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伯爵令嬢の幸せな結婚 〜運命の相手が囚人なんて聞いてません!〜  作者: 香月深亜


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26. 感動の再会、そして騎士の誓いを

 聖女ジャンヌ様が謁見を願い出たからだろうか。

 もしくはジャンヌ様が全てを見通して事前に話を通していたのだろうか。


 レナルド達が謁見の間に到着すると、間もなくして陛下が姿を現した。


 ジャンヌ様はひらひらと陛下に手を振って、それ以外の者は深々と頭を下げて挨拶をした。


(ああ、陛下。大きくなられて……)


 レナルドが十年ぶりに対面した陛下は、彼が記憶していた十代の幼い姿ではなくなっていた。面影は残っているが、背は伸びて、立派な青年になっていた。まだ二十代前半ではあるものの、その振舞いには王としての貫禄も見える。

 自分を兄のように慕ってくれていた陛下の成長に、レナルドは感慨深さを感じた。



「まさか本当にレナルド兄上を連れてくるとは。余を驚かせるのも大概にしてほしいのだが」

「だが嬉しいだろう? 兄との再会だ」

「彼は兄では、」

「従兄弟も兄弟もそう変わらん。それに実際、兄のように慕っていただろう?」

「……やれやれ。ジャンヌは極端すぎる」


 前王の息子である陛下と、前王の妹の息子であるレナルドは確かに血縁としては従兄弟にあたる。だがそれを兄弟と変わらないとするのは些か暴論ではないだろうか。


 陛下とジャンヌ様がフランクにそんな会話を展開し、次に陛下はレナルドに視線を向けた。

 何から話せばいいのか、と悩ましい表情をしながら、陛下は声をかける。


「……久しぶりです、レナルド兄上」

「はい、陛下」

「少し……痩せられたでしょうか? それでも筋肉はあまり落ちてないように見えます。檻の中でも鍛錬を続けていたのですか?」


 十年間、檻の中で暮らしていたというには良すぎる体格に、陛下は疑問を持った。

 多少痩せた印象はあれど、何年も檻の中で暮らしていた囚人には見えない。


「あそこでは、他にやることも無かったので」

「さすが騎士団長ですね」

「“元”ですよ。陛下」


 陛下に騎士団長と呼ばれ、レナルドは反射的に訂正した。

 今のレナルドは囚人でしかなく、騎士団長という地位は十年前に失くしてしまったためだ。


「さあ。どうでしょうか」


 しかし陛下はそれを受け入れず、何かを含んだ笑みを浮かべた。

 彼の意図が分からず、レナルドは首を傾げる。


「回りくどい言い方をするでない。さっさとその授与の意を伝えてやれ」


 会話を横で聞いていたジャンヌ様がすかさず割って入る。



(授与の意?)



 ジャンヌ様が人の心を読める力を持っていることを知らないレナルドは、陛下とジャンヌ様で先に何か話していたのだろうか、と不思議に思いながら、陛下からの説明を待つ。



「久しぶりなのだから少しくらい会話を楽しませてくれてもいいだろう、ジャンヌ」

「レナルドはまだ囚人の状態だ。ここにいることを他の誰かにバレたら困るのはお前だろう?」

「はぁ……。分かったよ」


 少し残念そうにしながら、陛下はレナルドに向き直り、真っ直ぐレナルドに伝える。




「レナルド・コーネリウス。本日をもってそなたの刑期は終了とし、同時にコーネリウス家当主に復権することを許可する。また、余はそなたに二つ、贈り物を用意した」

「!?」


 先ほどまで兄と慕うレナルドに敬語で話していた陛下が、突如王の顔を見せ、勅命を下した。


 コーネリウス家当主に復権させていただけるだけでも、囚人のレナルドには有り得ないこと。刑期終了にしたって、陛下に会いに来てすぐそんな風に事が運ぶなんて、レナルドは夢にも思っていなかったはずだ。

 その上陛下は、これ以上何を用意しているというのか。



「まず、王立第二騎士団の団長職だ。あそこの団長がちょうど、辺境にある実家の跡を継ぐことになり空きが出ていた。余はそこにそなたを推薦する」

「は……。あの、陛下」

「それからコーネリウス家当主となるからにはそれ相応の爵位も必要だろう。そなたには公爵位を授与する」


 もはや言葉も出ず、目を見開くしかない。

 陛下が用意した贈り物は、あまりにも豪華な肩書きだった。


 陛下から貰い受けるものを断る事は出来ないのだが、さすがにこの肩書きは大きすぎる。


 困惑しているレナルドを見て、陛下は言葉を付け足した。

 


「そなたには突然のことかもしれないが、余はこの日をずっと待っていたのだ。……十年前、そなたを守り切れなかったときからずっと。そなたが自由の身になるときには、お詫びの意と、その忠誠心に感謝の意を込めて、余が与えられる限りを尽くそうと思っていた。騎士団長の職は、さすがに現職の人間を外してまではあげられないと思っていたのだが、さっき言ったように丁度空きが出たからな。それならいっそ爵位と団長職をまとめて授与するほうが手っ取り早いと思ったのだ」


