擬人化機械加工機と友に!
その日。俺は確かにNC旋盤のオペレーターとして仕事していた。
回転する油圧チャックに掴まれたワークを、炭化タングステン出できた超硬チップが気持ち良い切削音で削り取っていく。
切りくず。業界では切子と呼ばれてたりするが、それがパチンコの玉のようにカチカチ、バラバラと切子受けに溜まってゆく音がまた更に気持ちがいい、
俺はこの荒加工が1番気に入っている。
気持ちがいいからだ。
「ぅっ…?」
とてつもなく変な夢を見たような気がした俺は、あまりいいとは言えない目覚めで少し頭痛がする頭を抑えながら体を起こす。
大体なんなんだあの夢だ。まるで俺が死ぬみたいな出来だったな…
重い体を起こすときに手を着いた床が妙に冷たく硬かったので、気づいたが…明らかにベットや布団の上ではなく…なぜか俺は硬い石のような床の上で寝ていたようだった。
当然こんなところで寝潰れた記憶はない…
【おおおおっ! 召喚は成功じゃ!】
【勇者様! 勇者様が御降臨なされたぞ!!!】
【これで我が国の未来は明るい! 救われたのだ!!!】
「っ!?」
突然、四方八方からむさ苦しい男達の声がしてきて、まじでビビった俺は霞む視界を擦りながら、状況を確認した。
薄暗い…と言うか、暗い部屋の中にいるようで、ハッキリとは見えなかったが…俺がいる場所はその部屋の中心。それも床に描かれたよく分からん淡く光る幾何学模様の中心に居たようだ。
その模様を取り囲むように10数人の人影が見えた。
訳が分からず固まっていると、突然部屋の外が騒がしくなりガシャガシャという金属音と多勢の足音が近づいてきた。
(誰だ! グハアッ!?)
部屋のすぐ側のところで断末魔のような叫び声が聞こえた。
まじで、なんなんですか
部屋の中の人影たちもその異変に慌て始めたのか忙しなく動いている
「もう遅い!」
その時、扉が蹴破られたように勢いよく開くと、眩しい光のかなに人影が見えた。
「我ら王宮近衛だ! 国王様の勅命にて貴様らを国家反逆の罪で拘束する! 極刑は免れないと思えっ!」
光の中の人影が発したのは凛々しい女性の声だった。
扉が開かれたことで部屋だいぶ明るくなり、ようやく全貌が見えた。
しかし…
「…へ?」
黒いローブを纏ったいかにも怪しいもの達。そして扉を蹴破ってきたピカピカに輝く甲冑を身につけた重装備な騎士たち。
それらが対峙する中央に俺はポツンと座っていた。
「遅かったな王の犬ども! 残念だが召喚の儀は終わったあとだ! さぁ勇者様、腐りきったこの国を変える一撃を!」
「警戒しろ! 国王様に仇なすもの、なんであれ近衛が斬る!」
えぇ…なんで私、剣を向けられてるのー(白目)
「あの…私、何が何だか分かりませんけど、私は勇者じゃないですし、戦えないですし、そもそも普通の一般人ですが…」
「あ?」
「勇者じゃ…ない…だと…?」
「…」
「魔導師たちを取り押さえろ! 抵抗するやつは斬って構わん!」
黒いローブの男たちの中には俺の言葉に心折られたように膝を着くものや、やけくそになり甲冑の集団に抵抗し呆気なく切られるもの。
俺の発言直後は一瞬時が止まったかのように静まり返った室内だったが、今やもう地獄だった。
そしてこの集団を仕切っている女性が俺の前へゆっくりと歩いてきた。
「立てるか」
「えぇ…はい」
多分、ニュアンス的に「立て」と言われた気がしてふらつくけど頑張って立った。何だか貧血気味の様な気分
「名はなんと言う」
「遠藤…切矢です」
「…そうか。私は王立近衛騎士団、国王直属班隊長テスラ・グロスター。そちらはなんと呼べば良いか」
「遠藤…でも切矢でもお好きな方で…」
「うむ。ではキリヤ。君はこやつらに召喚されたという事で良いのか?」
「召か…分かりません。目が覚めたらここにいて、この人達に勇者勇者と言われて…私にも何がなんだが…」
そう言うとテスラさんは深い溜息を着いて頭を抱えるが、すぐに気持ちを切り替えたように俺に向いた。
「そうか…我が国が迷惑をかけたようだ。すまないが会って貰いたいお方がいる。時期早々で悪いが共に来てくれぬか」
「え、ええ」
テスラさんの後をついて行こうと1歩を踏み出すと…
「あれ…」
足の力が抜けてしまって前に倒れ初めてしまった。
「おっと。大丈夫か?」
