48.第七王子は剣聖の子孫を鍛える
カーター領、俺の寝室にて。
「はぁ~……最悪だ、また黒歴史が俺をいじめてくるよぉ~……」
ベッドの上で俺は丸くなっている。
「うわーん……ろりえもん、肉球ぷにぷにさせてよぉ~……」
『しかたないっすねぇ~。煮干しで手を打ちましょう』
俺はロウリィに煮干しを与える。
彼女は後ろ足を俺に提供してきたので、ぷにぷに触る。
ああ……落ち着く。
この触感……たまらねえ。
『けどまさか、【白金剣聖の刃】の主人公が、ノア様の前々世だったとはねぇ』
【白金剣聖の刃】とは、ちまたで大流行してるコミックのことだ。
「うう……やめろよぉ……はずかしいよぉ……」
『しっかし前々世が熱血系主人公、前世が闇系主人公って……ノア様情緒不安定すぎません?』
「う、うっさい! 若気の至りなの!」
『まあでも納得っす。現世のすり切れクズっぷりは、二度の過去でやらかした経験があったからなんすね』
「はぁ~……もうさいあくぅ。過去に戻って昔の俺を抹殺してやりたい……」
と、そのときだった。
『ノア様、客だぜ?』
影武者ナベリウスから、通信が入る。
「追いかえせ、俺は今、ロウリィの肉球ぷにってて忙しいんだ」
『サボりを堂々と言えちゃうノア様、わたし好きっすよ?』
「ば、ばかぁ……はずかしいだろ……」
『じゃれてるとこ申し訳ないけど、客はサブリーナ様だぞ。この間の、漫画の作者と面会できるって……』
「それを早く言え! いくぞロウリィ!」
『まじっすか! サインもーらお』
ほどなくして。
俺の部屋には、男の娘商人サブリーナだけがいた。
「あれ? 白金剣聖の作者は?」
「かなり虚弱体質のかたらしくて、お家から一歩もでれないそうです」
「ん。おっけー。じゃ、そいつんちまで案内してくれない」
「わかりました! 外に馬車を待たせてますので……」
「その必要はなーい。近くに寄れ」
俺はサブリーナの元へ行く。
顔を近づける。
「わ、わわっ……そ、その……やさしく、してください……」
『の、ノア様……18禁的な、べーこんれたす的な展開はちょっと……ひゃあ!』
「あん? 何言ってるのおまえら? サブリーナの記憶を読み取って、作者のもとへ転移するだけだぞ?」
『「それを早くいってください(っすよ)!」』
俺はサブリーナと額を合わせ(なぜか唇をタコみたいにつきだしてきた)、記憶を読み取る。
「よし、いくぞおまえら」
俺は転移魔法を発動させる。
ロウリィとサブリーナとともに、白金剣聖の刃の作者のもとへ転移。
一瞬で俺は、山の中へとやってきた。
「こんなとこでコミック書いてるの?」
「空気の綺麗な場所でしか生活できないそうでして……」
「ふーん……あっそ」
眼前には竹林が広がっている。
俺たちはサブリーナに連れられて、作者の家へと向かう。
『ノア様、白金剣聖の刃の作者のもとへいって、なにするんすか?』
ロウリィが思念で会話してくる。
『決まってるんだろ。あんな漫画二度と書けない体にしてやるんだよ』
『ええ!? だ、だめっすよ! 白金は老若男女、みーんな楽しみにしてる漫画なんすよ!?』
『うるへー! その実体は俺のはずかしい過去の暴露大会なんだよ! これ以上連載続けたら俺が死ぬわ!』
『ノア様が死んでもわたしは続きが読みたいっす!』
俺はロウリィを持ち上げて、頬を引っ張る。
『それに、これもまた無能ムーヴのいっかんだよ。みんなが楽しみにしてる大人気漫画の、続きを書かせなくした……ノア様さいてーってなるっしょ?』
『ノア様やめときましょーよー、続き読めなくなったらかなしいっすよぉ』
