5話「選択」
目の前には巨大な門
外部からの侵入を拒絶する長く巨大な城壁
門の前には数人の門番らしき者がうろついている
「こちらには気付いていないようだな」
ブルーピゴミンが門周辺を見渡しながら言う
「空から侵入するか?」
腕を組みながら空を見上げるレッドピゴミン
だが城壁の更に上には薄っすらと光を反射する膜のようなものが見える
「城壁を超えても障壁があっては意味がないだろう」
「どうやって侵入するんだ?」
「土下座でもすれば?」
暇そうに突っ立っていた女子代表がつぶやいた
3人がそれを本気で言っているのかという目で一斉に見る
「やってみよう」
レッドピゴミンがそう言い歩き出す
「待って!冗談だから!マジで!」
「ボスの言う事なら間違いはない!!!」
そう言いレッドピゴミンはずんずんと歩いていく
「い、行っちゃった・・・」
「奴は戦いに行ったのだ・・・」
そうして様子を遠くから眺めていると見るからに怪しい全身真っ赤の男を門番らしき兵が取り囲み始める
するとレッドピゴミンはその場で膝を付く
それを見た門番達は互いに顔を見合わせ首を傾げる
まるでこいつは何をしているんだ?こいつをどうするべきだ?という声が遠くからでも伝わるような雰囲気だ
その直後だった
突然レッドピゴミンが凄まじい速度で土下座を繰り返す
頭を下げては上げ下げては上げを身体が分身するような速度で何度も繰り返すのだ
「う、うわ・・・あれはみんなドン引きするでしょ・・・」
「さすがは兄弟!」
その光景になんだなんだと声を上げ集まる門番達
「良い作戦だったな」
ブルーピゴミンは門番達の視界に入らぬよう細心の注意を払いながら門へと進む
「お願いしますお願いしますどうかこの俺を門の中へお通しください!お願いします!お願いします!!!」
「な、なんだこいつは!?」
「誰か!おい!誰か止めろ!!!」
「おい!お前その土下座をやめろ!」
「やめたら通してくれるのであれば土下座をやめます!お願いします!お願いします!」
絶えず土下座を繰り返し続けるレッドピゴミン
(声が聞こえると余計気味が悪く見える・・・)
レッドピゴミンの働きにより門番の目を避け門へと辿り着く
幸いこちらの門番もレッドピゴミンの元へ向かったのか無人となっており二人は難なく中央都市へと侵入に成功した
「ザル警備な気がする・・・」
「こんなものだろう」
「そうだな!良い筋トレになった!」
いったい何処から湧いてきたのかいつの間にか真横にレッドピゴミンが立っている
「あんた土下座してたんじゃないの!?」
「もう終わったぞ?」
「どうやってここまで来たの!?」
「あぁ、それはだな・・・」
レッドピゴミンは土下座を繰り返し続ける
土下座の最中にブルーピゴミンと女子代表が門を通り抜けるのを見届け数分
唐突にレッドピゴミンの土下座が止まる
「な、なんだ!?急に止まりやがって・・・」
「ミッションコンプリート」
「な、何を言ってやがるこいつ!?」
レッドピゴミンは一言そう言うとその場で立ち上がり今度は高速回転を始める
「ぬああああ!?なんだこの風は!?」
「なんなんだこいつはさっきから!?」
レッドピゴミンを中止に砂嵐が起き周りの視界を最悪の状態にする
砂嵐が数秒で消え去ると同時にレッドピゴミンもその場で消えていた
「あ、あいつ何処に行きやがった!?」
「見ろ!穴があるぞ!」
「穴を掘って逃げやがったのか!?」
「結局あいつは何をしたかったんだ!!!」
「と、言うことがあってだな」
「無茶苦茶過ぎんだろ・・・」
「ザル警備というのは間違いではないかもしれないな、地中100mの位置に障壁は無かったからな」
「掘りすぎっしょ・・・」
レッドピゴミンは肩に付いた土を払いながらこれからの目的を問う
「さて、中央都市に付いたは良いがどうするんだ?」
「ちょっと待って!」
二人の会話を遮るように女子代表が声を上げる
「どうしたボス!!!」
「だからその過剰な反応やめない?」
「それでどうしたんだ?」
改めてブルーピゴミンが女子代表に問う
「ちょ、ちょっとトイレ・・・」
「そうか!では俺たちはここで待っていよう!」
「すぐに戻るんだぞ!」
そう言い二人は腕を組みその場で立ち止まる
「な、なるべく早く戻るね」
そう言い女子代表は路地裏へと入っていく
(これが恐らく最後のチャンス・・・)
(感謝はしてるけれどその時になってからじゃ遅すぎる・・・)
女子代表は二人に嘘を付いた
二人が女子代表にこれからの目的を話す前になんとか中央都市に入り抜け出す作戦
目的を告げた途端に二人の態度が豹変する可能性もあった
まだ女子代表を騙し続け売る直後に目的を告げる事もあったかもしれない
ここまで頑なに見ず知らずの人間を守る二人
命を賭けてまで守るその理由は恐らく簡単なものではないはずだ
この世界での人間の価値がどれほどのものか分からない
だが命を賭けるほどの価値があるとしたら
いや、あるのだろう
でなければ見ず知らずの人間こんな必死に守ろうとはしない
あの2人は私を売ろうとしている
そう女子代表は考えて信じたのだ
(大丈夫・・・きっと勇者とかそういうのが助けてくれる・・・わかってくれる・・・)
昼だと言うのに薄暗い街
人通りが少なく酷く不気味な迷路のような道を歩き続ける
でなければすぐに感づかれて捕まってしまう
「こんなところで女の子が一人だなんて危ないなぁ?」
突如背後から聞こえる声
「ひゃ!?」
慌てて振り返るとそこには見ず知らずの男が立っていた
その男の腕には銀色に輝くブレスレットがはめられていた
「驚かしちゃったかい?」
「い、いえ・・・」
何故この男は私に声をかけてきたのだろうか?
