話が長い時は最初と最後だけ抑えておけばなんとかなる
異世界テーラ。
地球とは違って電力の開発が進んでいないこの異世界では、一般的な動力源としてあらゆる万物の生命力――所謂魔法と呼ばれるものの源になる魔力を用いる。そうして魔法が発展したこの世界では、いたずらに空気や自然を壊すものが少ない。故に、豊かな緑と水に包まれたこの世界は、宇宙から見たらさぞや綺麗なのだろう。
現在の界歴は2020年。しかし、人類と同程度――あるいは人類をも超越した知能を持つ生物は、歴前3000年から存在していた。
異世界テーラには、同程度の高知能を持ちながら容姿も生体も全く異なる生物種が複数存在している。
エルフ、ドワーフ、オーガ、セイレーン、天使、悪魔、ドラゴン――そして、人間等、他にも数多くの高知能生物が共生している。
一度は種の違いから生まれた軋轢が育ち過ぎた結果、たわわに実った戦争という果実が落ちてしまい、界歴元年――2020年前に一度、歴史は無に帰した。
しかし、それを乗り越えた生命たちは互いに手を取り合い、今度こそ真の共生を紡いでいく――筈だった。
魔王、と呼ばれる生命体が現れるまでは。
魔王は先の戦争に準え、自らを終焉の果実と称し、または戦争の落胤と呼んだ。
曰く、「魔王は締結した戦争の、そしてなにより現在生きる生物種の負の感情が集結して生まれたもの」だと。
魔力は、主に生命体の有する力である。この力は良くも悪くも、正も負もない交ぜに感情というものとの相性が非常に良い。
当然、その権化たる魔王には絶大な力が与えられた。
更なる負の感情を生むべく、魔王とその軍勢――負の感情の塊が魔王に形を与えられた事によって生まれた魔族、魔物と呼ばれる超自然的生命体たちは、テーラに生きる全ての種に対し攻撃を仕掛けるようになった。
邪地暴虐の限りを尽くす魔王は腕の一振りで地形を変える程の力を有していた。
魔族、魔物はこの世のものとは思えない程、恐ろしい姿をしていた。
しかし、いくら強大な敵だろうと、それでもその他の生物種の方が圧倒的な数の有利を持っていた。
一斉に攻撃を仕掛ければ、多少の犠牲は出ても魔王軍を掃討できただろう――あくまで、攻撃を仕掛けられればの話だが。
困ったことに、手を取るべき種族たちは各々に――各々、蓋を開けてみれば全く同じ、それでいて非情に大きな、見て見ぬふりの出来ない問題を抱えていた。
結果、2000年もの時をかけて再び醸成された異種族間での不和、軋轢に魔王軍の侵攻が重なり、悲劇は乗算されていく。燃え上がった戦火は世界中を燃やし尽くす――かに、思えた。
そんな、終末の際。
一人の少年があるものを発明した。