『くくく……お前みたいな純粋無垢な読者に絶望をたたきつけることで、俺の印象も下がるってもんだ……』
『単に恥ずかしい過去を隠蔽したいだけのくせに……ぬぅわぁあああああああ!』
俺はロウリィの尻尾をぐるんぐるんと回転させる。
ほどなくして、俺たちは今にも倒壊しそうなあばらやへとやってきた。
「【ゴトー】先生! いらっしゃいますか!」
「ゴトー?」
『白金剣聖の作者っすよ。ひゃー! わくわくしてきた。サインしてもらわなきゃっ』
いそいそ、とロウリィが亜空間から魔法でサイン色紙を取り出す。
俺はそれを奪って竹林の向こうへ放り投げる。『鬼! 悪魔! 無能王子!』
ほどなくして、ゴトーとやらが出てくる……。
「……はぁい」
「あん? 女……?」
出てきたのは、病弱そうな女……というか、少女だった。
小柄なサブリーナより、なお小さく、細く感じる。
「おまえがゴトー? 白金剣聖の作者の?」
くわ……とゴトーが俺と目が合うと、言う。
「……ご、ご先祖様!」
「『ふぁ……!? ご、ご先祖ぉ!?』」
★
俺たちは中にいれてもらった。
休憩スペースみたいな場所があったので、そこで話をする。
「つまり……なんだ。おまえは白金剣聖の子孫なのか、ゴトーよ?」
ソファに座るゴトーをあらためて見る。
今にも折れそうな細い腕と体。
目の下には真っ黒な隈。
ごほごほ……と咳き込む姿は、病人にしかみえない。
「……はい。ワタシ、ゴトーは、ホワイトノア様の遠い子孫に当たります」
「マジかよ……俺の子孫がこんな虚弱だったとは。驚きだな、ロウリィ?」
『つーん』
……よくわからんが、ロウリィは部屋の隅っこに座り、そっぽ向いてる。
「なんだよ?」
『つーんだ。別にぃ。ふーん……ノア様結婚してたんだぁ……ふーーーーーん』
「つっても、前々世のときだぞ。なんだよ、文句あんの?」
『べっつにー。ふーん……ノア様みたいな人格破綻者と、付き合える女なんて、わたしくらいだと思ってたのに……いたんすね、変わり者が。つーん』
なんだこいつ?
何にキレてるわけ?
「まあいいや。つまり俺の遠い子孫のおまえは、俺……というかホワイトノアの伝説をだいだい受け継いできた。それを後世に残すために漫画を書いてる……と?」
「……はい。ごほごほっ。正確には……ホワイトノア様の、剣術を、後世に残すためにやってるんです」
「あん? どゆこと?」
ゴトー曰く。
俺の剣は、だいだい子孫に伝えられてきたらしい。
子から孫へ、そのまた子へと……。
だが年月が経つにつれて、世界が平和になっていった。
剣術を扱う力も衰退していき……ついにゴトーの代で、剣を握る力が完全になくなったそうだ。
「……ホワイトノア様の、白金剣術。虚弱なワタシには扱えません」
『なるほど……だから、紙に絵を描いて、後の世に残そうとしたんすね』
「……はい。最初は剣の型だけを書き記してたんですが、伝説も残そう、エピソードも残そうとしているうちに……漫画になってしまって……」
『気づいたら人気漫画になってたと。はえー……すごいっすねぇ。あ、サインちょーだいっす』
「やめろアホ猫」
俺は白猫の尻尾をぎゅっと掴んで抱き寄せる。
ふぎゃーと暴れるかと思ったが、ロウリィは大人しく俺の腕の中で丸くなっていた。
「よーするに、おまえはご先祖の残した剣術を後の世に残したいだけで、漫画が書きたいわけではないんだな?」
「……はい。ワタシにとって重要なのは、偉大なる剣聖様の剣を、残していくことですから……」
くくく、なら話は簡単じゃないか!
