16.第七王子は魔族と決闘する(負けたい)
俺、ノア・カーター。
無能王子として王家を追放され、やってきたのは辺境の土地。
これから始まるスローライフに胸を躍らせていた。
だがいつの間にか領民達には有能であることがあっさりバレる。
さらに俺の元に次から次へとヤバい領民どもが集まってきて……。
そこに、魔王と魔族が加わったのだった。
「なんでだよぉおおおおおおおおお!」
領主の館、執務室にて。
俺は頭を抱えて叫んでいた。
「なんっで魔王が向こうからやってきて、しかもなんだか知らんうちに部下になってるんだよ!」
『ノア様に抵抗したらやべーって思われたんじゃないっすか? 現魔王は子供だったみたいでしたし』
白猫ロウリィが机の上でだらんとしながら言う。
くそっ! 俺も猫になりてええ。
「く……くく……だがなロウリィくん。まだだ。まだ、俺の無能ムーヴはこれからだよ」
『はいはい。で、今回はどんなことやるんすか?』
「まあこれを見たまえ。先ほど俺の元に届いた封書だ」
『どれどれ……【果たし状】?』
「そ。現魔王が人間の軍門に降るのが、お気に召さない魔族どもから決闘を挑まれたって事さ」
封書は3つ。
どれも特級魔族とやらからだった。
魔族には力によって階級が分れている。
最上級に分類されるのが特級なんだそうだ。
『んで、受けるんすか、決闘?』
「もちのろんだ! いいか作戦はこうだ。【ノア様、実は弱かったんですねガッカリ】作戦だ!」
『うわー……秒で失敗しそう』
「うるさいよ! いいか、相手は俺に不満を憶えている魔族だ。領民の前でそいつらと戦って負ければ、なんだノア様って実は魔族に負けるほど弱いんじゃんって呆れられて、俺が領主を無事引退! って寸法よ」
『どうしてこの人は、自分のやる行動が全て裏目に出るって学習しないんだろうか……ぐぇええ!』
「今度こそ……俺は無能王子だって、証明する! やつらの俺に対する評価が過大だったと! そのために……俺は、全力で負けるぞぉ!」
★
領主の館の裏庭にて。
俺の前には、3人の特級魔族が集まっていた。
『ふぇふぇふぇ……こんなのが我らの王になろうという愚か者かぁ?』
『あ゛ーん? ただのガキじゃねえかよぉ!』
『……笑止』
それぞれの見た目は。
草の亀、火のサル、水のペンギン。
みたいな感じだ。
名前は、
グリーン・タートル。
レッド・モンキー。
ブルー・ペンギン。だそうだ。
『やる気のねーネーミングっすね』
「だが奴さんなかなかやるぜ? 少なくとも、この間のアウトサイドとかいうアホよりは強さを感じるよ」
『でもノア様の敵じゃないんっすよね?』
「寝てても勝てるわ。勝つ気はないけどな!」
モンキーたちは既にやる気十分のようだ。
一方でギャラリー(領民)たちは、腕を組んで俺を取り囲んでいる。
「ノア様だいじょうぶかな……」
「ばっかやろう! ノア様が負けるわけないだろ!」
「そうだそうだ! ノア様なら100%絶対確実に勝つに決まってる!」
負けフラグを立ててくれてありがとう、領民達よ。
「審判はこのわたくし、サラが務めさせてもらいますわ」
婚約者のサラが中央に立っている。
俺はつかつかと彼女に近づいて、肩に手を置く。
「ひゃっ♡ の、ノア様……?」
「サラ、俺、この戦いが終わったら、お前に言いたいことがあるんだ」
「え……そんな……皆さまがいる前でそのぉ……♡」
「俺、勝つよ。勝ってきみに伝えたいことがあるんだ」
「はいっ! 信じています……ノア様が勝つと!」
よし、これだけ負けフラグをまいていたら、負けても良いよね!
俺は特級魔族を見やる。
「かかってこいよ魔族ども。カーター領の領主……ノア・カーターが相手だ!」
「では……はじめ!」
さてまずはお手並み拝見と行きますかね。
とりあえず適当に、戦うフリをしないとな。
やる気ないって思われて負けるのはだめだ。
本気で挑んだ風に見せて、負ける。
これよ。
俺はほんの少し魔力を解放する。
『うげぇえええええええええええ!』
グリーン・タートルがその場に膝をついて、ゲロを吐き出した!
