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相棒登場と小さな夢

「「「オペレーター?」」」


「オペレーターってお前まさか」


オペレーター。俺がオペレーターって呼ばれる要素と言えば…あれしかない。

それにさっき見た夢も合わせて考えると…


「うん! 私LB3000EX! 来ちゃった!」


来ちゃった! とっても満足そうなニッコニコな顔でこの世界の人には知りえない単語を呟いたのだから認めざるおえないが…

要するに俺の仕事道具であったNC旋盤。もっと言うとターニングセンターが一緒にこの世界にやってきてくれた。


「でもなんで少女?」


「わかんない」


わかんないか…


「つまりどゆこと?」


「どうしましょう。ユリカ、とりあえずテスラ様にこの事をお伝えして。私は予定通りこのおふた方をお部屋までご案内しておりますので」


「わかったー!」


元気よく部屋を飛び出して行ったユリカちゃん。

どうやらユリアちゃんが案内してくれるようで、俺達はその後を着いていった。


「ほんとに3000なの?」


「うん! ちゃんと鉄削れるんだから」


見た目からすると…どうやって?って思ったけど、今聞いても仕方がないと思って状況的にこの子はLB3000なのだと決める事にした。


「ねぇねぇオペレーター? ここはどこなんですか?」


「え? わかんないの?」


「全く」


当然のように状況知ってるもんだと思ってたけど、この子も俺と同じでなんにも知らないのか。


「ここはアルテグラ王国の王城です。そして私はそこに仕えますメイド、ユリアでございます。当面の間の身の回りのお世話は妹のユリカと共に私達がさせて頂きます故」


「私はLB3000EX! ユリアよろしく!」


「え、えるび…こちらこそよろしくお願い致します」


そう言えば…ヒルデさんは監視をつけるって言ってたけど…今はいないな…

部屋の扉の前で立っていた兵士の人も、俺たちを見張っていたってわけじゃなく、テスラさんの客間を見張っていた様で着いては来ていない。


良いのだろうか?


そうこう考えているうちにユリアさんの案内で部屋とやらの前に着いたようで、正しくメイドのようにドアを開けて俺たちを迎え入れてくれた。


何だかむず痒い


「うわぁ!! 綺麗なお部屋!」


「…すごいな。ここ本当に使っていいの?」


「お褒めに預かり光栄でございます。ここは来客用のお部屋でございますのでどうぞお寛ぎくださいませ」


やっぱり貴族でも王族でもない俺にそこまで丁寧にされるとこちらとしても調子が狂うと言うか申し訳ないんだが…ここでそれを彼女に言ってもきっと困らせるだけだろう…しばらく耐えるしか無いな


「直にユリカが戻ってまいると思いますので、それまで私は別室で待機しております。何か御用がありましたらそちらの魔石に触れてお申し付けください」


「魔石…これ?」


「…っ! これは大変申し訳ありませんでした。 キリヤ様がこちらの世界にやってきたお方だと失念しておりました。そちらが言伝用の魔石でございまして、触れながら話すことで私が持ち歩いている魔石に通じるのです」


「なるほど…。魔石…ね。いやそれに謝る必要なんでないよ? こちらとしても初めての事ばかりでワクワクしてるから」


ハハっと軽笑いしてみたけど、それは嘘ではないが本音ではない。だって普通に不安だし


その後部屋に備え付けられてる”魔法”に関係する道具の使い方を説明してもらって、実際に使ってみた。

俺が使えるのかとても不安だったけど、ここの部屋にあるものは魔法を使える使えない関係なく使用できるらしい。

理由としては魔法を使えない方に対して失礼になってしまうからだとか


「なるほど」


魔法を使えない人もいるってことだな。

俺が使えるかはさておいて、一安心である。この世界でたった1人魔法使えないなんて悲しすぎる


「それでは後ほどお伺いいたしますので、改めておくつろぎくださいませ」


「仕事増やしちゃってごめんね。ありがとう」


「とんでもございません。では失礼したします」


Theメイド見たいな感じだったなぁ


「ねぇねぇオペレーター! 今更だけど、どういう状況?」


「俺にもさっぱりだよ。それに一先ず落ち着いたから聞くけど、本当にLB3000なの? 俺には少女にしか見えないけども」


「本当だよ!? なんならいま変身しようかっ!?」


「変身…って旋盤の形に戻るってことか? …いやいや、仮にこんなところであんなの置いたら床抜けるからダメ」


でもまぁ…そういう事なのか。この子が旋盤に変身する…と。

こんな魔法の国に呼ばれたどころか、旋盤が女の子になる日が来ようとは…頭が痛い


「って事は君で加工できるって事?」


「モチのロン!」


「はぇ〜 待てよ? バイトとかチップはどうするの?」


「出せる」


「出せる?」


LB3000EXと名乗る少女は、おもむろにテーブルの上に手をかざすと、トランプを滑らせるように手を動かした。

すると…


「おぉ…そう来るか」


彼女が手を動かした後には外径バイトからチップのケースから内径バイト、溝入れに至るまで各種旋削工具がずらりと並んだ。それもどれも見覚えのある…というか俺が仕事で使っていたやつだ。


