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43/122

43.第七王子はファッション革命を起こす(裸の王様)



 ある日のカーター領、俺の部屋にて。


 商人のサブリーナが、俺の元へとやってきた。


「あん? 新しい服のデザインだぁ?」


 俺は机の前に座っている。


 膝の上には白猫がとぐろ巻いて座っている。


 美少女と見まがうサブリーナ少年が、そんな話を持ちかけてきた。


「はい。そろそろ寒くなってきますので、新しいお洋服のデザインを考えているのですが、なかなか思い浮かばなくて。そこで、世界最高の頭脳をお持ちのノア様に、ご助言いただけないかと思いまして!」


 白猫ロウリィが、俺の膝の上で言う。


『サブリーナ様、やめといたほうがいいっすよ。この人強いけどバカなので……ふぎゃー!』


 俺は尻尾をぎゅーっと雑巾絞るようにして言う。


「おいおい俺は領主だぞ……。服のデザインなんて……」


 ……ん?

 服……服……なるほど!


「このノア・カーターに任せるが良い!」


「いいんですかっ?」


「ああ。少し時間をくれ。最高の洋服を用意しておくからよ」


『どこぞのグルメ漫画の人っすかあんたは……』


 ペコペコ、と頭を下げてサブリーナが出て行く。


 あとには俺とロウリィが残される。


『で、ノア様。何するの?』

「洋服を使った無能ムーヴさ!」


『どうせ失敗するのに……ノア様って1日経つと記憶がリセットされる呪いにでもかかってるんすか……あ、あ、やめてっ。逆さ宙づりはやめてぇ!』


 ロウリィの尻尾を掴んで持ち上げる。


『頭に血が上るぅ~』

「りぴーとあふたーみー。ノア様は賢いです。はい?」


『の、ノア様は世界一賢いですぅ~』


 俺はロウリィを下ろす。

 ぴょんっ、と俺を警戒して距離を取る。


『でも服を使った無能ムーヴなんて、具体的に何するんすか?』


「ロクデモナイものを、高くサブリーナに売りつける」


『わーほんとロクデモナイ作戦ー』


 俺はパチン、と指を鳴らす。


 うむ。


「よし、完成」

『は……? の、ノア様……? なにが完成したんすか?』


「だから、サブリーナに売りつける服だよ、服」

『……ノア様。病院、いこ?』


 ぴょんっ、とロウリィが俺の肩の上に乗っかる。


 前足を俺の額に、ぴたりと載せる。


『領民たちからのストレスで、ついに頭がおかしくなっちまったんすね。だから服なんてどこにもないのに、あるとか言っちゃう……』


「じゃかーしー! 頭は正常だよ!」


『正常ならそれはそれはアウトのような……ふぎゃー!』


 ややあって。


「ロウリィくん。これは、俺が開発した【バカには見えない服】だ」


 尻尾をちょうちょう結びされたロウリィが、はて、と首をかしげる。


『ば、バカには見えない服……?』


「あれれぇ~? ロウリィちゃん、見えないの~? この服が見えないってことは~。お馬鹿さんってことですけどぉ~?」


『むかっ! ……み、見えてますけどぉ!』


 くく、無理しちゃってからに。

 本当は見えてないくせに。


「このノア様特製【バカには見えない服】を大量に売りつける。そうすれば、こんなロクデモナイ服を売りつけた、詐欺師の領主ってことで評判が落ちるだろ?」


『まあ……ありもしないものを高値で売るって詐欺っすもんね。実物ないわけですし……』


「あんれぇ~? ろりえもーん、見えてるんじゃなかったの~?」


『み、見えてるわい!』


 くくく……ではさっそくこの服を、領民達に売りつけにいこうじゃあないか!


    ★


 俺とサブリーナ、そしてロウリィは、カーター領内にある、アインの村へとやってきた。


「ノア様だ!」「領主さまー!」


 村人があっという間に集まってくる。

 みな、今日も元気そうに笑ってやがる。


『その目は曇ってるんすけどね……』


「ごきげんよう諸君! 今日は俺が作った、まったく新しい服を持ってきた!」


「「「おおー!」」」


 村人達が歓声を上げる。


「ノア様のお作りになられた服!」「是非とも来てみたいわ!」「ノア様、早く見せてください!」


 くくく……期待値が上がってるぞぉ。


「おいサブリーナ。見せてやれ」

「は、はい……」


 サブリーナが困惑している。

 手押しカートを、領民達の前に、持ってくる。


「これがノア様のお作りなられた、お洋服……です」

「「「え……?」」」


 カートの上の服を見て、みなが困惑していた。


「ど、どこに……?」「洋服なんて見当たらないぞ……?」


 くくく、そうだろうそうだろう。

 そういう反応になるよなぁ。


「これは俺が作った、【バカには見えない服】だ」


「「「な、なるほど……?」」」 


『す、すげえ……。あのノア様至上主義がたたき込まれた訓練された領民ですら、困惑してるっす……これは大事件っすよ』


 たらり、とロウリィが汗をかきながら言う。


「今ならたったの1万ゴールドだ。おまえら、買うよな? ん?」


『うわーさいてー。存在しないものを1万で売るなんて』


「え、ロウリィ~? 見えないのこれがぁ~? おばかちゃんってことですかぁ?」


『くっ……! いちいち腹立つぅううう!』


 俺は領民達を見る。

 俺がイエスと言えばイエス、右と言えば右を見るような連中だ。


 俺が買えと言えば当然……。


「「「か、買います……!」」」


 くくく……! 大成功!


