14話「振り出しに戻る」
もはや理解の追いつかないその戦い
ただ皆唖然と眺める事しか出来なかった
そして自分も巻き添えをくらって死んでしまうのではないか
そんなことを思った観客や出場者達は目に見えて減っていた
理解不能な戦いを呆然と眺めていた女子代表の手にあった温かい飲み物はすでに冷めてしまっていた
それに気付いた女子代表はブルーピゴミンを呼び再び飲み物を取りに行った
「それはこの俺が飲むぜ!!!」
レッドピゴミンにすっかり冷えた飲み物を渡しブルーピゴミンと共にロビーへ行く
そしてそこには先程より更に人数の減った出場者達がいた
すると見知った顔とすれ違った
「お前らはまだ残っていたのだな」
「げっ・・・」
「随分な挨拶だな・・・」
その主はエビルマリア
女子代表達にとってはあまり出会いたくない人物だ
だが歩いて行く方向を見ると出口に向かっているように見えた
その疑問を見透かしたかのようにエビルマリアは応える
「私達は今回この戦いから身を引く」
「そ、そうなんですか?」
「あぁ、私としては戦っても良かったが隊長様の命令でな」
「隊長?」
「お前らに散々砲撃の雨を降らせた奴だ、詳しい説明はされていないが今回の戦いは我々勇者が出しゃばる必要は無いらしくてな」
「ここで遊んでいる暇があるならばヴァルキリーの治安を守る方が良いと判断したまでだ」
「そ、そうですか・・・」
女子代表は終始いつ殺されるのかと震えながらブルーピゴミンの背後に隠れている
「随分と嫌われたものだな」
見兼ねたブルーピゴミンが口を開いた
「好かれる必要も無いからな、まあ安心しろ、ここにいる限りは私達は手は出せん」
「出てきたら容赦はしないがな」
そう言うとエビルマリアは出口へ去っていく
「寿命が縮んだ・・・」
「少し怯えすぎではないか?」
「命狙われてるし当然でしょ!?」
女子代表は焦った様子で言うとロビーを出て自室へと向かう
ブルーピゴミンもそれに続き追いかける
「あ、そういえばなんで出場者の皆は集まってたの?今日は終わりなんでしょ?」
女子代表は唐突に足を止めブルーピゴミンに疑問を投げかける
「明日の出場者を決めているんじゃないか?」
「え?あのジャーンってクジ引くのやらないの?」
「恐らく前回といい今回の戦いといい次元の違いを見せつけられ逃げ出した出場者が多かったのだろう」
「残った数少ない者達を先に抽選したほうが早いと思ったのではないか?」
「俺もそう思うぜ」
いつの間にか付いてきていたレッドピゴミンがブルーピゴミンの意見に頷く
「なんて言ったって俺は今ロビーで見てきたからな抽選をしているのを」
「なるほど、では明日は観戦席に座っていれば良いわけだな」
「とりあえず疲れたから休みたい・・・」
女子代表の言葉を聞いたブルーピゴミンは女子代表を自室の420号室に連れて行く
レッドピゴミンは視察と良い食堂の方へ向かっていった
恐らく何か食べに行ったのだろう
女子代表は部屋に着くとそのままベッドに飛び込み転げ回る
「やっぱベッド最高だよー」
「でもその前にシャワー浴びなきゃ・・・」
起き上がろうとするが身体が怠く起き上がる気になれない
そのままシャワーを浴びなければという気持ちとこのまま眠りに落ちても良いんじゃないかという気持ちの壮絶な戦いが始まる
だがこうなってしまった時点で結果は見えているようなものだった
気付けば女子代表は目を閉じそのまま深い眠りへと意識が落ちていた
目を覚ませばすっかり暗くなった部屋
何時間眠っていたのだろうか
「んあ・・・シャワー浴びてない・・・」
ふらつきながら起き上がるとタオルを取り出し服を脱ぎシャワーボックスへと入る
そして軽く汗を流し身体を洗いタオルを取り身体を拭く
「あ、今日は大丈夫だ」
普段シャワーを浴びたり風呂に入るとイエローピゴミンが何かしら悪さをするが特に問題もなくシャワーを終えた
髪を乾かしながら窓の外を呆けた顔で眺める女子代表
「んん・・・?」
