6話「迷い、決断、戦いへ」
人は自分には無いものや普通では無いものに嫉妬や恐怖する
それは自分より劣る者や優れた者
醜い者や美しい者
普通以下普通以上を嫌う
それは私にも当てはまってしまった
ただ外国人と日本人のハーフだからと言う理由で周りの人間は離れていった
最初は珍しいと皆私を囲んだがすぐに離れていった
次第に有りもしない噂が広まりそれが事実かのように扱われる
何もしていないのに異端者と呼ばれ皆気味悪がり遠ざかって行く
周りに必死に合わせて生きてきた
だけどそんな人生は酷くつまらなかった
いっそどこか別の世界で自由に生きたかった
転生というものがあるのを信じて死んでしまいたいと思ったこともある
だけど自分で自分の命を絶つ恐怖は計り知れないものだった
結局死ぬことも出来ず周りから必死に隠れて生活をしていた
教科書を捨てられるのも机に暴言の落書きをされるのも水を掛けられるのももう疲れた
どこかに・・・消えてしまいたい・・・
「ぶおは!?」
勢い良く飛び起きた女子代表の全身が薄っすらと湿っている
「す、すごいベタつく・・・」
「寝汗・・・?ってかここどこ・・・」
見知らぬ部屋に見知らぬベッド
ここが何処なのかまるで分からない
そして自分が何をしていたのかもあまり覚えていない気がする
「確か・・・なんか追われて逃げて・・・」
「これ死んでるとか・・・?」
徐々に先程までの出来事を思い出して行く女子代表
「一応生きてる?てか嫌な夢見過ぎっしょ・・・」
両頬を摘みながら生きている事を確認する
「てか死んでても痛かったりしたらわからないんだけど・・・」
改めて周りを見渡すとテーブルに綺麗にラップを掛けた食事が置いてある
そして置き手紙には起きたら食べるように書いてある
「日本語な上に食事は目玉焼きにウインナー・・・そして白米・・・」
「ここ・・・異世界だった気がするんだけど・・・?」
更に改めて部屋を見渡すがやはり何処か現実ではない
決して日本の部屋のという場所では無かった
それが嫌でも自分はまだ異世界にいるという事を証明していた
「とりあえず何あるかわからないし今のうちにご飯食べよ・・・」
女子代表は置き手紙の主に感謝をしながら食事に被せてあるラップを取る
するとまだ作られて時間が経っていないのか湯気と共にほとんど何も食べていない女子代表には耐え難いとても美味しそうな匂いが鼻をくすぐる
「いただきます」
そう言い手を合わせ食事を食べようとした直後
女子代表の手が止まった
「お醤油欲しい・・・」
「てかこれ毒とかあったりしないよね?」
一瞬そのような考えが頭を過るがわざわざ毒で殺すくらいなら既に命は無かったであろう
とにかく今は食事が冷める醤油を探さねばならない
しかし台所のような場所も無く調味料らしきものも見当たらない
「お醤油無しか・・・」
フッとあの剣が視界に入った
「そう言えば・・・」
女子代表は剣を持つと目を閉じる
「お醤油ください!」
そう言い剣に付いたボタンを押す
するとコトンと何かが置かれるような音が聞こえた
薄っすらと目を開くと食事の置かれたテーブルの上に醤油が置いてあった
「すごい!これめっちゃ便利やん!」
早速目玉焼きに醤油を垂らし食べ始める女子代表
「あぁ・・・白いご飯ってこんなに美味しいんだ・・・」
一口食べ食事の美味さに感動する女子代表
そこからは取り憑かれたように黙々と食事を食べ始める
そして数分後には米一粒すら残さず綺麗に全て食べ終えて満足気にお腹を軽く叩く女子代表の姿があった
「あぁ・・・人間の三大欲求はさすがだわ・・・」
そう言いベッドの上に横になる
「あぁ~これ太る奴だぁ~」
