23.第七王子は母の前で有能さをアピールする(逆効果)
俺が駄馬兄を追い払ってから、しばらく経ったある日のこと。
領主の館、執務室にて。
「ノア様たいへんですー!」
「……どーしたリスタぁ……」
俺は書類の山のなかで死んでいた。
領地が発展すればするほど、俺が無能ムーブすればするほど、俺に回ってくる仕事がなぜか増えていくのだ。
「館の前にすごい馬車が、それとすんごい美女が来てます!」
「美女……? よくわからんが、まあ通せ」
ややあって。
「ノアちゃ〜ん、お久しぶり〜」
「は、母上……」
入ってきたのは俺の母……つまり王妃さまだ。
常にニコニコしている顔が特徴的である。
「母上というと……え!? 現国王の奥方さまですか!?」
「そうよ〜。【ユノ=フォン=ゲータ=ニィガ】よぉ〜。よろしくね〜」
ほわほわ笑いながら母上がリスタと握手する。
リスタは目を白黒させていた。
気持ちはわかる、母上は平民にもフランクに接するから、王族な感がないんだよな。
「母上、こんな辺境の地になんのようです?」
『あ、いちおう母親には敬語使うんすね、ノア様……ぐぇえええ』
俺は白猫ロウリィを握りつぶして、ソファに座る。
「ノアちゃんの様子を見に来たの〜。ダーヴァちゃんから話聞いたんだけど、いまいちよくわからなくって〜」
「駄馬兄め……余計な情報もらしやがって……」
「ノアちゃんの仕事っぷりを見学しに来たの〜? 急にごめんね〜」
……ふむ。
どうやら王妃である母上は、7番目の息子がきちんと領主してるか見に来たみたいだ。
……これはチャンスかもしれん。
ソファのクッションとして敷いているロウリィが、呆れた調子で言う。
『ノア様また無能ムーヴ思いついたんすか……? 無駄なのに……』
『うるさい。今回はいつもと違うぞ。無能ムーヴなどもう遅い』
『どゆこと?』
『つまりだ。母上に俺がいかに有能であるかをアピールするんだっ』
『はぁ? 有能なのバレたら、今までやってきたこと無駄になるじゃないっすか』
『逆に考えるんだ。ここで母上が、俺が有能だと知ったとすると、どうなる? こんな辺境に置いとくにはもったいない人材だってことで、王宮への正式な帰還命令が来るかも知れないじゃないか!』
『なるほど……って、あれ? この間、駄馬兄さんが、ノア様を連れ戻しにこなかったすか?』
『ま、まあそうなんだよな……あのときはちょっと感情的になっちまってよ。冷静になって考えりゃあのとき帰ればよかったなって』
『それな。まあ親である王妃が直接ノア様連れて帰りたいっていえば、さすがに領民達も親が心配してるからって理由で返してくれるかもっすね』
『そーだよそのとーり! ロウリィくんわかってるぅ〜』
俺はクッションにしてたロウリィを持ち上げて、よしよしと頭をなでる。
「ところでノアちゃん、さっそくなんだけど、お仕事っぷりを見学させてくれないかしら〜」
「もっちろん! 見てってください、俺の、仕事っぷりを!」
★
俺がやってきたのは、カーター領に隣接する奈落の森。
浮遊魔法で俺と母上が浮いている。
「母上、貴方の息子の仕事っぷりを、特等席でごらんになってください!」
「あ、あらあら〜……まあ〜……これは……すごい……」
母上はまだ何もしてないのに、目を丸くしていた。
なんだろうか……まあいい!
「ノアちゃん、これから何するの〜?」
「領民からの知らせによると、モンスターの大群がこちらに押し寄せてくるとのことでした」
奈落の森。
ここは強力な魔物がうろつく、人の立ち入れぬ恐ろしき魔境とされていた。
最近は道路などが開発され、魔物の住処は奥に追いやられた。
だが完全にやつらがきえたわけではない。
「まぁ〜。恐ろしいわ〜。その大群をどうするの〜?」
「このノアが一瞬で消し飛ばして見せましょう!」
「モンスターの大群を、ノアちゃんがひとりで……?」
「ええ、おみせいたしましょう……このノア・カーターの力を!」
まあとは言え、全力なんて出す気はさらさらない。
『どうしてっすか?』
『この星ぶっ壊したら意味ないだろ?』
『星壊せるってどんだけっすか……ノア様の全力……』
『え、だれが全力出さないと星壊せないって言った?』
『魔王かよ! いやもうあんたが魔王で良いよ!』
さて……と。
やり過ぎない、だが派手に有能をアピールするなら……。
やっぱり、これだろうな。
俺は頭上に手を上げる。
巨大な魔法陣が展開。
「【無限流星雨】!」
何千、何万もの魔法陣が頭上に展開。
そこから降り注ぐのは隕石群だ。
キラキラと尾を引きながらモンスターのみを、ピンポイントで圧殺していく。
ズドドドドドッ……!