「この様子だとこれで全部じゃないんだろ?」


「もちろん! 全部出すとテーブルに収まらないから」


まだ旋盤としての彼女は確認出来てないけど…いよいよ本当に旋盤が女の子になったと見ていい様な気がする。

だとしたら…聞にくいけど…聞きたいことは沢山あった。


「…ということは…あれだよな…。俺が仕事で扱ってる時、ワークぶっ飛ばしたり、衝突させたり…」


「全部覚えてますよ」


「…」


なんか今までニコニコしてた彼女は、スっと真顔になり冷えた声で答えた。

なんか…ごめん


「い、痛かったりしたのか…?」


「痛いなんてもんじゃないですからね!?」


「本当にすみませんでしたっ!」










自分の道具と話せるようになるなんて不思議な気分で、ついつい時間を忘れてLB3000EXの少女と話し込んでしまった。

すると、そこへ扉をノックする音がして俺達は会話を止めてその方向へ視線を向ける。


「キリヤ、失礼するぞ。ん? なにやら楽しげな会話を邪魔したようですまない…が、なるほど本当に1人増えているな」


「この人誰?」


「私は王立近衛騎士団、国王直属班隊長テスラ・グロスターと言う。テスラと呼んでくれ」


「?」


「テスラさん。偉い人ってこと」


「テスラさんは偉い人。覚えました」


「それで? その子はどこから湧いて出てきた?」


湧いて出てきた。

多分テスラさんはこう思っているんだろう。俺が通された客間はテスラさんの管轄の部屋。外には兵士を置いていたし、窓からの景色を見る限りかなり地上から高い場所のようだった。


この子が外部から入り込める要素がなかったのだ。


「正直に話しますと…私が一眠りしてしまって起きましたところ…膝元に居たんです。自分にもよく分かりません」


「そうか。ではその子とキリヤとの関係性は? 今日出会ったにしては随分と親しげだが」


「それに関しましては…説明しがたいと言うか…」


「私の事? 私はLB3000EXです。ずっとオペレーターに道具として使われた機械です」


「ほぉ?」


言い方ひとつでテスラさんの視線がきつくなるので割とマジめに寿命が0になったと思ったよ。


「とりあえずだ。ユリカからの報告通り少女が1人増えたと。その少女は君の同胞としてくっついて来たと言う事で良いのかな」


「えぇ。おっしゃる通りで」


「まったく。こちらが原因とはいえ私に何度王に報告させに行かせる気だね…。まぁいい、お互いまた落ち着いたら詳しい話を聞かせてくれ」


「ご苦労かけます…」


テスラさんはユリカの報告で様子を見に来ただけの様だったので、俺がさらに仕事を作ってしまった事もあってそそくさと部屋を後にした。

んで、

テスラさんがいた間、部屋の隅でひっそりと控えていた2人のメイドがササッと俺たちの前に畏まった。


「先程、テスラ様から正式にキリヤ様方が王城にご滞在する間のお世話を仰せつかりましたユリアです。改めましてよろしくお願い致します」


「改めましてユリカです!よろしくお願いいたします!」


やっぱりこの2人が俺たちの面倒を見てくれるみたいだ。

自分より年下に世話されるなんて…そんな歳でもまだないんだけどやっぱり慣れない…


それにしてもこの王城…いつまで居ていいのか…それも明日王様と話して決まるんだろうか…

いや謁見ってそういう話する場所ではないか?

むしろ挨拶的な?


「それではキリヤ様、それと…」


「こいつはLB3000EX。変な名前だけど多分エルビーって呼べば良いと思う」


「かしこまりました。キリヤ様とエルビー様、まずお食事はご希望がなければ朝昼夜の鐘でこちらへ運ばせて頂きますが宜しいでしょうか?」


まぁそれからはユリアさんとユリカさん…ユリカさんはニコニコしてただけか

俺はユリカさんと細かな話をしてた。


「そう言えば俺らってこの部屋から出てもいいの?」


「外出に関しては特に言われていませんので私共を同伴させて頂けるなら問題ないかと思いますが…」


「そっか。欲を言うと王城を探検してみたい。もちろん秘密の部屋とかは求めてないけど、散歩的な外出」


「かしこまりました。念の為テスラ様に確認を取ってからになりますが宜しいでしょうか?」


「うん、構わない。それでこれから俺らはどうすればいい?」


「もうすぐ夜の鐘の時間だと思われるので、ご夕食をお持ちする予定です。お食事後は特に予定はありませんのでこの部屋の中であればご自由におくつろぎくださいませ」


「わかったよ」


「それでは御用があればお呼びくださいませ。私達は失礼させていただきます」


ユリアさんがお辞儀をすると、隣にいたユリカさんも慌ててユリアに合わせるように頭を下げる。

てかユリカさん?

いつの間にか旋盤ちゃんと仲良くなってる?


