第百三十三章 佳子、重症を負う
ある日、マリが戦場で拉致された世界出張医師団の医師救出任務の為に、中型輸送機の機長として出撃する事になりました。
敵陣に着陸してからは、マリも自動小銃片手に二人一組で作戦に参加しました。
マリが相棒の陸軍兵士と捜索していると、医師団が拉致されている場所を発見した為に、他の陸軍兵士に無線で連絡し、他の兵士が到着するのを待って、敵の一瞬のスキを突き、他の兵士と突入して銃撃戦の末に、医師団数名を救出して、アメリカ軍の沖縄空軍基地へ帰還しました。
医師団は、兵士に英語でお礼の気持ちを伝えていました。
医師団の中に霧島外科医がいましたが、マリもお互い日本人だとは思わなかった為に、英語で挨拶しました。
ヘルメットを外したマリを見て、医師団は、「可愛いお嬢さんですね。自動小銃片手に戦地を走り抜けていたとは考えられませんね。」と驚いていました。
兎に角、全員着替えましょうという事になり、美人女性のマリは人気者で、着替えてから基地内の喫茶店で会うと、マリはミニスカートでしたので医師団は更に驚きました。
「スカート姿も良く似合いますね。矢張り可愛いお嬢さんには、軍服と銃より可愛い服の方が似合いますね。しかし、その綺麗な足には思わず触りたくなりますね。」とミニスカート姿のマリの感想を述べました。
別の医師が、「そんな事をすれば、彼女に銃殺されますよ。」などと雑談していました。
その頃、佳子は自分のミスで警察官一人を死なせてしまった事を後悔していて、丸東組の事を調べる以外はマンションで、よくボンヤリしていました。
暫くすると、天井の電灯が切れて消灯しました。夜になると真っ暗になる為に佳子は、「二人とも肝心な時にいないのだから。修のやつ脚立をどこに片付けたのかしら?」とブツブツ呟きながらも、仕方なく自分で替える事にしました。
脚立を、「こんな大きな脚立、持てない・・・修の奴、いくら背が低くても、こんなに大きな脚立を買わなくても良いのに。」とブツブツ呟きながらも、なんとか持って来ました。
佳子は脚立に登り、“今迄は、修に替えさせていたので解らないわ。どうするのかしら?“と思いつつも、カバーを外そうとしましたが、堅かった為に力を入れると外れて、その拍子に脚立から転落しました。
転落する時に、スカートが脚立に引っ掛かり、不自然な体制で落下した為に、打ち所が悪く、腹部に激痛がありました。暫くすれば痛みも治まるだろうと判断して、その場で我慢していましたが、痛みは全然治まりませんでした。
病院に行こうと立ち上がろうとすると、左足に激痛があり、左足が動きませんでした。スカートを捲ると、左足と右足の太ももの形が違っていた為に、自分の足がどうなっているのか、何が起こっているのか解りませんでした。腹部も見ましたが、何も解りませんでした。
弟に助けを求めるのはプライドが許さず、まして東城陽子には頼みたくなかった為に、佳子の親友で、元軍人のマリなら、戦地で負傷した時の為に応急手当の方法を知っているかもしれないと思いました。
マリから、戦地に出撃すると聞いていましたが、もう帰国している頃だと思い、ポケットから携帯を取り出して、マリの携帯に電話しました。
その頃マリは、戦地から救出した世界出張医師団と基地内の喫茶店で雑談していました。
マリの携帯に着信があった為に、マリが携帯を取り出すと日本のメーカーでしたので、霧島外科医が、“あれっ?私の携帯と同じ?“とマリが自分と同じ携帯を持っている事に驚いていました。
マリが、「もしもし、佳子?どうしたの?」と日本語で会話した為に、霧島外科医は自分の耳を疑い、“えっ!?マリさんて日本人なのかな?そういえば先日テレビで報道していた伝説の名パイロットに似ているな。しかし、まさかね。”と会話を聞いていました。
佳子は、「あいたた!動けない。助けにきて。」とマリに助けを求めました。
マリは、「えっ?動けないって、金縛りにでもなったの?」と佳子の状況が把握できませんでした。
佳子は、「脚立から落ちて、お腹が痛くて動けない。あなた軍人だったら、崖から落ちる事もあるでしょう?こういう場合の応急手当はどうするの?」と応急手当ての方法を聞いて何とか自分で対処しようとしていました。
マリは、「私は空軍パイロットよ。そうでなくても、そんな、崖の近くには行かないわよ。戦争映画の見過ぎではないの?だいたい、脚立から落ちたくらいで何を大騒ぎしているのよ。佳子の話ではないですが、崖から落ちた訳ではないのでしょう?その場合は時間薬と言って、そのまま放置しておけば自然に治るわよ。戦地ではないので、敵が襲って来る訳でもないのでね。」と助言しました。
