59.第七王子は善行をなす(通常運転)
ある日のカーター領。
俺は、部屋に婚約者のサラを呼び出していた。
「どうなさったのですか、ノア様?」
グラハム公爵令嬢である彼女は、見た目もよく、サファイアのような髪の毛が実に美しい。
「うむ……最近領地内で、困ったことはないか?」
「困りごと、ですか?」
「ああ。最近外に出ることが多かっただろう? その間に発生したトラブルを、俺が解決しようと思ってな」
「まあ……!」
「領地内のこと、全部お前に押しつけてすまなかったな……」
「ノア様……!」
サラが顔を赤くして、感激したみたいになる。
くくく……よしよし、すっかり騙されてるな。
一方で部屋の隅でペットたちが、ひそひそ話す。
『ナベちゃんこれどう思うー?』
『どう見ても無能ムーヴ』
『そっすよね~』
サラはうなずいて、俺に言う。
「わかりました、ノア様。わたくし、領地内の困りごと、調べて参ります!」
「任せたぜ、愛しのマイエンジェル……」
「ノア様……」
『はいはい、さっさと出てった出てった~』
ロウリィがぐいぐい、とサラの脚を体で押す。
ばたん、と扉が開く。
ぽんっ、とロウリィが人間の姿に(久々に)なる。
「んで? どーしんたすか、急に、領民達の困りごとを解決するなんて」
「おまえこそ、どうした急に、人間の姿になって」
「べ、別に良いでしょ。そーゆー気分なの。別にサラ様に対抗してるわけじゃねーっすから」
「? まあいい。愚かなペットどもに教えてやろう……これは」
「『無能ムーヴでしょ(だろ)?』」
「な、なぜわかったし!」
やれやれ、とロウリィ(人間体)がため息をつく。
「んで今日はどんなクズいことするんすか、それとも、ゲスイことするんす?」
「バッカ、そんなのもう遅いんだよ」
「どゆことっすか?」
俺はペットどもに、考えを披露する。
「俺は、良いことをするぞ、ロウリィーーーーー!」
「ふーん」
「いやふーんって……リアクションくれよ」
ペットたちは呆れたように言う。
『良いことなら今まで散々してきたではないか』
「そーすよ、魔族とかモンスター倒したり、誘拐されそうになってる皇子たすけたり」
「ばっか、それは結果的にはだろ? つまりだ、俺が無能ムーヴ……悪いことをしようとを企んで実行すると、全部大成功してしまう」
そこで!
「逆に! あえて、良いことをする!」
「『…………』」
「無能ムーヴするから成功するなら、有能ムーヴすりゃ、その裏で失敗するって寸法よ! どうだ!」
ナベリウスとロウリィは、一歩俺から引いたところで、ひそひそ語る。
『ひょっとして……バカなのでは?』
「そっすよねぇ、愚かというか……」
「あ? 文句あるの?」
「『いえ、別に~』」
ペットたちは異論ないようだった。
「くくく……見ていろよぉ、善行をなすことで、逆に失敗を招いてやるぜぇ!」
『このあとの展開が容易に想像できるのだが……』
「奇遇っすね。わたしもっす」
★
俺は婚約者サラ……となぜか人間姿のロウリィと一緒に、アインの村へとやってきた。
現在、アインの村は、かつてのようなオンボロ寒村ではなく、外壁のある立派な都市となっている。
「んで、なんでついてくるんだよロリエモン? しかも人間の姿で」
「べっつにー。別に二人きり出かけるとかそれデートじゃんとか思ってないっすよ~」
意味のわからんペットだな。
サラはアインの村の、外壁へと、俺を連れてきた。
「この壁なのですが、モンスターからの攻撃を受け続け、劣化しているのです」
外壁を見上げる。確かに細かい傷や、火傷の痕が目立った。
「元々盗賊だったあの大工集団が、作ったんだっけ、これ?」
「そうですわ。ただ、この村は奈落の森にほどちかく、モンスターの襲撃を頻繁に受けるのです。そのたびに修繕はしてるのですが」
「なるほど、よーは、モンスターがうざいのと、この壊れかけてる外壁を直して欲しいわけな」
俺は右手で壁を触る。
すると、壁に光の時計盤が出現。
針が逆回転していくと同時に、壁の傷が戻っていく。
「す、すごいですわ! 外壁がまるで新品同様に!」
サラが驚愕する一方で、ロウリィがいつも通り言う。
「ガルシア皇子の犯人捜しに使った、時間巻き戻す魔法っすか?」
「そう。あれ、物体を対象にすることで、物体の時間を戻し、こうやって新品同様にすることができるのよ! どうだい、サラ?」
「さすがノア様ですわ! すごすぎます!」
「ふふ……だろう? いって……なんだよロウリィ」
ロリエモンのやつ、俺の足をぎゅーっと踏んづけていた。
「イチャつくのは問題を解決してからにしてもらいたいっすね。あとモンスターでしょ?」
「そうですわ。ノア様が前にボスを倒したことで、一時的にモンスターの発生が抑えられてました。ですが、最近はモンスターが人里へと降りてくるのですわ」
ボスがいなくなったことで混乱していたけど、しばらくしてまたモンスターどもが調子乗ってきたってところだろうな。
「任せろ、このノア・カーターが、領民達の代わりに、モンスターの脅威を払ってやろう」
「ノア様……素敵……」
「ふっ……いってぇ!」
ロウリィがまた思い切り、俺の足をふんづけてきた。
「ほら、いきますよ。あ、サラ様は森の中危ないんで、待っててくださいね」
ロウリィのヤツが、俺の腕を掴んで、森へと引っ張っていく。
「んだよロウリィ、さっきから」
「それはこっちのセリフっすよ! なんすか、サラ様と、見せつけるようにイチャイチャイチャイチャと……」
ぷくっ、とロウリィが頬を膨らませて言う。
「いい人アピールよ。ほら、いつも通りの無能王子っぷりをすると、逆に成功しちまうだろ? なら逆に有能王子……つまりいい人を演じることで失敗の確率を上げようかなって」
「なるほど……婚約者を大事にするいい人ってことっすね」
「そゆこと」
「ばっかじゃねーの」
「おいいいいいいい」
なんだか知らんが、この猫、すごい不機嫌だぞ?
