表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/122

37.第七王子は本気を出す(1%)



 ある日のこと。

 俺は領主の館の、寝室で丸くなっていた。


「ああ、引きこもり生活最強……」


 この頃には俺の心の傷は徐々に癒えていった。


 忘れていた俺の過去、黒歴史。

 それをダークノワール・ブラックシュバルツ団とか言う、バカみたいな奴らが2000年後の現代に復活させやがった。

 

 忘れていた過去が復活したせいで、俺の心は深く傷ついた。


 しかし何日も引きこもって、甘いものを食べていたら、心がなんとか回復した次第。


「心の安寧に甘いものと睡眠は大事ね。さて……そろそろ動くかー」


 俺が寝室のドアを開ける。


 ぐにゅっ。


『ぎゃんっ……!』

「おお、ロウリィ。なにやってるだそんな床で寝て」


『ノア様! やっと出てきた! なんでずっと無視したんすかー!』


 ふしゃー! とロウリィが毛を逆立てて言う。


 こいつ魔神だよね? 完全に挙動が猫なんですがそれは……。まあいいや。


「だっておまえうるさいんだもん。発情期の猫ですかこの野郎?」


『ちっげーよ! バカ王子! あ、あ、やめて、両足もって逆さ宙づりはやめて~』


「で、なに? なんかようなの?」


 俺はロウリィを宙づりにした状態で尋ねる。


「言っとくけど俺、傷心から立ち直ったばっかりだから、あまりショックの大きいことは言わないで欲しいんだよね」


『ごめん、それは無理っす』


「は? え、なに……また厄介ごと……?」


 と、そのときだった。


「「「「ノア様!」」」」


「げぇ……! 四バカ四天王!」


騎士団長ディーヴァ魔道士団長ライザ勇者ユリアン魔王ヒルデ……カーター領の強い人そろい踏みっすね』


 ここに右腕リスタ左腕サラが加われば、カーター領の特にヤバい奴ら筆頭となる。


「な、なんだよおまえら……?」


 ざんっ、と四バカは跪いて、俺に言う。


「「「「準備は、整っております!」」」」


「は? 準備? なんの……?」 

『ノア様、あれみてあれ』


 ロウリィが窓枠に座り、尻尾で外を指す。

 俺は外を見て……。


「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああああ!」


 領主の館の前には、武装したカーター領の民たちがいた。


 いや、え、え……えええ!?


「ど、どないなっとねんロウリィはん!?」


『誰がロウリィはんやねん。あんたが引きこもってる間に、領民たちは闇の教団との大戦に備えとったんやで』


「なんやてぇええええ!?」


 領民たちは目が……ギラギラ輝いている。

 やる気……否、殺る気に満ちあふれていた。


「なんで! そんな! 重要なこと……早く言わないんだよこのバカ猫ぉおお!」


 俺はロウリィの尻尾を掴んでぐるんぐるんと振り回す。


『言ったっすよぉおおおおお! でもあんたでてこないしぃいいいい!』


 ああ、俺が引きこもっている間に、事態がとんでもないことになってやがる!


 ユリアンが一歩前に出て言う。


「ノア殿! 領民達は、我ら四天王が直々に訓練し、全員が凄まじい武力を手に入れてるでござる!」


 いらねええええ!

 なにしてくれてんの四バカ四天王ぅうううう!


 魔王が申し訳なさそうに言う。


「ノア殿よ。王国、帝国にも助力を願ったのじゃが、どちらの国も信じてくれなかったのじゃ、すまぬ……」


『いやそれが普通の反応っすよ。闇の教団信じてるの、うちの領地だけっすよ』


 ほんとそれな!