しかしそのベッドは今まで走り逃げ続けていた女子代表には抗えない魅力を秘めていた
「このままずっと寝ていたい~てかこれめっちゃふかふかで気持ち良いんですけどぉ~」
布団の上でゴロゴロと転がる女子代表
「それは良かったじゃないか」
突如背後から声を掛けられる
「ひええ!?」
突然の声に女子代表慌てて飛び上がり振り向く
するとそこには漆黒のローブを着た者が経っている
「し、死神ぃ!」
「ではないな」
その姿に驚き叫ぶ女子代表に冷静に答えるローブの者
「食事を食べてベッドの上を転がる元気があるのならばしっかりと回復しているようだな」
「はぇ?」
状況を理解出来ない女子代表にローブの者は言う
「路地裏で倒れていた君を私がここに連れてきたのだ」
「そして怪我の手当てをして寝かせていたというわけだ」
その言葉を聞き女子代表はベッドの上で突然土下座をする
「わ、私なんか助けてくれてご飯まで用意して下さってありがとうございます!!!」
「困っている人を助けるのは当たり前の事だろう?」
「で、でも!」
「私がそうしたかっただけだ、君が気にすることではない」
ローブの者はベッドに座る女子代表の隣に座ると言う
「君は今流行りの不法入国者だろう?」
「ギクゥ!?」
「わかりやすい反応だ」
「わ、私をどうするおつもりでしょうか・・・」
女子代表の露骨な反応にローブの者はクスリと笑う
「ふふっ・・・怖がらなくてもいいさ」
そう言うと被っていたフードを取るローブの者
「自己紹介がまだだったな」
「私はバルド、君と同じ不法入国者だ」
黒い短髪に黒い瞳
そしてその首と手首どちらにもリングははめられていなかった
「お、女の子!」
「君と同じ女の子さ」
「わ、私は!」
「知っているよ、もう有名さ、近隣住民女子代表だろう?」
「あ、はい・・・それでいいです・・・」
その名前を聞き落胆する女子代表
「私も君と同じ偽名さ、偽名同士仲良くしようじゃないか」
「は、はい」
「そう硬くならなくても平気さ」
そう言うとベッドから立ち上がるバルド
「丸一日ここを使っているがそろそろ出た方が良いだろうね」
「一日も寝てたんだ・・・」
「もう少し寝ているかと思ったけれど案外起きるのが早かったね」
「いやぁ~なんか嫌な夢見てたみたいで・・・」
「そうだね、酷くうなされていたね」
そういうとバルドはゆっくりと振り返り女子代表に一歩近づく
「は?え?」
そして気付いた時には女子代表の顔の目の前にバルドの顔があった
互いの息がかかってしまう程の距離だ
「突然だが君には選択肢がある」
「君が死んでしまいたいと思っていた現実へ戻るか?」
「それとも一歩間違えれば簡単に死んでしまうかも知れないこの異世界で生きるか?」
「君はどちらを望む?」
「あ・・・えっと・・・」
呆気に取られているとバルドは軽く後ろに飛び顔を離す
「今すぐにとは言わないがなるべく早く決断すると良い」
「君は迷っている、どちらの世界も君に取っては地獄だろう」
「生まれ変わる前も生まれ変わった後もどちらも最悪の状態だろうね」
「君が帰りたいと願うならば私が君を帰してあげようこの世界の記憶は全部消してしまうけれどね」
「そして残りたいと願うならばこの世界の事を少しだけ教えてあげよう」
「ええっと・・・急には決められないっていうか・・・」
「ゆっくりそしてなるべく早く決めると良い、もう少しこの世界を探検してから決めるといいさ」
部屋の中をゆっくりと歩いていたバルドが再び近寄ってくると手を差し出してくる
「さあ、少しの間私と探検してみないか?」
女子代表はバルドの言葉に混乱していた
どちらが正しい選択なのか?
