2話
もう一度自己紹介をします。アタシ、松岡千秋!
誕生日は8月24日、そして血液型はB型の青春真っ盛りの中学生女子。
性格で言ってしまえば明るい女の子って皆から思われてるんだ……けど、中学校にあがってからは明美という人間に虐められてる。でもめげないしょげないドラゲナイ!
アタシは今日も頑張って一日を明るく元気で過ごします!
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今は虐められて、保健室から帰って来た後で途中から参加した。今の時間は10時50分――2限目で科目はアタシ的に少し退屈な社会。正直、眠くなっちゃう。でも復習するのも面倒だし、というか気持ち的に復習する心の余裕はないし、しっかり先生の話を聞いて、しっかり学習しようとしていたけど、
「先生はだな、ついこの間車を買ってだな――」
先生は社会の授業なのに社会の話をしていない。回りを見渡す。クラスの何人かはウトウトしてる。ってわけでアタシもお休みターイム! っと思ったんだけど家に帰って勉強とかできないので今、教科書で色々学んでいく。
結局、先生は授業内容的にはほとんど余談話しかしてなかったと思う。それも、社会とはかけ離れているような戯れ言。
それを見て世間から嫌われそうだと、そう思っていた。
……本当のアタシを見られれば、アタシも世間から嫌われ、疎まれそうだという面影も重ねて……。
*****
次の授業は体育だ。
「千秋! 一緒に行こー」
「いいよー」
当たり前のようにアタシの友達――天野天ちゃんが声をかけ、アタシは一緒に授業場所の体育館へと移動する。もちろん、和気あいあいと明るく喋りながら。
アタシはどんなときでも明るく、明るく振る舞わないとダメなんだ。それがアタシの存在意義だから。ましてや、イジメの存在がバレるワケにはいかない、絶対に。
「……千秋、大丈夫? なんか、社会の時間の途中から来てたけど……なんかあった?」
「あはは……昨日ちょっと夜更かししてね、それで寝坊しちゃったんだよねー」
天野天こと天ちゃんに、保健室に行ったことは話さない。さらに心配をかけるし、変な詮索をされるかもしれないから。
「そうなんだー。てっきり今日はこないと思ったよ」
「あっ、でもねー……。後で先生からの説教があるんだよねー」
保健室の先生に睡眠不足と言ってしまったからか、担任の先生が昼休みにお説教タイムができてしまった。まったくもって面倒だ。
「うわー、嫌よねそういうの」
「まぁ、アタシが熱とかじゃなくて夜更かししてたからしょうがないしねー。でも、担任の神田先生だからそこは楽かも」
「確かに、あの先生は優しいからね」
この後もアタシは会話の内容を巧く誘導させながら、その後の会話を変えて、体育館に入っていった。
*****
体育の授業はバレーボールだ。友達と和気あいあいと、そして男子とも和気あいあいと、アタシはそんな行動をとっていた。
体育の先生もバレーボールに参加して楽しい体育の授業をした。その授業中、アタシが一人なのを狙ったか狙ってないかは分からないけど、一人の男の子から――学級委員長の長北幾間くんが、話しかけてきた。
「……千秋さん。このあとちょっといいかな?」
幾間くんは何か思うところはあって話しかけているんだろうけど、そんなことは考えようとはしない。いつもの明るい性格を見せる、それだけ。
だから、アタシは当たり前のようにアタシの性格にしたがって、
「うん、もちろんだよ」
笑顔でそう応えた。
「場所は…………屋上手前のドアの場所でいいかな……?」
明るい性格を続けるアタシはそれを拒否しない。拒否するつもりさえ毛頭無い、ってヤツ。そもそも虐めさえも拒否しないのが、アタシだから。だから――、
「うん、いいよー」
また、笑顔を見せてそう応えた。アタシは『アタシ』だから。
*****
ここは屋上手前にあるドア。
最近の中学校は屋上にはいけず、先生の許可プラス屋上の鍵がないと屋上にいけないことはよくある。でもこの中学校は屋上手前にあるドア鍵が“屋上側”にあるので誰かが屋上を使用しているときは開ける内から開けることができない。っと、脱線脱線、脱線してしまいましたー、っと。
つまり何が言いたいかって?
