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56/122

56.悪魔、領民の様子を見に行って驚愕する



 第七王子ノアは、帝国での自堕落な日々を送っていた。


 ある日の事。


 悪魔ナベリウスは、主人であるノアのもとへいく。


「『ひゃっほーい! プールさいこー!』」


 ナベリウスは、帝城の裏手にある庭。


 そこはかつて、騎士たちの訓練場があった場所。

 しかし今は……プールになっていた。


『どういうこと!?』


『あ、ナベちゃんちーっす』

「おう、ナベ。お前もプール入りに来たのかー?」


 ノア、そしてロウリィは、眼前に広がるトロピカルな感じのプールにいた。


 ベッドタイプの浮き輪に、サングラスをかけたノアが寝そべっている。

 そのおなかの上で、これまたサングラスをかけて寝そべっている。


『お前ら何やってんだよ……』

「『プールでバカンス』」


 ノアが魔法でトロピカルジュースを取り出し、ちゅーちゅーと吸う。


 プールでジュースを飲んで寝そべっている、確かにバカンスだ。


『プールなんてなかったぞ? どうしたのだ?』

「皇帝におねだりしたら、すーぐ作ってくれた」


『おまえ……仮にも一国の王子なのに、別の国の王にたかるような真似して、王族としてのプライドはないのか?』


「微塵もありません★横ピース」


『ナベちゃん無駄っすよ。この人王族とか微塵も興味ないんで』


『なぜこんなやつが王子やってるんだ……?』


 それは、謎である。


 はぁ、とナベリウスがため息をつく。


『ナベちゃんプールはいろーよー』

『断る』

 

 プールサイドに、黒犬ナベリウスがお座りする。


『あ、毛皮濡れるのきにしてるんすか? だいじょーぶ、ノア様の作ったペット用の水着は、なんと完全防水なのに、水の感触は味わえるというすごい水着なんすよ!』


『おまえ自分でペットって言ってて悲しくならないか? 魔神のくせに……オレ様はいらん』


 ふい、っとそっぽを向くナベリウス。

 にやりとノアが笑う。


「はっはーん、もしかしておまえ……泳げないな」


 ぎくり。


『な、なにを馬鹿なことを! お、オレ様は泣く子も黙る悪魔だぞ! 水が怖いわけがないだろ!』


「『ほー……』」


 にやり、とノアとロウリィが邪悪に笑う。


「ほんとは怖いんだろぉ? そうなんだろぉ?」

『ふん。オレ様はそんな子供っぽい挑発に乗らんぞ』


「いまだ! やれロウリィ」

『ボールを相手のゴールに、しゅぅうううううと!』


 いつの間にか、ナベリウスの背後にいたロウリィ。

 勢いをつけて、バックドロップをかます。


 どっぽーん!


『あっぷ、あっぷ、わふ、わふ! お、おぼれるぅ~』


 ナベリウスは水面から顔を出して、必死で呼吸しようとする。


 ノアの予想通り、この悪魔は泳げないのだ。


「いいぞロウリィ、ナイスシュート!」

『ノア様ないすアシスト!』


『いいから助けろバカコンビぃいいいいいい!』


 ややあって。


 ノアたちはプールサイドにいた。


『ナベちゃんごめんって、ほんのジョークじゃないっすか。許してくださいっスよ』


『サンオイル塗りながら謝っても誠意が全く感じられんバカモノが』


 レジャーシートに寝そべるノアに、ロウリィがサンオイルをぬってあげている。 


『しかしノア様、いいのか、領地を放り出して、こんなにのんびりしてて』


 ナベリウスがふと疑問を口にすると、ロウリィもまた同調する。


『あー、確かに。ノア様が領地でてもう半月っすからねー。気にならないんすか?』


「ぜーんぜん。いーんだよ。ほっとけば」


『なぜこんなやつが、領主やってるんだろうか?』


 それもまた、謎である。


 ノアは身体を反転させる。

 ロウリィは尻尾でサンオイルをぬっていく。


『でも、ノア様。サラさまは結構心配してるんじゃないっすか? 仮にもあなたの婚約者っすし』


「……しゃーねー。おいパシリ犬」

『誰がパシリ犬だ無能王子』


 ぱちんとノアが指を鳴らすと、一瞬でナベリウスが、プールの中に転移される。


 どぽーん!