「おまえ何キレてるの?」
「……ノア様もね、一応王族っすよ。婚約者は、居ても悪くないって言うか……サラ様いいひとだから、まあ別にいいけど……でもっ、でもっ、わたし的には、わたし以外の女とイチャイチャしないでほしいんっすよっ」
ロウリィが顔を赤らめて、切れてる理由を語る。
「ロウリィおまえ……」
「うう……恥ずかしい……大胆告白してしまった……これは気づかれても仕方ない……」
「カルシウム、足りてないのか」
「死ね! アホ王子ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
ややあって。
俺たちは森の中心へとやってきた。
「んでどーするんすか? モンスターの発生なんて、止められるわけないっすよ。自然発生するんだから」
モンスターはほっとくと、大気中の魔素(魔力の源みたいなもん)から、勝手に発生してしまう。
「逆に考えるんだ、発生させちゃってもいいやと」
「はあ? じゃあ出てくる魔物は放置するってこと?」
「発生原因を取り除けないなら、出だしを潰すだけだろ」
ぱんっ、と俺は柏手を打つ。
その瞬間、巨大な魔法陣が地面に展開。
直後、ずぉ……! と白い塔が森の中に突如として発生した。
「なんすかこの、白い巨塔は?」
「【魔物絶対殺す塔】」
「ノア様って前から思ってたけどネーミングセンス皆無っすよね……ぎゃっ!」
俺は人間姿のロウリィの、尻尾を思い切り掴む。
「しゃー!」
ロウリィが俺に飛びついてくるが、ひょいっと避ける。
「尻尾やめて! 敏感なんだから!」
「ほほう、良いことを聞いた。あとでたっぷり可愛がってやろう。くくく……」
「え、エロいことはダメっすからね! 昼間は!」
猫を無視して俺が言う。
「ロウリィくん、ちょっと白竜の姿に戻ってみてくれたまえ」
「え、いいっすけど……」
ぽんっ、とロウリィが、魔神(白竜)の姿になる。
その瞬間……。
キィイイイイイイイイイン……
白い巨塔が、輝きだしたではないか。
そして……。
ピチュンッ……!
『ふんぎゃぁああああああああああ!』
塔の先端から、レーザーが照射される。
それがロウリィのお尻に当たると、悲鳴を上げた。
「魔なる物たちの存在を感知すると、迎撃用レーザーがでる仕組みだ」
ロウリィは人間姿に戻る。
「先に! 言えや!」
「まあ見ての通り威力は弱いがな」
ロウリィを一撃で消し飛ばせないし。
「でも魔神のわたしにダメージを与えるってことは、大抵のモンスターはワンパンできるってことっすよね」
「そーゆーこと。強すぎる敵が出てきたら、ま、四バカ四天王がなんとかするだろ」
俺はロウリィとともに、白い巨塔をあちこちに作る。
「でもこんな魔法術式、あったっけ?」
「あ? 俺が開発したオリジナル魔法なんだから、存在するわけないだろ」
「なるほど……腐っても賢者っすね。さすが闇の賢者」
ピチュンッ……!
「ふぎゃぁあああああああああああ!」
「ちなみに俺の意思でレーザーを照射することも可能なのだよ、ロウリィくん」
「お尻! お尻が二つに割れたぁあああああああああ!」
「ふははは! ではサラに報告しに行こう!」
★
「「「「さすがです、ノア様!」」」」
アインの村に戻ると、サラと領民達が、俺の帰りを待っていた。
魔物退治用の装置を作ったって言ったところ、みなが大喜びした次第。
くくく……ここだ。
ここでしょ?
このタイミングでしょ……何か失敗するとしたら!
しかし……。
「いやはや、さすがノア様でございます!」
「モンスターを一撃で倒してしまう装置を作ってしまうなんて!」
「しかもこの世に存在しない魔法だって、すごい、ノア様すごい!」
おや?
おやおやおや~?
あれれれ~? おかっしいぞぉ? なんか、普通に、賞賛されちゃってる~?
「そりゃそーなるっすよ」
ふぅ、とロウリィがため息をつく。
「そりゃ良いことしたんだから、みんな喜ぶし、有能ムーヴしたんだから、成功するに決まってるでしょ?」
「え、え、うそ? だ、だってだって! 無能ムーヴしたら成功しちゃうんだから、有能ムーヴすれば失敗するってなるじゃん! 思うじゃん!」
「有能ムーヴするんだから成功するに決まってるでしょ?」
なんてこった!
くそっ!
なぜ、俺はこんなに、何をしても成功してしまうんだ!
「ちくしょおおおおおおお! どうしてこうなったぁああああああああ!」
「強いて言えば、ノア様がアホだからっすかね」




