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5話


 今日の授業はいつの間にか終わった、それほどの早さで終わっていた。

 

 それほど、何か別の、授業以外のことを考えていたのだとアタシは思う。

 幾間くん、そして神田先生との会話。さらには今からある――明美ちゃんに虐められに行くことについて考えていた。

 ……虐められに行くことは確定だ。今日、明美ちゃんに会わなければ、次が面倒になる……。人をいたぶることになんら躊躇しない彼女だ。多分相当酷い仕打ちを受ける。そしたら、家族や他の人間にもイジメがバレるほどの怪我ができる可能性が増える。それは出来れば、というか是が非でも避けたい。

 

 「千秋! 一緒に帰ろ!」

 

 天野(あまの)(てん)――天ちゃんが話しかけてきた。

 彼女はアタシの友達で、中学校で初めてできた友達だ。

 

 どうでもいいかもしれないけど、アタシは中学生になると同時に引っ越してきた。

 だから、こんな性格を貫いても、小学生から仲いい人たちは一つのグループになっていた。

 もしも、アタシに似た境遇の人間がいなければ、そのグループに入ろうかと悩んだけど、天ちゃんもアタシと同じ状態だと知って仲良くなった。

 よく、家まで一緒に帰ったり、適当な話をしていたが、最近はない。

 ……その理由はもちろんアタシが虐められているからだ。

 

 そして今回も、彼女とは一緒に帰ることができない。

 

 「ごめん! 今日は大事な用事があって一緒に帰れないんだ! ホントごめん!」

 

 「そんなに謝んなくていいよー。……でも、最近大丈夫。家の用事多いけど?」

 

 「それが、いろいろ面倒なことが重なっててー、……埋め合わせはいずれするよ!」

 

 「分かった。じゃあ、また明日ねー」

 

 「うん! じゃあねー!」

 

 とりあえず、天ちゃんにはイジメについて黙っとかないと、明美ちゃんからの巻き添えをくらう可能性があるから、黙っておく。黙っておかなければならない。

 

 「…………」

 

 ふと、教室内を見渡す。

 彼が――幾間くんがいた。

 目があったけど、すぐに離されて帰る。

 帰宅部だったっけ? そう思いながらも、アタシは教室から立ち去る。

 

 

 そして、学校の玄関に、学校の外に、学校が見えない場所に、学校からある程度遠い空き地に到着する。

 

 その空き地とは、明美ちゃんがイジメを行ういつもの場所で、今回も指定された場所。

 

 

 緊張はしない。怯えもしない。

 ただ、外見上に怪我が見えないのがいつもの最低限の目標だ。そしてそれは神田先生からの約束だ。

 武器を使われても仕方ない。気絶されても、外見に変化がなければ、アタシとしても問題ない。だから制服は脱ぎ、ジャージ姿になっていた。いくらか受け身を取りやすく、身軽に身体を動きやすくするためにそうした。最悪、お母さんには体育でスッ転んだとでも言えば、それでなんとかなるから。

 

 蛮勇と言えるほど、馬鹿げた勇気しかアタシは持ち合わせがない。

 でも、それでもアタシはアタシのためにイジメを受ける。

 

 「あはっ♪ 今日もよくもまぁ来てくれるわね。私が貴方だったら怖くて行けないけどね!」

 

 明美ちゃんが可笑しいことはいつものことだ。

 別に、特段こんなことが異常なわけがない。

 異常者にとってはこれが普通なんだ。

 明美はシリアルバイオレンス人間――連続狂暴人間だ。

 異常なほどの執着、悦楽、快楽を求めて人をいたぶる。多分、アタシ以外にも虐めている人間がいる。アタシの感覚がそれを訴えている。

 まぁ、今それを考えるのは野暮……野暮なはずだけど……、一つ不思議なことがあった。

 

 それは、取り巻きの二人がいないことだ。いつも明美の隣で笑い、同情するように、同調するように、明美ちゃんの協力をする。

 一度だって彼女たちがいなくなったことはない。それが、いつものことではあった。

 

