表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/122

40.悪魔、本物の化け物達に怯える(寝ぼけて)



 第七王子ノアが、サイン会を終えたその日の深夜。


 カーター領、領主の館にて。


 大悪魔であるナベリウスは、裏庭で一人跪いていた。


『ソロモン様。ご報告がございます』


 ナベリウスの眼前には1枚の大きな鏡が浮いている。


 これはこの悪魔が影で作った魔法の鏡だ。

 遠く離れた場所にいる、悪魔達の親玉を映し出す。


 黒づくめの男が、椅子に悠然と腰を下ろしていた。


 頭から黒い布をすっぽりかぶっているため、その表情はうかがえない。


『……ナベリウスよ。なんだ、その犬みたいな姿は』


『こ、これには深いわけがございまして……』


 ナベリウスは主であるソロモンに、詳細を語る。


『なるほど……ノア・カーター。悪魔すら従えるか。やはり……我らの邪魔になるな』


『ソロモン様。この後は、どうすればよいでしょう』


『うむ……ちょうど良い。貴様、ノアに近づいて隙をうかがえ。そして寝首をかくのだ』


 確かに、契約したことで小間使いみたいなポジションになってしまったが、逆に都合が良い。


 ターゲットに近いということだから。


『契約してしまった以上、ナベリウス、貴様はノアの言いなりとなるほかない。だが今は眠って意識がない。つまり命令はできない』


『なるほど……文字通り、寝ている間に始末すればいいだけですね。さすがソロモン様……』


 にやり、とナベリウスは邪悪に笑う。


『ナベリウスよ。ノアを殺すのだ。よいな?』


『ハッ……! お任せあれ! このソロモン様の72の悪魔の1柱、ナベリウスが、必ずやヤツの息の根を止めて見せましょう!』


『うむ。期待して居るぞ……』


 鏡の中の映像が不鮮明となって消える。


 ナベリウスは術を解くと、鏡が泥のように崩れ去る。


 ずず……とうごめく黒いそれは、ナベリウスの影だ。


 そう、この悪魔は影を自在に操る力を持つ。


『ノアめ。オレ様をこんな屈辱的な姿にしよって……! ただではすまないぞ!』


 ずんずん、とナベリウスは夜の屋敷を闊歩する。


 すると……。


「うむ! だれだ!」


『! しまった見つかったか!』


 廊下を巡回していたのは、女騎士ディーヴァだった。


 たらり……とナベリウスは汗を流す。


 悪魔にはわかった、この女が、なかなかできるやつであると。


 悪魔の気配にいち早く気づき、近づいてきたのだ。


 じり……とナベリウスは身構える。


「おや……」


 すっ……とディーヴァが近づいてくる。


 反撃だ! と思ったそのときだ。


「ノア様の子犬ではないか」


 よいしょ、とディーヴァは黒い子犬姿のナベリウスを持ち上げる。


「お腹でも空いたのか? よしよし、では私が何かつくってあげよう!」


 ……脅威判定されていなかった。

 むしろ、完全にノアの新しいペット扱いされていた。


『ち、ちが……! は、放せぇ!』


 ジタバタと暴れるが、しかし謎のパワーで全く身動きが取れない。


「遠慮するな! さぁ! 私が朝食用に作ったご飯があるのだ! それを食べてくれ!」


 ディーヴァは有無を言わさずナベリウスを厨房へと連れて行く。


 台所からは……紫色の煙を発生させる、なぞの物体がおいてあった。


『お、おい貴様! なんだこれは!?』


「うむ! 私の愛の籠もった手料理だ!」


『料理!? これが!?』


 鍋の中には、ヘドロとしか思えない物体が入っている。


 匂いを嗅いでるだけで倒れそうになった。

「未来の旦那様であるノア様に、食べてもらおうと作ったカレーだ!」


『いやこんなの食えたもんじゃねえよ!』


「食えるぞ! ほら!」


 ディーヴァは一口スプーンで掬って、ぱくり、と食べる。


「なっ!」

『ほ、ほんとだ……無事みたいだな』


「さぁ! お腹空いてるなら、たんとおたべなのだ!」


 ……正直さっさとノアを葬りたい。

 