そんなことはわからない
ただバルドの言う少しの間探検する
それは何故だろうか
悪くない
そんな風に思えた
そして気付けばバルドの手を握っていた
「良い選択だ」
「ご褒美に一つ良い事を教えてあげよう」
「君の恐れていた事、あの3人は君を決して裏切らないだろう」
「君を売ることも捨てる事もない、だから彼らを信用しても良いと思うよ」
・・・・
「ボス!ボスの反応が何処にも無い!!!」
「私もボスの反応を感じる事が出来ない・・・」
「ピッゴォ・・・」
街中を走り回る3人
だが目的の者は見つからない
「俺達が付いていながらボスを一人にしてしまうなんて!!!」
「やはりトイレでもついて行ったほうが・・・・」
「ピッゴォ!!!」
するとイエローピゴミンが突然叫ぶと前方を指差す
すると目の前には中腰でまるで誰かと手を繋いでいたかのようなポーズを取って固まっている女子代表
「え?」
「ボス!ボスがこんなところに!!!」
「何故私達はボスを見つけられなかったのだ!?」
「え?え!?」
「うおおおおおおおおおん!ボスが見つかったぞぉ!!!」
むさ苦しい赤い筋肉ダルマが女子代表の目の前まで走ってくると号泣し始める
それに釣られブルーピゴミンも近くまで走ってくると歯を食いしばり泣き始める
「私達が付いていながらこの体たらく・・・!誠に申し訳ない・・・!!!」
「あ、えっと、その、色々こっちこそごめんね?心配かけて・・・」
「俺達が不甲斐ないばかりにぃいいいい!!!」
目の前で膝を付き泣き叫ぶ二人の頭をなんとなく撫でながら女子代表は思う
こんなキモい奴らだけどとても私が思っていたような事をするとは思えない
そんなことを考え一人で逃げ出して一人で死にかけていたのが酷く馬鹿らしい
命を賭けて何度も私を助けてくれたこの3人の事を信用しても良いかも知れないと思えた
「いたぞぉー!!!」
そんな考えを掻き消すかのような声が聞こえた
鎧を着た兵隊らしき人物たちが私達を指差し走ってくる
「もう見つかったか!」
「あ、それじゃあ・・・逃げよっか!」
女子代表のその声にもう迷いや不安などは無かった
ブルーピゴミンとレッドピゴミンは女子代表を呆けた顔でしばらく見る
そして互いの顔を見ると強く頷く
「さあボス!逃げるぞ!!!」
「ピゴホース!!!」
「ピッゴォ!!!」
3人のピゴミンは騎馬となり女子代表を乗せ走り出す
凄まじ跳躍力で地面を蹴り上空へ飛び上がる
そして建物の屋根を蹴り追手達から華麗に逃げていく
「くそ!なんて逃げ足だ!!!」
いつでも大ピンチなこんな生活も少しは悪くないんじゃないか
そんな風に思えた
・・・・
「状況はどうなってるのかしら?」
「ターゲットは中央都市内部で逃走を続けている様子です」
中央都市のとある一室で二人の機人が会話をしていた
一人は水色の長い髪をした機人
もう一人は金髪のドリルツインテールの機人
「ちゃんと探知機は追えてる?」
「問題ないです、中央都市全域観測可能です」
「さすがはフォービリアね」
フォービリアと呼ばれる機人は目を閉じながら報告を続ける
「それともう一つ報告が」
「何かしら?」
「勇者ランク2内1位のパペットマスターが人間の少女一人に迎撃されやられたようです」
「はぁ?!」
その言葉を聞きドリルツインテールの機人が勢い良く立ち上がる
「人間の少女の持つ剣からとても人間に扱えるとは思えない力が秘められていると考えるのがよろしいかと」
「良いわ、面白いじゃないの」
そう言うと部屋のドアに向かって歩き出すドリルツインテールの機人
「お待ちください、ランパーリア隊長が出てしまうと街に甚大な被害が出てしまいます」
「街に被害が出ないように戦えばいいんでしょう?」
