番犬って言ってるけど、見た目はどっちかっつーと猫系なんだよな
「典雅博士、平気ですかい!?」
「おい、警備兵を呼べ!」
「あー、いいからいいから。ウチの優秀な番犬が何とかしてくれっから、警備兵は要らんよ。離れといてー」
「しかし……」
「へーきだって。よくあんだよね、こういうの。ほら、離れた離れた! 無関係な人巻き込む方が心苦しいんだわ」
どよめいた周囲の街人を宥めながら、距離だけは取るように促す。
非常に不本意ながら、先の戦争で有名になってしまった俺は、時々こうして逆恨みを抱いた者に襲われる。
その度に警備兵を呼ぶのも面倒だし、何より、警備兵が到着するまで、桜やエミリアが我慢出来るはずがない。
「典雅様、そこにいて下さいませ」
「おう、任せろ」
「……ふふ。任せましたですのよ〜!」
俺を守る鉄壁の陣形が完成した所で、まじまじと襲撃者を観察する。襤褸のローブで頭から手首、膝頭まで隠し、膝から下には棒切れのように細っこい素足が生えており、藁を編んだだけの簡易的な履物から覗く爪先には泥がこびり付いている。
「テンガ・ナカノ……お前のせいで……ッ!」
黒い手袋に包まれた手がわななき、やけに大きく見えるナイフを、ぎゅうっと音がする程強く握り締めた。
「キサマ、何者じゃ?」
「答える義理は無い!」
「ほう。遺言は遺さぬ主義、と。なんとも思い切りが良いのじゃな」
「はあ?」
ふん、と。鼻で笑った桜に、襲撃者は低い声で唸った。
「桜」
「や、じゃ」
「やじゃじゃねーよ。情報がいる。殺すな」
「…………」
「ころすな」
言い聞かせるように一言ずつ区切って言えば、桜は不服な表情ながらも微かに頷いた。
「ナメんじゃないわよ!」
やり取りの間、じっと俺たちの隙を伺っていた襲撃者がここぞとばかりに飛び出した。一般人と言うには速い、武人と言うにはあまりに遅いスピードで桜に駆け寄ると、
「はあっ!」
腰をコンパクトに捻り、逆手に持ったナイフで桜に斬り掛った。ぎらりと輝く凶刃が振り抜かれ、クナイを持つ桜の腕目掛けて迫る――
「遅いのじゃ」
――ぴたり、と。
獲物に届く寸前で止まった。