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伯爵令嬢の幸せな結婚 〜運命の相手が囚人なんて聞いてません!〜  作者: 香月深亜


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7. 失礼な訪問者たちに託されました

 次の日、クィンの元に予想外の人達が訪ねてきた。



「…………はあ」


 何の約束もなく訪ねてきた二人組の男性と対峙し、彼らの話を聞いたクィンは、状況がよく理解できずに生返事をする。



「つまり、こういう事でしょうか? あなた方はレナルド・コーネリウスと縁のある者で、彼に会いたい。だから、私が彼に会いに行くときに一緒に連れて行ってほしいと?」



 ダンディに年を取っている老人と、まだ二十代前半くらいのキリッとした目つきの青年は、レナルドの知り合いだと言う。彼らが言うには、老人はレナルドの元執事で、青年はレナルドの元右腕らしい。


 そんな彼らがクィンの元を訪ねたのは、レナルドに会いたいが為。


「はい、その通りです」

「突然の訪問については申し訳なく思っております。ですが我々は、どうにかレナルド様に会えないかとずっと考えておりました。そこに、貴女が現れたのです」



 彼らの目は、希望に満ちていた。

 前日のジャンヌ・マリアージュでレナルドの名前が呼ばれたことを聞き、好機と思ったのだろう。レナルドの運命の相手となったクィンであれば、地下牢にいるレナルドに会いに行けるはずだ。そこに付いて行けば、二人もレナルドに会えるのではないか、と。



「どうか私達に機会をいただけませんか。レナルド様の様子が知りたいのです」



(……って言われてもなあ)



 目の前の二人共から熱意を受け、クィンは頭を悩ませる。なぜなら、クィンには再びレナルドに会いに行くつもりはなかったから。

 会いに行くつもりがないのだから、連れて行く以前の問題だ。


 それに問題はもう一つ。



「そう簡単にあなた方を信用できない、と言ったらどうしますか?」


 クィンは二人に少しだけ疑いの目を向ける。


「マクミランさんにアーノルドさん。率直に申し上げますが、私には、あなた方が本当のことを言っているのかの判断ができません。そもそもコーネリウス家という名前を聞いたこともないのです。その家の執事なり彼の右腕なりと言われたところで、あなた方をレナルドのところに連れて行く気にはなれないですね」



 素性の知れない二人に対し、クィンは伯爵令嬢として毅然とした態度を見せた。


 二人は目を開いてわずかに驚いた様子を見せた後、ちらっとお互いの視線を合わせて何かを確認していた。



「……貴女の仰ることはもっともです。それではせめて、この手紙をお渡しいただけないでしょうか」


 マクミランはジャケットの内側に手を入れて、白い封筒を取り出した。

 その封筒には、赤い封蝋が施されており、そこには見たことのない家紋があった。



「これはコーネリウスの家紋です。レナルド様が地下牢に入ったとき、私めが印璽を預かり、有事の際には使ってよいと言われておりました」



 その家紋は、中央に王冠があり、その下にはクロスされた二本の剣が王冠を支えるように描かれていた。初めて見るその家紋をクィンが見つめると、マクミランが言葉を添える。



「コーネリウスは代々騎士の家系で、この家紋には、王家を守る騎士の意味が込められています」

「……騎士、ですか」

「はい。レナルド様も、誇り高き騎士でいらっしゃいました」


 クィンは頭の中で、昨日見たレナルドを思い出す。汚らしい囚人の身なりだったので、その姿はどう見ても騎士ではなかった。だが、だからと言って、真っ直ぐにこちらを見ながら話す彼らが嘘をついているようにも見えないのも事実。


「レナルド様にこの手紙を渡してください。そうすればきっと、私達のことを信じていただけるはずです」

「あなた方の身元は、手紙を渡せば証明されると?」

「はい。まずは私達を信用していただきたく」


 マクミランは強い眼差しで断言した。

 クィンが懸念する身元の証明は、この手紙にかかっているらしい。


 しかしここで、クィンはふと気づく。


 手紙を渡すということは、その時点でレナルドに会いに行かなければならないということだ。



(え、待って。会いに行きたくなかったからとりあえず身元証明を要求したのに。これってつまり、会いに行かないといけないってこと……?)