シャワーを浴びる前までは外は暗かったがやけに外が明るい
もう明け方になるような時間なのだろうか
だがその明るさは不自然で朝焼けのような明かりではない
女子代表は気になり窓際に行く
するとそこには見たことのある異常な光景が広がっていた
真っ暗な空が薄っすらと金色に輝いている
少し眺めていると金色に輝いていた空が更に光を増し巨大な魔法陣のようなものが広がった
そしてその中心から小さな人影のようなものが現れると魔法陣は消え金色の光も徐々に薄れていく
「せ、世界の終焉みたいな光景・・・」
何が現れたのかはわからないが先程戦っていた天使がやっていた事に酷似している
「遠くてよく見えない・・・」
「そうだ!」
女子代表は剣を取り出すとお願いをする
「双眼鏡ください!」
するとどこからともなく双眼鏡が出てきた
それを使い先程何かが現れた場所を覗き見る
「あの時の天使やん・・・」
女子代表の言葉通りバルドと戦っていた天使が再び地上に降りてきたのか
だが様子がおかしい
バルドにトドメを刺そうとした天使の足に機械人形と呼ばれていた天使二人がしがみついている
必死に羽ばたいているように見えるが高度は徐々に落ちていき建物の影に隠れ見えなくなってしまう
「なんだったんだろ・・・」
行動の真意は分からないがあまり気にしても深く関わっても厄介な事にしかならないだろう
女子代表は双眼鏡をしまうとベッドへ戻る
「見なかったことにして寝直そ・・・」
そういい女子代表は布団を被る
だがそんな安息を現実は許さない
窓を叩く音が聞こえる
その音に一瞬身体が跳ねる女子代表
「うそやん・・・」
寝返りのフリをして窓の方を向き薄っすらと目を開ける
窓の外には一人の天使
「・・・うそやん」
思わず口を開いてしまう女子代表
このまま見なかったことにしたいが相手が相手
そしてこのまま安息の眠りに付く事は不可能だろう
諦めた女子代表は起き上がると窓の方へ行く
すると天使は窓の鍵を指差す
開けろと言っているのだろう
おとなしく従い窓を開ける女子代表
「神力の反応を一瞬感じたと思ったら人間じゃねーっすか」
「あ、あの、なんでしょうか・・・」
恐る恐る尋ねる女子代表
「ただ神力の反応があったからどんな奴か見に来ただけっすよ」
「神力?」
「それも知らずに使ってるんすか?」
天使が言う神力が何なのかわからない女子代表は首を傾げる
「神力を知らずに神力をどうやって使ったんすかね?」
天使は首を傾げている
女子代表は天使が現れてきてから自分がした行動を思い返し一つの答えに辿り着く
「これのことですか・・・?」
女子代表は剣を取り出すとお願いをする
「えっと・・・おにぎりください」
するとおにぎりが目の前に出て来る
「なるほど、確かに神力っすね、その剣が本体ってことっすね」
目の前の天使は軽く手を挙げると言う
「デルタ、隔離するっすよ」
突然現れた機械のような物体が一瞬光る
すると世界が変わった
「え?」
周囲の物全てが色褪せた写真のようなセピア色の世界へと変わる
「え?え!?なにこれ!?」
「驚くことじゃねーっすよ、次元をちょっと移動しただけっす」
「次元!?え!?どういうこと!?」
「あーもう次元移動しただけって言ってるじゃねーっすか」
突然の出来事に慌てふためく女子代表
それを呆れた様子で見る天使
しばらくあたふたしていた女子代表だが理解出来ないことがわかるとおとなしくなった
「そのおにぎりちょっともらっていいっすか」
「え、あ、はい」
天使の突然の要求に首を傾げながらおにぎりを渡す
するとそのおにぎりを口に運ぶと頷く
「やっぱ神力で作られているから少しは補充出来るっすね」
「今日からしばらく君は自分達の電池っすね」
「え?」
先程から訳の分からない事を言い続ける天使
「で、電池・・・?」
「そうっすいきなりで悪いんすけど軽く説明だけするっすよ」
「まずは自己紹介からっすね、自分はスローア・ゼータっす」
「あ、えっと私は・・・」
しばらく考える女子代表
そして口を開く