『まるで地上に降り注ぐ無限の流れ星……やべえよ、ノア様こんな広範囲殲滅魔法つかえたんすね』
『まあ相手弱そうだったし、ゴミ掃除ならこの初歩魔法で十分だろ』
『いやこれ初歩の魔法じゃないんすけど……』
ほどなくして、流れ星がやむ。
眼下に広がっていたモンスターの大群は、俺の放った魔法によって、1匹残らず殲滅したのだった。
★
ザコを殲滅した俺は、森の入り口へと降り立つ。
母上は目を伏せ、何事かを考えるような仕草をする。
「どうだい母上! これでわかってくれた!?」
「ええ。よーくわかったわぁ」
「でしょでしょ〜! じゃさっそく俺を……」
「ノアちゃんが、この領地に必要不可欠な傑物であることを〜」
「そうそうこの領地に必要不可欠……って、ぇえええええええええええ!?」
驚いている俺をよそに、母上はニコニコと微笑んでいる。
いや必要不可欠って……!
「母上なにいってるん!? この優秀な息子をこんなへんぴな田舎に置いてくと!?」
「だからこそよ〜。ノアちゃんじゃなきゃ、この魔物が跋扈する森の領主なんて、務まらないもの〜」
スッ……と母上の目が見開く。
閉じているときはのんびり母さんだったけど、目を少しあけることで、切れ者感が半端なくなる。
「あなたの持つ才能は、この領地でこそ輝くものよ〜。王都のドブ沼のなかにいちゃ、せっかくの輝きが色あせちゃうわ〜」
「そ、そんなぁ〜……」
と、そのときである。
「「「「ノア様ぁああああ!」」」」
どどどっ、とリスタを初めとした領民たちが押し寄せてくる。
そういえばアインの村が近かったなここ。
「さすがノア様です! 魔法で星を降らし、魔物の大群を倒してしまうなんてっ! まさに神業! あなた様は神!」
リスタ、および領民達の目がキラキラと輝いていた。
ま、まぶしすぎる……いや、駄目だ!
「え、ええ〜? 俺、なにかしました〜? 俺なーんにもしてませんけどぉ〜?」
『うわー、この人、有能ムーヴしてもお母さんに王都に連れてってもらえないってわかった瞬間、無能ムーヴに切り替えやがったっす……』
「いいえ! 我々はちゃあんと、ノア様のご活躍を、この目に焼き付けておりましたッ!」
うんうん、と領民達が力強くうなずく。
「ノア様は宙に浮き、手をかざした瞬間に星が降り出したのです! まさに神話の一ページかのごとくワンシーンでした! さすがノア様ですっ!」
「いやいや、たまたま手をかざした瞬間星が降ってきた可能性だって微レ存……」
「ご謙遜をなさらないでください! 宙に浮くなんて超高等魔法を扱えるお方なのですから、星を降らすことだって容易いはず!」
え、ええー!?
浮遊魔法ってそんな高度な魔法だったのー!?
「ノアちゃんはすごいわ〜。しかも無属性の極大魔法【無限流星雨】……いにしえの勇者様以来、使えた人はいなかったのにね〜。ほんとすごいわ〜」
『このオカン……絶対知っててやってたっすよ、たぶん』
ロウリィが確信めいた表情でうなずく。
どういうことだってばよ!?
『おそらくノア様の有能さをさらに知らしめるために、連れて帰るふりをして、ノア様に有能ムーヴをするように仕向けてたんすよ』
「なんてこった! 策士かうちの母ちゃんは!」
『というかノア様がバ……ぐええええ!』
……なにはともあれ。
領民達、そして母の前で、まんまと有能ムーヴをかましてしまった俺!
くそ!
どうしてこうなったぁあああああ!