 だが腹が減っては戦はできぬと言う。


『本当にこれ食べて大丈夫なんだろうな?』

「心配ないぞ! 今まで何度も私は食べてきたが、へいちゃらだからな!」


『そうか……では、ぱく………………………………お゛■■■■(※自主規制)』


 突如としてナベリウスは口から■■■■■■(※自主規制)を■■■■■■(※自主規制)した。


 あまりの■■■■■■(※自主規制)は■■■■■■(※自主規制)の■■■■■■(※自主規制)して、■■■■■■(※自主規制)、■■■■■■(※自主規制)た。


「うむ? どうした、どうした子犬殿! おおぅ!」


 ……その日、ナベリウスは暗殺に失敗した。


    ★


 4日後、ナベリウスはふらふらになりながら、ノアの寝室へとやってきた。


『なんだ……この屋敷……ヤバい奴らしかいないのか!』


 ディーヴァによる毒攻撃を受けたナベリウス。


 その後、魔道士団長ライザ、魔王ヒルデ、勇者ユリアンと遭遇した。


 そのたびに四バカ四天王と遭遇しては、酷い目にあった。


 全てを記すと■■■■■■(※自主規制)だらけになるため割愛とする。


 とにかく酷い目にあい続けたのだ。


『ノア・カーターめ! なんと恐ろしい部下を従えているのだ……! くそっ……!』


 だが今夜は四バカ四天王に会うことなく、寝室に潜り込むことに成功した。


『敵の懐に入ってしまえばこちらのもの! 見てろよノア・カーター!』


 ナベリウスは寝室にしのびこみ、ベッドへと向かう。


「ううーん……やめて……こないで……リスタ……サラ……くるな、くるなぁ……!」


 ノアが苦悶の表情で眠っている。


 この領主が怯えるほどの存在……。


 よほどの大悪魔だろうか。


『りすた……さら……そんな悪魔いたかな?』


 まあいい、とナベリウスは思い直す。


『とにかく寝ている今なら、殺れる!』


 ナベリウスは尻尾を伸ばす。

 この悪魔の体もまた、影でできていた。


 尻尾の先が伸びて、1本の槍へと変化する。


『死ね……!』


 と、そのときだ。


 スッ……とノアが手を上げる。

 そして人差し指を、ナベリウスに向けた。

『なっ!? バカな……! 寝てるはず……!』


「……です、びーむぅ」


 その瞬間、ノアの指先から、真っ赤な閃光がほとばしる。


 必死になって体をねじる。


 光線は屋敷の窓を貫き、カーター領の外へと飛んでいき……そして……。


 ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!


