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15/122

15.魔王、領主の配下となる



 ノアが特級魔族を討伐した、一方その頃。

 奈落の森アビス・ウッドの奥地に存在する、魔王国ケラヴノスティアにて。


「なんじゃと? アウトサイドが……こ、殺された……と?」


 魔王の城、謁見の間。

 玉座にすわるのは、10歳くらいの幼女だ。


 赤く長い髪に、黒い角。

 つるんぺたんとしたボディに似合わない古風なしゃべり方。


「おっしゃるとおりです、魔王様」


 そう……この子供こそが、現魔王である【ヒルデガルド】……ヒルデだ。


 ヒルデに報告したのは、部下の魔族【ツェルニ】だ。


 青いショートヘアの、20代くらいの魔族である。


「ツェルニよ……まことか? アウトサイドは特級……我らのなかで最上位の強さを持つ魔族だぞ?」


「ヒルデ殿下。間違いございません。それに、彼が率いた1万の軍勢も、冥府領の領主によって消されました」


「そうか……ふっ……」


 ヒルデは玉座にふんぞり返り、ふっ……と微笑むと……。


「うわぁあああん! どどど、どうしよぉおおおおおおおおおおお!」


 ヒルデは玉座の後ろに隠れて、がたがたぶるぶると震える。


 その姿はとても魔族たちの王様とは思えないほどだった。


 しかたのないことだ。

 彼女はまだ若い。


「わしには無理じゃああ! 父上ー! たすけてー!」


「……お父様はお亡くなりなりましたよ。だから今、無能なあなた様が仕方なくトップに立っているのでありませんか」


「おいツェルニ! 今わしを無能と呼んだか!?」


「……違うのですか、無能な魔王……無能王むのーさま?」


 冷ややかな目でツェルニは魔王を見下ろす。


「ヒルデ様は確かに前魔王様の直系。しかしあのお方ほどの力がなく、魔王国を統一できなかった。ゆえに、力を持つアウトサイドのような特級たちが調子に乗って、好き勝手されてしまうのですよ」