 嬉しそうに話す陛下は、贈り物を減らすつもりはないようだ。


「その、お気持ちは大変ありがたいのですが、貴族や騎士達が納得するでしょうか」


 レナルドはそんな心配をした。

 囚人に与えるには豪華すぎる肩書きだ。反対意見が起きるに決まっている。そもそもの刑期終了にしても、どこまで話が通っているのか。もし陛下が勝手に言っているとしたらそれを皆に分からせるには時間がかかるはずだ。


 しかし、その心配は無用だった。



「今の余に、それらを説き伏せる力もないと思うのか?」



 陛下の顔は、自信に満ちていた。

 レナルドに与えると決めた職や爵位を、絶対に与えるという気概もうかがえる。



(本当に……立派になられたようだ)


 幼く、弱かった陛下はもういない。

 自分が、人生を賭して守った者の成長を目の前にして、レナルドの目頭が熱くなる。


 ここまで言われて、陛下の気持ちを受け入れない訳にはいかない。

 あとは、与えられた責務を全うするだけ。


 そして、レナルドは決意した。

 彼は片膝をつき、陛下に深く頭を下げて言う。


「このレナルド。今後も陛下に尽くし、陛下の騎士として生きることを誓います」



 それは、主君と認めた者に対して見せる騎士の誓いだった。

 囚人服で、剣も持たない姿ではあるが、片膝をつくその姿は凛々しく、かつて勝利の獅子と呼ばれていた頃のレナルドを彷彿とさせた。


 そしてこの誓いにより、レナルドは陛下との線引きをした。

 十年前はお互いを兄弟のように慕っていたが、もうそうはいかない。

 明確に主従関係を結ぶことをここで示したのだ。


「ああ、よろしく頼む。……レナルド」


 陛下はレナルドを“兄上”と呼ばなかった。

 レナルドの思いが陛下にもしっかりと伝わったことに、レナルドは僅かに微笑みを見せた。


 それを見た陛下が、思い出したようにレナルドに話を振る。



「そう言えば、ファスタールの息女とはどうなっているのだ。てっきりそなたと良い仲なのかと思っていたが、いきなりニルマー侯爵の名前が出てきて驚いたのだぞ」


 ファスタールの息女と言えばクィンのことだ。

 なぜ陛下がそんな話を知っているのかとレナルドは疑問に思いつつ、レナルドは素直に答える。


「どう……と申されましても、私とクィン嬢は何も、」

「この朴念仁め!」


 レナルドが、何もない、と答えようとしたところで、ジャンヌ様がすかさず叱責した。


「十年も地下牢にいて女心も分からなくなったか! ……ああいや、お前は昔から女心なぞ分からぬ奴だったか」

「ジャンヌ様、さすがに言い過ぎでは?」

「良いのだユリユリ。こういうことは、女の私のほうが分かっておる」


 なぜジャンヌ様に怒られているのか分からないでいるレナルドに、ジャンヌ様は前のめりで諭す。


「良いかレナルド。どんな理由を付けようと、その気のない男の元に足しげく通う女はおらん! 特にあんな、貴族令嬢が行かないような地下牢に通うなんて尚更だ!」

「は、はあ……」

「それに、お前に檻から出るように説得したことについても、ただの知り合いがそこまですると思うか?」


「あれはジャンヌ様が無理強いした気もしますが」

「ユリユリは黙っておれ! ……それにお前はどうだ? 彼女がニルマー侯爵と結婚すると聞いて、本当に何も思わないのか?」


 ちょくちょくジャンヌ様の発言の間に入ってくるユリウス宰相を押しのけて、ジャンヌ様はレナルドに強い意志を持って意見をぶつける。

 ジャンヌ様に詰め寄られ、レナルドは目に見えて動揺していた。


「それは……。ですが、私は彼女と一回り以上歳が離れて、」

「ニルマー侯爵はもっと離れているぞ」

「っ……、それに元囚人と結婚なんて、」

「騎士団長と公爵の地位を持つレナルドにそんな不遜なことをいう奴がいるなら余が退けよう」


 ジャンヌ様に乗っ取られていた会話へ、ここにきて陛下も参戦する。

 陛下の“退ける”は冗談では済まないから笑えない。



「余はそなたの気持ちを聞きたい。そなたに、ファスタールの息女を娶りたいという気持ちがあるのなら、余は協力を惜しまない。それにその娘は切れ者だそうじゃないか。年齢はまだ若いが、公爵夫人を任せても問題ないくらいなのだろう?」


「似合う似合わないとかそんな理由ではなく、お前の気持ちを考えろ。私にはジャンヌ・マリアージュでお前達を引き合わせた責任もあるからな。お前達に結婚する意思があるのなら私も力を貸そう」


 この国の二大トップが一騎士のためにここまで言うなんて、普通なら有り得ないこと。

 しかも無理強いをするわけではなく、レナルドの気持ちに問いかけて、その気があるなら手助けをしてくれると言うのだ。



「陛下、ジャンヌ様。そのようなお言葉をいただけて恐悦至極に存じます。私は……」



 レナルドは自分の心に問い、そして決心した。

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