佳子は、「最初は私もそう思い、暫く痛みを我慢したけれども、治まらないので足を見ると、右と左の足の形が違っていたので、軍人のあなたなら戦地で負傷した時の為に、応急手当ての方法が解るかもしれないと思い、電話したのよ。」と現状をマリに伝えました。
マリは、「お腹が痛いから足の形が違う?話が良く解らないわ。でも、たかが脚立から落ちたくらいで、オーバーね。どうせ、しょーもない意地を張って、ボケーっとしていたのでしょう。」と佳子の説明を理解できませんでした。
佳子は、「“しょーもない“とは何よ、先日も説明したけれども、これは大変な事なのよ。修がやくざの幹部と結婚するかもしれないのよ!」と怒りました。
マリは、「はいはい、解りましたから落ち着いて。足の形は私だって少しくらいは違うわよ。そんなに気になるのだったら救急車を呼びなさいよ。今どこなのよ。」と簡単に考えていました。
佳子は、「何を聞いているのよ!脚立から落ちたって言ったでしょう!自宅マンションに決まっているじゃないの!救急車なんてそんな見っともない事はできないわよ。人事だと思って、そんな事を言って。どうすれば良いのよ!」と怒り出しました。
マリは、「仕方ないわね。佳子の言うように、応急手当ての方法は知らない訳じゃないけれども、それは戦地で医療関係者がいない場所で負傷した時の為に、止むを得ず手当てする為に覚えたのよ。それに、動けないほど痛いのだったら、下手に応急手当せずに、見っともないだなんて言ってないで救急車を呼びなさいよ。そこは戦地ではないので、呼べば直ぐに来てくれるわよ。」と返答しました。
佳子は、「なんで、マリは私に恥をかかせようとするのよ。救急車が来れば、サイレンの音で皆気付き、興味本位で覗くでしょう?私は動けないから、そんな人達の見ている中を担架で運ばれて行くのよ。それが、そんなに面白いの?そんな事を言っているから、鬼だと言われるのよ。」と怒りました。
マリは、「鬼で悪かったわね。面白いとか面白くないとか、そういう問題ではなく、それしか方法がないと言っているのよ。」などと話をしていると霧島外科医が、大日本医療大学医学部第二外科助教授の名刺を出して日本語で、「私は外科医ですので替わりましょうか?お腹が痛いから足の形が違うという事は、よほど混乱されているか、頭を打っている可能性があります。どちらにせよ応急手当で対応するのは無理だと思います。」と助言しました。
マリは、「ちょっと待って、今ここに外科医がいるので、電話替わるね。相談してみて。」と霧島外科医に、「御免なさい。脚立から落ちたくらいで大騒ぎして。」と電話を替わりました。
佳子は、“マリの奴、他に方法がないだなんて適当な事を言って、外科医と一緒だったら早く替われば良いのに。”と思いながら霧島外科医と相談していました。
佳子は、霧島外科医が以前、事件解決の通報をしてくれたので、面識がありましたが、今は、それどころではなかった為に、全く気付きませんでした。
太ももの形が違うというので、霧島外科医の指示で、スカートをめくって、両足の写真を携帯で撮り、送信しました。
霧島外科医が色々と症状を聞くと、骨折の可能性があり、今直ぐ病院に行かないと後遺症が残る可能性があるとのことでした。腹部の痛みは電話や写真では解りませんが、長時間、痛みが治まらないのでしたら、急いで病院に行った方が良いとの事でした。
佳子が動けないというので、霧島外科医が佳子のいる場所を聞きました。
「そのマンションでしたら、知合いの外科医が同じマンションに住んでいるので連絡してみますが、もし在宅していれば動けないとの事ですので、管理人に事情を説明して玄関を開けさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」と佳子に確認しました。
佳子は、了承して、外科医に来て貰う事にしました。
佳子は、“今日は荷物を持っていた為に、鍵だけでチェーンをしていなかったので助かった。“と思っていました。
暫くすると、玄関の鍵が開けられドアが開き、人が入って来た気配がした為に佳子は、“外科医が来てくれた。助かった。”とほっとして、「すみません。ここです。」と外科医を呼びました。
次回投稿予定日は、10月4日です。