52.第七王子は誘拐された皇子を救い出す
俺は帝国に赴いていた。
ガルシア皇子の誕生日パーティに参加するためだ。
「うひょ~! ノア様みてみて、めちゃ豪勢な料理てんこもりっすー!」
人間姿になったロウリィが、目を輝かせている。
黒いドレスに、白く長い髪に猫耳の美少女だ。
ロウリィは誕生日の御馳走を目の前に、目を輝かせている。
「なーこれめっちゃうめえな」
俺とロウリィはお皿に山盛りに料理を載せ、テーブルの一画でむしゃむしゃほおばる。
「ノア様、このチキンうまいすよ。食べる?」
「おう。くれ」
「あーん」
ロウリィが骨付きチキンを向けてくる。
俺はそのまま一口。
「ロウリィ。こっちのスパゲッティ最高だぜ。食う?」
「たべるっすー。あーん」
「たく、しゃーねえなぁ。あーん」
フォークをロウリィにさしだすと、ぱくん、と一口。
「「うめえぇ……!」」
「おまえたち仲いいな……」
メイド服に身を包んだ黒髪の美女が、俺たちのもとへやってくる。
こいつはナベリウス。元悪魔で、今は俺のパシリ2号。
ナベリウスは人間の姿で、俺の飯を取ってこさせている。
「おいナベ、料理もっともって来いよ」
「ナベちゃんピザない? ピザ、探してきてっす」
「おまえらオレ様をなんだと思ってるんだ!」
「「パシリ犬」」
「いつか殺す……!」
ナベリウスが取ってきた料理を食いながら、俺は周りを見渡す。
「しっかし人めっちゃいるな」
「それだけガルシア皇子が人気者ってことっすよ。かわいいですし、皇子ってガルシア君だけみたいっすからね」
ガルシア以外は娘なんだそうだ。
「こんだけ人が多くちゃ、悪人もさぞ紛れ込みやすいだろうなー」
「入口でチェックしてるようだぞ。万が一にも悪人なんて入り込むことはない」
「ナベちゃん、それフラグっすよ」
と、そのときだった。
ぶちんっ……!
「な、なんだ!?」「停電か!?」
周囲が急に暗くなる。
「闇魔法だな。視界を奪う魔法だ」
「なっ!? い、いったい誰がそんなことを!?」
「んなもん、この混乱に乗じて、悪さしようとしてるやつに決まってろだろ」
ぱっ……!
「明かりがついたぞ」「よかった……」
「た、大変だぁ!」
突如、悲鳴が上がる。
「ガルシア皇子が! 皇子がどこにもいないぞ!」
混乱の波紋は一気に広がる。
皇子がいなくなったことで、周りは動揺しまくっていた。
「ど、どこだ!? ガルシアはどこへいった!?」
皇帝が側近の襟首をつかんでゆする。
大事な一人息子がいなくなったんだ、ああなるわな。
「ガルシア皇子どこいったんすかね……?」
「見ろ! 手紙だ! 手紙が落ちてるぞ!」
皇子が立っていた場所に、一枚の封書が置いてある。
皇帝は慌ててそれを拾い上げて、中身を改める。
どさり……とその場に尻もちをつく。
「ガルシアが、誘拐された……」
「な!? ゆ、誘拐!? やばいじゃないっすか!」
なるほど……大人数が来るパーティ、警備のチェックはどうしても緩くなる。
だが誘拐か……くくく!
実に好都合じゃないか!
「……ガルシア……」
「あの凜々しい皇帝が動けないでいるなんて……よっぽどショックなんすね」
「陛下! 皇帝陛下ぁ……!」
俺はすかさず、皇帝の元へ行き、跪く。
「ガルシア皇子奪還の任務……このノア・カーターにお任せいただけないでしょうか……!」
「の、ノア殿……!」
皇帝の目に希望の光がともる。
「恩に着る……! ガルシアを助けてくれ!」
「ああ! 任せてくださいよ! このノア・カーター! 大事な息子を必ず! 絶対! 何が何でも! 1000%! 助け出して見せますから、ええ!」
俺が自信満々に言う。
皇帝は涙を流しながら、何度も頭を下げる。
ほかの貴族達も、鬼期待のまなざしを向けてきた。
……くくく! いいぞぉ! 計画通り!
