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25/122

25.第七王子は帝国の皇子を救出する(結果的)



 ある日のこと。

 領主の館に、1枚の手紙が送られてきた。

 俺の部屋にて。


『ノア様ー、誰からの手紙なんすか?』


「えーっと……メイシェン姉上からだ」


『この間手紙送ったっていう……たしか帝国に嫁いだお姉さんっすよね』


「そうそう。えーっと……なになに、近いうちに会いに行きます、と。到着日……今日じゃん」


 姉上はわざわざ帝国からこっちに、俺の様子を見に来るらしい。


 それは先日、俺が姉上にヘルプコールを送ったからだ。


『結局無駄になっちゃったすけどね』

「いや……待ちたまえロウリィくん。これは……チャンスかもしれん」


『チャンス?』

「ああ。この手紙には旦那さんと一緒に、カーター領に来ると書いてあった」


『旦那さんってーと……』


「姉上は皇帝の息子、つまり皇子と結婚してるんだ」


『はえー……皇子さんも来るんすか。で?』


「うん、皇子を誘拐しよう」


 ブッ……! とロウリィが吹き出す。


『ちょっ!? 誘拐!? 何言ってるんすか!』


「いつもの無能ムーヴだよ。いいか、皇帝の息子をさらったら、親はどう思うよ?」


『そりゃブチ切れるっすよね。最悪、戦争になるかも……』


「そう! そうしたら皇帝の兵士達がこのカーター領にどわーっと攻めてくる! 上手くいきゃ領地は滅ぼされる! 領地が滅ぼされれば領主なんて必要なくなるって寸法よ!」


『ちょっ! さすがにそれは……領民に迷惑かけてるし……』


「あいつらには騎士団長ディーヴァ魔道士団長ライザがついてるし、恩恵ギフト持ちの領民どもがそう簡単に死ぬかよ」

 

『いやだとしても……領地に迷惑が掛かるような……』


「それがいいんだよ。無意味に皇子に刃向かったバカ領主ってことで、リスタたち領民に呆れられてもいいわけだ。どっちに転んでもおいしい」


『あんたもっとその悪知恵を、少しでも領民の安寧のために使った方がいいんじゃないっすか……?』


「バカヤロウ! そんなことしたらより尊敬を集めて、辞めるに辞められなくなるだろうが!」


『既に底なし沼に頭から突っ込んでるきがするっすけどね……』


「やかましいっ! とにかく……これで俺の方針は決まった。これからやってくる姉上の配偶者である、皇子を誘拐するぞ!」


    ★


 やってきたのは領主の館の外。


 奈落の森アビス・ウッドのとある一画。


 魔力感知によって、姉さんの魔力が近づいているのはわかっていた。

 

「よーし、レッツ誘拐★」

『ノア様、やめたほうがいいっすよ。誘拐なんて、人道に反するっすよ?』


 俺は魔法で宙に浮いている。

 肩には白猫のロウリィ。


「なに、別に誘拐して酷い目に遭わせる気なんて毛頭ない。ちょいと誘拐犯のまねごとするだけさ」


『まねごとって?』


「つまりよ、馬車を襲って、皇子を眠らせるみたいな、そのくらいよ。さすがに姉上を傷つけるわけにもいかないしな」


『はぁ……ん? ノア様、馬車がこっち来るっすよ』


「おお、さっそく来たか! どれどれ」


 俺は遠見の魔法を使って、森の奥を見やる。


 姉上の魔力を載せた馬車が、こちらに向かって走ってきていた。


「ターゲット確認! ふはは、これより作戦に入る!」


『拉致なんてやめたほうが……って、あれ? ノア様、なんか人、多くないっすかね』


「あん? ……確かに」


 馬車は1台だ。

 だがその周りに馬が何頭も取り囲んでいる。


『それに馬車がなんか急いでる感ないっすかね? 皇子と婚約者のせてるなら、もっとゆっくりで来るんじゃないっすか?』


「そーかぁ? あんなもんじゃね? 知らんけど。馬車の周りの馬は多分護衛だな」


『護衛……かなぁ〜?』


「あー、もううっさいなぁ。おまえは黙って見てろ。この名優ノア様の、華麗なる演技を!」


 俺は空中から高速で移動し、馬車の前に着地する。


 風魔法を使って派手な着地を演出した。


「「「どわぁあああああああ!」」」


 馬車は停止。


 周りに居た【護衛】たちは吹っ飛んでいく。


「だ、誰だてめえ……!」


 護衛のリーダー格らしき男が、俺に問うてくる。


 皇子を守っているんだ、恐らくは騎士だろうな。


『騎士にしちゃ、柄が悪くないっすか、こいつら……もしかして騎士じゃなくて……』


「俺はノア・カーター! 今からてめえらの大事なモンいただきに参上したぜー! ひゃっはー!」


『ノア様完全に悪役っすよそれ……』


 護衛達が俺を見てたじろぐ。


 装備は貧相、魔力もほとんど感じない。


 おいおい、皇子の護衛にしちゃお粗末だなぁ。


「だ、だいじなもの……いただくだと?」


「ああ、皇子だいじなものはいただくぜぇ〜」


『なんか絶妙にかみ合ってないっすけど……』


 護衛達が怯える一方で、リーダーが怒声を張り上げる。


「や、やっちまえてめえら!」


「できるもんならな。ほい、指ぱっちん」


 ドサッ……!