「よし、このノア・カーターが一肌脱ごうじゃないか!」
「……ど、どういうことですか?」
「おまえをこの俺が直々に鍛えてやろう」
「……ご、ご先祖様が!? ワタシに!?」
「ああ。俺の剣を残そうとするその心意気、あっぱれだ! 感動した! おまえが剣を握れるくらいにまで、強くしてやろう!」
「……ご先祖様ぁ!」
涙を流しながら、ゴトーがおれの体に抱きつく。
「ふはは! さぁゴトーくん! 俺のスペシャル肉体改造ブートキャンプ……ついてこれるかな!」
「……はい、頑張りますっ!」
一方で、サブリーナが慌てて言う。
「あ、あのっ! 漫画は……どうするのですか?」
「そんなの後回しだろ! なぁ、ゴトー!」
「はい!」
「つーわけだ。ゴトー先生はしばらく休載なさる。そのことをしっかり、宣伝しといてくれたまえよ、サブリーナ?」
「は、はぁ……」
くくく……。
大人気漫画が休載となれば、全国の読者達は悲しむだろう。
その原因がノア・カーターにあると知れば、さらに俺の名声は下がるに違いない!
決して、黒歴史を闇に葬りたいからやってるわけじゃ、ないんだからね!
『ノア様、自分の黒歴史を闇に葬りたいからって、全国の読者に迷惑かけるやり方はやめましょーよぉ』
「うっせえ! もう決まりなの! いくぞゴトー! てめえを一流の剣士に育ててやるぜぇ!」
★
後日、俺の屋敷にて。
「さすがです、ノア様!」
「ふぁ……!? ま、またこのパターンかよぉ……!」
俺の屋敷に、サブリーナが笑顔でやってくる。
「今度はなに!? 俺なにかやっちゃいましたぁ……!?」
『ここまで自分の行いを嫌がってる無自覚系主人公って逆に珍しいっすね』
サブリーナの手には、コミック誌が握られていた。
「これ見てください!」
「あん? ゴトー先生の人気作【白金剣聖の刃】……週刊連載化? ど、どゆこと?」
「白金は、月間連載だったんですよ!」
「げ、月間連載……って、月一連載ってこと?」
「そう! ゴトー先生は、体が弱い関係で、週間での連載が不可能だったんです。休載も多くて……読みたいファンは悲しんでいたんです」
と、そのときだ。
「ぬぅううううううううううん! ご先祖ぉおおおおおおお!」
どがーーーーーーーーーん!
『ふぁ……!? 屋敷の壁が破壊された!? て、てきしゅーだ! いけ、ノアちゅー! 電気ショックっす!』
誰がノアちゅーだ誰が!
壁の破壊者は……。
もの凄いゴツい見た目の、背の高い人物だった。
『だれ!? このボディビルダーみたいな人!?』
「どうも! 作者のゴトーです!」
『ほぎゃぁあああああ! ゴトー先生が変身後のビスケみたいになってるぅううううううう!?』
驚くロウリィ。
まあ無理もない。
前は虚弱体質のもやしっ子だったゴトーが、歴戦の狩人みたいな見た目になってるからな。
「ノア様のおかげで、体が強くなりました! おかげで毎週、作品を読者の皆さまにお届けできるようになりました! ぬぅん!」
筋肉を強調するような、妙なポーズを取るゴトー。
『もやしっ子をこんなゴリマッチョにするなんて……ノア様なにしたんすか!?』
「え、た、ただちょっとトレーニングしただけだけど……」
「すごい! ここまで強くしてしまうなんて、ノア様すごいです!」
『いやもうこれ肉体改造ってレベルじゃないっすよ!?』
むんっ、とゴトーがポージングする。
「ノア様のおかげです! ありがとう!」
「あ、いや……あの、け、剣術は?」
「剣術も漫画も、どちらも残していきます! ノア様、ありがとう! 強く育ててくださって!」
きらきら、とした目を俺に向けるゴトー。
「全国の読者も、きっと毎週白金が読めること、すっごい喜んでると思います! さすがノア様、まさか読者の皆さまも幸せにしてしまうなんて!」
またか……!
またやっちまったのかぁ……!
「くっそぉおおおお! どうしてこうなったぁあああああああ!」




