタに力を見せなかったっていうふうに、過去を変えるってことっすか?』
「その通り。さすがロウリィ、俺のことよくわかってるね?」
『ええ、わかってるっすよ。この先の展開、どうなるかも、だいたいね』
「なに? おまえまさか、時の神だったのか?」
『はいはい。あ、そろそろつきますね』
★
俺たちがやってきたのは、過去の世界。
ロウリィと一緒に、カーター領のなかの森の中へとやってきた。
茂みから、俺はリスタのいる……アインの村の様子を見ていた。
「確か勇者の結界がきれかけてるんだったな」
『そっす。んで、リスタは村人を守るために囮になるんす』
俺たちが待っていると、リスタが村から飛び出る。
『ノア様、これからどーすんの?』
「過去の俺がリスタを助ける前に……今の俺が助ける」
『は……? 今のノア様が……? どゆこと』
俺はロウリィの首根っこを、ひょいと掴む。
『へ?』
「合体!」
『ちょっ……!?』
俺はロウリィを、自分の胸に押しあてる。
その瞬間、俺の体と、ロウリィの体とが重なり合う……。
カッ……!
真っ白に体が光ると……。
俺とロウリィが、一体化した。
黒い俺の髪の毛は、長く。
普段着は、白いタキシードのように。
そして頭から、猫の耳と尻尾が生える。
「完成! ノア・カーター魔神合体形態」
『なんすかこれれぇええええええ!?』
ロウリィの声が体のうちから聞こえてくる。
「あん、知らないの? 【霊装】」
『霊装!? って、霊的な存在と、人間とが一体化するっていう、あの究極奥義!?』
「究極奥義かどうかはしらんが、ま、変装だよ変装」
『いやいやいや! あのね、霊装って、人間じゃまず習得不可能な超絶奥義なんすよ!? 神すら殺せる力を得る技を……ただの変装のために使うなんて……!』
「普通の姿で助けたんじゃ、リスタが俺と気づくからな」
ふわり、と俺の体が地面から浮く。
『霊装……つまり擬似的に神の力を手に入れる技術。今のノア様は、神』
「そ。俺が助けたんじゃなくて、神が助けた。そーすりゃ、俺をあんなに、領民どもが祭り上げることはないだろ」
『なる……ほど?』
猫耳、長い白い髪、猫尻尾の生えた今の俺を、一体誰がノア・カーターだと思うだろうか。
『わ、わたし……ノア様と一体化してる。こ、これって……擬似的な、せ、せっく……きゃー♡』
「いくぞ! ロウリィ!」
俺は全力で飛び上がると、そのまま凄まじい速さで空を飛ぶ。
浮遊魔法? いやそんなちゃちなもんあじゃあない。
今の俺は、文字通り神。
人間の物理法則から解放されているため、空を駆けるくらい、魔法を使わずとも行える。
「ガメェエエエエエエエエエエエ!」
巨大なモンスター……火山亀が、リスタに近づいていく。
リスタの前に……俺が立つ。
「あ、あなたは!?」
「俺は……神だ!」
『ノア様、闇でてるよ闇』
俺は右手を前に突き出す。
火山亀が、その場から動けなくなった。
「控えろ魔獣。神の御前である」
『す、すげえ……相手が完全に、神の姿のノア様にびびってるっす……』
「ふっ……神にひれ伏してしまうのは仕様がないな」
その瞬間、火山亀がまるごと消滅した。
『なにしたんすか!? 魔法でも!?』
「え、ただの笑っただけだぞ」
『笑ったときの吐息……つまり、神の吐息。それは超高度な神聖魔法……すげええ、それを儀式も何もせず、ただ笑うだけで使うなんて……』
さて、これで火山亀は消滅したな。
ちら、と俺は振り返る。
「大丈夫かい、お嬢さん」
きらんっ、と白い歯。
『か、かっこい……じゃなくて、なんすかそのキショい演技』
「神っぽさを演出しておかないとな」
ぽっ、とリスタが頬を赤く染める。
「あ、あなたは?」
「俺は神……そう、ゴッドノアだ!」
「ゴッドノア様! 素敵!」
『相変わらずセンスの欠片もない……』
うっさいわ!
俺はロウリィと合体した状態のまま、リスタに言う。
「この神が居る限り、この領地は一生安泰だ! 俺をたたえよ!」
「はい! わかりました、ゴッドノア様!」
よぉうし! これで、リスタは、ノア・カーターではなく、ゴッドノアを信仰するようになるぞぉ!
「さらばだリスタ君!」
「はい!」
俺はリスタに手を振って、その場から離れる。
くくく……!
やったぞ! 大成功だ!
過去が……変わったぞぉ!
★
「お帰りなさい、ダーリン♡」
「『ふぁ……!?』」
時間魔法を使って、過去から未来へと帰ってきた。
俺を待っていたのは……頬を赤く染めた、リスタだった。
「お風呂にします? それとも、わ、た、し♡」
「いやいやいやいや!」
リスタが完全におかしかった!
前は俺の信者だったのに! 今はなんか……。
『なんでこんな、ベタ惚れなんすか!?』
『なんだ、おまえらどこいってたんだよ』
部屋の隅にうずくまっていたのは、黒犬の悪魔ナベリウス。
「ナベ! どういうことだ! なんでリスタがこんなメロメロなんだよ俺に!」
『? 初めからノア様とリスタは、そういう感じだったじゃないか』
「なんだと!?」
ナベリウス曰く……。
あのとき、ゴッドノアがリスタを助けた。
だがすぐに、ゴッドノア=ノアと、バレてしまったらしい。
「なんで!?」
「私の目はごまかせませんよ! すぐにわかりました。ゴッドノア様……あれは、変装したノア様だって!」
『え、つまり……リスタを直接、あんなふうにキザっぽい助け方したから、元の歴史以上に、ノア様のこと惚れちゃったって事?』
そういえば、1度目の時、俺は直接リスタを助けたわけじゃなかった。
しかし、2度目ははっきりと彼女を、カッコよく助けた。
「あなたぁん♡ 好き好き~♡」
「ぎゃぁああああああああ! ろ、ロウリィ! ナベリウス! へるぷみー!」
リスタがすんごい力で俺を掴んで、寝室へと連れて行く!
「何を恥ずかしがってるのですか? わたしたち……夫婦じゃないですか……きゃっ♡」
「えええええ!? しかもなんか結婚してることになってるぅうううううう!」
助けてろりえもん!
『つーん。よかったねー、婚約者に加えて妻までできてー。つーん』
「ぎゃぁあああああああ! どうしてこうなったぁああああああああああ!」




