ぼく、もめん
「豆腐百珍。
江戸時代に書かれたその本には、100種類もの豆腐料理が紹介されている・・・」
そう呟いて、もめんは街を見下ろす丘の先っぽに腰掛ける。
朝起きると、顔も洗わず真っ先にここへ来ては、街の3方を囲う山々を左から順に見回す。
麻婆山、高野山、湯山。。。
どの山も、日の出に負けじと日に日に紅く色づいて来ている。
視線を街に移すと、中心に大きな石像がある。
もめんはそれと目線を合わせては、なぜか心をくすぐられたようにニヤケてしまうのだった。
「オイもめん。ニヤケモーメント中失礼」
すぐ後ろから声をかけられた。
もっと見ていたい気持ちを心にしまって、石像に一礼してから振り向く。
「イイコトあったようでなにより。
今日はナニをお願いした?」
振り向いた先を少し見上げる。
1つ上の兄。きぬごし兄さんに今日のお願いを話すことで、僕の日課は終わりを告げる。
「そうかそうか。
でも、その為にはもっとデッカイ男にならなきゃな!さぁ朝ごはんだ。帰ろう」
きぬごし兄さんに手を引かれること1分。
僕らはとある建物の裏手にたどり着く。
そこに僕らは住んでいる。
「またなもめん。さぁ、気づかれナイように部屋へ」
ーーー西田豆腐店ーーー
ずーっとずーっと前からあるお豆腐のお店。らしい。
きぬごし兄さんの兄さんや、僕の兄さんからそう聞いた。
きぬごし兄さんも僕も、少し前にこのお店で生まれた。
豆腐作りでは、まず、きぬごし豆腐を作る。
完成したきぬごし豆腐を、木綿布の敷いてある型にいれて余分な水を取り除くと、僕、もめん豆腐になる。
だけど僕たちを最後に、ご主人はお豆腐を作らなくなった。
いつも沢山ご主人とおはなしするおばあちゃんも、
いつも泥んこ服のおとこのこも、
いつも犬と一緒のおじさんも、
ずーっと見ていない
次筆へ続く