「何故声をかけてきたのか?そんな顔をしているね」
「ギクッ・・・」
「わかりやすい反応だ」
(自分でもギクッとかは無いと思った・・・)
足を地面に擦るように後ろに下がる女子代表
「そんなに警戒しないでくれよ、君は未登録の・・・簡単に言えば不法入国者だろう?」
「な、なんでですか?」
「その腕と首を見ればわかるさ」
ヴァルキリーに登録されている住民は皆腕か首に登録者のリングをはめている
だが女子代表にはそのリングが何処にもないのだ
「た、たまたま付けてないだけで・・・」
苦し紛れの言い訳をするがその男はニヤリと口元を歪めると大げさに手を広げ喋り始める
「おっと苦しい言い訳だね?あのリングはヴァルキリーの虚弱な住民には絶対に外せない魔法がかけてあるんだ、簡単に付けたり外したり出来ないようになっているのさ」
「えっ!?」
「あまり知識が無いのに嘘を付くのは良くないね?」
「な、何が目的ですか・・・」
「目的・・・か・・・」
男はそう言うと突然肩を震わせ笑い始める
「ふふふ・・・んふふふふふ・・・」
(うわ、これヤバイ人だ)
「君のようなお人形みたく美しい人間は初めて見たよ・・・」
「組織に引き渡すのが勿体無いくらいだ」
「ひ、引き渡すってなんですか・・・?」
「言葉の通りさ、僕たちは勇者さ、依頼があれば引き受け美しく華麗にそして素早く終わらせる」
「今回もただ依頼を受け儚く終わらせに来ただけさ・・・」
「大人しくついてきてもらおうか?」
「え、遠慮しておきます!!!」
女子代表はそう叫ぶと男がいた方向とは別の方向へ走り始める
「おやおや?追いかけっこかい?一緒に楽しんで上げるとしよう!」
「行け!僕の可愛いお人形たち!」
男はそう叫ぶと何処から出てきたのか数体の人形が現れ女子代表を追い始める
「え!?人形!?うわ!キモい!絶対これヤバイ奴だ!」
「き、キモい!?この僕が!この僕のお人形がきもいだと!?」
「男で人形遊びとか絶対キモいし絶対ヤバいやつでしょ!?」
そう必死に叫びながら走り逃げる女子代表
「二度も三度もこの僕がキモいと言ったな・・・良いだろう・・・」
男は再び肩を震わせ笑い始めると叫んだ
「んふふふふふ・・・良いだろう!君を引き渡すのは勿体無いと思っていたところだ!君は僕の可愛いお人形の仲間にしてあげるよ!!!」
「そんなの絶対に嫌なんですけどぉ!?」
「まずはじっくりと弱らせてあげよう」
男は懐からワンドのようなものを取り出すと軽く振るう
するとワンドの先端から光る鞭のようなものが伸びた
「この鞭は特別でね・・・身体に傷は出来ないが当たるととても痛いんだ・・・」
「こんな風にね!!!」
勢い良く振るわれた鞭は女子代表の真横を通り過ぎると地面を抉った
「こんなの当たったら死ぬって!!!」
女子代表は叫びながら走り続ける
「ほおら!早く走らなきゃ痛い鞭がそのきれいな身体に当たってしまうぞ?」
鞭振り回しながら追いかける男
必死に逃げていると中央都市大通りに出た
人混みを器用に避け女子代表は逃げていく
「人混みに行こうが無駄さ!目的のためならば多少の犠牲は仕方ないと僕は思うからね!!!」
そう言い鞭を振るうと関係の無い住民を巻き込み始める
鞭に打たれた住民はその場でのたうち回り絶叫を上げる
「あぁ!醜い声だ!だが君はどんな美しい声で鳴いてくれるんだろうね!?」
男はお構いなしと言わんばかりに鞭を振るい続ける
「マジキチガイ多すぎるんですけどここー!!!」
走り続けると女子代表の視界に見たことのある何かが映る
白く長い美しい髪の少女
(あ、あれ湖で見た人な気がする!!!)