 しかし……とんでもねえ事態になっちまった。


 闇の教団VSノア率いるカーター領民。


 異常者同士による、かつてない規模の、大戦が始まろうとしている……。


『んで、どーすんすか、ノア様。この事態に……?』


「…………仕方ねえ」


 俺はため息をつく。


「ほんとは、嫌でしょうがねえけど……出すか」


『出す? なにを?』


「少し、本気出す」


 おお……! と四バカどもが歓声を上げる。


「ノア様が本気を出せば、闇の教団などいちころですなぁ!」


「くく……そこにパワーアップした我ら闇の軍勢が加われば、彼奴らなど一網打尽よ……」


『ライザさんひょっとして前世ノア様ととても波長あうんじゃ……あ、らめ、尻尾は敏感だかららめー!』


 俺はロウリィを放り投げて、マントを翻す。


「俺が先陣を切る。おまえたちは後からこい」


「「「ハッ……! お待ちしております!」」」


 俺は窓から飛び降りると、飛行魔法を使って空へと昇る。


『具体的に何するんすか? 本気出すって言ってたっすけど……?』


 ロウリィが白竜の姿でついてくる。


「世界を……改変する」

『せ、世界の改変!? い、いったいどんな大魔法を使うんすか?』


「ま、これ正直めっちゃ疲れるから、使いたくなかったんだけどね」


 パンッ……! と俺は空中で柏手を打つ。

 その瞬間、俺の足下に、極大の魔法陣が展開した。


『す、すげえ……こんな大魔法を、無詠唱で! それになんて魔力量……これが、ノア様の、本気……?』


「まあ全力全開じゃあねえがな。だいたい本気の1%くらい」


『1ぱーでこれとか……』

「普段なんてもっと手抜いてるぞ?」


『もうあんたが魔王で良いっすよ』


 俺は……魔法を発動させる。


 魔法陣が強く輝くと……砕け散った。


 破片が周囲に広がり……やがてそれは……。


『光の……チョウチョ?』


 青く輝く無数の蝶が、周囲に広がっていく。


「さ、いってこい」


    ★


 第七王子ノアが、大魔法を発動させた、一方その頃。


 闇の教団ダークノワール・ブラックシュバルツ団の主要メンバー達が、集って会議を行っていた。


 なにもない闇色の空間に、13枚の大きな鏡が設置されている。


『我ら大幹部、【13使徒】……一人たりとも欠けずに揃ったこと、まずは嬉しく思う』


 鏡の中には黒いマントを身につけた、13人の男女がいた。


 彼らはみな、闇の大賢者ノアール(前世のノア)の信奉者。


 団の中でも、とりわけ信仰心の強い13人である。


『議題は先日あらわれたという、謎の魔法使いについてだ』


『13使徒がひとり、ツヴァイの腹心が、魔法使いのこの少年にやられたという。真であるか?』


 ツヴァイはうなずくと、魔法を発動。

 鏡に当時の映像が再生される。


 黒髪にけだるげな表情、そして赤いマントが特徴的。


『この男は近くのカーター領の領主……ノア・カーターという男らしい。やつは恐るべき力を発揮し……そして、信者たちの記憶を消去して見せた』


 おお……! と13使徒たちは歓喜の表情を浮かべる。


『そこまでの強い魔法の力……ま、まさか!』

『そうだ。ノア・カーター。彼こそが、2000年前に存在した、闇の大賢者ノアール様の生まれ変わりに違いない!』


 大正解であった。


 この世界において、ノアの前世を知っているのは現状ロウリィだけだった。


 しかしここで、最も頭のおかしな連中が、正解にたどり着くことができたのであった。


『これから我らがするべき事は、理解しているな……? 諸君!』


『『『ノア様をお迎えいたすこと!』』』


 彼らにとってノアは、この教団があがめる神に等しい。


 ノアールの復活、そして、そこから始まるのは、闇の勢力による蹂躙活動……。


『ただちにノア・カーターを見つけ出すのだ! 我ら闇の勢力が猛威を振るうときが来た! みなのもの、決起の刻だ! ……だ……だ……………………………………』


 と、そのときだった。


 ツヴァイと呼ばれた男が、急にうつろな目をしだしたのだ。


『ど、どうした、ツヴァイよ!』

『………………え? なにこれ、怖っ』


 急に、ツヴァイが真面目な顔に戻った。


『え、なに? なんでみんな変なマント着てるの? きも……』

『『『どうした、ツヴァイ!?』』』


 ツヴァイの豹変に戸惑う13使徒たち。


『ツヴァイってなんですか? 私はそんな名前ではありませんけど? なんなんですあなたたち?』


『きゅ、急におかしなことを言うな! 我ら13使徒は仲間ではないか!』


『……13使徒って、だっさ。意味分からないですよ……さよなら』


 そう言って、ツヴァイは唐突に通信をきると、その場から立ち去っていった。


『どうなってるんだ……?』


 そのとき、座長を務めていた男の前に、一羽の蝶が横切る。


 ぱぁっ……とはじけると、青い光が彼を包み込む。


 その瞬間……憑きものが、おちたような顔になる。


『うわ! なにこのマントださっ!』

『ひぃい! 部屋中なんか変な道具であふれてる! きもちわるい!』


 13使徒たちが次々と、身につけていたマントを脱ぎ捨てる。


『こ、これはまさか……【精神干渉魔法】!?』


 精神干渉魔法とは、文字通り、相手の精神に作用する、超高度な魔法のことだ。


 相手の記憶を読み取ったり、あるいは、相手の記憶を改ざんしたり……。


『だ、だがあり得ない! 精神に作用する魔法は恐ろしく高度で、この世界で使えるものは絶無……しかも大規模な精神操作魔法なんて、もはや伝説の中でしか存在しない……使えるのは……ま、まさか!』


