44.第七王子は人命救助する(極大消滅)
ある日のカーター領。
俺の部屋に、執事のセバスチャンが沈痛な面持ちでやってきた。
「落石事故?」
「左様です。カーター領内にある魔銀鉱山で落石事故が発生しました」
現在のうちの主な収入源は、奈落の森のなかにある魔銀の鉱山だ。
かなり大きな鉱脈を俺がうっかり見つけてしまったのである。
それ以降、魔銀はうちの大きな収入源となっている。
『落石事故って……中にいた作業員達は大丈夫なんすか?』
机の上に乗っている白猫ロウリィが言う。
「中にいる作業員全員、鉱山の中に取り残されてしまっています。しかも入り口が落石で塞がれてしまいました」
『なっ!? た、大変じゃないっすか! このままじゃ作業員みんな窒息しちゃうっすよ!』
「ええ、ですので、ノア様のお力を借りたくここに参った次第です」
なるほど……ようするに事故に巻き込まれて作業員が鉱山からでれなくなったと。
俺の魔法で助けて欲しい……ってところか。
「よし、わかった。俺に任せろ」
「おお! さすがノア様! 助けてくださるのですね!」
「もちろんだとも。このノア・カーター、領民のためならいくらでも力を使おうじゃないか」
「うぉおおおおおお! ノア様ぁああああああああ! なんて素晴らしいお方なんだぁあああああああ!」
『昔はあんなにツンツンしていたセバスじいさんも、今ではすっかりノア教信者っすね……』
準備があるからといって、俺は先にセバスを部屋から追い出す。
さて……。
『ノア様も改心したんすね』
「あん? なんだよ急に」
『困っている領民のために助けてあげるなんて。領主としての自覚がやっと芽生えて……芽生え……………………まさか?』
ロウリィが俺の顔を見て、たらり……と額に汗をかく。
『え、まさか……やらないっすよね?』
「おいロウリィ、無能ムーヴすんぞ」
『はぁ!? マジっすかジャイアン!』
誰だジャイアンって?
『今、人の命がかかってるんすよ!?』
「わーってるよ。だが絶好のチャンスでもある。この機会を利用し俺の無能っぷりを披露してやろうじゃあないか!」
『えー……ノア様、たまには最初から善行しましょうよぉ』
「うっせえ! 善い行いなんてしたら、領民達からの評価上がっちゃうでしょ!?」
『すでにカンストしてるんすけど……まあいいや。で、何するんすか?』
「おう。とりあえず魔銀鉱山を、消しとばす」
『鉱山を消し飛ばすぅうう!? そんなことできっこ……あ、できるわこの人』
俺はロウリィに作戦を開示する。
「名付けて、【人命救助にきた領主様、魔法を暴発させて魔銀鉱山ぶっ壊しちゃったよ。領地の大事な収入源を壊すなんてノア様さいてー】作戦だ!」
『はいはいさすノアさすノア……ぬぁあああああ! 振り回さないでぇえええええ!』
俺はロウリィの尻尾をつかんでぐるんぐるんと振り回す。
「人助けするという大義名分で、大魔法をぶっ放し、魔銀鉱山を破壊する。しかも、中にいた人全員も消す」
『ちょっ!? 殺しはNGっすよ!』
「わーってるよ。ちょーっとカーター領の外、遠くに吹っ飛ばすだけさ。殺しはしない」
『ううーん……まあ。でも、ほかの人たちからは、作業員殺したって思われちゃうんじゃ……あ、それが狙いなんすね』
「そのとおり! さ、いくぞロウリィくん! 目指せ悪徳領主! 今度こそ作戦成功だぁ!」
『失敗フラグにしか思えないんだよなぁ』
★
俺がやってきたのは、魔銀鉱山。
鉱山道の入り口にて。
確かに入り口は落石で埋まっていた。
「領主様! どうかお助けくださいませ!」
俺の周りにはたくさんの領民たちが集まっている。
なんだこいつら?
「生き埋めになっている作業員たちのご家族です」
と、セバス。
くくく……! いいねえ、俺の悪行を目撃するものは、多い方がいいからな。
「さて……やるか。おいみんな下がってろ」
「ノア様が魔法で中の人たちをお助けしてくださるそうだ! みなのもの、下がるように!」
俺は一人、鉱山道の前に立つ。
両手に剣を出現させた。
『剣?』
「おうよ。剣聖の剣術、賢者の魔法……その二つを組み合わせた大魔法を見せてやンよ」
右手の剣は、炎を宿す。
左手の剣は、冷気を放つ。
「いくぜ……」
ごぉお……! と両手の剣から炎と氷の魔力が吹き荒れる。
俺は両手の剣を振り上げて、クロスさせるようにして、振り下ろす。
「【極光絶空剣】!」
炎と氷がぶつかり合い……。
周囲に、極光の輝きを放つ。
『ま、まぶしいっす! なんすかこの光……!?』
「消滅の光だよ」
俺の放った一撃は、周囲一帯に極光を発生させる。
……そして。
「そ、そ、そんなバカな! 鉱山が、まるごと消し飛んだだとぉおおおおおおおおおおおおお!?」
セバスが目を剥いて叫ぶ。
鉱山だった場所には、巨大な穴が開いていた。
「の、ノア様! いったいなにを!?」
「あー、入り口だけを魔法で壊すはずがぁ、中の人ごと、鉱山まるごとふっとばしちゃったぁ。え、俺、何か悪いことぉ、しちゃいましたぁ~?」
『うっわ、殴りてえっすこの王子の顔を……』
ぎり……とセバスが歯がみする。
「なんということをしてくれたのですか!」
セバスが俺の胸ぐらを掴む。
おお! いいぞいいぞぉ! やれやれぇ!
