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33/122

33.第七王子は婚約者の親と熱く拳で語り合う(かみ合わない)



 ある日のカーター領、俺の部屋にて。


 老執事セバスチャンと、そして婚約者のサラディアスが部屋を訪れていた。


「ノア様、実は二つほど問題がございます」


「ふぇ~ん……二つもかよぉ……んだよぉ~……」


 まずはセバスチャンが言う。


「実は現在、我が領地は深刻な人手不足を迎えております」


「は? 人手不足だぁ? なんでだよ」


「このカーター領を訪れる人が増えているのです。理由は、マダム・エリシオンの娼館があるからです」


 どうやらマダムはこの業界でナンバーワンの人だったらしい。

 その人が経営する、しかももの凄い美女揃いの娼館がある、ってことで有名になったそうだ。


 結果、娼館目当てで領地を訪れる男性客が増えているらしい。


「なるほど……客が増えると、宿屋や食堂が必要になる。けど現状だと、客に対して十分な設備や人手が足りんってことだな」


「その通りでございます。領民だけでは手が回りませぬ」


「つっても人を呼んで雇用しようにもなぁ。コネもツテもないし。貴族でも後ろ盾になってくれりゃ、ま、別だろうけどよ」


 とは言え当てがないわけではない。

 婚約者のサラディアス。


 彼女はグラハム公爵家のご令嬢だ。

 こいつの家が後ろ盾になってくれりゃ問題は解決だろう。


 だが……サラは現在、家出中の身なのだ。

 俺を追い掛けて家を出奔してきたのである。


『こんな王子を追い掛けて家を捨ててやってくるなんて、けなげな子っすね。あれ? でも家出したってなれば、お父さんとか心配しないんすかね?』


 白猫ロウリィが、机の上で首をかしげる。


「ノア様。実は二つ目の問題とは祖父のことなのです」


「祖父?」


「ええ。祖父にわたくし、見つかってしまって……戻ってこいと……」


『なんでお爺さんが出てくるんすか? こーゆーときお父さんとかお母さんがクルンじゃないの?』


『サラの両親は死んでるんだよ。現グラハム家はサラのじいちゃんが回してるの』


『はえー……ますます苦労人じゃないっすか。ノア様もっとサラ様だいじにしましょーよ。なに娼館で女遊びしてるんすか……ぐええええ』


 余計なことを言う白猫の腹を手で押しつぶしつつ言う。


「グラハム公爵が帰ってこいって言うなら、帰った方がいいんじゃねーの?」


「いいえ……わたくし、ノア様に身も心も捧げた身! ここを離れる気は毛頭ございません!」


 と、そのときだった。


『ロウリィ。避けた方が良いぞ』

『ふぇ?』


 俺は殺気を感じて、バッ、と座っていた机から離れる。


 その瞬間……執務机が一刀両断された。


『ふんぎゃぁああああああああ!』


 ロウリィは間一髪でそれを回避した。


『なんすか!? なんすかいまのぉ!?』

「ノア・カーターぁあああああああ!」


 部屋の壁がずり下がり、そこから現れたのは……。


「お、お爺さま!」

『サラ様のお爺さん!?』


 細身の老人が、壁の向こうにいた。

 その手には剣が握られている。


 怒りの表情を浮かべて、壁の切れをまたいで部屋の中に入ってくる。


『壁向こうから部屋の中のノア様を斬り殺そうとしたっすか!? やべえ! なんすかこいつぅ!』


「お爺さま! 酷いです! ノア様が死んでしまったらどうするのですかっ!」


 サラが入ってきたグラハム公爵に注意する。


 グラハム公爵はサラにデレデレした表情を浮かべたと思ったら、すぐ表情を引き締める。


「愛しのサラ! こんなところにいたらおまえは駄目になる! 帰るぞ!」


『グラハム公爵は孫を溺愛してるみたいっすね。で、こんなクズ王子に大事な孫はやらん……ってことっすかね……あ、やめて、お腹そんなふうにしちゃらめぇ……!』


 まーた厄介ごとが舞い込んできたよ……。

 ま、でもこれでグラハム公爵がサラを連れて行ってくれたらいっか。


「いやですわ! わたくし……ノア様を愛しているのですから! 死ぬまでノア様のおそばを離れる気はございませんわ!」


 サラは公爵の手を払い、俺の隣までやってきて、ギュッと抱きしめる。


 いやいや、いいからそういうの。

 早く帰ってよ……。


「ノアぁあああああああ! 貴様ぁああああああ!」


 公爵は俺の前までやってくると、持っていた剣を俺に向ける。


「わしと、決闘しろ! わしが勝ったら孫は連れて帰る!」


 うわー……めんどーい……。

 ん? いや……待てよ……これは利用できるかもしれない!