人気が少ない。それだけ。
多分、目的はアタシが自意識過剰とかでなければ告白なんだと思った。
だって目の前にいる男子はそわそわしてるように見えるし、こんな人気のない場所に連れてこられたから。しかもここにきてずっとこんな感じだ。
傍から見ても相手が告白でもしようと見えてしまうほどだ。
でも、学級委員長の幾間くんとは殆ど接点を持ったことない気がする。片想い、というヤツなんだろうか? それでも別にいいけど。
「なんの、ようなのかなー?」
アタシは当たり障りしない質問をする。まだ、告白しようとしてる気持ちも知らないかのように。
もちろん、笑顔を保ったまま。
「…………よし……!」
その男子は迷いを絶ちきったのか、目つきが変わった。それが告白する意気込みと分かって、アタシは緊張する。明るい性格のアタシでも告白されるのは緊張するというのを初めて知った。
そして彼は言った。
「……僕の見間違いならいいんだけど……千秋さん、虐められてない?」
「…………」
告白だった――、虐められてないか確認するための告白。
告白は告白でも、アタシにとって最悪最低な告白。
知られたくなくて、知られたら狂ってしまいそうな、それほどまで知られたくないこと。
「……あっ、ごめんもしかして違った感じ……かな…………。ごめん、変なこと訊いちゃって」
「…………」
アタシはこのとき、嘘をつきたくはなかった。善意あるような――たとえ偽善者だとしても、善意に話をしている見える彼に、嘘はつきたくなかった。だから――、
「――大丈夫だよ、だってアタシはホントに虐められてるからねー」
明るくそう答えた。
「えっ……。だ、だったら……! 先生とかに相談――」
「――ごめん、アタシはそんなことはしないよー?」
「へっ……?」
幾間くんは善意で先生に相談すれば解決すると思ったのだろう。そう本能的には感じられた。だけど、アタシはそれを拒んだ。たとえ彼のホントの善意でも。
だってそれを受け入れたら、アタシがアタシで無くなるから、壊れるかもしれないから、人に笑顔を見せられなくなるかもしれないから。人間が適当に喋る有機物だと、そのように思ってしまうほどに、狂ってしまうだろうから。
だからアタシは少し狂ってしまった。
「アタシはこの件を誰も知らずに解決したいの。知ってるでしょ、アタシの性格。明るいよねー。
アタシはそれを手放したくないから誰にも相談してなかったの。君ならできるの? 先生にも、大勢の人に知らせずにこの虐めを無くすような、そんなやり方。アタシが考えても考えても考えても、悩んでも悩んでも悩んでも悩み抜いても出なかった、そんな解決策を見せてくれるの?」
「……えっ……と」
当然戸惑うようよね。
知ってる。
アタシを助けようとしてたのに、アタシから責めてるからね。これで戸惑わない方がおかしい。
アタシは追い討ちをかける。
まったくもって、相手のことを考えていないと思いながら、
「……できないよね、やっぱり」
「い、いやっ!」
――? 否定するの? ってことは――、
「――……、できるの……?」
アタシはなるべく明るく話す、けれども残酷な選択をさせるクズ虫のような責めかたをしてしまった。いや、明確な判断で責めている気持ちがあると思う。
「……でき……ません……」
アタシがアタシであるために、この優しい男にできることはただひとつ。
「そうだよねー。じゃあ、この件に関わらないで。アタシの為にも、幾間くんの為にも」
アタシは、アタシがアタシであるために明るく笑顔を覗かせて、そんな……普通であれば禁忌であるような、行動を取ってしまっていた。