「それは不可能と思われます」
その言葉が癪に障ったのかドアノブにかけていた手を離すとフォービリアの方に早足で近づいていく
「もう一度言ってみて?」
「被害を出さず目標を捕らえることはランパーリア隊長には不可能と思われます」
「言ってくれるじゃないの・・・」
ランパーリアは再び言われたその言葉を聞き怒気を露わにする
「いくらパートナーのフォービリアでも言っていいことと悪いこともあるのよぉ?」
「パートナーだからわかるのです、既に試し撃ちを含め先程の砲撃で中央都市と東都市の道を8本潰しています」
「うぐっ・・・」
「そして現在格納されいる武装ではランパーリア隊長を中心に300m圏内全てが塵となるでしょう」
「うぐぐ・・・」
「故にランパーリア隊長はここで観測を続ける私の話し相手をしていることをオススメします」
フォービリアの冷静な判断と言葉によりランパーリアはため息を付くと椅子に座り込む
「仕方ないわね・・・今回だけよ」
「次回も場合によっては今回と同じになります」
「一言多いわよ」
「失礼しました」
するとフォービリアがゆっくりと立ち上がりランパーリアの方を見ると片目を開く
「ランパーリア隊長が言う面白い事になる可能性が出てきたようです」
「へぇ?」
・・・・
「こ、これは!!!」
見事追手達から逃げたレッドピゴミン達が壁に貼られたチラシを見て叫ぶ
「リーダー!これだ!ここに行こう!!!」
「また呼び名変えたの?」
「すぐに応募してくるぜ!!!」
そう言いレッドピゴミンは走っていく
「はぁ?なにに?」
そしてレッドピゴミンの見ていたチラシを見る女子代表
「ヴァルキリー闘技大会・・・全国から強者達が集まり己の力を全力で発揮するコロシアムバトルぅ?」
それに続きブルーピゴミンがチラシを読む
「チャレンジャーの者達は高級施設使いたい放題全て無料、そしてこの会場内は全ての法を無視した無法地帯、凶悪犯罪者から化物、そして勇者なんでもありで命を賭けた戦いをしよう!」
「1位は賞金100億ゴールドか叶えられる範囲の願いを一つ何でも叶えてもらえる」
「そして負けた者は生きていれば即刻施設から退去してもらうと」
「こ・・・こ・・・コロシアムバトルぅ!?」
やっと内容を理解した女子代表が声を上げる
「ば、馬鹿じゃないの!?死にに行くようなものじゃないの!?」
「あいつ早く止めてってもう何処にもいないし!?」
「師匠、落ち着いてくれ」
「これが落ち着いていられる!?」
女子代表は慌てふためきレッドピゴミンの行った方へ走り出そうとする
それを慌てて止めるブルーピゴミン
「まあ落ち着いて聞いてくれ、これは悪い話ではないかも知れない」
「どこが!?」
「勝ち続けるという事は至難の業かも知れない」
「だがこの施設にいる限り追われる事は無いのではないか?」
「はぇ?」
ブルーピゴミンの発現に間抜けな声を出す女子代表
「凶悪犯罪者から化物など何でもいる無法地帯だ」
「この施設はルールがない、ここにいる限り別の国みたいなものだ」
「別の国にいるものをこの国のルールで縛ることは出来ないのだ」
「つ、つまり・・・」
「例え一回戦で負けるとしても負けるまでの間私達はこれからの方針を追われる事無く冷静に考える事が出来るのだ」
「な、なるほど!」
「大会が開催されるのは一週間後だ、その一週間の間にこれからの事を考えそして死なないように負ければいい」
「天才じゃん!」
ブルーピゴミンの説明を聞き納得する女子代表
二人で話し込んでいるとレッドピゴミンが凄まじい速度で帰ってきた
「さあ!登録が済んだぞ!しっかり4人だ!急いで超高級な施設へと行くぞ!!!」
「行く前に捕まったら話にならないしね、早く行こっか」
