なぜ?〜テオドール〜
テオドールが、シャルロットに会いにいく前のお話です。
「ヴェスタン副隊長いますか?」
騎士団の控え室にいた騎士全員が一斉に俺の方を見る。
普段、目も合わせないような奴らが、青い顔をして凝視してくる。
俺の顔を見て気分が悪くなっているというよりかは、俺の名前を呼んだ男に対する恐怖ゆえだろう。
その人物は、ルベルトワ王国宰相補佐シリル=レイヴァロワ。
その甘やかなルックスとは裏腹に、史上最年少で宰相補佐の肩書を獲得した。
その手腕は確かなもので、大人ですら思いつかない政策を次々に生み出し、貴族までならず国民までもが彼を支持している。
だが、当人はいつも無表情で、影では鉄の貴公子と言われている。
そんな人物が突如、俺の名前を名指しで呼びつけた。
しかも、こんなにむさ苦しい場所に自ら。
悪い妄想をする人間がほとんどだろう。
かくいう俺も、戦いの時よりも心臓の音がうるさいように感じる。
けれど、罰せられるようなことは皆目見当もつかない。
動揺を表に出さないように、レイヴァロワ宰相補佐の元へ足を動かす。
「はっ!遅くなり申し訳ありません。私に何か御用が?」
何度か顔を合わせて話したことはあるが、緊張はいまだに解けない。
「ちょっと」
そういい、向かいの空き部屋に連れられる。
バタン、、、ガチャ。
俺が部屋に入ると、レイヴァロワ宰相補佐が後ろ手に部屋の鍵を掛ける。
数分の沈黙が訪れる。
それを破ったのは、シリル=レイヴァロワだった。
「ヴェスタン卿。練習試合の休憩時間、王族専用席に来てください。」
部屋を変えるということは、この場で何か言い渡されるのかと思っていたが、そうではないようだ。
だが、これっぽっちも予想ができない。
(一体、なんなんだ?)
あのシリル=レイヴァロワが用もなしに呼び出すはずがない。
「失礼ながら、自分に何か、、、?」
たまらず、そう聞くと、一瞬考えるそぶりを見せる。
「貴方に、あって欲しい娘がいるんだ。」
「はっ?!」
思っても見なかった答えが返ってきて、騎士らしくない声が出てしまう。
(む、娘?!?男ではなく、娘??何をおっしゃっているんだ?)
今までに、国に支えてきたため誰かに紹介されることは何度かあった。
けれど、それは全員男だ。なぜなら、俺は世の女性に受け入れられる顔を持っていない。
この顔で何人の女性を気絶させてきただろうか。
(なぜ、俺に娘と会わせようなどと・・・。結末が見えているはずなのになぜだ??)
「お言葉ですが閣下。自分は、、、、」
最後までいう前に、止められる。
「安心してください。あの娘は貴方が思っているような、そこら辺の有象無象ではない。それでは、私はここら辺で。王宮専用席の入り口の前で待っていますから。」
一人で言い切り、部屋を去っていく。
(あの娘ということは、宰相補佐と親しい人物か?あの方に、婚約者はまだいなかったはず、、、もしかして、恋人?いや、でも俺に紹介する必要があるのか??だが、婚約者に内定しているのであれば、それもありうるか、、、?)
そこら辺の有象無象とは、女性のことだろうか。やはり、あの顔の持ち主ならば、俺が想像すらできないことがあるのだろう。
しかし、やはり全く予想がつかない。が、行かないという選択肢もない。
ただ、今のうちに心構えをしておかないと、今日の試合に響くかもしれない。
シャルロットは、テオドールがシリルと会っていたとき、会場へと歩いていました。
シリルは、シャルロットと別れてからすぐにテオドールへ話に行ったので、シャルロットを席に案内するのが少しだけ遅れてしまいました。
ストックがなくなってしまったので、次話はもう少し先になります。
お読みいただき、ありがとうございました。