戦国武将と輿(特に立花道雪)について
戸次鑑連こと立花道雪についての感想をいただいたことから、改めて戦国武将と輿について、エッセイとして書くことにしました。
戦国武将と輿について、大抵の人がすぐに思いつかれるのが、今川義元だと思われます。
桶狭間の戦いにおいて、今川義元が輿に乗っていたとされることから、馬に乗れなかった文弱の大名というイメージを持つ人が多い気がします。
また、龍造寺隆信も最期の戦いとなった沖田畷の戦いにおいて、輿に乗っていたことから逃げられなかったとされることが多く、今川義元と似た事情から、龍造寺隆信がこの頃には肥えてしまっており、馬に乗れなかったので、輿に乗っていたとされることが多いようです。
戦国時代から少し時代がズレますが、関が原の戦いの際の大谷吉継も輿に乗っていました。
その理由ですが、現代で言うハンセン病を患っており、半ば失明していたことから、輿に乗って戦っていたとされるようです。
(ただ、大谷吉継がハンセン病を患っていたとされる資料、書籍が現れだすのは、江戸中期以降の資料、書籍からであり、現在では疑問視する人がかなりいるそうです。
もっとも、直江兼続に大谷吉継自身が宛てた手紙に、自身が眼病を患っており、花押が書けないので、印判で失礼すると書いていることから、少なくとも一時、眼病を患っていたのは間違いないようですが)
こういった事例を挙げていくと、戸次鑑連こと立花道雪も体が不自由だったから、輿に乗って戦っていたのだ、という話が信じられるのも、もっともの気が私にもしてきます。
しかし、輿という乗り物に着目すると、そう単純には言いづらい、と私には思われます。
現代でも「玉の輿」という言葉が使われることがあるように、日本で輿が登場して以来、輿は貴人、それこそ天皇陛下や皇族、貴族が使うものでした。
室町・戦国時代の頃であれば、輿という乗り物が使えるのは、それこそ最低でも守護、守護代クラスの貴人であり、国人衆が使う等は以ての外という乗り物だったのです。
更に言えば、江戸時代になると輿は廃れてしまい、大名と言えど駕籠に乗るようになります。
そのために江戸時代に資料、書籍を書いた者は、輿は貴人が乗るものだ、というのを余り念頭に置かずにおり、馬に乗らずに輿に乗っていたのは、馬に乗れないためだったのだ、という決めつけを半ば無意識の内にしていたのでは、と私には思われるのです。
そして、輿に乗ったとされる武将を改めてみると。
言うまでもないことかもしれませんが、今川義元は守護出身になります。
そして、龍造寺隆信にしても、自称にはなりますが「五州二島の太守」と号しており、最盛期の勢力は実際に複数の国(肥前、肥後、筑後、筑前)に及ぶ大きさでした。
大谷吉継にしても、従五位下の官位を持ち、北陸の要港敦賀を任された五万石とはいえ城持ち大名という立場にあります。
こうした立場からすれば、例え身体に不自由がなくとも、この3人は身分の上から輿を使うのが相当、と私には思えます。
では、立花道雪はどうなのでしょうか。
立花道雪にしても、1561年に筑後守護代に大友宗麟から任じられた身です。
更に言えば、立花道雪が輿を使用しだしたのは、一次史料に基づけば1570年からです。
そして、翌年には筑前守護にも立花道雪はなっているようです。
こうしたことからすれば、立花道雪も立派な貴人であり、輿を使うのに相応しい身分と言えるのではないでしょうか。
さて、何故に立花道雪の輿の使用について、身体が不自由だったからではなく、貴人になったからではと、私がそこまでこだわって考える理由は。
伝承と史料の矛盾からです。
立花道雪の愛刀「雷切」の伝承等によれば、1548年に立花道雪は雷に打たれて、それ以降は身体が不自由になったとされています。
しかし、それこそ写ししか伝存していないので疑問がある、と指摘されるかもしれませんが。
立花道雪自身が書いた「戸次道雪譲状」によれば、1562年に毛利方3人の将を手ずから討ち取ったとなっています。
身体が不自由で輿に乗らねばならないような状態で、そんなことができるものでしょうか。
また、軍記物なので信ぴょう性に疑問がありますが、複数の軍記物が1560年代において、立花道雪は馬を乗り回して敵軍と戦ったともあります。
こうしたことからすれば、道雪も60歳近くと年老い、貴人と呼ばれる立場に相応しくなったので、輿に乗って戦場に赴くようになったのでは。
雷に打たれたことはあったのかもしれないが、そんなに後遺症は残らず、馬に乗れる状態だったのではないか、と私には思われるのです。
以下、余談です。
戦国武将と輿について調べていると、伊達政宗も輿に乗ったという記事が見つかりました。
足の骨折が治っていなかったので、1589年に摺上原の戦いに向かう前に輿を使用したらしいです。
守護の家格にあるのでおかしくないのですが、私には本当に意外な話でした。
ご感想等をお待ちしています。