「近隣住民女子代表です・・・」
「変な名前っすね、まあいいっすけど」
「それで説明するとっすね・・・」
スローア・ゼータ
彼女は天界に住む天使の一人で天使階位三位のスローンズという階級らしい
先程のバルドとの戦いで消耗し天界に連れて帰られたが訳あって再び地上に送られてきた
そして消耗した力を取り戻す前に送られてきたため本来の力をまるで使用できないとのこと
他に降りてきた二人も同様に力を使えず途方に暮れそうになっていたところ神力を感知し接触を試みたらしい
神力とは人々が神を信じる事により生まれる力であり神々が使う魔力のようなものらしい
力を蓄えるには人々の信仰などが必要だが天界にいた彼女たちに現状信仰を集める手段は無く
このままでは神力が枯渇し完全に機能を停止してしまうとのこと
そして先程取り出したおにぎりには神力が使われて作られたものであるため摂取するとわずかだが神力を補充出来るらしい
「というわけであって・・・」
ゼータの説明を聞いているとあることに気づく
彼女の腰あたりから薄っすらと白い煙が出ている
「あ、あの・・・説明の途中悪いんですけど腰からなんか煙出てますけど・・・」
「え?あーこれヤバイやつっす」
そう言った直後ゼータの腰から2本の赤い棒が勢い良く飛び出した
それと同時にゼータが膝から崩れ落ち動かなくなる
「え!?何!?なにこれ!?」
突然倒れたゼータに訳が分からず女子代表は慌てふためく
一向に起き上がる気配は無く先程の説明を思い出す
神力切れという奴なのだろうか?
「えーっと・・・えーっと!なんだっけ!?」
「そうだ!おにぎり!じゃ食べられないから・・・」
「飲み物でいいや!」
剣にお願いをすると水を取り出しゼータの口の中に流し込む
すると腰から生えている見るからに高温になっている赤い棒がゆっくりと黒い色へと変わっていく
そして徐々にゼータの体内に戻っていく
待つこと数分赤い棒がゼータの体内に完全に戻り小さな機械音が鳴る
それと同時にゼータがゆっくりと起き上がった
「まあこんな風に自分半分以上機械で出来てるんで神力切れたら動けなくなるんすよ」
「そ、そうなんだ・・・」
ゼータはゆっくりと起き上がると身体に異常が無いか軽く確認し始める
「特に問題は無いっすね、とりあえず付いてきてもらえます?」
「って言われても私他にもお世話になってる人が・・・」
「それは一旦諦めるっすよ、どうせ次元を超える事は出来ねーっすから」
「はい・・・」
女子代表は実感する、人間とはなんて無力な生き物なのだろうかと
手を引かれゼータについていくと小さなテントが見えた
キャンプなどに使われる小さなテントだ
中から小さな明かりが漏れ人影がテントに浮いて見えた
その人影には大きな翼のようなものがあり中にいる者が人間ではないことを表していた
「充電出来そうなの連れてきたっすよ」
そう言いゼータはテントを開く
すると中から金色の髪に青い瞳の天使が出てきた
「そう、ご苦労様」
「近隣住民女子代表って名前らしいっす、こいつ自体は人間っすけど持ってる剣から神力が使えるみたいっすね」
「自己紹介から始めましょうか」
金髪の天使がそう言うと女子代表の前までやってくると軽くお辞儀をする
「私は天使位階一位セラフィムの科学者セフィラ・レンポールです」
「い、一位・・・」
その言葉に思わず一歩後ろへ下がってしまう女子代表
「恐れなくても平気よ、神は決して貴方を見捨てはしない、そして私達もまた貴方を救うことが出来るわ」
(これやばい宗教勧誘みたいだ)
レンポールの言葉にどう反応すればいいか分からずあたふたし始める女子代表
「何二人してマヌケなことしてるんすか?」
あたふたする女子代表と女子代表に詰め寄るレンポールの間に割って入るゼータ
「主神様がケチだからこうして困ってるんじゃねーっすか救っちゃくれねーですし自分らも女子代表に救われる立場っすよ」
「うぐっ・・・せっかくこの娘から信仰を集めて少しでも神力をむしり取る予定だったのに!」
