46.悪魔、領主のフリして領民を暗殺しようとして失敗
第七王子ノア・カーターのもとに、潜入している悪魔ナベリウス。
黒犬の姿の悪魔は現在、領主の館の裏手にいた。
『くっそ……! どうして、オレ様がこんな目に遭わないといけないんだ……!』
現在、ナベリウスは主ソロモンから、裏切り者の烙印を押されている。
ノアが体調不良であることを、ソロモンに伝えた。
それを好機とソロモンが悪魔の大軍勢を率いてノアの領地に攻めてきた。
しかしノアは普通に元気だった。
結果、悪魔達はノアに瞬殺された。
それを手引きしたのは、ノアと結託したナベリウス……と思われてしまったのだ。
『くそ! なんでこんなことに……元はと言えばあのバカ王子のせいだ! くそっ!』
ナベリウスはノアと過ごした日々を思い出す。
ノアはなんとも不思議な人物だった。
領民達は口をそろえて彼を英雄と呼ぶ。
だがその実体は、サボり常習犯、しかも領民達から嫌われようと謎の【無能ムーヴ】とやらを繰り返す。
『やってること完全にバカなのに、無駄に強いのが腹が立つ……! くそっ! このまま引き下がったら……悪魔の名折れ!』
ナベリウスは吐息をつくと、体から魔力を放出する。
『ヤツに……復讐してやるぅ……!』
ナベリウスの魔力の性質は、影。
自在に形を変える影の魔力だ。
悪魔の体に影が纏い……それはやがて、ノアの姿へと変貌する。
『よし、これでどこからどう見ても、ノアの姿にしか見えないだろう……』
ノアに変装したナベリウスは、館を離れ、アインの村へと向かう。
『この姿なら領民どももオレ様と気づかないだろう。一人一人殺してってやる……! 領民を失えば、ヤツも苦しんで……苦しんで……くれるかなぁ……?』
ナベリウスは今日までのことを思い出す。
ノアの言うところの無能ムーヴ、それはいつも、領民達になぜか知らないが、嫌われようとしていた。
理由はまったく不明だが、あの領主はどこか、領民に嫌われようとしている気がした……。
『バカな。自ら、守るべき領民に嫌われようとする領主が、いったいどこの世界に居るというのだ……!』
ところがどっこい、すぐ近くに居る。
だがナベリウスは(珍しいことに)常識的な判断力の持ち主だった。
『見てろよノア・カーター! 貴様の大事なものを一つ一つ奪っていってやる……くくく! くぁーっかっかっかー!』
……高笑いしている様子を、黒髪の少年と、白猫が見ていることに、ナベリウスは気づいていなかった。
★
『よぉリスタ』
「あなた、誰ですか」
『ふぁ……!?』
……さて。
アインの村にたどり着いたナベリウス。
ノアに変装し、領民を倒す……はずが。
なんと一発でバレてしまったのである。
『な、何を言ってるんだ……? お、おれはノア・カーターだぞ?』
「……あなたこそ、何を言ってるんですか?」
リスタの目からハイライトが消える。
その二つの目は、地獄の穴を彷彿とさせるほどに、禍々しいオーラを放っていた。
「ノア様と、全然違うじゃないですか……?」
『ひっ……!』
するとそこへ、ほかの村人達がやってくる。
「どうしたリスタ? おっ、領主様じゃあねえか!」
「ほんとだー! ノア様ー!」
アインの村の人達が集まってくる。
彼らはみな、ナベリウスの変装に気づいてない様子だ。
だが……。
「騙されてはいけません! この人はノア様じゃありません!」
「「「え……?」」」
村人達は困惑する。
「な、何言ってるんだよ、どう見てもノア様じゃねえか、なぁ?」
うんうん、と村人達はうなずく。
だがリスタは、狂信者である彼女は……違った。
「いいえ、ノア様じゃありません!」
「そうか……そういえばリスタ、おまえは【領主感知】……ノア様の位置を把握するスキルを持ってたな」
「なるほど、感知能力を使って、気づいたのかっ」
村人達が得心したようにうなずく。
ナベリウスは舌打ちする。
そんなスキルを持っているなんて、聞いてない……!
「何言ってるんですか! スキルなんて使わずとも、偽物とわかるでしょう!?」
「「「『え……?』」」」
ナベリウスを含めた、その場に居た人たちが困惑する。
リスタは堂々と主張する。
「まず本物のノア様と体重が0.2kg違います。さらに身長が0.5ミリ違います。重心が左に2ミリほどずれてますし、声のトーンが0.2ヘルツ高い。さらに髪の毛の本数が20本少ないです。そのほか諸々……ほら! 本物のノア様と違う部分が、こんなにも!」
「「「なるほど……!」」」
『いやわかるかそんなことぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
ナベリウスは、戦慄した。
リスタの、異次元の観察力に。
『悪魔の変装を見抜くとか、おまえ、何者だッ!』
「ただの……ファンです!」
『くそ! 人間じゃねえ!』
悪魔から人外のお墨付きをくらったリスタ。
だが……。
「間抜けは見つかったようですね!」
『くっ……! しまった……!』
ノリで正体を明かしてしまった。
ノアを含めた領民もアホであるが、この悪魔も大概である。
「みなさん、この者を捕らえなさい! ノア様にあだなす敵です!」
あっという間に、ナベリウスは領民達に捕まってしまう。
ロープで縛られ、身動きできなくなる。
『おわった……』
ノアの姿で、ナベリウスは力なくうなだれる。
「恐れ多くもノア様の姿に変装するなど! 万死に値します! 極刑を!」
村人達が、武器を手に近づく。
その目には明確な怒りがあった。
……うなだれたままナベリウスは、あきらめたような表情になった。
主からは見捨てられ、ノアの暗殺にも完全に失敗した……。
もう……何もかもが終わりだ……。
と、思った、そのときだ。
「待て、お前達」
「「「「ノア様!」」」」
黒髪の少年が、白猫を肩に載せて、近づいてきたのである。
領民達はみな、ノアが通れるよう道を空ける。
ノアは、ノアの姿のナベリウスを見てうなずく。
そしてくるりと領民達に振り返って言う。
「こいつは俺が預かる」
「なっ! ノア様……この反逆者を助けるというのですか!?」
リスタを初めとした、領民達がいきり立つ。
大好きなノアを侮辱され、みな怒り心頭であった。
しかしノアは冷静に首を振って言う。
「ああ。こいつは可哀想なヤツなんだ。殺す必要はない」
『ノア・カーター……』
じわり……とナベリウスは涙を流す。
ノアは、暗殺しようとした自分を、彼の姿を語って大事な領民を殺そうとした自分を……許そうとしている。
そんなことすれば、領民の反感を買うだろうに。
まるで、【そんなの織り込み済みだ】とばかりに、ノアが言う。
「こいつに手を出すことは許さん。これは領主である俺の決定だ。異論は認めん」
ともすれば横暴と思われ、人気を下げるだろう振る舞い。
だが……そうまでしても、ノアは悪魔である自分を庇った。
(な、なんだ……これは……涙……か?)