え、なんで!?
『なんという……莫大な魔力量……その量、質ともに……魔王様を超えるレベル……だと!?』
「え? 嘘だろ……こんな程度で?」
普段魔力量は制御している。
1%も解放してないのに、なにこいつ倒れているの……?
火のサル……レッド・モンキーが冷や汗をかきながら言う。
『け、けけっ! は、ハッタリに決まってるだぉ!』
「そうだそうだ! 見かけ倒しにびびってんじゃねえぞ!」
『ノア様どっちの味方なんすか!?』
モンキーが体から炎を噴出させる。
炎の推進力をつかって、俺に向かってくる。
そうそう!
そーゆーの欲しかった!
『炎脚!』
モンキーは炎の推進力を利用した跳び蹴りを、俺に向かって放つ。
ここだ……!
「『ぐわぁああああああああああ!』」
……って、あれ?
俺だけじゃなくて、なんでモンキーも悲鳴あげてるの?
なんだか知らんが、モンキーは空中にすっ飛んでいた。
くるくると回転すると、ぐしゃり、と顔から落ちる。
「は、早すぎて何が起きたのかさっぱりだ!」
「いやでもノア様がなにかやったのだ!」
「すげええ! ノア様、あんなスピードの攻撃をものともしないなんて!」
いやいやいやいや。
え、なに、何が起きたの?
『ノア様すごい速度で相手の攻撃を躱し、カウンターをたたき込んでたっすよ?』
『カウンター!? いや、そんなのいれてねえよ。ただ、攻撃が当たる直前、痛いの嫌だし最小限の動きでよけただけだよ?』
『避けたとき腕がぶつかってたんすよ。たぶん反射っすね。あんた武術の達人だし、呼吸するみたいにカウンター入れちゃうんすよ。あのスピードでカウンター入りゃ、そりゃぶっ飛ぶっす』
しまったぁ!
ついいつもの癖で!
いや、だって……攻撃が来たらカウンターするでしょ普通!?
必須技能でしょ!?
リンゴを投げたら地面に落ちるみたいに、攻撃が来たらカウンター、入れるでしょ!?
『いれねーよ』
くそっ!
ま、まあいい……残りあと一人いるからな。
「……我の出番か」
ブルー・ペンギンが最後の砦だ!
たのむ! おまえが決めてくれ!
もういい、さっさとデカい魔法バーンって放って、俺がぐわー参りましたーって倒れる!
これでいい!
終わらせてくれ!
「……わが必殺の極大魔法……! くらえ、【絶対零度棺】!」
ペンギンが口を開くと、そこから極低温の猛吹雪が走る。
それは一瞬で大地を凍らせる。
「ふ……ふはははは!」
そう、それだよ!
俺が望んでたものはそれなんですよ!
さてぶっ飛ばされるぞー……。
『ぐわぁああああああああああああ!』
「ふぁ……!?」
相手の氷の魔法が……反射された。
相手が一瞬で氷漬けになる。
『なんだ今のは……魔法が……はじかれた……! 魔法反射か!? いや攻撃反射か!?』
「え? いや……俺なんもしてないけど……ただ笑っただけで……」
『……笑ったときの吐息だけで、極大魔法を打ち破ったというのか。なんという……規格外の、化け物……め』
え、ちょっと?
あれ、ペンギンさん?
凍り付いたまま沈黙してない!?
「え、俺……まだ何もしてないんですけど!?」
『二度の前世を持つノア様からすりゃ、今の相手なんて戦わずとも勝てる相手ってことなんすね。やっぱすげーっすわあんた』
「ああああああ! なんでこんな弱いんだよこいつらぁあああああ!」
今世は、全体的なレベルが落ちているとはロウリィから聞いていた。
だが、まさかここまで弱いとは想定してなかったぞ……!
や、やばい……負けるつもりが……なんか勝っちゃった?
「「「うぉおおおお! すげええ! さすがノア様ぁあああああああ!」」」
領民達が涙を流し、歓声を上げる。
ああやっぱりだぁ!
「ノア様はやはりお強いかただ!」
「特級魔族三人を瞬殺なさった!」
「やはりノア様は武勇を兼ね備えた最高の領主さまだー!」
……ああもう、負けて無能のフリすらできないのかよ!
なんて弱いんだよこの世界の魔族うぅうう!
ああもう、どうしてこうなったぁああああ!