「天使の姿した悪魔みたいなこと言ってるんですけどこの人!」
ゼータの言葉に素になったレンポールを見て女子代表は更に一歩後ずさる
「大丈夫、大丈夫よ、ちょっと私達の事を信用してレンポール様~って崇拝してくれるだけでいいから・・・」
そう言いながらレンポールは更に一歩女子代表へ近づく
「それもう全然大丈夫じゃないじゃん!今この光景誰がどう見てもヤバイ人に追い詰められてる女子高校生の姿だよ!」
「余計ややこしくなるかられんぽっぽは黙っててほしいっす」
ゼータがそう言うとテントから持ってきたのかとても口には出せないような反り返る物体を背後からレンポールの股間部分へと突っ込んだ
「んぎぃ!?」
突然の行動に顔を一瞬で真っ赤にしたレンポールはゆっくりと後ろを振り返り恨めしそうな顔を一瞬見せるとその場に崩れ落ちる
「あぁー!?なんてことを!女の子になんてことしてるのぉ!?」
あまりの衝撃的なその行動に女子代表が慌ててレンポールに駆け寄り刺さっていた物体を引き抜く
「んお゛!?」
変な声が出たが恐らく問題は無いはずと信じ言い聞かせる女子代表
「あぁー抜いちゃ駄目じゃないっすかこれ刺すと黙るってさっき気付いたんっすよ」
「誰だってそんなん刺されたら黙るでしょ!?」
ゼータは女子代表が持っている物体をひったくると再びレンポールに突き刺す
「あぁー!だから女の子が女の子にそんなことしちゃ駄目だってば!?」
「まあとりあえずれんぽっぽは置いといて話を聞いてほしいっす」
ゼータはレンポールを抱え上げるとテントの中に投げ入れると代わりに別の天使を引きずり出してきた
その天使はレンポールと違いゼータと同じようにところどころ機械が付いている
そして丁度胸の下の鳩尾部分からゼータと同じように赤い棒が生えてきている
「これを起動させたいんっすよ、自分にやったようにやってもらえるっすか?」
「あ、はい」
女子代表は剣にお願いをし水を取り出すと動かなくなった天使の口に水を流し込む
するとゆっくりと赤い棒が体内に戻っていく
「いやー助かるっす、自分よりオメガの方が色々説明手っ取り早い気がして」
「オメガ?」
「この今起動してる天使っすよ、天使位階二位のケルビムのケルビラス・オメガっす」
「二位・・・」
「まあ自分もオメガもれんぽっぽに作られたんすけどね」
「そう言えば科学者って言ってましたよね」
「そうっす、天界で科学者してたんすけどねー」
ゼータは空を見上げながら言う
「最初は好調だったんすけど天界ってめっちゃ平和なんすよ」
「それって良いことじゃないんですか?」
「そうっす、普通なら良い事なんすけど自分ら天界で最強の戦闘部隊なんすよ」
女子代表はその言葉を聞きなんとなく意味を察する
「平和過ぎると自分ら活躍する場面なんて無いじゃないっすか」
「れんぽっぽは最初の方に入った給料全部開発資金に回しちゃうバカっぷりっすよ」
「オメガを作って次に自分が作られたんすけど」
「その後に自分の付属品として25機の機体が作られたっす」
「結局使い道はほとんど無く凍結されたんすけどね」
「なるほど?」
オメガが起動するまでの間ゼータは語り出した
天使の手により機械天使を作る技術を編み出したレンポールはケルビラス・オメガを作る
その実用性を評価され階位を昇格され一位のセラフィムまで上り詰める
昇格し給料が上がったことにより給料を開発資金に回し戦闘用にゼータを作り始める
天界での通貨は全て神力によって支払われる
主神と呼ばれる最高神が神力を全て管理し各天使に働きに見合った分の神力を支給する
神力は天界では命より重い貴重な資源として扱われている
神力はどんな事にも使えるまさに神の力と言っていい力だ
女子代表のやっているように神力さえあれば神力を素材にすることにより別の物質を作ることも出来る
神力が多ければ多い程使い方はより強力なものへと変わる
人々を操ることさえも容易に出来てしまう上に記憶の改竄や削除
最悪の場合は人格すら変えることも出来る
