突然
ちゃぷん・・・
冷たい水のたっぷり入った桶。
ここがもめんの部屋。
これからお日様が地面に落ちそうになる時間まで、お昼寝したり、考え事をしてのんびり過ごす。
だけど今日は、いつもと違っていた。
お店の主人は店を開こうとせず、奥の和室に座りこんでテレビを見ている。
のれんも片付けられたままだ。
ガラガラガラッ!
扉が勢いよく開いて2人の男が入ってくる。
店主にも聞こえていたはずだが、見向きもしない。
すると男の内の1人が店主に話しかける。
「なんや、えらいしみったれた店やなぁ。
もう10時や言うんに、のれんも出さんと」
なんだか不快な話し方に、もめんは硬くなった。
すると男が近づいてきて、もめんの入った桶の蓋を開けた。
「あぁん?豆腐が一丁。
おいおいご主人、豆腐屋の豆腐が一丁ってなんやねん笑」
時を同じくして、もめんの後ろ手からも男の声。
「おおい!こっちも一丁しかないで。
これは、きぬごし豆腐やなぁ」
「じゃあこっちはもめん豆腐ってか?
おいご主人よぉ、豆腐が二丁しかない豆腐屋なんて聞いたことないでぇ笑」
「ぶぁっはっは!ほんまや!
こらもう物置やないかぁ笑」
耳を塞ぎたくなるような棘のある声。
久しぶりの来客だが、どうやら豆腐を買いに来たわけではなさそうだ。
すると奥から主人がのっそり顔を出した。
『おら、権利者だ。
これで、今後一切関わらないんだろう』
もめんの入っていた桶の蓋を床に落として、男は権利書を受け取る。
「あぁ。じゃあな、ご主人」
権利書を受け取ったのと、時を同じくして、後ろでも蓋の落ちる音。
そして、何かを水から持ち上げる。音。
「ご主人が利口で何より。
うーん。俺はもう少し歯ごたえのあるきぬごし豆腐がすきだなぁ」
「うへぇっ、食うなよ。
何日前にて作ったやつかわからんやろ笑」
そうして、2人の男は去って行った。
次筆に続く