するとテスラさんが背中に目があるかのように素早く振り返って俺を支えてくれた。
やっぱりこの女性…隊長って聞いてるけど、ただものでは無いような気がする。
「この様子ではまだ謁見は無理か…。この者を私の客間まで手を貸してやってくれ」
「すみません…」
彼女の部下なのか分からないけど、甲冑の人達に肩を借りながら明るい通路を進んだ。それにしてもかなりでデカイなこの建物。
にしても…近衛やらローブやら甲冑、剣、まるで物語の世界みたいだ。
歩くこと20分ほど。さすがに途中から自力で歩けるようになったので礼を言って自分の足で彼女の後に続いた。
「ここは私の客間だ。自由に休んでもらっていい。」
「はぁ」
部屋に通されて、高級そうなソファーに座らされてからというもの…
終始鋭い視線の彼女の質問の嵐に…凄い疲れた。
だって機嫌を損なわせようもんならば、あのローブ達のようにバッサリ切り捨てられかねないから
「えぇっと。つまるところ…この世界に呼ばれたはいいけど、返す方法はテスラさんが知る限り無い…って事でしょうか…?」
「聞いたことがないな。過去の文献や伝説、言い伝えレベルの話になってしまうが異界から勇者を呼んだ…という話は確かに出てくる。だがその後、世界を救ったとか魔王を打ち倒したとかの話の後は…よく分からないのだ」
「確かに…勇者が世界を救った後、元の世界に帰っていきました…って話はあまりイメージ無い…でも私は勇者なんて大層なものじゃないですよ…」
「まぁそれもこの後判明するだろうさ。そうだな…謁見するにはもう時間が遅い。私から王に話をしておくから今日は休みたまえ」
「あの…謁見ってまさか…」
「もちろん国王様だ。お前が勇者でないとしても異界からやってきた世界を見渡しても唯一の人間だ。会わん訳にはいかないし、それに…いやこれ以上は今言っても仕方がないか。使用人2人を君に当てよう。申し訳ないが君の素性がはっきりするまでは監視もするが気を悪くしないでくれたまえ」
「使用人…ええ。ありがとうございます。それにここ王城なんですもんね…監視は当然だと思いますし気にしないでください。牢屋に入れられないだけでもありがたいですから」
「牢…ふふっ 君は面白い。では私は国王へ改めて明日君が謁見する趣旨を話してくる。しばしこの部屋で待っていてくれ。直に使用人が迎えに来る」
「分かりました」
彼女が部屋を後にしたあとこの客間には静寂が訪れた。
まぁきっと扉の外には兵士的な人達が着いているんだろうけど微動だひとつしないのか気配はない。
あぁ…眠くなってきた。
まさかの違法な無許可異世界召喚されたとは…眠…
1人になって5分としないうちに俺の意識は夢の中へと消えてしまった
(ここは…会社? 俺がいつも使ってる…旋盤…)
(あぁ…懐かしいこの音。聞いてるだけでワクワクするお気に入りの音)
心地よい切削音。カチカチと切子が落ちる心地の良い音に俺は自然と手を伸ばしていた。
これは夢…? いや現実…?
異世界が現実なのなら…俺はもうお前に触れることはできないのか…?
それは嫌だな…
また一緒に加工したいな…
【本当…? 私も連れてってくれる?】
「え?」
その時、訳が分からないことに俺の手を旋盤が握り返してくれたように感じて
目を覚ました。
「あ! 目が覚めましたか勇者様!」
「勇者じゃないって何度も言われたでしょ。全く…。ご紹介が遅れました。私、テスラ様からキリヤ様の身の回りのお世話を仰せつかりましたメイドのユリア」
「同じく私はユリカ!」
あぁこの2人がテスラさんが言っていた2人の使用人さんか…。
それにしても…随分若い子なんだな。歳は17歳かそこらかな…
ユリアとユリカ。似てる名前だし服装も同じ、双子レベルでそっくりな2人だが…
なるほど、ユリア…ア”青”で、髪が綺麗な青色。
ユリカ…”カ”つまり火。だから髪が綺麗な赤毛。
俺なりな覚え方が確定した瞬間だった。
「でもおかしいですね。テスラ様からキリヤ様お1人と聞いていたのですが…」
「ねー、2人だよねー」
「え?」
思えば太ももあたりに重さを感じる。
なんかデジャブだけど、うーん。俺が膝枕してる…この子誰?
「君…? 君ー?」
「んぅ…? あ、オペレーター!!」
「「「オペレーター?」」」