運用方法を間違えれば簡単に世界を滅ぼすことさえも出来る
まさに神力一つでなんでも出来てしまう神の力なのだ
その神力を使いレンポールはオメガとゼータを作り上げ天界の防衛役をやらせていたが主神によって統治された天界は平和そのもの
暇を持て余すだけでのオメガとゼータ
次第に不要なのではという声が上がるがレンポールはそんなことお構いなしにゼータの付属品となる機械天使を作り始める
そしてつい昨日の出来事だ
ただでさえレンポールが無駄遣いをし発明を疑問に思われ給料を減らされる中ゼータとオメガが二度も次元を破壊しかねない程の神力砲を撃った事によりレンポールの貯蔵していた神力はついに底を尽きた
挙句レンポールは回収したゼータとオメガの修理で更に手元の神力を消費する
完全に破産した3人は緊急事態と主神に呼ばれ主神の塔へ向かう
そこで主神に渡される物体
それは反り返るとても口には出せない物体
ゼータは面白半分に高潔なるレンポールへとそれを突っ込む
純血を失ったと聞いた主神は言った
「え?天使なのに純血散らすとか不純じゃない?ちょっと下界落ちて反省してきて?」
不運が重なり3人は下界へと強制的に落とされる始末
「結局これ悪いの突き刺したあんたでしょ!?」
「いやーまさか処女じゃなくなっただけで地上に落とされるとか思わないじゃん?」
「高潔な天使が処女じゃないとかもう色々やばいでしょ!?イメージ台無しだよ!?」
「いやそういうイメージ持たれても困るじゃん?」
「台無し過ぎるよぉ!!!」
あまりのゼータの酷い行いに思わず顔を覆ってしまう女子代表
「って起きる前に今までの経緯話しちゃったじゃないっすかいつまで寝てるんっすか」
そう言うとゼータはどこからともなく先程突き刺したものと同じものを取り出すとオメガの口に突っ込もうとする
その行動を見て慌てて止めに入る女子代表
「だから女の子が女の子にそういうことしちゃだめでしょ!?」
「てかいくつあるのこの卑猥物質!?」
「そもそもなんで緊急事態ってこれを渡したの!?」
「なんか自分の型取って作ったら作りすぎちゃったらしいっすよ」
「主神の頭緊急メンテナンスしたほうがいいんじゃないの!?」
女子代表は天界の事情を聞きその場に四つん這いに崩れ落ちる
「ハハハ、いやーでも助かったっすよ、この剣から作った水飲むだけでたぶん1ヶ月は持つんじゃないんっすかね?」
「え?そんなに平気なの?」
「戦闘とか無ければ全く問題ないんじゃないっすかね?」
「そもそも神力ってどれくらいあればどれくらいのこと出来るの?」
「えーっと、あのリポンDって栄養ドリンクあるじゃないっすか」
「あの瓶の?」
「そうっす考えてるのであってると思うっす」
リポンDと言えば元気一発のCMで有名な誰もが知っている栄養ドリンクだ
「それ一本に入ってる液体分の量の神力で人間一人作れるっすよ」
「そうなんだ、え!?人間一人作れる!?」
ゼータの耳を疑うような言葉を聞き裏返ったような声を出す女子代表
「まあ純人間じゃないっすけど命一つ作ることなら簡単に出来るっすよ」
「さっき流し込んだ水ってたぶん500ミリリットルのペットボトルくらいあるし・・・」
「大体5人分っすかね?」
「に、人間5人分で1ヶ月ってどんだけ燃費悪いの!?」
「まあ天使っすから格が違うんっすよ」
「し、知りたくなかった・・・人間一人リポンD1本だなんて・・・」
女子代表は再び四つん這いに崩れ落ちる
「大丈夫っすよ、純人間は作れないっすから」
「命作れるって時点でヤバイでしょ!?」
「そんなこと言ったらあれじゃないっすか、エッチするだけで子供ポンポン作る生物も同じじゃないっすか」
「あれ特別な力無しにやってるマジヤバイ行動だと思うんすけど」
「い、言われてみれば・・・」
女子代表はゼータの言葉に思わず考え込んでしまう
確かに女子代表でも妊娠してしまえば命を作る事は可能だ
ならば神力で人間を作り出す事自体おかしいことでは無いのではないか?
