3話~今世での再会~
\チリリリリーン/
難波しぶ子は、けたたましい目覚ましのアラーム音で目覚めると
慌ててそれを解除した。
傍らで猫はまだスヤスヤと寝息をたてている。
「えらく壮大な夢をみたな」
まだ半分寝ぼけたまま、しぶ子は布団を抜け出すと
朝食を取りながら、夢のメモを取りはじめた。
京都の歌舞伎座ねぇ、昼ドラ顔負けな話すぎだろこれ。
それにしても、なかなかに中身の濃い物語だった。
夢には色々種類がある。
今日見た夢はやけにリアルだった。
こんな鮮やかな夢は、実際の記憶の事が多い。
そんな事を考えていると、突如着物姿の女性が目の前に現れた。
その姿は普通の人にはみえない。
しぶ子にしか視えない存在だった。
しぶ子は小さい頃から、みんなには見えない存在の
姿や声をキャッチする体質だった。
過去の色々な経験から、突如現れたその女性をしぶ子は
「美花」だと思った。そしてそれはきっと自分の前世に違いなかった。
「これあなたの話?」
しぶ子がそう尋ねると、彼女はコクリと頷いた。
しぶ子は自分の前世だと言う
「美花」と色々話をする事にした。
きっと何か困っているから、現れたはずだったからだ。
すると、会話をしていくうちに、色々な事がわかってきた。
その頃しぶ子は、ソシャゲの世界で遊んでいた。
ギルドに集っていた40人近いメンバーと、日々を
楽しく過ごしていた。
その仲間たちが、その京都幕末時代に一緒に過ごした
人達だと、美花から言われた。
その時の未練や心残りを昇華する為に、今回場が設けられ
引き寄せられ、必然に再会をしたらしい。
色々を理解していくうちに、前世の誰々が
転生した現世の誰かという事もわかっていった。
その中で、本当に何も出来ない癖してリーダーになっちゃった
しぶ子を支えてくれる、Aさんと言う人がいた。
ギルドを始動した日に声をかけて、入ってくれたメンバーだ。
Aさんのお陰で、ギルドは本当に一気に大きくなっていった。
Aさんは常々、「自分は裏で動くタイプでそれが向いている」と
話していた。
視ていくうちに、Aさんが正吉である事がわかってきた。
黒子だった正吉は、本当に決め細やかな心配りが出来る人だった。Aさんの人柄と重なった。
Aさんと出会ったのは、必然だったの?
しぶ子がそう聞くと、美花は「もちろんよ。」と、答えた。
あと、Mさんが七さん?Nさんが勝さん?なのかも。
しぶ子は日常の流れの裏側で、幕末の姿を重ね合わせながら
色々を汲み取る努力をした。
ただ、それが解った所で、特にしぶ子にとっての日常には
何も影響はない。普通にソシャゲの世界で普通に遊ぶだけ。
しかし、美花にとっての心残りは
会いたかった方々の魂と再会出来た事で
どんどん解消されていった。
「今度こそ誰にも邪魔をされず、一緒に時を静かに過ごしたい」
何かをする事なく、ただ普通の会話、傍に感じる事。
その事実や些細な事柄だけで、どうやら想いと言うのは
癒されていくらしい。
「課題が解消されたらどうなるの?」
しぶ子は、美花に尋ねた。
「叶ったらそれがやっと想い出になるの。
よい温かな記憶になるの。
そうすると羽が生えて、魂が解放されるの。
そこで課題がやっと終わるの」
そう言われた。
課題が終わる。
つまり、偶然に出会ったり別れたりする様に見えるその裏で
全ての出会いと別れには、こんな課題の解消の意味が
隠れているのだろう。
今、こんなに毎日の様に同じギルドでワイワイ楽しく
過ごしているけれど、課題がクリアされたら
この方々との縁はきっと、切れてしまうって事なんだね。
しぶ子はそう察した後、少し落ち込みはじめた。
ずっとこのままで居たいだけなのにな。
自分はこれからも、こんな出会いと別れを
きっと繰り返していくのだろうか。
「全く疎遠になるわけじゃない。そこには太い絆が残るわ。
だから悲しまないで」
美花にそう言われても、しぶ子の心は晴れなかった。
頭では勿論わかっていても、この楽しい時間が
終わりを迎える事を、知っていながら過ごすのは
やはり辛いものだ。
ただただ平凡で、笑顔溢れる楽しい時間。
そんないつ無くなってしまうかもわからない
「今」を大事にしなければいけないなと
しぶ子は改めてそう思った。
◇
数日後-
まずは、七さんが転生したMさんから突然
「ギルドをやめたい」と連絡が入った。
しぶ子はただ普通を装いながら、それを受け入れた。
しぶ子は様々な課題が、順番にクリアされて行くのを感じ始めていた、
課題のクリアは、京都幕末時代の物語に
なぞらえるかの様に、時系列に進んでいった。
七さんが亡くなって、転生したMさんとの課題がクリアされ縁が切れた。
って事は……
次に、勝さんが行方不明になったのだから、転生したNさんとの
縁が切れてしまうのか。
それからしぶ子は、Nさんを注意深く見る様になった。
Nさんはとても場を整える事の長けた人だった。
メンバー同士がもめた時も、しぶ子が入ると余計におかしくなってしまったのだけれど、気づけばNさんがフォローしてくれていてその場が収まった。
Nさんはとてもノリがよく、言葉の使い方がうまい方だといつも思っていた。
それはやはり書生さんだった名残なのかもしれない。
そんな前世は勝である、Nさんに意識を向けていたからなのか
自宅で寛いでいるしぶ子の前に、突如勝が現れた。
勝は美花の元にやってきた様子だった。
ずっとずっと、美花に逢いたかった、勝は語り出した。
駆け落ちの当日病に倒れ、その後すぐに亡くなったという事。
ずっとそれが心残りだったという事を語りだした。
美花はそれを聞いてとても嬉しそうに泣いていた。
「私は、捨てられてなかったんやね」と、そう言った。
目の前でいきなり始まった、感動の再会ショー。
しぶ子は驚いたものの、感動の再会を見てると気づけば泣いていた。
ちょうど、とても完成度の高い名作映画を観た時の様な余韻に浸り
あぁよかったと心からそう思った。
でも待てよ?これはダメだ、心残りがクリアされている。
課題がクリアされてしまっている。
って事は現実の世界では、Nさんとのご縁が切れてしまうじゃないか!?
「止めなきゃ」
私は、少し足掻いてみる事にした。
その頃ちょうど、ギルドの副リーダーを増やそうという話が出ていた。
副リーダーになってくれたら、どこにもいかないでくれるかもしれない。
止めれるかもしれない。
そう思ったしぶ子は、早速Nさんに個人メッセージを送った。
Nさんはとても律儀な方で、しぶ子の送信に丁寧に返事をくれた。
副リーダーの話をしたら、とても時間をかけて考えてくれて
でも、これから仕事が忙しくなる迷惑をかけてしまうから引き受けられないと
そう言われた。
よい終焉で縁が切れるのは、喜ばしい事だとわかっている
少しだけ、足掻いてみたかっただけ。ダダをこねたかっただけ。
私はそれ以上言う事はあきらめ、ただ普通の雑談をした。
勝さんとの辛い思い出が、温かい記憶に変化するのを感じた。
それからすぐ、フェードアウトする様にNさんはしぶ子の目の前から消えた。