 そう、ひとり、いる。

 彼らが知る中に、精神干渉魔法の使い手が。


 しかも……離れた場所にいる13使徒、全員の精神に、同時に作用するほどの……


 凄まじい規模の魔法を扱える人物を、彼らは……知っている。


『闇の大賢者さま! どうして! 我らの記憶を消すのです!? どうして……どうしてぇええええ!?』


 ……だが、答えが還ってくるはずもない。

 結局、13使徒、および世界中に隠れ潜んでいた闇の教団員たちは、ノアの魔法で全員、記憶を失うことになる。



 ……その様子を、遥か上空からロウリィとノアが見つめていた。


『世界を改変って、こういうことだったんすね』


 白竜姿のロウリィが主人に言う。


「俺の魔法。【忘却彼方ノ胡蝶マインド・ボム】これで世界中のみんなの記憶から、闇の大賢者のことは綺麗さっぱり忘れてるよ」


『え、それって……教団員だけじゃないく、文字通り全世界の人を対象ってことっすよね。す、すごすぎる……』


「ついでに俺のことを、領民たちの記憶から消しといた」


『んな!? なんでそんなことを……』


「ま、そのほうがいいだろ。俺と関わるってことは、余計なしがらみも増えるってことだしな」


 ノアは前世に賢者、前々世に剣聖の過去を持つ。


 彼によって倒された巨悪は数しれず。


 今回は相手がお遊び集団だったからまだしも、倒された敵の中には、本当に恐ろしい存在もいるのだ。


 彼らがノアの復活を知れば、被害がおよぶのは領民達。


「俺に関わらない方が、みんな幸せになれるよ」


『ノア様…………………………本音は?』


「これで嫌なことから解放された! 最初からめんどくさがらず記憶消しときゃよかったよ!」


『ああ、うん……あんたそーゆーひとっすよね……』


 呆れたようにロウリィがため息をつく。


「さて、これでリスタ含めた領民達は、俺のこと綺麗さっぱり完全に、絶対に、間違いもなく、100%……忘れたわけだ」


『でも、わたしは憶えてるっすよ』


「バカヤロウ。おまえは俺の舎弟なの。死ぬまでついてこい白猫」


 ロウリィは目を丸くする。

 だが……ふっ、と微笑むと、1匹の小さな猫に戻り、ノアの頭の上にのっかる。


『んも~しかたねーっすなぁ。どこまでもついてくっすよ、たとえ、みんなが貴方を忘れても』


 かくして、ノア・カーターという存在は、カーター領の誰の記憶からも消えた……



    ★


「「「さすがです、ノア様!」」」



「なんで憶えてるんじゃぁあああああああああ!?」


 後日、俺が宿屋で休んでいると、リスタたち領民が、俺の部屋にやってきたのだ。


「闇の教団をお一人で倒してしまうなんて!」

「うむ! やはりノア様は超凄い領主さまなのだ!」


 俺がここに居ることは、たぶんリスタのギフトでわかったとしても……。


 え、なんで!?

 なんでこいつら俺を憶えてるの!?


「ノア様、申し訳ございません」

「サラ……」


 婚約者のサラが、泣きそうな顔で言う。


「わたくしのギフト、【完全記憶領主ノアサマアイシテル】が発現しましたの! これは、ノア様関連のことなら全てを記憶でき、永久に忘れることがないというギフトですの!!」


「『こえぇえええええええ!』」



 俺とロウリィ、抱き合って震えるの図。


「人の記憶とは不思議なもので、ふとしたきっかけで、忘れていたものを思い出すことがありますの。わたくしの言葉を聞いたカーター領の皆さまは、ノア様の存在を思い出したのですわ!」


 よっけいなことしやがって!


 しかも……。


「ノア様……水くさいぞ! 闇の教団の脅威に震えずにすむようにと、おひとりで敵と戦い、その記憶を消して一人立ち去るなんて……!」


「なんて……なんて素晴らしい英雄なのでしょう!」


 領民達、号泣の図。


『これまずいっすよ。ノア様、周りに迷惑をかけないよう、一人で強大な敵と戦い、みんなの平和を願って記憶を消し立ち去った……スーパーヒーローになってるっす』


「「「「大英雄ノア様、万歳……!」」」」


「うわぁああ! こんなつもりじゃなかったのにぃいいいいい! どうしてこうなるんだよぉおおお!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>ついでに俺のことを、領民たちの記憶から消しといた マジかよ遂にあのイカレ狂信者共が真人間に生まれ変わるのか? と一瞬期待してしまったが、そんなわけないよな ┐(´-`)┌ もはや彼らの存在がこの小…
[良い点] ちょっぴり真面目に良い感じの終わり?と思ったらw 結局いつものオチ! 1%で駄目でも100%の力を出せば記憶消せるんじゃあ?
[良い点] ノア様最高でした
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