『……なん、だ……あれは……』


 カーター領の外に広がる、死の森……【奈落の森アビス・ウッド】。


 広大な敷地を持つ森が……消し飛んでいた。


 燃えているとかそういうのではない。


 まるで、何かに空間ごとえぐり取られたかのような、大穴クレーターができあがっている。


『あば……あばば……』


 ぺたり、とナベリウスはへたり込む。

 なんて恐ろしい攻撃だ。


『こ、こいつ……気づいて……お、オレ様……ころそうと……』


 と、そのときである。


 ぱっ……! と大穴が、なんと一瞬で元に戻ったのである。


『ふげぇええええええええ!? あ、あの大穴が、一瞬で治っただとぉお!?』


 ノアのビームも恐ろしい威力だったが、なぞの力によって、その全てが元通りになった。


『こ、これもノアの魔法か……?』


『違うっすよ?』


 刹那、背後に【死】を覚えた。


 ナベリウスが見上げるそこにいたのは……真っ白な1匹の竜だ。


『あ、あ、あ……』


 ナベリウスは、先ほどのノアのビームを見たとき以上の、恐怖の表情を浮かべる。


『お、お、おまえ……まさか……【原初の七竜神ピュア・カラーズ】!?』


 ……ナベリウスはその白い竜を、知っている。


『【原初の七竜神ピュア・カラーズ】……ああ、懐かしい呼ばれかたっすね』


 呼ばれたロウリィ本人は、さして興味なさそうにつぶやく。


『あ、あ、ありえない!? 女神がこの世界を作ったとき、最初に生み出した7柱の最強の魔神! その1柱、【白のロウリィ】が、どうしてこんなところに!?』


『まあ……色々あったんすよ』


 ガタガタ……とナベリウスの体が震える。


 ノアの放った、破壊の魔法。

 そして……今この場に、いるはずのない……最強の魔神の一柱。


 原初の七竜神。


 あれほどの大魔法の傷跡を、一瞬にして元に戻すほどの、人の理を超えた恐ろしい治癒魔法。


 そんな規格外の力を持った魔神が……殺気を込めて、自分をにらんできている。


 それだけで……息が苦しくなる。


『あんたが何もんか興味ねーっすけど……わたしの邪魔するな。いいな?』


『ひぎぃいいいいいいいいいい!』


 ナベリウスは窓ガラスをぶち破って、外に逃げる。


『ヤバいヤバい! ノアやばい! 配下にヤバい奴らを加えて、さらにあいつ自身もヤバい! うぎぃあぁあああああああ!』


 ……泣き叫びながら逃げていくナベリウス。


 ……さて、一人取り残されたロウリィはというと。


『ったく、ガラス割るんじゃねーっすよ。風邪引いたらどーんするんすかね』


 やれやれ、とため息をつきながら、割れた窓ガラスを治癒の力で戻す。


 ぽんっ、とロウリィは白猫の姿へと戻る。

「うーん……ううーん……リスタぁ……くるなぁ……くるなぁうう……」


『まーた悪夢リスタにうなされてるっす……そのたびに寝ぼけて、デスビーム打たれても困るんすけどね』


 ……そう、ノアは決して、ナベリウスの接近に気づいて攻撃したわけじゃない。


 単に悪夢にうなされ、寝ぼけて攻撃しただけだ。


 それをナベリウスは勘違いしただけである。


『毎晩治すわたしの身にもなれっつーのまったく……』


 ロウリィはノアの隣に、お座りする。


 そして自分の前足を、ノアの手の上に乗っける。


 するとノアはロウリィの手を握って、肉球をぷにぷにと触る。


 途端、彼の表情が一転し、安らかに寝息を立て出す。


『やれやれ……困ったご主人っす。愛猫の肉球がないと、熟睡できないなんて……ふふっ』


 ロウリィはノアの顔の前で、とぐろをまいて、座り込む。


『あぶねーあぶねー……こんなとこ、他人に見られたら、恥ずかしくて死ぬとこだったっす……さっきの犬は……まあ、いっか』


 単にロウリィは、主人と一緒に添い寝する姿を、誰かに見られたくなかっただけ。


 ナベリウスを追い払ったのは、ノアの命を奪うやからを、排除したわけではなかった。


 ロウリィもまた目を閉じ、主人と供に、安らかな寝息を立てる。


 ……一方でナベリウスは半べそかいていた。


『ち、チクショウ……! ここは化け物の巣窟だった……だが! オレ様はあきらめないぞ! ノア・カーター! それに、白のロウリィ! てめえら全員ぶっころしてやるからなぁ!』


 ナベリウスは遠吠えをする。

 だが足はがくがく震え、そしてチビってしまっている。


 ……その姿はまさに、負け犬そのものだったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リスタは元々何の能力も特徴もない、ただの村娘だったのに、 狂信力だけで主人公から最も恐れられてて草
[良い点] 自主規制の嵐! 毎晩のデスビームw ロウリィは良い奥さんw
[一言] 72の悪魔の1柱ナベリウスをダウンさせた殺人料理wwwwww しかも余りにも凄惨過ぎて自主規制の嵐wwwww お腹痛いwwwwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