「さぁ、いくぞロウリィ、ナベリウス」
俺は二匹を連れてパーティホールを出る。
ぼふん、と二人はそれぞれ、白猫と黒犬の姿に戻って、俺の隣にやってくる。
『ノア様見直したっす! 子供のために助けにいくなんて、偉いっすよ!』
『いや……そりゃどうだろうな』
『ふぇ……? ナベちゃんどういうこと?』
くくく……ナベリウスは気づいてるようだ。
ハッ! と遅まきながらロウリィも気づいた様子だ。
『の、ノア様……まさか、まさか……こんなときにも、しようとしてるんじゃないっすよね? 子供の命掛かってるんすよ?』
「バカやろうりぃ」
『バカやろうりぃ!? なんすかそれ!?』
「バカヤロウとロウリィの合体」
『ふしゃー!』
ロウリィが跳び蹴りを食らわせてきたので、俺は華麗に避けて、尻尾を掴む。
「俺は、無能ムーヴをするぞ、ロウリィー!」
『んな……!? 子供がさらわれたのに、あんたはそんなふざけたことするってんですか!?』
「ふざけてぬぅわい! 俺はいつだって真剣だ!」
『それがマジならなおふざけてるだろ……』
はぁ……とナベリウスため息をつく。
『ノア様ぁ、かわいそうじゃないっすか、助けてあげましょ? 楽勝でしょノア様なら』
「まぁな。襲撃者を見つけ出してガルシア助けるのなんて、楽勝だ。キャンバスもなしに空中に絵を描くくらいに」
『そんな神業できるノア様だけっすよ!』
俺はペットどもに作戦を伝える。
「今回の作戦は、【ノア様調子に乗って敵地に乗り込むも返り討ちになったようだだっせえ】作戦だ……!」
『けどよノア様。相手ザコなんだろ? わざと負けるってことか?』
「それより良い方法があるのだよ、ふふふ……さ、襲撃者の元へ行こうか」
『いくって、どこに連れ去られたのかわかるんすか?』
「え、逆にわからないの?」
『『わからん』』
仮にも魔神と悪魔だというのに、そんなこともわからないとは……。
やれやれ、世界のレベルの低下も著しいな。
「北西に20キロいったところに洞窟がある。そこにいる」
『ど、どうしてそれわかるんすか?』
「あん? 魔力感知に決まってるだろ」
周囲に意識を張り巡らせば、その生き物が固有に持っている魔力の波長を感じ取ることができる。
「こんなの呼吸と同じくらいにできるだろ」
『『いやできないから!』』
悪魔と魔神がツッコミを入れる。
『それこの世界だと超等技術だぞ』
「え、そうなの?」
『魔神ですら感知できる範囲1キロくらいっすよ』
「え、まじ?」
なんだなんだ、本当にレベルが下がっているなぁ。
嘆かわしい。
「ガルシアの居場所と敵の戦力も把握した。いくぞ」
ロウリィが俺の肩にのっかる。
ナベリウスは俺の影の中に沈む。
『いって……何するんすか?』
「ハッ! 決まってるだろ……」
俺はロウリィに堂々と宣言する。
「八百長だよ!」
★
ガルシア皇子を捕まえた襲撃者のアジトにて。
洞窟の中。
「な、なんなんだよあんた……」
俺の前には、襲撃者達のリーダーがいて、ガタガタと震えている。
俺はちょっとここまで来て、襲撃者達をボコっただけだ。
「が、ガルシア皇子を助けに来たのか!?」
「王子を助ける? 違う違う……俺はおまえらを助けに来たんだ」
「は……?」
リーダーをはじめ、襲撃者達が首をかしげる。
「全員、正座」
「「「え……?」」」
「正座しろ! はりー!」
困惑しながらも、黒づくめの襲撃者達が、俺の前に座る。
「あのさ、おまえら舐めてるの? あの程度の闇魔法で、相手の隙が作れるって思ったわけ? 普通に見えてたから」
『いや見えてたの多分ノア様だけっすよ?』
『オレ様達の視界すら奪ったんだから、そうとうな闇魔法だったとおもうが……?』
「しかもお前らの脅威がまっっっったく伝わらなかった! なぜ城の一つくらい破壊して見せない!?」
『皇帝のお城って堅牢な防御結界が掛かってるんすけど……?』
『それに、厳しいチェックの目をかいくぐり、中に潜入できたのは、十分に相手に脅威を与えたと思うぞ』
「しゃらっぷ! アニマルども!」
『『きゅーん……』』
話を戻して……。
「とにかく、色々なっちゃいない。マジ素人レベルだよ。素人に負けてもぜんっぜん意味がない。悪の組織感もっとだしてもらわないと、俺の負けが際立たないだろうが」
