49.第七王子は聖剣と戦う
ある日のカーター領、領主の館の屋上にて。
「ぽかぽか陽気でんなぁ、ロウリィはん」
『ほんまでんなぁ、ノアはん』
晴れの昼下がり。
俺は屋上に寝転んでいた。
ほどよく雲が空にかかってるので暑くないし、爽やかな秋風が心地よい。
白猫ロウリィは俺のお腹の上でとぐろ巻いて寝ている。
『ノア様ぁ、だめじゃーないっすかぁ、サボってちゃ~』
「たまには良いだろサボっても~」
『年がら年中さぼってるじゃないっすかぁ、んも~ダメ王子だなぁ~』
「あははぁ、いいじゃあねえか、ほら、こんなに天気も良いんだしよぉ」
『それもそーっすねぇ』
「だろぉ~」
『「わっはっはー!」』
と、そのときだ。
【我が主ぃいいいいいいいいい!】
どがーーーーーーーーーーーん!
『ふぎゃー! 館の屋根が爆発したぁ……!? な、なんっすか急にぃ!』
ロウリィが屋根からずり落ちそうになっていたので、首根っこを掴んで回収。
俺は浮遊魔法で空を飛ぶ。
「ファルシオン……」
【この第3聖剣ファルシオン! わたくしは……恥ずかしいですぞ!】
ファルシオン。前々世で、剣聖だった俺が使っていた剣だ。
つい先日商人のサブリーナが、どこぞから仕入れて俺の元へ持ってきたのである。
【白金剣聖であろうおかたが! 平日の! 昼間から! サボっているなんて! いったいどうしてしまったのですかぁ!?】
『暑苦しいっすねこいつ。前々世のノア様みたい?』
おいやめろ。
……確かに剣聖の頃は、もっと真面目に仕事をしていた。
そしてこんな感じの暑苦しいキャラだった。
『それはそれで見てみたいっす……ぷぷっ』
「ロウリィあとで雑巾絞りの刑な」
ファルシオンは空に浮いている。
刃の根元に大きなクリスタルがはめ込まれている。
アレは超高密度の魔力結晶だ。
そこに人の意識がインストールされているので、しゃべることも可能だし、人間のように怒ることができる。
【わたくしは恥ずかしい! かつての輝きはどこへいったのですか!? 今は気づけばサボるし、すぐだらけるし……今のあなた様は見るに堪えません! もっとしっかりしてください!】
『なんかオカンみたいっすねこの剣』
「なー、ほんとうるせえよ。まだロウリィの方がマシだよ」
『や、やだ……人が見てるまえで愛の告白なんて……は、はずかしぃいよぉ……』
ぽいっ。
『おいぃいいいいいいいいいいい!』
落ちていく白猫は、途中で白い竜へと変化。
『なんで落とすんすか!?』
「え、なんか気持ち悪くて」
『ほんっっっっっっっとさいてー!』
まあロウリィはどうでもよくって……。
「ファルシオンよ、俺に何期待してるのか知らんが、今の俺はノア・カーター。白金の剣聖ホワイトノアは死んだんだよ」
二つの意味を込めて、俺はそう言った。
ホワイトノアは遥か昔に死んだし、あの頃の仕事に対する情熱は、もう俺には存在しない。
俺と剣聖は、別人なのだと。
しばしファルシオンは無言だった。
だが……。
【そこまで言うならノア・カーター、わたくしと勝負なさい!】
空中で、ファルシオンが刃先を俺に向けてくる。
【あなたが勝ったら、わたくしはあなた様をあきらめます……しかし! わたくしが勝ったら、更生してもらいます! 以前のような、強く、気高き剣士に磨き上げてあげます!】
「『うわ、こいつめんどくせー……』」
ロウリィとハモってしまった。
『どーすんすかノア様?』
「ふっ……決まってるだろ」
『もちろん断るんすよね。決闘なんて、ノア様らしくない』
「ああ、その決闘、受けて立とう!」
『ふぁ……!?』
俺とファルシオンは空中で向き合う。
『ちょっ、ノア様どうしたんすか。あ、無能ムーヴか』
「いえす無能ムーヴ」
『ぶれないっすねあんたほんと……』
「ったりめえよ! 俺は決めたんだ、今世は楽して過ごすってなぁ!」
この剣野郎をボコって、ついでに無能ムーヴかます、一石二鳥の作戦よ!