「の、ノア様ぁ……いいのですか? これは……詐欺のような……」


 サブリーナが恐る恐る聞いてくる。


 こいつも見えない側だったもんな。


「詐欺なものか。俺は【バカには見えない服】という実在するものを売りつけてるじゃあないか」


「で、でもぉ~……」


「この服、量産してあるから、全国に売って来いよサブリーナぁ?」


『うわー……さいてー。純粋無垢なサブリーナちゃんくんを、悪事に巻き込むなんて……』


 これで俺の悪行が広がれば御の字よ。

 くくく……!


 かくして、俺の作った服は領民達、そして全国に売られることになったのだ。


 いやぁ、俺の評判が落ちるの、楽しみだなぁ……!


    ★


 後日。


「さすがです、ノア様ー!」


「ふぁ……!? な、なに!?」


 サブリーナが笑顔で、俺の元を訪れる。


 この間の困り顔から一転、すごい笑顔だ。

「やはりノア様はすごいお方です!」


『ど、どうしたんすかサブリーナちゃんくん。ノア様に詐欺の片棒を担がれてたのに……?』


「いいえ、詐欺ではありません! ノア様のお作りなった画期的なお洋服が、全国で爆売れしてるんです」


「『な、なんだってー!?』」


 そんなバカな……!

 あり得ない……!


『なんでっすか!? だって……バカには見えない服って、ようするに嘘ついて、何もない服を売りつけて金を巻き上げるっていう、詐欺だったんすよね?』


「ロウリィさん。それが違うんです! ノア様は、本当に、【装着すると特定の人には見えなくなるお洋服】を作ってたんですよ」


『んなっ……!? ど、どゆことー!?』


 あれ、ロウリィ、もしかして気づいてなかったのか……?


「ノア様のお洋服、アレは身につけると姿が消えるお洋服だったんですよ」


『あれ嘘じゃなかったすか!? で、でもわたしも含めて、カーター領の人たちみんな見えてなかった……ハッ! ま、まさか!』


 ロウリィが、戦慄の表情を浮かべる。


『カーター領の人、バカしかいないから、ノア様の服が見えてなかっただけ!? 実物は最初からあったってこと!?』


「その通りです! ロウリィ様!」


『まじっすか……なんすかこの無駄な技術力……!』


「え、俺ちゃんと言ったじゃん。バカには見えない服って。ちゃんと作るに決まってるじゃん」


『いやでも、だって普通考えないっすよ……元ネタのあの童話でも、実在しない服だったし……』


「あ? 童話ってなんだよ。俺は最初からちゃんと言ってましたしー」


『いやでもそれを実現させるなんて思わないじゃん! すげえなあんた、逆に……!』


 ……まあ、何はともあれだ。


「え、なんで売れたの? あんなゴミが」


「ゴミなものですか! 軍部からは、偵察用にってバカ売れしてますし、そうでなくても、ノア様の服のデザインは最先端で素晴らしいってことで、若い層からお年寄りまで売れまくってますよ!」


『で、でも……バカからは見えなくなるんすよね?』


「見えなくなる人の条件を設定できるんですこれ!」


『なるほど……条件を【バカ】以外に設定できるんすか。たとえば男とかにすれば、男からは見えなくなる服になると……す、すげえ、無駄にすげえ……』


「しかも条件のところに、ファッションテーマを入れると、フォルムも自在に変わるんですよ! さらにさらに、犯罪者が悪用できないようにって、悪事を働こうとすると高圧電流が流れるので安心安全に使えます」


『すっっっっっっっっっげえぇ無駄に凝ってるっすね!』


「これは革命です! 誰しもが自由に、自分の思うお洋服をデザインできるんですよ? すごいです!」


 キラキラキラ、とまるで銀河のような目を俺に向けるサブリーナ。


 ああこれ、またか?

 またしてもか……?


「ノア様のおかげで、今この服がバカ売れして、うちの商会は大もうけです! ありがとうございます、ノア様!」


「あああもぉおおおおお! どうしてこうなるんだよぉおおおおおお!」


 ……と、ここまでの一連の様子を、黒犬ことナベリウスは、ずっと黙ってみていた。


 そして、ナベリウスが、一言。


『なんだこの、バカの集まりは……?』

『ねぇ、ナベちゃんも、そー思うっすよね』

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノアさんは、世界一有能で、世界一馬鹿ですw 一応、頭良いのに世界一アホだしw 変なとこ真面目で、本当に服を作っちゃうからこうなるw
[一言] いつも面白く読ませてもらってます。 それはそれとして今回は無能ムーヴ出来てると思うのは俺だけ?好きにデザインできる服なんて出来てもセンス無いなら誰かの物まねになるだろうし、第一にそれ1着あれ…
[一言] この洋服普通に欲しい...
2021/09/09 10:41 退会済み
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