「そうだな」
ピゴミン達が言われる前に騎馬を組むと女子代表は乗る
「さあ!俺たちの戦いが今始まるぞ!」
「おー!あれ?始まっちゃだめじゃない?」
「細かいことは気にするな!!!」
そう言うと走り出すピゴホース
そして付いた先は・・・
「これ、貴族の住む場所やで・・・」
「高級と言うだけあるな!」
まるで城のような施設
ありとあらゆるものが超高級と言わんばかりの内装
「歩くことすら躊躇うレベルだよこれ!?」
汚れ一つ無い美しい赤い絨毯
「はっはっはっ!気にしてはこれから先に進めないぞ!」
レッドピゴミンはお構いなしと言った感じでずかずかと施設の中を進む
「俺達の部屋は420番だ!」
「部屋と部屋の間隔空き過ぎでしょ・・・絶対中広すぎてやばいでしょこれ・・・」
その施設にはとても場違いと言える4人が歩く
「あったぞ!」
そして目的の場所へと着く
その部屋は予想通り広く美しい部屋だった
「シャンデリアとか普通の部屋にないでしょ!?」
「はっはっはっ!豪華だなぁ!」
「見ろ!寝室だけで3部屋!いや!4部屋あるぞ!4人全員使えるぞ!」
「うわあ・・・すごい柔らかすぎて逆に寝れなそう・・・」
「とう!!!」
一人で寝るには広すぎるベッドにレッドピゴミンは容赦なく飛び込む
「見ろ!身体が沈むぞ!」
「せめてシャワー浴びてからとかにしない!?ベッド汚れちゃうよ!?」
「ふはははははは!!!ここは俺の拠点となったのだ!もう誰にも渡さんぞ!!!」
「一番はしゃいどるやん・・・」
そんなレッドピゴミンを置いて他の部屋を散策する
「部屋だけで1軒屋より広いとかマジありえないんだけど・・・」
「お風呂も広いし外にはプールまで付いてる・・・」
「冷蔵庫にはすごく高そうなお酒とか入ってるし・・・」
ある程度散策し部屋の構造を理解すると女子代表は3人を集める
「いーい?この一番奥が私の部屋、それで次のこの部屋がピッゴの部屋ね」
「ピッゴォ!」
「それで次のここは肉達磨が汚したから肉達磨の部屋ね」
「おう!!!」
「それで最後のここがブルーピゴミンの部屋ね」
「わかった」
女子代表はそれぞれの部屋に3人を割り当てる
「じゃあ私は部屋でシャワー浴びるから入ってこないでね」
「任せろ!!!」
「一番任せられない・・・」
レッドピゴミンは女子代表の言葉を聞くと割り当てられた自分の部屋に誰よりも早く入り扉を閉じる
「子供かよ・・・」
「私は部屋にいるからいつでも用があったら来てくれ」
「そうするね」
「ピッゴォ!」
イエローピゴミンは吠えると部屋の外へと出て行ってしまう
「平気なの?」
「いつものことだ」
思えばイエローピゴミンは気付けば消えていて気付けばそばにいる
何を考えているのか何をしたいのか一番理解出来ないピゴミンだ
女子代表は首を傾げながら自分の部屋へ戻ると鍵を掛ける
そして服を脱ぎシャワーボックスへと向かう
「ベッドの横とか意味深過ぎ・・・」
など小言をつぶやきシャワーボックスに入り汗を流す
「はぁ~生き返るわ~」
「シャンプーとかもめっちゃ高そうだしいちいち高級過ぎる気がするんだけど」
しかし滅多に出来る体験ではない
女子代表も次第に慣れその高級感に心を躍らせ始める
鼻歌を歌いながらシャワーを浴びているとあることに気付く
「あ、タオル忘れた」
「これ部屋濡らしちゃう奴じゃん・・・」
気分が良くなっていたところに水を差されたような気分になり落ち込み始める
シャワーを止めどうするか考えシャワーボックスの扉を開ける
そしてシャワーボックスから顔だけ出し見渡すがやはりタオルは近くに無い
「うーん・・・困ったなぁ・・・」
シャワーボックスの中に戻り腕を組み考え始めた直後
