練習試合 〜王宮〜
あれ?もう8月?
あれれれれれれ?????
ガタガタと揺れる馬車の中で、マリーと作戦を話す。
「マリー、今日は、どうやって話しかければいいの??というか、そもそも話す時間はあるのかしら?」
「そうですね、、今日はシリル様もいらっしゃると聞きますし、まずシリル様とお話しをされるのはいかがですか?協力してくださると思います。」
「なんでお兄様が?お仕事中ではないの?」
普段は、宰相である父トリスタンの補佐をしているシリルが、今日の練習試合に顔を出すという。
「なんでも、不定期に顔を出して、緊張感を高めるためとか。」
「確かに、お父様が出向くよりは、お兄様が行く方が効率的よね。」
宰相が出向くよりは、宰相補佐の方がまだ融通が効くのだろう。
不意に、コンコンと目的地に着くという合図が馬車前方から聞こえる。
「よし、まずはお兄様に会いにいきましょう。」
わざと少し大きめに声を出して、バクバクとうるさい心臓を誤魔化す。
馬車を降りて、まずシリルに会うために王宮の宰相の執務部屋を目指す。
基本的に、トリスタンとシリルがいつもその部屋で仕事をしている。
今日は、騎士団の練習試合があるため、基本的に王宮の門は空いている。
そのため、いつもより警備が厳しいらしく、身元確認と目的を聞かれる。
「こんにちわ。なんのために王宮へ?」
対応してくれたのは、物腰柔らかそうな白髪まじりの男だった。
「こんにちわ。レイヴァロワ家のものです。取り次ぎお願いします。」
マリーが門番の男にレイヴァロワ家の家紋が入っている紙のようなものを見せる。
「????ああ!!レイヴァロワ侯爵の、、なんと言えばいい?」
門番は、何か半信半疑のような少し険しい顔をしていたが、シャルロットの顔を見た途端納得したように笑顔になる。
人見知りのシャルロットには、笑顔を保つだけで精一杯だった。
「シリル=レイヴァロワ様にお嬢様がお待ちだとお伝えください。」
「少々お待ちを。」
そう言って、門番の男は奥の部屋へと歩いていった。
しばらくすると戻ってきて、今こちらに向かっているようです。とだけ言って仕事に戻って行った
。
ー数秒後ー
「お待たせ、シャル。どうかした?父さんじゃなくて俺を呼び出すなんて。」
宰相の部屋からシャルロット達がいる入り口までは、少し距離があったと思うが、息一つ乱れていない様子からすぐ近くにいたのだろう。
幼い時に一度だけ訪れたことのある部屋を思い出す。
「お兄様、お仕事は大丈夫なのですか?そんなにすぐに来ていただかなくても、、」
「大丈夫、大丈夫。シャルが呼んでくれたんだ、何か用があるんだろう?さあ、お兄様に言ってごらん!」
どんとこい、とでもいうように、笑顔で両手を広げている。
「お兄様、今日の騎士団の練習試合、見にいかれるのですよね?実は、一つお願いがありまして、、」
シリルに、近寄りながら見上げる。
シャルロットが少し小さいため、平均よりも身長が高めなシリルは見上げなければ、顔が見えない。
この入り口では恥ずかしいからと、王宮の中に入り、空いているへやを探す。
部屋に入り、改めてシリルにお願いをする。
「お兄様、私、騎士団にお話ししたい方がいるのです。お兄様には、話す場を作るのを協力して頂きたいのです。お願いします。」
両手を胸の前で組んで、シリルを見上げる。
幼い頃、マリーにこの仕草をすれば、誰でもお願いを聞いてくれると教わり、顔を真っ赤にしながら実践する。
「なんだ、そんなことか。シャルのことだから変な事は言わないと思っていたけれど、そんな簡単なことなら、いつでも大歓迎だよ。」
変なこととは何を指すかわからないけれど、お願いを聞いてくれそうでほっとする。
「本当ですか?!ありがとうございます。」
パッと笑顔になると、シリルもこれ以上にないほど、笑顔になる。
「それで、誰と話したいんだい?そもそも、シャルに騎士の知り合いなんていた?」
誰と聞かれて、少し恥ずかしがりながら答える。
「テオドール=ヴェスタン様です。第一部隊の副隊長をされている。」
その名前を出した途端、シリルの動きが止まる。
けれど、すぐに戻り驚いたような顔をする。
「本当に言っている???名前を間違っていたりしない?冗談でもなくて?」
なぜ、そんな反応をするのかわからないが、デビュタントで見かけたと答えれば、渋々だが納得したようだ。
「あの人は、いい人だけれどあの顔だからな、、、シャルは、冷やかしで会いたいと思っているわけじゃないんだろう?あの人と、何かあったの?」
シリルは、まるで知り合いかのように語る。
お互い、副隊長と宰相補佐という立場ゆえ知り合いであってもおかしくはないが、今までテオドール=ヴェスタンという名前は、シリルの口からは聞いたことがなかった。
「デビュタントでお見かけしてから、ヴェスタン卿の顔が頭から離れなくて、、、それでお母様に相談したら、こ、こ、恋だと、言われて///だから、お話ししたこともないんです、、」
赤くなった頬を抑えて、クネクネしだしたシャルロットを見て、シリルはさらに驚いたような顔をする。
本来なら、ここで止めようとするのが兄としての役目なのかもしれないが、テオドールの人柄や境遇を知っている手前、悪く言うこともできず、というよりどこまでもシャルロットに甘いシリルは、妹の見たことのない顔がもっと見たくて、シャルロットの恋とやらを応援することに決めた。
「わかったよ。シャルが本気なら、俺だって協力は惜しまない。それに、ヴェスタン卿はシャルを弄ぶようなことはしないだろうしね。お兄様に任せなさい。」
「嬉しいです!お兄様、大好き!!」
興奮のあまり、抱きついてしまったがシリルも多めにみてくれるだろう。
顔を伺うようにあげると、シリルがこれ以上にないくらい鼻の下を伸ばしていたが気のせいだろう。
全然、ヒーローが出てこないです。あともう少しなんです。ほんとにあともう少しなんです。(≧x≦)
お読みいただき、ありがとうございました。