襲撃者達、困惑する。
「調子に乗って挑んだが、実は相手はメチャクチャ強い悪の組織。それを見抜けず挑んで敗北する間抜けな王子を演じないとダメなんだよ!」
「あなたは何を言ってるんですか……?」
『『ほんと、それな』』
アニマルずが黒づくめ達と共にうなずいてる。
ええい、敵となかよくしよって。
「本来なら貴様らを1から強くしたいところだが……まあ今日は時間もないことだし。代わりに俺が手本を見せてやろう。ナベリウス」
『む? なんだ?』
俺はナベリウスに注文をする。
ふむふむとうなずいたあと……。
ナベリウスの影から、ぶわ……! と黒い靄が出現。
それが俺の体を包み込む。
靄がはれると、そこには黒衣を身に纏い、黒い仮面を装着した……ノア・カーターがいた。
『ぷぷぷっ! なんすかそのクソダサファッション……ノアさま?』
ずーん……。
『ど、どうしたんすか?』
「……ださくないもん。かっこいいもん」
『前世の衣装なんだそうだぜ』
『前世って……闇の大賢者時代の?』
闇の大賢者ノアールだった頃の衣装を、ナベリウスに影で作ってもらったのである……だが……
「ださくないもん……」
俺はしゃがみこみ、いじいじと地面を指でいじる。
『わ、わー! か、かっこいいーっすぅ! ちょーいかすぅ!』
ロウリィが慌ててフォロー入れる。
「……ほんとぉ?」
『ほんとっす。マジ最高っす。だからね、ノアちゃん。落ち込んじゃめーよ?』
「うん! ぼく、げんきになったぁ!」
そんな俺たちのやりとりを、ナベリウスと襲撃者達が見てつぶやく。
「「「「『なんだこの茶番』」」」」
★
闇の大賢者の衣装を身に纏い、俺は帝城までやってきた。
空中に立っている。
「さぁ……殺戮の武闘のはじまりだ!」
『ノア様大変、闇の大賢者がにじみでてるっす』
おっと抑えないと。
俺はあの頃とは違い、大人になったんだからな。
「ひゃっはぁあああああ! 死ねぇえええええええええ!」
俺は両手を広げ、ゆびさきから炎の弾丸を射出する。
それは10の巨大な炎の塊へと変貌し、皇帝の城に激突。
ドガアアアアアアアアアアアアアアン!
『んなっ!? け、堅牢な城の城壁【だけ】が、消滅してるっす!』
そう、本気を出せば全てを消し飛ばせるけど、あえて城壁だけ消したことで、すごい感をアピールするのだ。
「聞け! 愚かなる皇帝よ! 我はついさっきガルシア皇子を連れ去った闇の組織! その名は……名は……【闇の組織】だ!」
パッとかっこいいやつが出てこなかった。
くっそ、俺も年取ったな。
「我達の恐ろしさがわかっただろう!? わかったなら、金貨1億枚用意しろ! できなければ皇子の命はないと思え!」
庭に居た騎士達がガタガタと震えている。
ふふ……なんかきもちいいなこれ……。
『ノア様、また闇の人格でちゃってる。闇かくしてかくして』
おっといけない。
「ちなみにノア・カーターくんはボコボコにしてやったぞ……見ろ!」
俺は亜空間から【それ】を出す。
どさり、と庭に落ちたのは……
「の、ノア様ぁああああああ!?」
ボロボロになったノア・カーターだ。
『チクショウ……オレ様にこんな役やらせやがって……覚えてろよノア・カーター』
そう、倒れているのは俺の影武者である、ナベリウスが変装した姿である。
『この場にノア様(偽装)と、闇の組織のリーダー(ノア様)が同時に居ることで、リーダーがまさかノア様と思わせないための作戦なんすね』
さすがロウリィ、俺のことをよく理解してる。
「貴様らの頼りの綱である、ノア・カーターはこの通りボロボロにしてやったぞ……くくく、実にバカなやつだったなぁ! 彼我の実力差を知らず、つっこんでくるんだからなぁ!」
『ノア様、闇をセーブセーブ』
ついつい闇の人格が表に出そうになるな。
「そんな……ノア様でも勝てないなんて……」
「【闇の組織】……なんて恐ろしい組織なのだ……!」
『んー? あれ、この流れどこかで見たような……デジャヴ?』
と、そのときだった。
「のあさまー!」
「ガルシアぁあああああああああ!」
なんとガルシア皇子が、この場に表れたのである。
「のあさま……ぼくを逃がすために犠牲になってくださって……ごめんなさい……」
くそっ、なぜ皇子が逃げたんだ!?
