練習試合 3
とうとうです!
そこに立っていたのは、茶色の髪に、深く吸い込まれるような緑の瞳、隊服の上からでもわかる筋骨隆々な体。
シャルロットは息を呑む。
デビュタントの日、一度、いや一瞬しか目にすることが出来なかったが、直ぐに誰だかわかる。
そう、シャルロットが思いを寄せているテオドール=ヴェスタンだ。
(・・・・・・・・・え?)
突然のテオドールの登場に頭が追いつかない。
シャルロットは、無意識にテオドールをガン見していた。
数分たった頃、空気になっていたシリルが口を開く。
「ごほん!シャル、こちらテオドール=ヴェスタン。第一騎士団の副隊長だよ。」
紹介されたテオドールは、軽く敬礼する。
「シャル、ご挨拶は?」
そこで、状況を理解し始めたシャルロットは、慌てて自己紹介をする。
「も、申し訳ありません!は、初めまして!レイヴァロワ侯爵が娘、シャルロット=レイヴァロワです。以後お見知りおきを。」
慌てて立ち上がり、デビュタントのために練習しておいたカーテシーをする。
(私ったら、恥ずかしい!もう成人なのに、挨拶すらまともに出来ないなんて、、)
シャルロットの顔がほんのりピンクに色づく。
「ルベルトワ王国第一騎士団副隊長、テオドール=ヴェスタンであります。名高きレイヴァロワ侯爵の麗しき宝石にお会い出来たこと、心より嬉しく思います。」
少しだけ腰を折り、テオドールが騎士らしく挨拶をする。
麗しき宝石という聞いたことの無い名に、社交界デビューして間もないシャルロットは、お世辞とわかっていても恥ずかしくて、顔が赤くなるのを抑えられない。
恥ずかしくて、少し俯く。
そんなシャルロットを見て、テオドールが悲しそうな瞳をするのも、もちろん気がつけなかった。
「ヴェスタン卿!今日の調子はどう?勝てそう?」
突然、シリルがテオドールに話しかける。
「はっ。調子は普段とさほど変わりません。勝てるかどうかは、戦ってみないことには難しいかと。」
深くて、痺れるような低い声に、(かっこいいな)とつい思ってしまう。
「あっ!ヴェスタン卿、聞きたいことがあるんだけど。優勝を捧げようと思っている人はいるのかな?」
急にシリルが爆弾発言をする。
そんなことを聞いて、もしテオドールがいると答えてしまったのなら、もうシャルロットは、話しかけることが出来なくなってしまう。
数秒経ってから、テオドールが口を開く。
「特にそのような方はいません。優勝を捧げると言っても、私のような人間には、一生縁のないことです。」
テオドールは、少し自嘲気味に話す。
シャルロットには、縁のないということがどういう事なのかよく分からなかったが、なぜだか胸が締め付けられるのと同時に、今テオドールが想いを寄せている人は、いないということに、すこし喜んでいる自分がいた。
そこでふと、なにかがおかしいことに気づく。
テオドールが、ひたすらにこちらを見ようとしない。
彼が挨拶をしたとき、本来ならば目が合うはずだが、シャルロットの少し上の方を見ていた。
(どうして、私を見てくれないの?お兄様とは、普通に会話しているのに。やっぱり、私のことがお気に召さなかったのかしら、、、、)
シャルロットはそう決めつけ、1人で落ち込む。
ここで、気の強い令嬢なら怒っていたことだろう。どうして目が合わないのか。
けれど、シャルロットにそれを聞く勇気はなかった。
目も合わせる価値がないと、遠回しでも言われたくないからだ。
「、、、ル?、シャル??どうしたの?具合でも悪い?」
1人でシュンとしているシャルロットは、シリルに話しかけられていることに気が付かなかった。
「ッ!申し訳ありません、、私は大丈夫ですわ。」
「そう?きついときは必ず言うんだよ。いいね?」
「分かっていますわ。お兄様。それよりも、」
自分が嫌われているかもしれないという恐怖に陥る前に、テオドールに言いたいことがある。
これだけは言うぞと、覚悟を決めてテオドールをまっすぐと見る。
やっぱり目の前にいるテオドールは、とてもかっこよくて自然と頬が赤くなってしまう。
けれど、先程の想い人はいない発言に、シャルロットは、ドクドクとうるさい心臓に鞭を打って、声を出す。
「ふ、副隊長様!!!あの、もし宜しければ、その、」
なかなか次の言葉を発することが出来ないシャルロットに、空気以上に薄くなっていたマリーがシャルロットにしか聞こえない程の小さな声で、(お嬢様ッ!頑張れッ!)と背中を押す。
(シャルロット!頑張るのよ!さあ!口を開けて!)
「こ、今回の優勝、是非、私に、ささ捧げてはくださいませんか!??!」
お読みいただき、ありがとうございました。