 俺は立ち上がり、真っ直ぐグラハム公爵を見て言う。


「いいでしょう! その勝負……受けて立ちます! 愛するサラのため、必ず勝って見せます!」


「はぁああああん♡ ノア様ぁあん♡」


 そのやりとりを見ていたロウリィが、呆れたようにため息をつく。


『で、無能ムーヴ?』

『いえす、無能ムーヴ』


    ★


 俺がやってきたのは、領主の館の裏庭。


 上半身裸の、グラハム公爵。

 相対するのは俺。


『ノア様ー。なにするつもりっすか?』


 ロウリィがサラの肩の上に乗って、思念で会話してくる。


『【グラハム公爵を徹底的にボコボコにして、こんなひ弱な老人に容赦ないノア様さいてー】作戦』

『うわぁ……まじさいてーじゃないっすか! 相手は婚約者のご家族なんすよ!?』


『うるへー。サラもこれで俺を嫌いになってくれりゃ、一石二鳥よ』

『まあこんな最低王子の呪縛から解放されるとなれば、サラ様にとってメリットあるかもっすけど……』


 おいこら白猫。

 後で憶えてろよ。


「じゃ始めようぜじいさん。言っとくが……手加減しないぜ? 俺は……負けるわけにはいかないからな」


「ああ……! ノア様……そこまでわたくしのことを……ああ! 素敵!」

『サラ様、目ぇ覚まして。そこにいるのは人の皮かぶったクズっすよー』


 一方でグラハム公爵は、やる気満々のご様子。


「可愛い孫娘をこんなクズには譲らん! サラというものがありながら、娼館で遊びほうけただと? ……ぶち殺す!」


『確かに最低っすね。よし、やっちゃえ公爵ぅ!』


 こうして俺とグラハム公爵との一騎打ちがはじまる。


 公爵は手に真剣を握っている。


「いくぞ! ぬぅうん!」


 公爵の体から黄金色のオーラが放出される。


 ドンッ……! と地面を蹴ると、音の速さで突っ込んできた。


『ちょっ……!? はや……!』

「死ねぇええええええええ!」


 ブンッ……!

 すかっ……!


「おっと」

「ぐぬっ! 避けよって!」


 ブンッ! ブンッ!

 すかっ! すかっ!


『あのじいさんもやべーっすけど……それを全部紙一重で躱すノア様やべえっすな……』


「この! ちょこまかと!」


 グラハム公爵が大上段に構えて、俺に剣を振り下ろす。


 俺はその刃を、指でつまんで止めた。


 ずんっ、と俺の周囲の地面が沈む。


『なんつー重い一撃!』

「それを止めるなんて……すごいですわ、ノア様!」


「おうおうどうしたじいさん? これくらいじゃ俺は倒せないぜ?」


「ぐっ! この……! う、動かん! なんだ……このパワーは!」


 公爵は必死になって剣を抜こうとする。


「ほい、デコピン」

「うぎゃぁああああああああああ!」


 グラハム公爵は吹っ飛ばされると、空中で何回転もして、地面に倒れる。


「おじいさまっ!」

『サラ様! あぶないっすよ! 近づいちゃ!』


 倒れ臥すグラハム公爵に、サラが駆け寄る。

 

「ノア様! もう勝負は決しました!」

「いーや、駄目だね」

「どうして!?」


 もっといたぶって、サラに嫌われないといけないからな。


「こんなもんじゃないだろ、じいさん……なぁ?」


 するとグラハム公爵は、にやり……と不敵に笑う。


「そうか貴様……【見抜いて】おったのだな」


「え? ……あ、ああ! もちろん!」


 何のことか知らんけど、知らんと知られてしまったら恥ずかしいので、知ってる振りをする。


「サラ……可愛い我が孫よ。下がっておれ」

「しかしお爺さま!」


「この男は……わしの全身全霊を持って倒す価値のある益荒男ますらおよ」


 ふらりと公爵が立ち上がる。


「ぬぅううううううん!」

『う、うわああ! お爺さんの筋肉が倍に膨れ上がって、なんか屈強な戦士みたいになってるっすぅううううう!』


 ごおお! と先ほどよりも強烈なオーラを放出する。


『なんすかこのじいさん! ただ者じゃないっすよぉ!』


「いくぞノアぁ!」

「来い、じいさん!」


「「うぉおおおおおおおおおお!」」


    ★


 翌日。


「さすがですわ、ノア様!」

「ふぁっ!?」


 婚約者サラディアスと、その祖父であるグラハム公爵が、俺の前にいる。


 公爵は包帯グルグル巻きだ。

 俺が完膚なきまでにボコったからな。


 これでサラに嫌われる……って思ったんだが……。


「見事だ、ノア。よくぞ、元剣聖であるわしを打ち倒した」


「も、元、剣聖ぃ!? あんたが!?」


「そうですわ。お爺さまは2代前の剣聖なのですわ」


 あ、あれ? そうだったの!?

 あんな弱っちいのに!?


「ふっ……ノア。貴様は見抜いておったのだな。わしが元剣聖で、あの程度では死なぬことを。だから手加減しなかった。そうだろう?」


 いや単純にボコボコにして、サラに嫌われようって思ってたんだけど……。


「そして……フッ……伝わってきたぞ、おぬしの剣から、サラへの愛が」


「ノア様……♡ 好き……♡ 好き……♡」


 サラは目を♡にして、俺の腕に抱きつく。 

 え、ええ~……なんで好感度爆あげされてるの?


『愛する婚約者を取られまいと、元剣聖に果敢に挑んだ、カッコいいナイト様みたいじゃあないっすか』


 そういうことかぁあああああ!


「ノアよ。わしは貴様を認めよう。サラとの婚約を許し、さらにグラハム公爵家はカーター領を全面的にバックアップを約束しようじゃないか」


『おー、これで人手不足も解消じゃないっすか。良かったねノア様』


 良くねぇええええええええ!


「さすがですわノア様! 二つの問題を同時に解決してみせるなんて……はぁ……♡ やはりわたくしの目に狂いはなかった。あなた様は、最高の領主さまで……わたくしの最高の旦那様ですわぁ♡」


 どうしてこうなったぁああああああ!

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― 新着の感想 ―
いや今回はどう考えても、 負けてサラを連れ帰ってもらった方が無能ムーヴ+狂信者減で、 一石二鳥だったろ。自ら剣での決闘を申し込む自信満々の相手なんだから、 それに対し勝った方が有能認定に決まってるじゃ…
[良い点] ロウリィがだんだんとだめになっていく。
[良い点] サラさんはもうノアさんにメロメロですねw [一言] 決闘でわざと負ければ良かったのに…w
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