 考えられるのは二つ。明美ちゃんが彼女たちをいたぶったか、それ以外だと特別に何かを用意している……とか、かな。

 でも、今はさっさと虐められないと、何も始められない。

 

 「明美ちゃん、早く虐めてくれない?」

 

 「はっ! 相変わらず怖いもの知らずなヤツだな!」

 

 鼻を鳴らしながらそういう明美の調子はいつも通り――いや、それ以上の調子にしか見えない。

 

 ……なにか、嫌な予感がする……。

 ……最悪な……何かが……起こっているのかもしれない……。

 

 「だけどな今回は怖がるわよ! 今日はアンタの為だけに特別なこと考えてやったよ!」

 

 明美ちゃんはいつも以上に調子に乗りながらさらに口から言葉を紡ぐ。

 

 「それがこれよ!」

 

 明美ちゃん――明美がソレを指さす。

 それは、アタシを――いや、その後ろを指していて、何か……嘆き声が……何かに声を阻まれて、物音がガタゴトと必死さを語らせていて、それの正体は――手足がロープで拘束されて、椅子に座らせられているアタシの友人の天ちゃんで、その状態を取り巻き二人が笑っていて――

 

 「君の友達を拘束してあげたわ。名前は……なんだっけな?」

 

 「テメエ!」

 

 「あっ! ようやく見せてくれたわね。君の奥底に見えるオモシロイ瞳を!」

 

 「天ちゃんは関係ねぇだろ!」

 

 「いや、関係あるわよ! 君の友達って時点で関係ある!」

 

 ぶん殴る!

 アタシは明美のもとまでダッシュで駆けて、ぶん殴――、

 

 「ぁ゛ぅ゛」

 

 「勝てるわけないでしょ!」

 

 激痛という名のものが、身体中に響く。

 明美は『おもちゃ』をよく使う。

 空き地には、大小様々なボール、木製バット、金属バット、鉄パイプ……そして今、エアガン――それから放たれたBB弾を喰らった。

 威力はかなり高い。確か、この手のものはガスで威力を上げるという類いのものらしいけど……。アタシはこれを何発か喰らう。

 

 彼女は最早アタシに外見上見えない怪我を負わせないことは考えていないのかもしれない。

 エアガンなら、怪我も見えにくいから選んだのだろう。

 だけど、関係ない。

 

 もう一度、腕を振るって、ぶん殴――、

 

 「残念♪」

 

 「っ――!?」

 

 アタシはあまりの危険さに明美の攻撃を回避する。

 

 初めて、この空き地で初めてそれを見た――スタンガン。

 明美はそれを振るった。

 当然アタシは距離はとらないといけない。

 

 それは時間を与えてしまうということで――、

 

 「っ゛゛――!」

 

 取り巻きたちが天ちゃんを殴る。

 当然、証拠を残さないように腹などの、表面上には見えない部分を殴っていた。

 

 怒り心頭に発して、アタシはその取り巻きたちを殴ろと――、

 

 

 「ダーメだよ、今邪魔しちゃ。せっかくの楽しいとこなのにー」

 

 明美がアタシの前に立ち塞がる。

 

 「明美ちゃん、退()いてくれないかな? そろそろアタシの自我は効かなくなるよ?」

 

 事実、アタシの自制心が外れかかっていた。

 それでも、明美は笑い、

 

 「それはそれは面白い! ……あはっ♪ 来いよっ、ぶっ潰してやる!」

 

 暴力を振るうことしか考えていない。

 アタシも……今は同じだ。

 そしてアタシは完全に頭に血が上って全力で明美に立ち向かおうと――、

 

 「なにやってんの? アンタたち?」

 

 アタシの後ろから声が聞こえた。

 彼女は、セミロングの髪を靡かせながら、パルクールで華麗に空き地外から空き地へと着地した。

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