「た、助けてください!!!」
そう叫び少女に突っ込む女子代表
「えぇ?」
女子代表の声を聞き振り返る少女
だがその少女は湖で見た少女とは決定的に違う部分が二つあった
「おっぱいおっきい!!!」
振り返った少女の胸に女子代表は顔面から突っ込んだ
そしてその瞳は美しいエメラルドのような緑の色をしていた
頭上で響く乾いた音
「おっと僕としたことが力を入れすぎて頭ごと吹き飛ばしてしまった」
「は・・・?」
見上げると目の前の少女の首から上が無くなっていた
「ひ、ひえええ!!!」
「はははは!!!どこまで逃げるんだい?君が逃げれば逃げるほど犠牲は増えていくんだよ?」
女子代表は男から死に物狂いで逃げ惑う
そして気付けば再び暗い路地裏へと入っていた
「どこまで・・・!追って・・・!来るの・・・!?」
走り続け喉が呼吸が苦しく喉も痛い
それでも逃げ続ける女子代表
「もう飽きて来たし休ませてあげるよ」
男は涼しい顔をして女子代表を追い続ける
軽く振るわれる鞭は女子代表をあざ笑うかのようにその背を打ち付けた
「ひぐっ・・・!?」
背中に走る激痛
あまりの痛みに呼吸が止まりその場に勢い良く転んでしまう
背中の激痛に涙が止まらなくなり息もほとんど出来なくなる
「か・・・かはっ・・・」
「そんな勢い良く転けちゃ身体に傷が出来てしまうだろう?」
男はゆっくりと女子代表に近寄る
本能が逃げろと警告を出し続け痛みにもがきながらも必死に地面を這うように逃げる女子代表
「あぁ、必死な抵抗だ、もう一度鞭を当ててしまったらどんな声を出してしまうんだろうね?」
何故訳も分からず迷い込んだ異世界で私はこんな目に合っているのだろう?
何故こんなにも苦しく辛い思いをしなければならないのか?
これではまるで元の現実と同じだ
私が悪いことでもしたのだろうか?
「何故こんな目に合っているのか、そんな絶望に満ちた表情をしているね?」
「それは君たち人間はこの世界で一番弱い生き物だからだ、弱いことは罪なんだよ」
「生きる資格すら無いのだからね」
男は鞭を振り上げる
「しょうがないから一気に気絶させて痛みすら感じない間に死なせて上げるよ、すぐに僕のお人形のお友達にしてあげよう」
どんな世界でも弱い者は強い者に蔑まれ貶められる
圧倒的理不尽がその身を襲い苦しめる
戦う力さえあれば
自分を守る力さえあればこんなことにはならなかったはず
「こんなところで・・・死ぬなら・・・」
「ん?」
女子代表の霞むような声が聞こえた
「最後に何か言い残したいのかい?いいよ、聞いてあげる」
「こんなところで死ぬくらいなら・・・死に物狂いで・・・足掻いてやる・・・!!!」
腰に付いた鞘から引き抜かれる一本の剣
「悪あがきか、それくらい許してあげるよ」
地面に這い蹲りながら振るわれる死に物狂いの一振り
それは儚くとても弱々しい一振りだった
しかしその一撃は弱者が強者の首に食らいつくには十分と言えるほどの破壊力を秘めていた
剣が振られた直後に金色に輝く一線が男を取られた
「ぐっ!?がああ!?」
左肩から右脇腹まで斬撃は見事に喰らいつき男の身体からは血飛沫が舞う
「僕の身体が・・・!?」
胸と背から血は噴き出すが両断されたような傷ではない
表面を斬られただけと言うべきか
「なんだ・・・!?ただ身体の表面を斬られただけなはず!?」
「だが・・・力が魔力が抜け落ちていく・・・!?なんだこれは・・・!?」
「ガキがぁ・・・この僕の身体に傷を・・・!?こんな傷をおおおお!!!!」
「ガハッ・・・!!!」
男はその場に膝を付き血を吐き出す
「くそ・・・どうなっている!?このままでは危険だ・・・くそ!!!」
男はフラフラと立ち上がると路地裏の闇へと消えていく
地面に倒れたまま動かない女子代表
「助か・・・った・・・?」
霞む視界に男が消えていくのを見る女子代表
それを最後に意識はゆっくりと落ちていく
路地裏に響く足音
揺れる漆黒のローブ
地に倒れる少女の前で立ち止まるとつぶやく
「その選択は間違いではない、良く戦った」
漆黒のローブの者は女子代表を抱き上げると路地裏の闇へと消えていった