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
今まで生きてきて、ここまで自分を庇ってくれた人はいただろうか?
いや……いない。
所詮主であるソロモンですら、自分は駒としか認識してくれなかった。
一個人として、自分を守ろうとしてくれている……。
ノアが、初めてだった。
「さぁ、ナベリウス。俺と来い」
すっ……とノアは手を差し伸べる。
ナベリウスは、その手を取って、こくりとうなずく。
「じゃあなおまえら。アデュー!」
ノアはナベリウスを連れて、その場から転移したのだった。
★
さて。
ノアが領主の館へと戻ってきた。
その場にはナベリウス、ロウリィ、そしてノアだけが残っている。
『ノア様……あの……本当に……ありがとうございます』
椅子に座るノアに、黒犬姿のナベリウスが頭を垂れる。
『オレ様の命を助けてくれたこと……感謝、します……』
だが……。
「へ? 何言ってるのおまえ?」
『え?』
きょとん、とナベリウスが目を点にする。
「別にお前を助けたつもりはない」
『え、え? で、でも……かばってくれたんじゃ……?』
はぁ~……とノアが小馬鹿にしたようにため息をつく。
「別におまえの命なんざ興味ない。俺が欲しいのはお前、もっと言えばお前の変身能力だ」
どういうことか、さっぱりだった。
ノアは解説する。
「おまえは、あの領民たちの目を欺くほどの変身能力を持つ。つまり……! おまえがいれば、俺はサボり放題ってわけよ!」
ぽかーん……とナベリウスが口を大きく開く。
『つ、つまり……え? お、オレ様を助けたのは……影武者が欲しかったから……?』
「そゆこと。まぁリスタには見つかったがあいつは例外中の例外。それ以外のやつらを騙すほどの影武者の力がおまえにはある。お前は、使えるって思ったんだよ」
ノアは立ち上がって、ナベリウスの前にやってくる。
きらっ、と白い歯を見せて、良い笑顔で言う。
「これからも俺の良い影武者として、馬車馬のように働いてくれよな」
……ナベリウスが困惑する一方で、ロウリィが近づいて、ぽん、と肩を抱く。
『ま、こーゆー最低のクズなんすよ、うちの領主さまは』
ぶるぶる……とナベリウスが肩をふるわせる。
そして……。
『ふざけんなぁーーーーーーーーーー!』
怒りを大爆発させるナベリウス。
『やっぱてめえは最低だノア・カーター! ちょっとでもあんたに心を許そうとしちまったオレ様が恥ずかしい!』
黒犬は距離を取って言う。
『オレ様はぜったいぜったい、ぜーーーったいあんたに心を委ねない! あんたを認めない! オレ様は、いつかあんたの寝首をかいてやる……!』
『おおー、珍しい。あの流れでノア教に入信しないなんて』
ロウリィが感心していた。
一方でノアは邪悪に笑って言う。
「あまいぜナベリウス。俺はお前と契約を結んでいるんだぜぇ。【ナベリウスに命じる。俺の姿に変身しろ】」
ぼふんっ、と黒い煙を発生させると、ナベリウスがノアの姿へと変身する。
「はは! いい影武者が手に入ったぜぇ! 俺の代わりにキリキリ働けよなぁ……!」
『最低だよ、あんた!』
『そのとおり、あいつ最低っすよね~』
ナベリウスの肩に、ロウリィが飛び乗って、うんうんとうなずく。
と、そのときである。
「「「さすがです、ノア様ぁああああああああああ!」」」
ばーん! と扉が開いて、領民達が入ってくる。
「自らの命を奪おうとした悪魔すらも、許してしまわれるなんて!」
「なんと慈悲深いお方なのでしょう!」
……そう、ナベリウスをわざわざ領民達の前で許したのも、無能ムーヴの一環のつもりであった。
しかし……どうやら逆効果のようだった。
フッ……とノアが笑うと……。
「どうしてこうなったぁあああああああああああ!」
叫ぶノアを見て、ナベリウスはうなずく。
『なるほど、この王子……バカなんだな』
『そのとーり、おめでとうナベちゃん、大正解』
『おい猫、もっとこのバカについて教えろ。倒すヒントになるかもしれないしな』
『いいっすよ。仲良くしようねナベちゃん』
……この日、カーター領に新たな仲間が一名、正式に加わったのであった。
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