だがしかし生命の神秘を神力一つで簡単に同じことをされてしまって堪ったものではない
「せ、生命の神秘が・・・」
「信じる力だって神秘だと思うんすけどね、神力の根源は人々や生物の信じる心っすから、そう考えるとなんだかロマンを感じないっすか?」
「そんな気もする・・・」
再びゼータの言葉に考え始める女子代表
今まで出してきたおにぎりや水は人間の命と同等の価値があることに気付き複雑な気持ちになる女子代表
「ま、まあ考えたところであんまり意味ないかも・・・」
「そうっすね、気持ちの問題っすよ」
ゼータは女子代表を見ながら頷く
二人で雑談をしているとついにオメガから小さな起動音が鳴り目を開く
その直後であった
「あ!あぶない!!!」
目を覚ましたオメガが最初に発した言葉はその一言だった
それと同時に女子代表とゼータの目の前に結界が展開され何かが直撃する
「チッ・・・スクラップになっておけばよかったものを・・・」
「質の悪いストーカーっすね、バルドームヘル」
「その娘を返してもらうぞ、ポンコツ天使共」
「ば、バルド・・・」
ゼータが女子代表を守るようにバルドとの間に割って入る
女子代表の足元にはバルドの一撃を防ぎ神力切れを再び起こし機能を停止したオメガがいた
「何が目的っすかね、ただの人間相手に力も十分回復してないあんたが執着するのはおかしいっす」
「敵にわざわざ目的など話すか?どのみちすぐにスクラップにしてやる・・・」
「出来るんすかね?次元を割って入って来た分かなり神力が弱く感じるっすよ」
「これだけあれば十分だ」
そう言うとバルドはゆっくりとゼータへと近づいて行く
対するゼータもバルドとの距離を縮めながら相手の出方を窺う
バルドの片足がゆっくりと持ち上がり
地面に着いた直後だった
女子代表の目では到底捕らえられない速度でバルドはゼータへと近寄ると腹部目掛け神力を乗せた強烈なパンチを入れる
だがゼータも呆然と立っているだけではない
その攻撃を結界を展開し威力を可能な限り下げ受け止める
しかし僅かに補充された神力ではバルドの完全に受け止める事が出来ず後方へ吹き飛ばされる
「ぐっ!?」
空中で体制を立て直し綺麗に着地するゼータ
そしてゼータが次に見た光景は追撃や次の攻撃を準備するバルドの姿では無かった
地獄の門を呼び出しその中へ女子代表を引きずり込もうとしている姿だった
「返してもらうぞ、ポンコツ天使共!」
門が開き鎖が女子代表へと伸びていく
何が起きているかわからない女子代表はその場で固まってしまっている
「させねえっすよ!!!」
ゼータは女子代表の元へと向かおうとするが身体が上手く機能せず動けない
「チッ!ならこうするしか無いっすね」
『転移!』
ゼータの言葉と同時に女子代表を一瞬光りが包むとその姿が消えた
「なっ!?何をする貴様ぁ!!!」
「ざまあみろっすよ・・・ランダムに飛ばしたんでどこにいるかわからねえっすけどね・・・」
そう言うとゼータの腰から2本の赤い棒が飛び出し動かなくなる
「くそ!このポンコツ共め・・・」
「剣まで置いていくとは・・・」
するとテントの中からレンポールが顔を出しバルドへと言う
「ちょっとせっかく上手く行きそうな展開だったのに邪魔しないでくれる?」
「レンポールか、貴様らとの決着は次回に回してやる・・・」
バルドはレンポールへそう吐き捨てると地獄の門へと入り消えていく
「やっぱ次元をいじっても追ってはこれちゃうみたいね」
「デルタの仕事はこれでおしまいね」
レンポールがそう言うと小さな機械天使が目の前に現れると2本の赤い棒を露出させた
2本の赤い棒を抜き取るとゼータとオメガの元へと向かう
するとレンポールはゼータの腰から生えた赤い棒の片方を抜くと先程機械天使から抜いた赤い棒と交換する
「ゼータはコア交換出来るから良いけどオメガはどうしようかしらね・・・」
その赤い棒はオメガやゼータ、機械天使のコア部分となっている
神力を使い過ぎるとオーバーヒートし機能を停止する仕組みとなっている
そしてゼータのコアは二種類あり記憶を保存するコアと主電源となるコアが存在する
電源部分のコアを交換すれば再び起動可能となる
だがオメガのコアは一つしか存在しておらず記憶と主電源が同じコアに詰め込まれている
「えーっと確かコアとコアを直列に繋げて・・・」
レンポールは首を傾げながらオメガの再起動の準備を始めた
・・・・
「え・・・ここどこなん・・・?」
バルドとゼータの戦闘を怯えながら眺めていた女子代表
異世界なのだから全て見知らぬ場所なのは当然だ
だがそこは夜の闇で出口の無い迷路のような森の中だった
「これって・・・振り出しに戻るってやつ・・・?」
女子代表は腰の鞘へと手を伸ばす
だがそこには刺さっているはずの剣は無かった・・・
「うそやん・・・」