…考えてみるとユリカさん?ちゃん? ユリカちゃんの方がしっくりくるな。ユリカちゃんとLB3000…性格というか…ウマが合いそうな気はする。


「ばいばーい!」


「またねユリカちゃん!」


メイドに有るまじき言葉遣いにユリアさんが無表情でユリカちゃんの頭を叩いたけど…表情一つ変えずにニコニコしたまま動じないユリカちゃんにユリアさんがもう一度頭を下げてユリカちゃんを連れ出して行った。


ユリカちゃん、ユリアさん。うーん、ややこしい


「なんかめちゃ仲良くなってんな」


「そうですか? んっ! このお菓子凄い美味しいです!」


お菓子を食べて喜ぶ旋盤か…訳が分からんが、まぁ人の姿になったんだしお菓子くらい食うか…

うん。このクッキー美味いな






その後、LB3000と話し合ってエルビーと安直だがそう呼ぶ事にした。しかしエルビーは頑なに俺の事をオペレーターと呼びたいらしく、俺は押し切られる形で渋々受け入れた。


「オペレーター」


「ん?」


「私達、ここで何するんですか?」


「分からん。まぁ、エルビーが居るってことは…そういう事なんじゃないか?」


「そういう事?」


窓の外を眺めて、異世界の町並みを遠目に眺めながら呟く。


「見た感じ魔法を抜きにすればこの世界の加工レベルはそこまで高くないと思う。だからエルビーが居れば…そうだな。仕事取り放題の加工屋でも始めるか?」


冗談交じりの絵空事だが、世界で唯一?だと思う旋盤屋なんて想像がつかないけど、そんな仕事をしてる姿を想像しただけでワクワクが止まらん。

それはエルビーも同じようで、キラキラした目で俺を見上げている。


「それに、魔法がある世界なんだ。俺達の知らない金属だってきっとあるだろ? それを…」


「削りたいっ!」


俺が言い切る前に、興奮気味のエルビーが迫ってくる。

やっぱりまた同じ思いだった様だ。






この世界の太陽が地平線の彼方に沈み始めて、夕焼け空から夜空へと姿を変えようとしていた時。城の敷地内からなのか、大きく透き通るような音色の鐘の音が空に響いた。


これが夜の鐘か…?

と聞いていると、静かなノックの後に落ち着いたユリアさんの声が聞こえてきた。


「キリヤ様、エルビー様。お食事をお持ち致しました」


「あ、そう言えばそうだった。ありがとう」


「ご飯っ!」


まるで鐘が鳴るのを扉の前で待っていたかのようなジャストタイミングでやってきてくれた。

これが王城のメイドの仕事か…。


「なにかございますか?」


「いえ…」


勢いよく部屋に飛び込んできたもう1人のメイド。

夜も近いのに元気いっぱいって言葉がふさわしいユリカちゃんだ。

右手にティーセット

左手に夕食類

良くもまぁ落っことさないなと感心というか、ヒヤヒヤする登場に俺は困惑。ユリアさんは真顔。


…怖い


「あっ! ユリカちゃんだ!」


「エルビー様のお食事はユリカが持ってきたのだっ!」


「わぁあ!!」


場を制するかのようにユリアさんの冷えた声が、テンションMAXのユリカに突き刺さる。


「ユリカ」


「…っ!? …もう怒られるのはご勘弁なので、ここら辺で落ち着くの、だ…だぁ〜…?」


ユリアさんはそれ以上何も言わない。ユリカを見ることすらない。ただ俺の前に丁寧にお皿を並べてくれているだけなのだが…ユリカちゃんに向けて何かしらのオーラを発しているような気がして、この部屋から出たあとのユリカちゃんの身を案じると引き攣った笑顔しかできなかった…


そんなユリカちゃん。失敗を誤魔化すためか、重々しいオーラに耐えかねたのか、唐突に大人しくなり用意された食事の説明を始めた


「今日は牛肉を焼いたやつと、トマトのスープ。そっちのパンはスープに浸して食べると美味しいのだ。あとこっちのサラダは城園で取れた新鮮野菜なので、とっても美味しいと思うのだ」


「…そっか。それはとっても美味しそうだ」


静かに話し始めても、やっぱりユリカちゃんはユリカちゃんだったようだ。

ユリカちゃん…今日来たばかりの俺が言うのも変だと思うけどさ、ここ王城っしょ?


「…申し訳ありません。私から改めてご説明させて頂きたいのですが宜しいでしょうか」


顔が笑ってねぇ…


その後、まるで一流レストランに来たかのような懇切丁寧な料理の説明でさすが王城の食事、高そうだ…と思うのと同時に、説明ひとつでこんなにも食欲が高まるとはと驚いていた。


「食べていいっ!?」


「そんなに腹が空いてる…?のか?」


「料理っていうのを早く食べてみたいの! さっきのお菓子も美味しかったし、ご飯はもっと美味しいはず! 食べた事ないから早く食べてみたい!」


そっか。こいつは食事とは無縁の旋盤だったんもんな。油と電気だけあれば動き続ける無機物。

食事への憧れ…というものか


「うん。なら頂こうか。」


「いっただっきまーす!!」


さっきのお菓子を食べていた時と言い、この子は本当に美味しそうに食べる。実に幸せそうだ。











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