★
俺は聖剣ファルシオンと、空中で向かい合っている。
「あ! ノア様だ!」
「聖剣ファルシオン様もいるぞ!」
ちょうど、アインの村の上空に来るように、俺は移動した。
『で、なにするんすか?』
白竜状態のロウリィが、思念で俺に語りかけてくる。
『こいつをボコる。んで、村人達に【ファルシオンが弱い】って印象づける』
『そのこころは?』
『このファルシオンがいるせいで、俺が白金剣聖の生まれ変わりって思われてる。けどここで俺がボコボコにする。領民達は【なんだ伝説の聖剣ってたいしたことないな】って思うだろ』
『はぁ……まあ……それして何か意味あるんすか?』
『伝説の聖剣の格を落とすことで、前世の【白金剣聖】がたいしたことなかったんだって、がっかりさせる作戦。これは勝ったな』
『ノア様だいたい試合に勝って勝負に負けてばかりのような気がするすけどね……?』
ファルシオンが切っ先を俺に向ける。
【さぁ、剣を抜くがよい!】
「おうよ……見せてやろう、我が愛刀!」
『あ、あれは……!』
俺は懐から……【それ】を取り出す。
『猫じゃらしだぁあああああああ♡』
ロウリィ(※魔神)が、俺の持っている猫じゃらしに飛びついてくる。
俺は華麗にそれを避ける。
『ふにゃー! ふにゃー! にゃー!』
「おい、魔神としての誇りはどうした?」
『ハッ……! つい……!』
正気に戻ったようだが、まだロウリィの目は猫じゃらしにロックオンし、うずうずしていた。猫やん。
一方でファルシオンは刀身をカタカタ……と怒りで震わせる。
【……なめているのか、貴様ぁ……!】
「ああ、舐めてるよ。てめえごとき……この猫じゃらしで十分だ」
【いい気になるなよ!】
ごぉ……! とファルシオンから赤い魔力が吹き荒れる。
『見たことない魔力の色っすね』
「それ触ると魔の者は即死するぞ」
『早く言えっすよぉ!』
ファルシオンの特殊能力だ。
やつの内包する魔力は悪を消す能力がある。
【我が主に取り憑いた悪鬼よ! 我が刃
をもって浄化する!】
音速を超えてファルシオンがツッコんでくる。
俺は猫じゃらしを正眼に構える。
やつが特攻してきた瞬間、刃をなでるようにして、受け流す。
ドゴォオオオオオオオオオオオン!
『は、早すぎて見えなかったけど……何したんすか?』
「なんだ魔神のくせに、今の見えなかったの? 受け流しだよ、剣術の防御の基本」
【まだまだぁあああああああ!】
ファルシオンが縦横無尽に、刃を回転させながらツッコんでくる。
赤い魔力を刃状にして飛ばす。
だが俺はその全てを、猫じゃらしをつかって受け流す。
【このぉおおおおおおおおおおお!】
刃に魔力をためて、ファルシオンが上段からの一撃を振り下ろす。
がきぃいいいいいいいいいいん!
『なっ!? ね、猫じゃらしで刃を受け止めた!? なんで!?』
「刃の扱いに長けた真の剣術使いは、たとえ箸1本だろうと凶器に変わるんだぜ? こんなふうに!」
俺は猫じゃらしを真横に振る。
ばきぃいんんんんん!