『いいっすよぉセバスさん! やれやれー! 無能王子に顔面パンチっすぅ!』
あとでロウリィは尻尾ちょうちょう結びの刑に処すとして……。
「俺は助けようと思っただけだよ。悪気はない」
「しかし! 中の作業員達が……!」
「死んだだろうな。あの極光の光は、触れたものを確実に、絶対、100%消し飛ばす。だから、中の奴らは、確実に、絶対、100%、死んだ」
『フラグ乙』
がくん……とセバスがその場に膝をつく。
「うぐ……ぐす……すまない作業員たちよ……わしが……間違っていた。こんなバカ領主に頼った……わしのミスだ……すまぬ……すまぬぅ……」
『セバスさんの方が領主に向いてるんじゃないっすかね?』
それな。
一方で、残された作業員の家族達が戸惑っている。
「中の人たちどうなったの……?」「魔銀鉱山は……?」「これからどうすれば……?」
ほっとけばそのうち暴動が起きるだろう。
俺はさくっと、転移して逃げることにする。
領主の館に戻ってきた。
『ノア様、作業員さんたち、ほんとにいきてるんすか?』
「もちろん。俺が奥義を発動させる前に、転移で中の連中を外に出しといたからな」
『ならそれだけでよかったじゃん……』
「いいんだよ。あいつら俺が遠隔で特定の人物を転移できるなんて知らないだろうし」
俺は椅子に深々と腰掛けて、にやりと笑う。
「くくく……! これで、余計なことをして領民と、そして領地の貴重な収入源を破壊し、さらには逃げた最低の悪徳領主として、名を残すことだろう! 勝ったなガハハハ……!」
★
数日後、俺の部屋にて。
「「「さすがです、領主さま!」」」
「ふぁ……!? お、おまえらなんでぇ……!?」
俺の屋敷に押し寄せてきたのは、中にいた作業員と、その家族たちだった。
「ノア様、申し訳ございませんでした!」
セバスは俺の前で土下座をする。
「ど、どうした……説明しろ?」
「ハッ……! 実は死んだと思われていた作業員達が、大陸の果てで見つかったのでございます!」
確かに大陸の果てまで転移させた。
だが……数日でどうしてこいつらが、カーター領に戻ってきてるんだ!?
「作業員たちのなかに、ギフト【領地帰還】を持つものがいたのです。これはどんなに離れていようと、領地へ一瞬で転移できるというもの!」
『何それすごい。あ、それで作業員さん達みんな帰って来れたんすね』
「で、でもでもぉ! 魔銀の鉱山をまるごと吹っ飛ばしたことについては、どうするんだよぉ! 怒ってるんだろぉ!?」
しかしセバスは笑顔で首を振る。
「実はあの大穴に、【神威鉄】の鉱脈を、新たに発見したのです!」
「『なっ!? お、神威鉄だとぉおおお!?』」
俺とロウリィが驚愕する。
『神威鉄って、この世で最も硬く、希少な鉱物とされているものっすよね。めちゃくちゃ高値で売れるって……』
「つ、つまりなにか? 魔銀の鉱脈はなくなったけど、さらにレアな鉱脈を俺が掘り当てたって事?」
あ、あれ……これ、もしかして……やっちゃいました!?
「さすがですノア様! 我ら作業員を助けてくださっただけでなく、神威鉄の鉱脈まで掘り当ててしまうなんて!」
「未曾有の危機を鮮やかに解決なさった……あの魔法! 素晴らしいです!」
ああ……! また領民達からの好感度があがってしまったぁ!
「ノア様、あなた様にご無礼を働いたこと、お許しください!」
「そんなのどうでもいいよ!」
「おお! この老骨の愚行をお許しになさってくださるとは! なんと……なんと器の大きいおかただ!」
『単にそれどころじゃないからって意味だと思うんすけど……今、もう何言っても好意的に捉えられるっすねこれ……』
セバスを含め、作業員たちから、尊敬のまなざしを向けられた俺は……。
「どうしてこうなったぁあああああああ!」