『わふ! わふ! た、たすけて……!』

『あーもー、ノア様だめじゃないっすか、泳げない人をプールに叩き込んじゃ』


『さっき! てめえも! 同じこと! しただろうが!』


『あーあー、きこえなーい』


 ロウリィは尻尾を伸ばすと、ナベリウスの体をくるんと巻いて、そのまま陸地に引っ張り出す。


「ちょっと領地いって、様子見てこい。あとサラに、俺は元気です、あと1年くらいこっちにいますって言って来い」


『自分で言えばいいだろうが!』


「見てのとおり俺は忙しい」


『プールでバカンスしてるしてるだろ! お使いならロウリィにやらせろよ!』


『いやー、自分ノア様とプールで遊ぶのに忙しいっすから』


『今お前、遊ぶって言ったぞ! くそ! あほ王子にあほ猫、お似合いのあほコンビだな!』


「『いやぁ、それほどでも~』」

『1ミリたりともほめてねええええええ!』


 結局、ナベリウスだけが、カーター領に様子を見に行く羽目になったのだった。


    ★


 ナベリウスは影を使う悪魔だ。


 自分の影を自在に変えることはもちろん、影から影へと転移する術を使える。


 それを使って、ナベリウスは帝国からノアの治めるカーター領へと、一瞬で転移したのだが……。


『どうなってる? 領民が、いないだと……?』


 カーター領のアインの村には、人っ子一人いなかった。


 そのほかの村を見て回っても、領民の姿はない。


『い、いったい何が起きてる……? とにかく、情報を集めないと』


 ナベリウスが向かったのは領主の館。


「ナベリウス!」

『セバスチャンか。おい、これはどうなってる? なぜ誰もいないんだ?』


 セバスチャンは血相を変えて、ナベリウスに抱き着く。


『ぐぇええええ』

「ノア様は! ノア様はご無事なのですか!?」


 ナベリウスをがくがくと激しくゆするセバスチャン。

 どう見ても異常だ。


『お、落ち着け! いったん落ち着けって!』


 ほどなくして。


『はぁ!? 領民が、帝国に戦をふっかけに行っただとぉおおおおおお!?』


 ナベリウスは驚愕の表情で声を張り上げる。


『なんで!? 帝国とたたかう必要があるんだよ!?』


「【悪の帝国】にとらわれている、ノア様をお助けするためでございます」


『あ、悪の帝国!? とらわれてる!? どゆこと!?』


 セバスチャンは、ノア不在の2週間を語る……。


 ノアがいない最初の1日くらいは、みんな何とか我慢していた。


 だが3日目になると、領民たちの体調が悪くなった。


 5日になると幻覚を見だす者が増えた。


 一週間になるとノア様を求めて、領民同士で争いが起きた。


『薬物中毒か何かか!?』

「そうです。みな、ノア様欠乏症になっているのです」


『なんだそのあほ極まる病気は! それと帝国に攻めることに、どうつながるんだ?』


 セバスチャン曰く……。

 10日目に、サラがみんなに、こういったらしい。


【ノア様が10日も、われら大事なカーターの民を放置するわけがないですわ。これは……何かあったに違いありませんわ!】


『猫といちゃついてたぞ、領民の事なんて頭からすっぽり抜け落ちてたな』


【帝国から帰ってこない……は! まさか、ノア様が捕らわれてるのかも!】


『悠々自適な生活を手放したくないから、帰らないだけだな』


【そのとおりです、サラ様! きっと帝国が、ノア様をとらえて、家に帰してくれないのです!】


【リスタ様もそう思いますか!】


『ああやべえやつが絡んできたぞ!』


【戦いましょう、悪の帝国の手から、大事なノア様を取り戻すために!】


『だいたいの騒動のきっかけ、この狂信者の女だよなぁ!?』