 クィンは頭をフル回転させて、この手紙を持って行かずに済む方法を考える。

 だが、マクミランはクィンに考える時間を与えなかった。


「それでは、本日は帰らせていただきます」


 マクミランはそう言って立ち上がり、続いてアーノルドも立ち上がってしまった。差し出された手紙はテーブルの上に置いたまま。

 そして、アーノルドは締めの一言を話し始めた。



「突然の訪問、失礼いたしました。三日後にまた来させていただきます。そのとき改めて、レナルド様の元へ我々を連れて行っていただけるかどうか、お返事をいただければと存じます」


 彼は勝手に三日後を指定してきた。きっと彼としても、その発言が不躾であることは承知の上だろう。しかし、彼らの身勝手さは、クィンの元に約束も無く会いにきた時点から始まっていたのだ。今更、不躾な発言を控えても無意味だと分かっているのだろう。



「……とことん勝手な方々ですね」



 そんな彼らの意図を汲み取り、クィンはくすりと笑う。

 不躾と言えば、昨日出会ったレナルドもかなり不躾だった。

 伯爵令嬢に対してこうも勝手を言う相手は中々いないので、こうも続けて不躾な人達に出会うと、むしろおもしろく感じてしまっているような、そんな微笑みだ。



「レナルド様のためになるのなら、どんな勝手も申す覚悟で生きてますので」


 にっこりと笑って言うアーノルドだったが、その言葉には芯が通っていた。



(囚人になっても尚、こんなに尽くしてくれる部下がいるなんて……。あの人、実は人望があるのね)



 普通なら、たとえ上司でも罪を犯した時点で見限るはずだ。地下牢に入った人間を気にかけはしない。

 それがどうして、少なくとも二人の人間は、レナルドのために今も動いているのか。

 少しだけ、クィンの好奇心がくすぐられたが、わざわざそれを聞きはしなかった。今はまだ、この二人に信用が置けないからだろう。



「分かりました。それでは三日後の正午に、またいらして下さい。……ただし、この手紙を必ずレナルドに渡すという確約はできませんので、そのときは素直に諦めてくださいね」



 クィンは三日後の訪問を了承したが、すかさず起こりうる可能性の話をした。



 レナルドに自由に会えるかどうかは、王宮に行ってみないと分からない点。

 自由に会えたとしても、手紙を持ち込めるかは分からない点。

 そもそもあのレナルドがこの手紙を受け取らないかもしれない点。



 これらの理由を伝え、クィンは手紙を渡すという確約は避けた。


 その言葉に、マクミランとアーノルドが渋い表情を浮かべるかと思ったクィンだったが、彼らの表情はむしろ嬉しそうに見える。


 その表情の意味がわからず、クィンは首を傾げ、マクミランはこう述べた。



「……ご心配なさらず。私達も、難なく渡していただけるとは思っておりません。ただ、この短時間でそれらの可能性を挙げた貴女は、私達が思っている以上に聡明な方だと分かりました。貴女のような女性であれば、レナルド様が運命の相手として選ばれるのも納得です」


 そして、正直申し上げて、とアーノルドが続く。


「レナルド様は完璧超人なので、一生独身を貫くと思っていたんです。あの方に見合う女性はいないだろう、と。聡明で可愛らしい貴女なら、なるほどレナルド様に相応しい」



 アーノルドはうんうん、と頷きつつ、嬉しそうだ。



(何よ……。これじゃ私が悪いみたいじゃない)



 本音を言えない空気を感じ、クィンの心中は複雑だった。

 昨夜、父親のファスタール伯爵とは既に他の結婚相手を探すことで話がついている。レナルドとの結婚は有り得ない。

 しかし、ここまでレナルドを尊敬している彼らに、囚人なんかと結婚する気がない、なんて言えない。

 言う必要があるわけではないが、言えない中で“聡明だ”、“結婚相手に相応しい”などと褒められては、まるで隠し事をしているかのように思えて、クィンに罪悪感が沸いてしまったのだ。


 アーノルドの発言に、クィンは何も応えず、後ろに控えていたナビアに要求する。


「ナビア、二人を正門まで送ってくれる?」

「かしこまりました」


 ナビアはガチャリと扉を開け広げる。

 それを見て、マクミランとアーノルドも部屋の入口に向かって歩き出す。


 部屋の外に出たところで、二人は振り返り、代表してマクミランが、クィンに別れの挨拶と念押しをした。



「手紙のお渡しと三日後のお約束、くれぐれも宜しくお願い致します。それでは失礼いたします」


 マクミランは綺麗な礼をして、アーノルドもそれに続いて礼をした。

 クィンは、はい、とだけ返事をして礼を返す。


 そうして、マクミランとアーノルドはナビアに導かれながら、ファスタールの邸宅を後にした。



 ―――彼らが帰宅してすぐ、クィンはユリウス宰相宛てに手紙を書いて王宮に届けさせた。急で申し訳ないが、明日レナルドに会わせてほしいという内容だ。



 ユリウス宰相からの返事は『イエス』だった。



 手紙を出しはしたものの断ってほしいと心のどこかで願っていたクィンには、残念な返事だ。

 ともあれ約束を取り付けたクィンは、この翌日、王宮へと向かった。


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