ファルシオンの刃が半ばで折れる。
衝撃波はそのまま背後の森の木々をなぎ払う。
「おいおいおいおい! 伝説の武器がこーんなぺらっぺらなわけないだろぉ!」
【く、そ、がぁああああああ!】
さっきよりも強烈な赤い光を発生させる。
【くたばれぇええええええええええ!】
「ハッ……! そっちこそ、死ねぇえええええ!」
『すごい、どっちも、聖なる剣と元英雄のセリフとは思えないセリフっす!』
俺の猫じゃらしの一撃と、ファルシオンの一撃が空中で激突する。
それは天を覆っていた雲を、ぶわ……! と一瞬で蒸発させる。
さらには眼下の広大な奈落の森が余波で消し飛んだ。
上空に打ち上がったファルシオンを前に、俺は猫じゃらしを構える。
【なんという強さ……だが! わたくしはまだあきらめたわけじゃ……】
「必殺……! えーっと……猫じゃらし斬りぃ!」
俺は猫じゃらしを、上空めがけて振る。
ひゅっ……!
真空の刃がファルシオンの真横を通り抜ける。
……そして。
『ほげぇええええええええええ!? つ、つ、月が……! 月がぁあああああ!』
雲一つない、よく晴れた空。
浮かんでいた月が……真っ二つになっていた。
『猫じゃらしで月を切断するとか、どんだけっすか!』
「刃物でやったら、木っ端微塵になってたな」
【…………】
ファルシオンは、力を失ったように、地上へと落下していく。
さくっ、と地面に突き刺さる。
俺はやつの柄の上に着地する。
「俺の勝ちだな?」
【…………】
ファルシオンは沈黙したままだった。
ふっ……呆れたようだな。
「いやぁ、らくしょーらくしょー! あの程度で伝説の聖剣? おいおいおいおい、なめてんのかぁ? そこいらのさびた剣のほうがよっぽど切れ味あったぜ! なぁ!」
と、そのときだった。
「「「さすがです、ノアさまぁああああああ!」」」
「ふぁ……!? なになに!?」
どどど、とアインの村の連中が押し寄せてきた。
「素晴らしいですノア様! 見事な戦いっぷりでした!」
いつも通りリスタが、目を輝かせて、俺に言う。
「え? おまえ……何言ってるの? あんなのが見事?」
「はい! 空を華麗にまい、激しく打ち合う! 一撃一撃が神話に出てくる攻撃みたいで、もうとってもすごかったです!」
「はぁ? あの程度で何ってるんだよ、あんなの普通……ってしまったぁあああああ!」
俺は……気づいてしまった……!
「ここ、前々世じゃなかったぁ!」
『そーっすよ。白金剣聖のときと違って、ここは衰退した未来の世界なんすから。あんな異次元バトル繰り広げたら、そりゃこーなりますよ』
呆れたようにロウリィがつぶやく。
「で、でもでもぉ! あの聖剣たいしたことなかったよね!?」
【……そうでございます。わたくしなど……さびた剣にも劣るカスでございます……】
しおしお……とファルシオンの刃がしおれる。
「そんなことないです! ファルシオンさま、すごかったです!」
【え、ほんとぉ~……?】
リスタが笑顔で言う。
「はい! さすが、伝説の剣聖のお持ちになられた、伝説の武器に相応しい、見事な戦いっぷりでした!」
【え、えへへぇ~……そうかなぁ~?】
「はい! やはり前々世のノア様、素晴らしいですよね!」
【ああ! そうだ! やはりわたくしは間違ってなかった! ノア様はすごい!】
「『聖剣すら洗脳しやがった……!』」
俺は白猫状態のロウリィと抱き合う。
こ、こええ……リスタこええよ!
「しかし一番すごいのはノア様です! この見事な戦い……白金剣聖の前世があってこそなのですね! ファルシオン様も、そしてそれを自在に扱っていたであろうノアさまも、素晴らしいです!」
「「「さすがノア様!」」」
『全然聖剣の格を落としてない……むしろ剣術を披露したことで、前より格が上がったっすねこれ』
「ぬあぁあああん! どうしてこうなったぁああ!」