 以上、セバスチャンの回想に対する、ナベリウスのツッコミであった。


「サラ様は、武装したリスタ様たち全領民を率いて、帝国へと数日前に出発しました」


『す、数日前って……ま、まずい! もうそろそろ帝国につくじゃねえか! おい方角と位置わかるか!?』


 ナベリウスはセバスから聞いた情報をもとに、領民たちのもとへと急行する。


 ナベリウスは自分の身体を変形させ、翼をはやす。

 この悪魔は自分の体すらも陰でできているので、そういうことも可能なのだ。


 空を恐るべきスピードで駆け抜けると……。


『なん、じゃこりゃぁああああああああああああああ!?』


 眼下に広がるのは、武装したカーター領の領民たちの姿、だけじゃない。


 領民のなかにまじって、明らかにモンスターの姿もあった。


 トロール、人狼(ウェアウルフ)飛竜(ワイバーン)などなど……。


『これ領民軍っていうより、ただの魔王軍じゃねえか!』

 

 ナベリウスはぎゅーん、と先頭に立つ、馬に乗ったサラの前に着地。


『おいサラ! しっかりしろ!』

「……ナベリウス様」


 サラの顔を見て、ナベリウスは絶句する。


 その目は、深い悲しみと絶望に沈んでいた。


 ……おそらく、ノアの不在を、本気で心配していたのだろう。


 まともに寝ていないのだろうことが、目の下の濃い隈から察せられた。


 別にあのバカ王子をかばう気は一切ない。

 だが、馬鹿のせいでこの子がつらい目に合うのはおかしいし、ほっとけない。


『ノア様からの伝言だ。元気でやってるって』

「……わかりましたわ」


『そ、そうか。よかった。そのうち帰るから引き返しても問題』


「全軍! 速度を挙げなさい! 今日中に帝国に乗り込みますわよ!」


「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


『なんでじゃああああああああああああああ!?』


 どどどど! と領民たち、そして魔物たちが、帝国に向けてばく進する。


『さ、サラ! 落ち着け! ノアは無事だ!』

「ノア様は、わたくしたちを心配させまいと、あえて大丈夫だと嘘をついているのですわ!」


『深読みしすぎだって!』


 その後ろから、馬にまたがるリスタの姿が。


「サラさま急ぎましょう。使いの者を出したということは、恐らく今最大のピンチを迎えているのです! これは、ノア様の無言のSOS!」


『火に油ぶっかけるのやめろ! なんなの、大火事にするのが趣味なのかおまえ!?』


「ノア様ぁあああああああ!」

「「「うぉおおおお! ノア様ぁあああああああああ!」」」


 やばいやつらの大群が、帝国に押し寄せようとしている。


『こ、これはなんとかしないと! ノア様に報告だ!』


 ナベリウスは一瞬で帝国に転移する。


『ノア様! 大変だ!』


「『ひゃっほーい! プールさいこー!』」


『のんきにプールなんか入ってんじゃねえぞバカコンビぃいいいいいいいい!』


 ……かくして、ノアをめぐる帝国軍とカーター領軍の戦いが、幕を開けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 信者達アホすぎwwwwwwww お腹痛いwwwwwwwwwww
[良い点] ノアさん信者がアホすぎるw 謎の【ノア様中毒】を発症!そして、戦争!?さすが狂信者w ナベちゃんの伝言が全然伝わってないw 次もアホな感じで、シリアスにはならないでほしいですw  [気にな…
[一言] リスタのスキルでノアの場所ならすぐわかるでしょう
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