練習試合 4
またまた遅くなってしまいました。
ちょっとたまったので、数日は更新する予定です。
(言った!!!私言った!!!これで断られても、もう悔いはないわ!!!よくやったわ!シャルロット!)
悔いなんてないはずがないのに、言い切った自分を今だけは精一杯褒める。
あとは、返事を待つだけ。
テオドールは、一瞬たじろいだが、直ぐに騎士然として、口を開く。
「レイヴァロワ侯爵の麗しき宝石に、そのような事を言われるとは。とても光栄です。しかし、私も必ず優勝するとは言いきれません。ですが、もし勝利を収めることが出来るのならば、あなたに捧げましょう。レイヴァロワ侯爵令嬢。」
決して目が合うことはないし、お世辞だと分かってはいるが、嫌な顔をせずに言ってくれたことに嬉しいという気持ちが抑えられない。
口角が自然と上がっていくのが、嫌でもわかる。
そうこうしている間に、そろそろ休憩時間が終わりを告げようとしている。
テオドールが、退室しようと体を動かす。
「ま、待ってください!副隊長様!!」
シャルロットは、思いがけず口から出た自分の声に驚く。
もう、用などないのに呼び止めてしまった。
少しでもテオドールの顔が見ていたくて。
そこで、シャルロットの後ろに立っているマリーがこれまた小さな声で、(お嬢様ッ!お名前ッ!呼んでいただきましょうッ!!)
先程、レイヴァロワ侯爵令嬢と言われたことを思い出す。
この国では、貴族限定だが、相手が名前を呼ぶことを許して、初めて名前で呼ぶことが出来る。
名前を呼ぶ許可をするということは、少なからず仲良くなりたいと思っているということだ。
マリーに心の中で盛大に感謝をしつつ、またまた勇気を振り絞る。
「あの、宜しければですが、是非、私のことは、シャルロットとお呼びくださいませ。」
少しだけ緊張がほぐれたのか、あまりつっかえずに言い切ることが出来た。
テオドールは、またも一瞬たじろいだが、直ぐに戻る。
「分かりました。シャルロット嬢。では、私のことは、ヴェスタンとお呼びください。それでは、そろそろ時間が迫っていますので、これで失礼します。」
シャルロットとシリルに敬礼をして、王族専用席を出ていく。
テオドールが、出ていってから数分後、試合再開の鐘が鳴った。
試合が再開される。
テオドールの出番は、もう少し先のようだ。
突然のテオドールの登場に未だ、心臓のドクドクという音が鳴り止まない。
少し落ち着いてから、シリルの方を見る。
すると、いつから見ていたのか、シリルは微笑みながらこちらを見ていた。
「お兄様??何か私の顔についていますか??」
「いいや?ヴェスタン卿と会った感想を聞きたくてね。どうだった?予想通り?それとも期待外れ?」
「期待外れ!?!そんなことは決してありませんわ!とても素敵でしたわ!けど、、、、」
テオドールが期待外れだなんて、嘘でも言いたくなくて、思っていたことがぽろっと口から出てしまう。
なぜだか、周りの目が生暖かくなった気がして、恥ずかしくなり、俯く。
しかし、シャルロットはあることを思い出して、心が沈む。
「けど、、、?なんでも言ってごらん。俺が聞いてあげる。」
「あの、ヴェスタン卿と、一度も、目があわなかった気が、して、、、」
名前と言っても家名だが、呼ぶことを許されたかと思うと、自然と頬が緩む。
だが、目が合わなかったということを音にしてしまうと余計に悲しく感じられて、目が潤む。
すると、シリルがうーんと苦笑いをする。
「それは、許してあげてほしいな。決してシャルロットが嫌いだとかいうことはないよ。けれど。彼は、そうしないと挨拶すらまともに交わせないことが多いから。」
それを聞いて、シャルロットは思い出す。
テオドールは、世間から見ると、醜い顔だということを。
テオドールが近くにいて、少しだけでも言葉を交わせたということに浮かれていた。
「ヴェスタン卿は、目を合わせると気絶されたりすることが多いから、彼なりの優しさなんだよ。特にシャルみたいな貴族令嬢なんかは、後ろ姿だけで気分が悪くなると聞く。許してあげて、シャル。」
シリルは困ったように笑う。
シャルロットもテオドールの噂は聞いていた。
けれど、それは本当に噂であって、現実はもう少し軽いものだと思っていた。
でも、テオドールと話して、彼の行動が、相手のためにしている行為だということに気がつく。
(私、わかった気になっていただけね。やっぱり、耳にするだけではわからないことはたくさんあるわ。)
目をあえて合わさないというテオドールの行動に、シャルロットは、悲しくなりつつ、もうそんなことはさせたくないと思う。
「シャル?」
一人で考え込んでいたシャルロットにシリルが声をかける。
「ごめんなさい、お兄様。私、もっとヴェスタン卿とお話、がしたいです。」
いつか、テオドールと心を通わせたい。
あの深い緑色の瞳でシャルロットだけを見て、微笑んで貰えるように。
(いつまでも恥ずかしがっていては、ヴェスタン卿に見向きもされなくなってしまう。頑張らないと!ああ、でも、さっきはとてもかっこ悪いところを見せてしまったわッ!殿方とはどうやって親しくなるのかしら!?)
1人でうーんうーんと考え込み始めたシャルロットを見て、シリルが微笑む。
「シャル?そろそろテオドールの出番が来るよ?観なくていいの?」
あれこれ考えていた間に、どうやらテオドールの順番が回ってきたようだ。
流石のシャルロットもこれだけは見逃したくなくて、今だけは思考を放棄する。
練習試合、あまり長くする予定ではなかったのですが、書いていくうちにだんだん伸びていきました。
まだ、練習試合から抜け出せません笑
お読みいただき、ありがとうございました。