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金は腐るほどある。あるけどニートを養う金はない

 テーラの首都セントラルは今、春の暖かな空気に包まれている。

 空調のいらない気持ちのいい朝、開放されている窓から迷い混んできた春風が、注がれたばかりの紅茶から立ち上る湯気を揺らめかせる。誘われるままに陶磁の縁に口をつけ、一口嚥下すれば芳醇な液体が味蕾にしなだれかかり、ほのかな甘味が鼻を抜ける。カップをソーサラーに置き、ナイフとフォークを手に取りテーブルの上を眺めれば、パンケーキの甘くも香ばしいにおいが食欲をそそった。


「全くもう、典雅様は毎朝毎朝いちゃこらしすぎですのよ~? エミリアとももっといちゃこらしてほしいですう」


 カリカリになったベーコンと、とろりと半熟が嬉しいエッグ、そして彩りを添えるサラダが付け合わされた、所謂ご飯パンケーキというものを切り分ける。うん。ふっくらふわふわ、でも分厚すぎず他の付け合わせとも合わせて口に入れやすい。流石エミリアさんっすわ。


「いちゃこらなんてしてねーよ。ゼロが勝手にベッドん中入ってきて、俺は桜に蹴り飛ばされてるだけだろーが」


 隣に座り、プチトマトを口に放り込みながら器用に溜め息をついた金髪縦ロール巨乳垂れ目メイド特殊語尾という属性過多な少女――エミリアに言い返しながら、俺も同じくプチトマトを口に放り込んだ。

 エミリアはメイド服を着てるしその格好に相応しく家事も給仕もしてくれているが、この家では、食事は全員はなるべく全員揃ってという暗黙のルールがある。なので、今日も朝食の仕度をしてくれた後はこうして一緒にテーブルについてご飯を食べているってわけだ。おかわりとかはよそってもらうけど。


「典雅様が望んでるわけじゃないっていうのは分かってますよお。でも、拒んでないのも分かってるのですよ~?」

「まあそりゃ男なら、ねえ? 男はみんな狼だからね? ぱっくりくっちまうぞ?」


 フォークを置いてがおーっと爪をたてるポーズをすれば、エミリアと、俺の正面に座る茶髪ショートボブの美少女がくすりと笑った。


「そんなこと言ったって、典雅は狼の皮を被った変態という名の紳士だし。据え膳食べる度胸はないでしょ?」

「おまえほんといつか犯すぞ」

「きゃあこわーい」


 ふざけて悲鳴を上げるこいつはゼロ。毎朝好きでもなんでもない男のベッドにMAPPAで潜り込むド変態女だ。


「まあでも? ボク相手なら和姦になるから犯してもいいよ?」

「嘘こけ。お前、俺のことなんとも思ってねーじゃん」


 そう。エミリアや桜とは違って、こいつは本当に俺に対するLOVE的な意味での好意が微塵もない。自分がMAPPAで潜り込むことによって起こるラブコメ展開で、俺の反応や桜とエミリアの反応を見て楽しんでるだけの愉快犯だ。


「そんなことないよー。昔の記憶がないボクにとってはここでの生活が全てだからね、君に依存してたりするかもよー?」

「……ふーん」


 そう言ってカラカラ笑うゼロに呆れた目を向け、俺はベーコンを噛みちぎった。

 ゼロは、俺とエミリアと桜がここ、セントラル西番外地――高級住宅街に構えた一軒家に住むようになってから数日経った嵐の日に、捨て猫よろしくずぶ濡れで玄関の前に倒れていた。

 見て見ぬふりをするのも後味が悪く、厄介事を抱え込むのを承知で介抱したのだが――


「それと、典雅におっぱい揉まれるの気持ちいいし。単純に性欲的な意味では好きだよ?」


 いやあ、こいつ見捨てりゃあよかったわ。ほんと。


「なっ!? さ、さっきかりゃなに破廉恥にゃことを言っておるのじゃ!?」


 ゼロの隣に座っていた桜が、あまりに下品な会話内容に堪えきれずがたんっとテーブルを叩いて立ち上がった。

 動揺で顔を真っ赤にした桜は、噛みつつも俺たちを必死に糾弾する。


「きっキサマら、分かっておるのか!? 今は朝なのじゃぞ!! あ さ !! せっかくの清々しい朝が台無しじゃろうて!!」

「あーはいはい悪うござんした桜様。あとで買い物ん時に好きなもん買ってやるからそんな怒んなって」

「好きなもの……! む、むう……それは、佐久間堂の大福でもいいのか?」


 好きなものという単語に反応して、恐る恐る上目遣いで伺ってくる桜。ふっ、ちょろいな。


「わーいありがとー」

「ただしゼロ、てめえはダメだ」


 おこぼれに預かろうとちゃっかり混ざるゼロを睨みつつ、つと、隣に座るエミリアに顔を向ける。


「エミリアは? 今日、買い出しあるなら一緒に済ましちまおうぜ。ゼロと俺で荷物持ちするし」

「ちょっと待って。ボクの細腕で荷物持ちとか無理だよ? 箸より重たいもの持ったことないんだからね?」

「あ、じゃあ、トイレットペーパーとお醤油とお米と小麦粉と、今日はお魚がお安い日なので何かしらの大型魚を一尾くらい買いたいのですのよ~」

「容赦ねえなおい」

「おーい、聞いてるー?」

「えへへ、典雅様とお買い物楽しみですのよ~」


 総重量を考え思わずひくりと頬をひきつらせたが、そう言ってにこにこ笑うエミリアに毒気を抜かれる。

 ……はあ。まあいいけどね。金は腐るほどあるし。


「魚ってことは朝市だよな? じゃあ、朝飯食い終わったらすぐ仕度すっか」

「えー、もーちょっとゆとりが欲しいー」

「うむ。我も、食休みを取らなければ動けないぞ」

「黙れニートども」


 誰の金で衣食住が成り立ってると思ってるんだ。

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