無音でシャワーボックスの隙間からタオルが生えてきた
正確には誰かがタオルを持って腕だけ入れてきたのだ
「あ、ありがああああああ!?」
突然の出来事に普通にお礼を言い掛けた所で気付いた
とりあえずタオルをひったくると身体を隠す
黄色い腕は親指を立てるとゆっくりとシャワーボックスから引き抜かれる
湯気でガラスが曇りその先に誰がいるかはわからない
だがその腕の色から簡単に想像出来てしまった
「な、なんでいるの・・・?」
急いで身体を拭きシャワーボックスから出る女子代表
だがそこに誰かがいた痕跡はない
「な、なんなん・・・」
助かりはしたが謎の恐怖感に襲われる女子代表
「まあ知らない人じゃないからいいけど・・・」
そして周りを見渡し一言
「てか服無いんだけど!!!?」
とりあえずタオルを身体に巻き周りを散策する女子代表
だが衣服が何一つ見当たらない
「もぉ~・・・」
不貞腐れながら女子代表はドライヤーを手に取ると長く綺麗な金髪を乾かし始める
「なによなによ!すぐ意地悪ばっかしちゃって!」
「てか鍵閉めた気がするんだけど・・・」
しかしここは異世界もはや考えるだけ無駄なのかも知れない
「はぁ~・・・」
髪を乾かしながらベッドを見る
「ゴクリ・・・」
髪を触りしっかりと乾いたのを確認する
ゆっくりとベッドへ近づくとシーツに触れる
「やっぱりすごいスベスベ・・・」
「シュルリって音しそうなくらいスベスベ・・・」
「ゴクリ・・・」
女子代表は周りを見渡す
誰もいない事を確認する
身体に巻いてあるタオルをゆっくりとはずす
「い、一度やってみたいことの一つ・・・全裸でベッドIN・・・」
我ながら凄まじく下らない事だった
「服無いし濡れたタオルでベッド入れないし・・・仕方ない・・・仕方ないよね・・・」
布一つ身に纏わずゆっくりと布団に潜り込む女子代表
「はぁ~・・・全身にこのスベスベ・・・気持ち良いなぁ~・・・」
布団の中をゴロゴロと転がり始める女子代表
「こんな大きなベッドでこんな贅沢な使い方!」
「高級って癖になりそう・・・」
ベッドを全身で楽しみ転がっているうちに女子代表の意識は朦朧としてくる
欠伸を噛み締めるが睡魔は女子代表をゆっくりと蝕む
「あぁ~・・・気持ちよくて寝そう・・・」
「てかねむ・・・寝る・・・」
そして意識は落ちていく
・・・・
「はっ!?」
気付けば部屋は真っ暗になっていた
カーテンから入っていた太陽の光は月明かりに変わり完全に夜になっていた
「めっちゃ寝てた気がする・・・」
そして相変わらず全裸だった
「そろそろ服着なきゃ・・・」
「風邪を引いてしまうな」
突如耳元で聞こえる声
「ひっ・・・むごあ!?」
「おっと、大きな声は出さないでほしいね」
叫ぶ直後に口を手で塞がれてしまう
「大丈夫、恥ずかしがる必要はない、私も君と同じだから・・・」
そう言い仰向けになっている女子代表に自らの身体をこすり付けるように覆いかぶさる
(た、確かに一緒!確かに一緒にの全裸!!!)
「なんでこんなことになってしまったのだろうね?私も不思議だよ」
やっと口元から手をどかされ女子代表は叫ばないように言う
「私が一番不思議だよ!?なんでバルドがここにいるの!?なんで全裸なの!?」
「やっぱり声が大きいね」
そう言うとバルドはその口で女子代表の口を塞いでしまう
「んむぅ!?」
「はぁ・・・んむっ・・・私も恥ずかしいんだ・・・」
「ならなんでっんぐ!?」
「んちゅ・・・何故だろうね、君を見ていたら何故かこんなことに・・・」
「ひ、ひえぇ~・・・」
(は、初めてが女の子同士とかちょっと!いろいろ!ヤバイ気がするんだけどぉ!?)
月明かりが照らすその部屋には二人の少女の吐息が響き続けた