4話~月にかかる階段~
しぶ子もその頃には、色々な前世の物語と現実の出会いの中で、しなければいけない事を、だんだん理解が出来てきていた。
きっと真の課題は、自分自身の前世である
今、目の前に居る「美花」自身を、空高く昇らせる事に違いない。
「あなたの最大の心残りはなに?」
しぶ子はそう美花に尋ねた。
すると、美花は一言
『金平糖を京都で買ってきてほしいの』と言った。
あぁ、七さんによく貰ってたんだっけ。
近所のスーパーのでいいんじゃないの?
ガサツなしぶ子がそう話すと
『京都で買ってきてほしいの』それだけを呟いた。
そう簡単に言うけど、京都って地味に遠かったりする。
しぶ子は正直気が乗らなかった。
でも過去の経験から、このミッションをクリアしないと前に進まない事も一番わかっているので、とりあえず行くなら誰と?いつ?行こうとかを思い巡らせた。
すると、突如電話が鳴った。
出ると、悪友からだった。悪友に何か用?と聞くと
「聞いてよ!この話はあなたしかわかってもらえないと思って!」
そう絶叫された。一体何事?と聞くとこんな内容だった。
私が昔、悪友におまじないを教えた事があった。
それは「失せ物探しの呪文」
あったはずの物が無くなって困った時はね
「たまねぎ!!!」と叫ぶと出てくるんだよ?
と、私が昔言った事があった。
悪友はアホちゃうかと思いつつ、それを試した所、現在まで100%の確率で出てきているらしい。
今回、彼女は通帳を見失った。
とても大切な物だし、血眼になって探した。
でも出てこない。
あ!こんな時はあの呪文の出番!そして悪友は高らかに叫んだ。
「たまねぎ!!」と!!!
すると、叫びすぎたからかお腹が空いた。
チキンラーメンでも作るかなと思った悪友は食器棚から
丼ぶりを取り出した。
すると、丼ぶりと丼ぶりの間から
なんと、へしゃげた通帳が出てきたのだ。
「こんなのありえない!なぜここに通帳が!
つか、たまねぎ最強かー!!」
ってなわけで、チキンラーメンを作る手も止めて
しぶ子に電話してきたのだった。
しぶ子はとりあえず、まず一言
「その通帳そんなに曲がって、ATM通らないんじゃ」と心配した。
「う、うん。私もそう思う」
なんだか可笑しくなって、ふたりで笑いあった。
そして、そういえば最近遊んでないねって話になった。
「実は京都に行きたいんだけど、一緒に行かない?」
しぶ子は気づけば、悪友を京都に誘っていた。
悪友は私の不思議な体質を知っていて
それでも何も変わらず接してくれる友人だ。
そんな友人は宝だなってそう思う。
それにしても、この絶妙なタイミングで京都に行ける事になるのも不思議なものだ。
行くともっと色々とわかるかもしれない、そうしぶ子は期待に胸を躍らせた。
◇
京都の四条についた。
悪友と二人で、まず八坂神社に行った。
参拝を終えてから、南座に向かった。
南座は今も昔もそこにあり、私も普段から存在は勿論知っていた。
美花の話だと、昔、その向かいに「北座」があったはず。そんなのあったかな、全く私の記憶にはないんだけど。
しぶ子は周囲を見回した。
南座の向かいに、八つ橋の店があった。
見ると、「このあたり北座跡」の碑が建っていた。
何度も京都には来た事はあるけれど、観光目的で普段は訪れないので、八つ橋も買わないし、店の存在も正直知らなかった。
私は悪友とその店に入った。
普通に八つ橋がたくさん売っていた。
すると隅のコーナーに、金平糖がおかれているのに気づいた。
あぁ、この事なのかな?
私がそう考えていると、悪友がつかつかと近づいきた。
そして、
「顔が暗い!とりあえずこれでも買っときなさい!」と、いきなり青色の金平糖を掴み、私の手のひらに乗せてきた。
私はなんて強引なんだと、笑いながら
ゆっくりとその金平糖の値段を見ようと、ひっくり返した。
するとそこには商品名「勿忘草」の文字があった。
「勿忘草」には、思い当たる事がある。
七さんが転生したMさんがまだギルドに居た頃
とあるアニメの話で盛り上がった事があった。
そのアニメの主人公が幽霊で
仲間達で成仏させるってストーリー。
その終盤に、この「勿忘草」が登場する。
その時に、勿忘草の花言葉は「私を忘れないで」だと知った。
金平糖を見つめながら、色々を想った。
七さんがいつもくれた金平糖の事を
この場所での昔々の物語を
そして「私の事を忘れないで」と言う
美花のメッセージを。
悪友には一切、今回の話はしていなかった。
だから、余計に不思議な気持ちがした。
今までの現実の出来事全ては、
この日、美花からのメッセージを受け取る為の
伏線の様な気がした。
いや実際本当に、そうなのかもしれない。
家に帰宅して、早速金平糖を食べてみた。
甘くて少し懐かしい味がした。
お皿に数粒、金平糖をのせテーブルに置いた。
そして、静かに彼女を想った。
◇
美花の最大の願いであった、金平糖は買ってきた。
そこに込められたメッセージも受け取った。
恐らくそろそろ私自身の前世である「美花」を空に見送る事になる。
って言う事は、恐らく正吉であるAさんともそろそろ縁が切れるんだね。
しぶ子は静かに覚悟を決めた。
◇
2015年の中秋の明月の次の日はスーパームーンだった。
その日、ギルドでは、スーパームーンの話題があがって、月の話でチャットがとても盛り上がった。
丸い月には、何か力があるのかもしれない。
月を想っていると、美花が私の目の前に現れた。
「そっか、そろそろ時間なんだね。」
美花は白無垢姿だった。
視ると、座のみんなも美花を囲んでいた。
そこには正吉も、七も、勝もいた。
皆はただ楽しく歌い踊っていた。
私は突然目の前にひろがった景色を、ただ見つめていた。
すると、美花が一言
『もう行かなくちゃ、本当にありがとう』
と、私に言った。
そしてスーパームーンの力を借りて
美花は月にかけられた、長い長い階段を一段一段進み、そして消えていったのだった。
皆もそれを見届けると、ゆっくりゆっくり消えていった。
暫くして、前世の時系列になぞらえる様に
正吉さんが転生したAさんの、職場の転勤が決まった。
今までみたいに頻繁に覗けなくなりそうと言われた。
私は静かにそれを受け入れた。
「いつか必ずまた、一緒の時間を過ごす日がくる」
と、お互いそう最後に話をした。
そんな日が訪れる事を、今はただ祈るばかり