「って、えぇえええええええ!?」


 護衛達はその場で倒れ臥している。


 リーダーは部下を失って、あんぐり口を開いていた。


「て、てめえ! 何しやがった!」


「あん? 気絶させただけだぞ」


「どうやってだよ!?」


「風魔法を使って、酸素を奪ったんだよ」


 ザコどもを魔法でぼがーんと吹っ飛ばしてもいい。


 だがここは森の中で、しかも後ろには姉上たちの乗った馬車がある。


 傷つけるわけにはいかないので、こうして地味な解決法を使うことにした。


「相手から酸素を奪って擬似的に酸欠を起こし気絶させたってわけ」


『なんて緻密な魔法操作っす……しかも無詠唱でやるなんて、さすがっすわ』


「あん? 詠唱なんてクソダサワードなんて、普通使わないだろ?」


『あんたの普通が普通だったためしある!? 少しは学んでくださいっすよ!』


 さて残りはリーダー格だけだ。

 正直こいつも気絶させても良かったんだが、ひとりは残しておきたかったんだよね。

『どーしてっすか? 手心を加えたんすか?』


「メッセンジャーに決まってるだろ。一人くらい残して、皇子がさらわれたってことを帝国に知らせてもらわねーとな」


『ああ、うん、ですよね〜……』


 ガタガタ……とリーダーが震えている。


「ば、化け物だ……」

「ふはは! そうさ、カーター領の領主は悪徳領主なのだよ! てめえらのトップにそう伝えろ」


 俺は指を1本立てる。


 さっき奪った酸素を、ゆびさきに収束させている。


「そーら、いってこーい!」


 俺は収束、圧縮した風を解放する。


 リーダーは強風を受けて、空へと吹っ飛んでいく。


「おぼえてろぉおおおおおおおおお!」


 星になったリーダーを見て俺はひとりうなずく。


 よし、これで帝国に戻って、皇子が連れ去られたことが伝わるだろう。


『いや多分、あの人がいくの、帝国じゃないと思うんすけどね……』


「はぁ? 意味わかんねー。ま、いいや。さぁて、本命の皇子さまを連れ去りに行きますかね」


 俺は立ち止まっている馬車に近づく。


 荷台をガラッと開ける。


「ひゃっはー! ノア様参上だ! 命がおしけりゃ大人しく俺の言うことを聞くんだなぁ!」


 中にいたのは、ドレスを着た美しい女性……メイシェン姉上。


 そして、姉上に抱かれて震えている、子供が一人。


「あり? 皇子は?」


 すると震えていた子供が、俺を見て目を輝かせる。


「ありがとうございます、のあどのー!」


「…………へ?」


 子供が俺の腰にしがみついて、わんわんと泣き出した。


「もう駄目かとおもってぇ〜……でも、のあどのがたすけてくれたからぁ〜……わー!」


「え、ええっと……姉上、どういうこと?」


 メイシェン姉上が目をパチクリしている。

 状況を理解したのか、姉上がうなずく。


「ノア。ありがとう。わたくしたちを助けてくれて」


「はえ? 助ける……?」


「わたくしたちはここへ来る途中、盗賊団に襲われていたのです」


「と、盗賊うぅ!?」


『あー、やっぱり。騎士にしては身なりがあれでしたしね』


 つまり……つまりだよ?

 俺は、盗賊に襲われていた皇子を、助けたってことに……なるわけ?


「のあさまっ!」


 キラキラ……とした目を、皇子が俺に向けてくる。


 あー、この目、知ってる。

 よーく知ってるよぉ……。


 領民リスタたちと、同じ目だよぉ……。


「ぼくたちをたすけてくれて、ありがとう! やはり、のあどのは、メイシェンのゆーとーり、やさしくて、すごいひとですっ! さすがですー!」


『あー、こりゃあかんっすね。皇子助けたことになってるっすよ。これじゃ戦争なんて無理っすね〜』


「うぼぁああああああ! どうしてこうなったぁあああああああ!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ああ。この手紙には婚約者と一緒に、カーター領に来ると書いてあった」 『婚約者ってーと……』 「姉上は皇帝の息子、つまり皇子と結婚してるんだ」 は?婚約者って言っといて結婚してるんだ?…
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
[良い点] 相変わらずのアホっぷりとうっかり有能ムーヴw この先もずっとこの調子で進んでほしいですw
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