一体誰が逃がしたんだくそ!
『一体誰が逃がしたんすねくそー』
おまえかぁあああああああ!
俺は肩に乗っている白猫をぐるんぐるんと尻尾を掴んで振り回す。
『だって可哀想じゃん!』
くっ……! まあいい……。
俺が無能であると証明する、という役割は果たせた。
もうあの子供は用済みだ。
おっと、今は演技の途中だった。
えーっと……もういいやてきとうで。
「逃げてしまったか……まあこれも計画通りだがな」
「「「なんだと!?」」」
眼下で騎士達、そして皇帝が目を剥く。
「やつめ……何を考えている……!」
「きっと壮大な、恐ろしい計画を持っているに違いない!」
「【闇の組織】……恐ろしい組織だ!」
そんな中で、ガルシア皇子は毅然と、俺をにらみつけてくる。
バッ、と両手を広げ、倒れ臥すノア(影武者)を守るようにして、言う。
「ぼくは……まけないぞ! だーく・ゆにおん……ぼくがたおす!」
俺はバサッ……! とマントを翻す。
「ではさらばだ諸君!」
こうして俺はその場を後にした。
まあ、途中で色々予想外の出来事起きたけど……。
悪に挑んでボコられて帰ってきた、情けない男として、みんなから思われただろうから……。
作戦成功だね!
★
「「おみごとです、ノア殿」」
「ふぁ……!?」
俺がいるのは、皇帝の城。
負傷した(実際はしてない)俺は、城に運び込まれたのだ。
まあ別にケガなんて一切してないけど、大けがって理由でサボれるから、のほほーんと眠っていた。
んで起きたら……皇帝とガルシア皇子が目の前に居た……って感じ。
「ど、どったんおまえら……?」
「さすがノア殿だ。あの恐るべき闇の組織から、我が息子を逃がすために、体を張っておとりになってくれたとは……」
あ、あれれぇ~?
どうしてそうなるのぉ~?
「のあさま……ごめんなさい。ぼくのせいで……けがしてしまって……」
「あ、いや……えっと……」
そうか、影武者がボロボロだったこと、そして皇子が逃げたことで、そう言うストーリーが完成したんだ。
『子供を助けるために、体を張った英雄みたいになってるっすね』
ロウリィがベッドサイドでお座りしながら言う。
「しかも見事だ……まさか、やられた【ふり】だったとはな」
うんうん、と皇帝がうなずく。
「ど、どゆこと?」
「ノア殿は瀕死状態だったのだよ。ですが今は……もう完治なさっている。1日もたたずに……これは、敵を欺くための、高度な偽装工作だったのですな!」
『おしい。味方をあざむくための最低の偽装工作だったんだぜ?』
黒犬ナベリウスが、ベッドの下でうつ伏せになりながら言う。
「あの場で敵と戦えば、周りを巻き込んでしまう。だから、やられたフリをして敵を油断させ、撤退にまでおいこんだ……その奇策、お見事なり!」
『あーあ、まーた全部好意的にとられてるっすね~』
ああ、くそ! またか! くそぉおおお!
「どうしてこうなったぁあああああああああ!」




