俺は『しりとり』の呪いをかけられたのだ2
俺の名前は『須賀 太郎丸』(すが たろうまる)。
公立高校に通うごく普通の男子高校生。
そんな普通の俺が、今日こんな呪いをかけられるなんて思っても見なかった……
高校二年の春のある朝、俺は目覚めた。
眠い目をこすり、体を起こす。
いつもより明るい光が窓から指している…………
「まじか……?」
現時刻は8時20分だろう。俺は察した。あと10分でホームルームが始まる。そんな気がするのだ。(ここまで15秒)
その時俺は諦めた。なぜなら家から学校まではどう足掻いても自転車で15分かかる。
行き道信号や踏切にかかったならそれ以上。
両親はとっくに仕事に行っただろう。
「がんばってね♡」
あぁ……オワタ\(^o^)/
須賀太郎丸、終了のお知らせだ。
そして俺はもはや開き直る勢いで、時計を見た。(ここまで20秒)
《08∶14》
おっと?
俺の目は一気に見開かれた。
ワンチャンいけるんじゃないか!?ーー
俺はガバッと飛び起きたーー
寝巻きを脱ぎ散らし、クローゼットから制服を出し、
ババーーーッと着替えたーー
布団もたたまずカバンを持って部屋を出ると、階段を飛び降りーーーー
顔だけ洗うと俺は袖で顔を拭うーー
靴下を履かずにスニーカーを履き、ガチャりと玄関の鍵をして、ガシャン!と自転車にまたがったーー
猛ダッシュで自転車をこぎーーーー
「太郎丸くんじゃないか。おはよう」
近所のおじいさん(通称・田中サン)の声が聞こえた気がしたーーーー
「おはようございます!! さようなら!! ではまたのちほどお会いしましょう!!」
そう言って俺は近所のおじいさん(通称・田中サン)をあとにしたーー
信号は運良く3つ連続の『青』!!ーー
その青は今の俺にとって、澄み渡る空、限りない海、モルフォ蝶の翼、この内のどれとも比べ物にならないほど美しく爽やかに感じたーーーー
出発して10分はたっただろうか……いや、15分か……
もはや時計を見る余裕もないーー
最後の曲がり道を超えると、横断歩道を挟んだ向こうに、きらびやかに輝く我が校の校舎が見えたーー
もうすこしだ…あと少し……
校舎を見ると『平成13年度卒業生寄贈』の文字の横の時計は、8時29分を指していたーー
そしておれは思いっきりペダルを踏み、100倍速で突き進もうとしたーー
《そのとき》!!!
目の前に突然、ランドセルを背負った二人組が現れたーー
ーーー(いや、きっと突然現れたのは俺の方なのだが)ーーー
小学一年生ぐらいだろう……
片方の男の子はこちらを振り向くと、猛進してくる俺に気づいたようで、焦りを顔に出し、必死に見をかわそうとしていた。
一方、もう片方の女の子はまだ俺に気づいていない……
「『か』……『か』……うーん……」
しりとりをしていたようだ。その後ろ姿は『か』で始まる言葉を探している。
「ねぇ、『てんてん』つけてもいい?……」
ちょっと待ってくれ……そんな呑気なこと話してる場合じゃない。
俺はブレーキを踏んだ。と同時に自転車は宙に浮き、ふわりと内臓が飛び上がる感覚に襲われた。
後ろから俺の事を見る周囲の視線が見えた。
空中で体が宙返りしていたのだ。
そして俺はそのままひっくり返り、頭から地面に落っこちた。
ーーーーーーーーッゴオオオォォォォォーーーーーォォン!!!
何が『終了のお知らせ』だ……
須賀太郎丸が終了したのはたった今だというのに。
俺の頭は轟音とともに運動停止し、夢と現実の入り混じったような時間に入った…………
ちょうど15分前の目覚めて夢うつつのときのような感覚だ………
痛みは伴わないものの、俺の頭骸骨がかち割れ、そこから血がにじみ出ているのを感じた。
猛烈な耳鳴りの中に混じり、いろんな人の声が聞こえる。
しかしその内容は聞き取れなかったし、理解もできなかった。
俺の周りを人が囲み、何かしらの処置をしてくれているのだろうか……
小学生たちは大丈夫だっただろうか。
多分ブレーキかけた時点での距離は5メートルぐらいあったと思うが、そこから俺が宙を舞って吹っ飛んだ距離を考えると……微妙なとこだ。
まあ、そんなこんなで俺の思考は停止した。
完全敗北。リタイアだ。
そして俺はしばらく意識不明の重体になる。
………と思ったんだけど。
「ん?」
なんだろう。何も痛くない。頭も体も。
それどころか全然元気だ。
眠い目をこすり、体を起こす。すると…
いつもより明るい光が窓から指している…………
「まじか……?」
現時刻は8時20分だろう。俺は察した。あと10分でホームルームが始まる。そんな気がするのだ。(ここまで15秒)
ーーまさか自分が交通事故で死ぬなんて思っても見なかっただろうね。
しかし、もっとずっと思っても見なかったのはここからだよ。
彼は『しりとり』の呪いをかけられた。
この時点で彼の頭の中には自転車事故を起こした記憶はない……
今の彼にとってこの朝は《ただの遅刻寸前の朝》に戻ったってわけ。
そして彼はこの朝を続けることになるんだろうね……
ずっと、ずっっと。
とりあえず、これからずっとループする彼に激励の言葉を……
「がんばってね♡」
あぁ……オワタ\(^o^)/