「ぐぬ……だ、だってしょうがないじゃろ! わしは……半魔なのじゃから……」


 半魔。つまり、人間と魔族のハーフ。


 ヒルデは完全に魔王の血をひいてるわけでないのだ。


 ゆえに一部の、力ある魔族たちからは馬鹿にされている。


「……まあ、それでも死んだ父親の威厳を保とうと、必死になって魔王を演じてるところは評価ポイントですがね」


「ツェルニ!」


「……もっとも本当に力のある輩には見限られてますが」


「ツェルニぃ!」


 ヒルデは部下の胸に飛び込む。


「わしは頑張ってるんじゃよぉお……!」


「……よしよしお可哀想な魔王様。ほんとうは口下手で引きこもりなのに、がんばって魔王ぶってるところ最高に憐れで素敵です」


「おぬし……わしを馬鹿にしてる?」

「……そんなまさか。魔王様にそんなまさか」


 一切表情を変えずツェルニは言う。


「……しかしどういたします? 冥府領の新領主、そうとうに厄介ですね」


「うむ……ヤバい。正直ヤバすぎる。火山亀を一撃で倒し、ひそかに領民を育て屈強な戦士にし、さらに自身も特級を倒すほどの実力を持つ……」


 ふっ……とヒルデは微笑む。


「あかん……勝てっこない」

「……そうですね。攻められたら魔王様なんて指先一つで頭パーンでしょうね」


「ひぅううううう! 怖いよツェルニぃいいいいいいいい!」


「……しかし魔王様、そのほかの力なき魔族たちは、もっと怖い思いをしておりますよ」


 魔族は一枚岩では決してない。

 全員が力を持ち、人間に恨みを持っているわけでない。


 前魔王が生きていた全盛期はそうだったかもしれない。


 しかし今は……あの頃からだいぶ衰退している。


 戦を知らない魔族の子も増えてきている状況だ。


 騒いでいるのは、平和な世界に納得がいかない、アウトサイドのような老害どもだけである。


「いいじゃん、平和ならさぁ。みんな引きこもってコミックスでも読もうよぉ。なんで好き好んで人間と戦おうとするわけ?」


「……やはり前魔王様が人間に負けたのが、許せない層が一定数いるからでしょうね」


「よいではないか別に……戦いなんて怖いだけじゃ」


「……ええ、それはあなた様だけでなく、力ない魔族たちも同じですよ」


 アウトサイドが引き連れていったのは、人間に害をなそうとする、好戦的な魔族たちのみ。


 今、魔王国に残っているのは、平和主義者で、力のない低級魔族だけだ。


「……情報によりますと、【冥府の領主】は戦の準備を進めているようです」


「ノア・カーター……ボロボロだった冥府カーター領を短い時間で立て直した、最高最善の領主……か」


「……武術、魔術、戦術に優れ、部下からの信頼も厚い……まさに人の上に立つために生まれてきたような御仁、とのことです」


「そんなヤバいヤツがどうしてこんな田舎の領主に……?」


「……さぁ。ただいずれこちらに攻めてくるのは確実かと」


「ううむ……。……ううむ。うわぁあああああああん! 嫌じゃぁあああああ!」


 ヒルデは地面に寝転ぶと、じたばたと手足を動かす。


 ツェルニはそんな主の姿を見てハァ、とため息をつく。


「死にたくない死にたくない死にたくないよおぉおおおおおお! ……でも」


「……でも?」


「……ここで何もしなければ、亡き父に申し訳が立たないよ」


 ヒルデは腐っても魔王の娘だ。

 か弱き魔族たちを守る……義務がある。


「なぁ、ツェルニ。わしが冥府の領主に挑めば……どうなるかな?」


「……死にますね、確実に」


「そうじゃな……。なあ、仮に、わしの命と引き換えになら、あやつは魔族を保護してくれるじゃろうか」


「……それは、自らの命を差し出し、その代わりに魔族の保護を訴えるということですか?」


 ああ、とヒルデは弱々しくうなずく。

 それ以外に、魔族が生き残る道はない。


 ノア・カーターは、単騎でも国を滅ぼすほどの力を持つ。


 そんな彼が自ら育てた軍隊は、天下無双の最強軍隊だ。


 そんなやつらと真正面から挑めば、滅ぼされるのが必定。


 さらにアウトサイドがケンカを売ったことで、早晩、向こうがこちらを滅ぼしに来るだろうことは確定している。


 決断するなら……今だ。


「……ツェルニ。ノアのもとへ行くぞ」

「……かしこまりました」


 ヒルデの小さな体が震えいてた。

 彼女は死ぬ覚悟だった。


 自らの命をさしだし、降伏を宣言する。

 それが……魔族の王たる自分の責務。


「……ご立派ですよ、ヒルデ様」

「うぐ……ふぐぅう……うぇええええええええええええええん!」


 ……かくして、魔王ヒルデガルドと、従者ツェルニは、魔族たちの保護を求めに、ノア・カーターのもとへ向かうのだった。


    ★


「なんで魔王が自分から来んだよっ!」


 領主の館、ノアの部屋にて。


 椅子に座っている黒髪の少年、ノア・カーターがなぜか頭を抱えていた。


 部屋にはノアと白猫。

 魔王ヒルデと従者ツェルニのみ。


 だが外には屈強な女戦士や魔法使い、そして目がイッてるリスタなど、恐ろしい兵士達が目を光らせている。


 まさに、敵陣。


 ヒルデはノアとの面会を求め、そして自分が魔王であることをあかしたのだ。


 すると顔を真っ青にして、さっきのように叫んだのである。


「どうして厄介ごとって向こうから来るのかなぁ!? ねえどう思いますロウリィくん!?」


『ヒント、普段の行い』


「うるっせえええええええ!」


 ノアは白猫の頬を引っ張ってぶんぶんと縦に振る。


 ……その様子を見てヒルデは首をかしげる。


「……な、なあツェルニ。本当にこいつ、うわさのノア・カーターなのか?」


「……ええ、間違いないかと」


「……ウワサじゃ武勇と人格に優れた、もの凄い聖人って話じゃ?」


「……ええ。でも、なんだか、ウワサとは違いますね」


 一方でノアは頭をガリガリとかく。


「くそっ! 狂信者りょうみんどもが暴れ出す前に、トンズラかまそうとしたらこれだよ! なに!? 俺をこの地に縛る呪いにでもかかってるの!?」


「あ、あのぅ……ノア殿?」


「んだようっせえな!」


 怖い。

 だが、ここで怯えてはいけない。


 自分は、魔族達を守るために、ここに来たのだから。


「わしが望むのは平穏じゃ……」

「おう、俺もそうだよ」


「そ、そうか……ノア殿。わしのこの命、おぬしに捧げる。だから……許して欲しい……」


「あ゛?」


 ぎろり、とノアがにらみつける。

 やはり……自分の命では足りないのだろう。


 それはそうだ。

 魔王は悪、そして魔族は人間と争いを繰り返してきた……いわば仇敵。


 そんな敵から命乞いをされて、はいそうですかと、人間がゆるすわけが……。


「いらねーよ」


「………………え? い、今なんと?」


「ガキの命なんざいらねーっつってるんだよ」


 ノアはこのとき、純粋に、差し出そうとするヒルデの命を要らないといっただけだ。


 そこに他意はないし、そもそもなぜ魔王がここに来たのかもよくわかっていない。


 ヒルデが、自分の命を捧げるかわりに、魔族を保護してもらいたい、その決死の覚悟が……。


 ノアには、まったく伝わっていなかったのである。


 むしろ『こいつなにいきなり来て死のうとしてるの?』と首をかしげていた。


 しかし……。


「ノア殿……ぐす……なんと……なんとお優しい……」


「え? え? なに? どうしたの急に泣き出して……」


 どしゃり、とヒルデはその場にへたり込んで、うぉんうぉんと泣き出した。


「わしの……子供まおうの未来を奪いやしない。みんな……保護してくれる……そういうことなのじゃなぁ……」


「は……?」


「うう……やはり、やはりノア殿は、うわさどおりの素晴らしいお方じゃ! うぉおおおおおん! ノア殿ぉおおおお!」


 ようするに、ノアは魔王の覚悟に感銘を受け、無条件で魔族の民をゆるし、自分の庇護下においてくれる。


 そう、魔王は解釈したのである。


「え、保護? 何言ってるのおまえ……?」


「「「さすがですノア様ぁあああああ!」」」


 ばーん! と扉が開き、領民やべーやつらが入ってくる。


「敵にも慈悲をおかけになるなんて!」

「子供の命を取らないであげるなんて!」

「今までのことを水に流し、か弱きものを助けてあげるなんて!」


「「「やはりノア様は、世界最高の領主様ですぅううううう!」」」


 ……もう、領民きょうしんしゃたちからの尊敬度は、カンストどころか、メーター振り切っていた。


「ノア殿ぉ! このご恩! 決して忘れません! 我ら魔族、あなた様の配下に降り、あなた様の領地のために働きますぅううう!」


 そこに加えて、新たな領民……魔王と魔族が加わる羽目となる。


「え? ロウリィ……え、これ……なに? 俺……なんで魔王と魔族を仲間にする流れになってるの?」


『さ、さぁ……?』


 一方でツェルニは冷静に、このおかしな事態を見て……。


「ここアホしかいない、マジウケるー」


 ひとりゲラゲラと、腹を抱えて笑っているのだった。

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